あしたのジョー(アニメ・漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あしたのジョー』とは、高森朝雄(梶原一騎)原作、ちばてつや画による日本の漫画作品、もしくは漫画原作のアニメーション。講談社の『週刊少年マガジン』に、1968年(昭和43年)1月1日号(発売日は1967年(昭和42年)12月15日)から1973年(昭和48年)5月13日号にかけて連載された。
野生の本能を持った孤児矢吹丈が、ボクシングの才能を買われ孤独な戦いを繰り広げる。ボクシングにかける男の美学が、美しくも切なくもある。

力石の死後、彼の死を悼むため試合前にテン・カウント・ゴングが鳴らされた。 ゴングを10回鳴らして哀悼の意を示すものだ。 会場には葉子と白木幹之助もいて、いつもは汚いヤジを飛ばす観客も、この時だけはおとなしくしていた。 しかし、鐘が鳴り終わると早速試合は開始され、いつものように観客がヤジを飛ばしながら試合を観戦する光景を見た白木と葉子はむなしい気持ちになった。 ほんの少し前まで彼らは力石に声援を送っていたのに、今はもう力石のことを忘れている。 誰かがいなくなってもまた新しいいけにえを求めるのだ、と。
そして白木は力石がいないのにジムがあっても意味がないので白木ジムをたたむ決心をするのだが、葉子はその逆に力石を忘れたくないから自分が白木ジムを継ぐ決意をするのだった。

ボクシングをめぐる人々の気持ちのすれ違いが世知辛い人間模様の印象を与え、力石に捧げられた清楚なユリの花束の美しさをもむなしくさせるシーンである。

あなたはふたりから借りが…神聖な負債があるはず!

力石の死後、新聞記者の陰謀によってジョーと引き合わされた葉子のセリフ。
ふてくされているジョーに対し、葉子は自分を棚に上げて「力石やウルフ金串をつぶしておいて逃げるなんて許されない」という意味を込めて「神聖な負債」というワードを使った。 普段のジョーならば「葉子も人のことは言えないだろう」くらいは言い返すのだが、この時は何も言い返せないまま町の雑踏の中に姿をくらますしかできなかった。 力石だけではなくウルフのことも話題に入れたのは、この後ジョーとウルフが再会する伏線なのだが、葉子の心情を分析するならばウルフが心配なわけではない。 ジョーを叩きのめすには力石だけでは材料が足りないからとっさにウルフの存在を思い出したからであろう。

なぜ「負債」という言い回しをしたのかというのは、葉子はかつてジョーの募金詐欺に引っかかったことをまだ根に持っているのかもしれないし、ジョーも心の底では負い目に感じているかもしれない。 それゆえ、この「神聖な負債」の一言がジョーをボクシングに縛り付けた最も大きな枷となったのだ。

ちなみにアニメでは、葉子と別れてからジョーはウルフと再会してウルフを助け、そのついでに彼の借金を肩代わりするオリジナルエピソードが追加されている。 金を借りたウルフはしばらく雲隠れしているが、ちゃんと借金を全額返済している。
ウルフは葉子の言う神聖な負債を返済し、原作ではジョーに助けられてそれきりだったのがアニメで汚名返上出来たことになる。 しかしジョーは神聖な負債を返せないままなので一見いい話で終わりそうなこのエピソードが、ジョーをボクシング界にとどまらせる枷の一つとなったのは皮肉な話である。

ジョーから離れていく紀子

日本でジョーと死闘を繰り広げたカーロスが世界チャンピオンのホセに負けたのは、ジョーとの試合のせいだという談話がジョーの耳に届いた。 力石のみならずカーロスまで。 ライバルでもあり友でもあった人をまた自分の手で壊してしまったジョーは、練習にも身が入らずフラフラした。そこで紀子に会い、初めてデートをする。 紀子は思い切ってジョーにボクシングをやめるよういうが、ジョーは「そこいらのれんじゅう(原文ママ)みたいにブスブスとくすぶりながら不完全燃焼しているんじゃない、ほんの瞬間にせよまぶしいほど真っ赤に燃え上がるんだ。 そして、あとには真っ白な灰だけが残る…燃えかすなんかのこりやしない…真っ白な灰だけだ」と答えた。

段平にも力石にも葉子にも言ったことのない詩的な表現でボクシングが与えてくれる充実感を語るジョーだが、それは紀子には理解できない価値観だった。 そして紀子は、ジョーは自分のものにはならないと悟り「わたし、ついていけそうにない…」と言う。

紀子と別れたジョーは、やけになったかのように無性に試合がしたくてたまらない激情に駆られていた。 なぜその気になったのか、段平にもジョー本人にもわからない悲しさを感じさせる。 ジョーが自分の気持ちを紀子にだけ話したのは、ジョーなりの愛の告白と言えよう。 しかしジョーは偽らざる気持ちを打ち明けたのに紀子には全く通じなかった。 少年漫画の主人公が女性を振るのではなく振られる、しかもはっきり好きだと告白する前に振られるという展開は、ジャンルや時代を超えてもあまり例がない。
そして、何もかもを失った(正確には自分から壊した)ジョーの妄執と、紀子との会話の中にあった「真っ白な灰」のワードが、「真っ白に燃え尽きた」ラストシーンを産んだことも特筆されるシーンである。

葉子の告白

パンチドランカーの影響で肉体も精神もボロボロになっていながらもホセとの試合に行こうとするジョーを、葉子が涙ながらに止めるシーン。
葉子からジョーの症状は今すぐ引退してもおかしくないほど重篤だと聞かされても、ホセとの試合にすべてを注ぎ込んできたジョーの耳には届かない。 なりふり構わず葉子は控室のドアの前に立ちふさがり、「好きなのよ矢吹君、あなたが!!」と告白した。

ジョーも驚くが、言った葉子本人も驚いていた。 私のために試合には出ないで、と今までの葉子からは考えられないしおらしい嘆願をするも、ジョーからは「安っぽく聞こえる」と一蹴される。 葉子が観念して控室のドアから移動すると、ジョーは素直に「ありがとう」と礼を言って出て行った。 葉子は控室に一人残され、涙を流す。 その姿はかつて力石が死んだときとそっくりだった。

今までジョーと葉子の間にあった壁が葉子の告白で一気に崩れ去ったと言えるが、それでもジョーは葉子の嘆願を聞くことはなかった。 その姿は力石そのものである。 果たして葉子が「好きだ」といった相手はジョー本人なのか、あるいはジョーの中にいる力石なのか、それは葉子自身にもわからないであろう。
この前にジョーは紀子に「真っ白な灰」の話をしてジョーなりの告白をしたつもりだったが紀子には通じなかった。 今度はジョーが葉子から告白されたが受け入れなかったという、ボクシングやプロモーターの才能があるのに一人の男、女としては不器用すぎるジョーと葉子の悲しい宿命を感じさせる名シーンである。

グラブを葉子に渡すジョー

ジョーとホセの長く果てしないと思われた死闘が終わった。 最後まで勝敗は決まらず、判定に持ち込まれる。 判定が出るまでの間にジョーは自分の使っていたグラブを、最後までそばで見守っていた葉子に渡した。 それが葉子の告白へのジョーの返事であった。 ホセの血にまみれたグラブを受け取った葉子は呆然としてジョーの顔を見ていた。 ジョーは「あんたにもらってほしいんだ」としか言わなかったが、葉子にはジョーの心情が理解できたかもしれない。 ジョーが自分で意思を示した最後の場面であるので、ジョーがこの時何を思っていたのか考える余地を十二分に残したシーンである。
少なくとも、今までボクシング一筋だったジョーがその象徴であるグラブを手放したということは、重大な決断であることだけは推測できる。

ちなみに今回ジョーが使ったグラブはジョーの私物ではなく、ホセ側が用意したメキシコ産の皮の薄いものである。 素手で殴るのと威力は変わらず、ホセがKOで勝負を決めるという意図で選んだと段平は分析していた。

真っ白に燃え尽きたジョー

あまりにも有名な名場面。 ボクシングにすべてをささげ全身全霊をかけて闘った男は、真っ白な灰のように静かなたたずまいで、安らかなほほえみを浮かべていた。

この時ジョーは死んだのかという論争が繰り広げられたが、作画担当のちばてつや公式サイトに、ぼーっと空を見上げているジョーをやさしく見守る葉子のイラストが掲載されていることからして、ジョーは死んではいないと確定済みである。
ジョーと紀子が以前にした会話の中でジョーは「後に残るのは真っ白な灰だけだ。 そういう充実感が好きなんだ」と言っている。 このセリフから推測するに、真っ白に燃え尽きて灰しか残らなくても充実感が満たされるということは、灰になっても死なないという意味に解釈できる。 つまり、真っ白に燃え尽きたジョーは死んではいないことになる。

真っ白の画面に色を塗らずに描かれたジョーの姿からは、つい先ほどまでの血みどろの死闘の様子は全く感じられず、神々しさと安らぎを感じさせる。
漫画史上に燦然と輝く名シーンである。

『あしたのジョー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

主題歌のルルルについて

アニメ第一作のOP曲「あしたのジョー」といえば、さびの部分の「るるる~」が有名だが、このフレーズは元からあったわけではない。

この歌の作詞担当者は原作ファンである演劇作家、寺山修司である。 主題歌オーディションまでに詩が完成できなかったためるるる~で穴を埋めたという説が有力視されているが、本当の理由は不明なままである。 オーディションに来ていた歌手、尾藤イサオがど忘れしたのでるるる~でごまかしたという説もあるが、二番も三番もるるる~でごまかしたことになるのは不自然であるため、この説の信憑性は薄い。

あしたのジョーにおける文学ネタ

ボクシングと文学は一見関係ないように思えるが「あしたのジョー」の物語にはフランス文学作品がネタとして使われている。

ジョーが特等少年院から脱走しようと思案するシーンでは、アレクサンドル・デュマ作「巌窟王(モンテクリスト伯)」を引用している。 「巌窟王」の主人公は、監禁されている間父代わりとして世話になった老人から自分が死んだときに入れ替わって脱走しろと言い含められており、老人の死後遺言通りに入れ替わり、職員が死体を処理すべく海に放り投げたことで脱走に成功している。 このシチュエーションは、西がおとりになっている間にジョーは豚の大群とともに脱走するという流れとそっくりである。

次は少年院で行われる葉子率いる学生劇団の演目が「ノートルダムのせむし男」である。 ヴィクトル・ユゴー作「ノートルダムの鐘(原題ノートルダム・ド・パリ)」が原作であり、葉子はヒロインであるエスメラルダを演じ、段平が主人公カジモドを演じていた。 この物語のラストは、エスメラルダが殺人の濡れ衣をかぶせられ絞首刑に処せられたあと、カジモドは行方不明になる。 しばらくしてエスメラルダの墓を掘り起こしたら、エスメラルダの骨に寄り添うようにカジモドらしき人物の骨がくっついていた、というものである。
絞首刑にされたエスメラルダと寄り添うカジモドの姿は、ラストでジョーが葉子に渡した血まみれのグラブに似ている部分があると考察できる。

次は力石の死を悼むテン・カウント・ゴングを「十点鐘」と呼んでいる点である。 この呼び方はジョーオリジナルであるが、モーリス・ルブラン作アルセーヌ・ルパンシリーズの「八点鐘」を基にしていると思われる。 「八点鐘」は8つの一話完結の冒険からなる物語だが、通して読むと一つの物語としてまとまっていることが分かる。 「あしたのジョー」の物語も、無関係に思えるエピソードやストーリー展開がほかのストーリーの伏線になっていることが多々あることへの暗喩として「八点鐘」をネタにしたのかもしれない。

ドヤ街再開発計画を考えたり、紀子とのデートの際に「真っ白な灰」などの詩的な表現で心情を語ったり、ドサ周りから戻ったばかりのジョーが葉子と再会した時は、フリーである近況のことを「無職トウメイ(原文ママ)」と表現するなど、ジョーの知的センスはかなり高い。
しかし、幼いころから施設で育ち、暴力に明け暮れていたジョーが、いつどこで高い文学センスと知識を会得したのかは全く不明である。

だらしのない力石

クールでストイックなイメージの力石だが、少年院の慰問に来た葉子が演じるエスメラルダの美しさに鼻の下を伸ばしている。 力石にもだらしない部分や女性に興味がある普通の男性の面があると理解できる貴重なシーンである。

セリフの改変

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XVX-016 ガンダム・エアリアル(水星の魔女)の徹底解説・考察まとめ

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XVX-016 ガンダム・エアリアルとは、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に登場する人型機動兵器MS(モビルスーツ)の1機にして、同作の主役機である。 詳細な出自については謎が多いが、ヴァナディース機関が開発したガンダム・ルブリスを利用して作り出された機体だと思われる。大企業の独断で闇へと葬られたGUNDフォーマットというシステムを利用しており、自律兵装GUNDビットでの攻防一体の戦闘が特色。高性能のAIを搭載しており、メインパイロットのスレッタ・マーキュリーとは姉弟のような絆で結ばれている。

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機動戦士ガンダムAGE(エイジ)のネタバレ解説・考察まとめ

機動戦士ガンダムAGE(エイジ)のネタバレ解説・考察まとめ

「機動戦士ガンダムAGE」とは2011年10月から2012年9月までMBS・TBS系列にて放送されたテレビアニメである。突如あらわれた謎の勢力との戦争の中で、主人公(フリット、アセム、キオ)が世代交代していくのが特徴だ。子供向けの絵柄とは裏腹に、敵との戦争の中で各々の異なった葛藤を描いているのも魅力の一つであり、子供から大人まで楽しめる作品となっている。

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ダリルバルデ(水星の魔女)の徹底解説・考察まとめ

ダリルバルデ(水星の魔女)の徹底解説・考察まとめ

ダリルバルデとは、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に登場する人型機動兵器MS(モビルスーツ)の1機で、同作に登場するジェターク・ヘビー・マシーナリー社製の最新鋭機。 タイプとしては分厚い装甲を売りとする重MSで、それを意識させないだけの高い出力と機動力を持つ。両腕とシールドにドローンシステムを搭載しており、これを利用した立体的な戦闘を持ち味としている。最新型の意志拡張AIにより、完全なオートパイロットで戦闘を行うことも可能だが、反応が早過ぎて陽動に引っかかりやすいという弱点を持つ。

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MD-0032G グエル専用ディランザ(水星の魔女)の徹底解説・考察まとめ

MD-0032G グエル専用ディランザ(水星の魔女)の徹底解説・考察まとめ

MD-0032G グエル専用ディランザとは、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』に登場する人型機動兵器MS(モビルスーツ)の1機で、同作の登場人物であるグエル・ジェタークの専用機。 ジェターク・ヘビー・マシーナリーの主力商品ディランザを、同社の御曹司であるグエルに合わせてカスタム化した機体。出力など全体的な性能の強化に加え、近接兵器として十字の刃を成すビームパルチザンを装備。頭部のブレードアンテナには羽根飾りのような白い装飾をつけている。物語の1話で華々しく登場し、ガンダム・エアリアルと交戦した。

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ガンダムビルドメタバース(アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

ガンダムビルドメタバース(アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『ガンダムビルドメタバース』とは、『ガンダムシリーズ』の世界観をモチーフとする体感型オンラインゲームを舞台に、少年の葛藤と成長を描いた2023年のオリジナルアニメ。ガンプラをテーマにする『ビルドシリーズ』の5作目で、前作までのキャラクターが次々とゲスト出演したことで話題となった。 ホウジョウ・リオは、ガンプラを用いて遊ぶ「ガンダムメタバース」に夢中なハワイ在住の少年。近所のホビーショップの店員であるウルツキ・セリアに師事してガンプラ制作の腕を上げつつ、様々なライバルと戦っていく。

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機動戦士Vガンダム(ヴィクトリーガンダム)のネタバレ解説・考察まとめ

機動戦士Vガンダム(ヴィクトリーガンダム)のネタバレ解説・考察まとめ

『機動戦士Vガンダム』(きどうせんしヴィクトリーガンダム)とは、1993年に放送されたロボットアニメ。『ガンダムシリーズ』の作品の1つで、「宇宙世紀」と呼ばれる時代の中で繰り広げられる戦争を描いている。物語後期の主人公機であるV2ガンダムは「光の翼」という特徴的な武装を持ち、その見栄えの良さから後に様々な作品で同様の装備が用いられた。 地球の不法居住者で暮らす少年ウッソ・エヴィンは、リガ・ミリティアとザンスカール帝国の戦争に巻き込まれ、その中でパイロットとしての類稀な素質を開花させていく。

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タイガーマスク(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

タイガーマスク(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『タイガーマスク』とは、原作:梶原一騎、作画:辻なおきによる1968年の漫画作品である。「月間ぼくら」、「週刊ぼくらマガジン」、そして「週刊少年マガジン」と3種類の雑誌に連載された。尚、本作はメディアミックス作品であり1969年からはTVアニメの放映もはじまり、全105話が放映されていた。謎の組織「虎の穴」から送り込まれてくる悪役レスラーと戦いながら、みなしごたちのためにつくそうとする覆面レスラーのタイガーマスクこと伊達直人(だて なおと)の姿を描いた作品である。

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