故・国友やすゆき御大の「100億の男」といえば

主人公の富沢琢矢と関わる、様々な女性が華を添えていた。

久我山沙貴

「初めてあなた出会った時から私にはわかっていたわ。いつか必ず、あなたは私のものになると……誰にも渡さないわ、琢矢………あなたは私のものよ」
「恨む? まさか!むしろ、お父様に感謝してるわ!あなたのその徹底した生き方から、私は多くのことを学んだんですからね!」

登場は和美の後だが、先に紹介する重要人物。もう一人の主役と言っても過言ではない。時の首相も頼りにする経済界の大物、久我山天善の娘で、その国土創成社(傘下に231社を抱える)で琢矢の上司にあたる。高飛車がスーツ姿で歩いているような女性で、そう感じさせる女性語で話す。琢矢に冷酷な仕打ちを繰り返す(琢矢曰く「お前は天善と同じ位俺の人生を目茶苦茶にした」)。
見合う才覚はあり、アメリカ屈指の世界中の優秀な生徒が集うというビジネススクールで美娟が入学するまでで空前の成績を収めて「東洋の奇跡」と言われた。美娟を追い落とすのに成功して大きな契約をすると、誌面で「経済界の若きプリンセス」と絶賛される(琢矢はちょうちん記事と思い、賛同しなかったが)。
琢矢が心身共に追い込まれる中で“きれいだ!”という感想を抱く程の美貌を誇り、才色兼備。
天善を見返すため、彼が一大構想のために欲する株式会社マエジマの土地を購入しようと寝首をかこうとする琢矢を利用した。
兄の善彦と敵対し、琢矢との呉越同舟の後、アメリカで立志伝の人物、上条和明と組むも彼に人生初の辛酸を舐めされられることもあった。その後はシカゴの穀物相場で大儲けを果たす。
幼少の砌(生まれてすぐ母は死去、天善は善彦とも別の懇意の実力者に預け、成人するまで家族は正月の一日しか会わなかった)が描かれていた。
ビジネススクールの恩師に「人間味があれば才覚はより光り輝く」と指摘されても愛も信じる心も不要と吐き捨てるように言う(琢矢を愛していると思って詫びる美娟には穿った言い方をした)人間性の欠如の過程は分かっていく。琢矢は彼女もまた天善の被害者と察した。
天善に親子といえども甘えの許されない厳しさを教えてもらえて寧ろ感謝していると言って一線を越え、絶縁される。天善がこれからは自分のビジネスを邪魔する一匹の蝿と言われても意に介さなかった。

最終回では「大馬鹿」「リスキー」「粗暴」「無神経」と吐き捨てるように言いつつ先述のように複雑な思いのある琢矢に「……あなたとの思い出が……あんなものだけだなんて……イヤよ……絶対にイヤよ!」と言ってからセックスをした。

楊美娟(ヤン・メイチュワン)

「私は待っているわ………あなたが今生きているこのこの人生が、決して間違った選択ではなかったと確信を持って帰ってくる日を……」
「……琢矢……あなたの私への気持ちは本当にうれしいわ。でも沙貴のがんばりに対しては、どう応えてあげるつもりなの?」

こちらも登場は和美の後でも先に紹介するキーパーソンで、やはり絵に描いたような才色兼備。深圳栄華股份公司(株式会社)の総経理(社長)。天安門事件(第一か第二かあるいは両方かは不明)などの地獄を見てきた一族の出身で、負けを恐れない胆力が身に付いたと言う。
10才にして大学院で経済を学んで首席で卒業した、中国人の若き指導者(能力を知る前の琢矢の感想は「確かにチャーミングでセクシーで素敵なコだけれど」)。今ではあらゆる分野に生きる中国人から教えを乞われている。
琢矢と相思相愛となり、幾度もセックスをして濡れ場を見せる。戻ってくることを誓って琢矢と別れる時は「我愛你」(ウォーアイニー、愛している)と言ったが、やんわりとした女性語を使う。
ビジネススクールでは沙貴の成績を凌駕し、「新・東洋の奇跡」と言われた(同じ3月15日生まれなのも関係している)。その時はわずかにしか会わなかった沙貴の別人のように振る舞っての奸計(沙貴人
が理想の上司に思えた)で立場を失った。沙貴はその後、彼女のライバル(後述のように関わる人物が出たが、これは未登場)と商談を成立させた。
教えの的確さなどもさることながら大勢の中国人が誕生日を祝い、先述の沙貴の策の一環で一緒にいる写真を取られた琢矢に恨み言は言わなかった。先述の「立場を失った」というのはライバル達が攻勢をかけてのことだが、小さなトラブル(実際には決して小さくない)に負けないと琢矢に言い、人格も申し分ない。「本物の超スーパーレディ」と評される。
自分に好意を寄せて琢矢との握手を拒む中国民主化運動の推進者、張坤厚(チョウ・ハンホウ)の(それがための12億の民を裏切った)最期に涙し、地獄のような世界を変えると誓った。
世界的穀物メジャーのアルバート・カーチス相手に琢矢と自分の商談を成立させるため、ハッキングの腕は天才的な肖全軍(シャオ・クオチュン)に体も売った。その時は最初に全裸になって覚悟を決めた(Index.120のサブタイトルが「楊の覚悟」)が、夢のような体験ができて増長する肖に「やめて」と悲鳴を上げた。
自分達と無関係なところで久我山家と縁を切った沙貴のためにもそうしており、人柄がまた窺える。
料理人は好きなだけ雇える立場にありながら琢矢に自分で作った中華粥を出し、家庭的な一面も見せる。

琢矢は自分は和美を失って以来様々な女性と合ってきても真に心を通わせたのは君だけと言う。
琢矢と愛を誓い合うセックスをして、琢矢が生きていた和美のことを精算して、今の人生が間違いでないと確信し、戻ってくるのを信じて待った。

広瀬和美

「あなたって、きっと人を愛したことも愛されたこともないんだわ!! だから私達がうらやましくて仕方なかったのよ!」
「ひょっとしたら、これが琢矢の本当の姿なのかもしれないわね…… だって、今の琢矢は断然光ってるもの……! 負けないでね、琢矢!誰にも……!」

平百のサラリーマンであった頃の琢矢のフィアンセ。本作では飽くまで市井の女性というのが特徴となっている。
琢矢とまぐわう様子が回想でも描かれなかったのは意外。本作のトリビアと言えそう。
沙貴が「琢矢さん」と言って婚約指輪を見せ、宮河首相(時代を感じさせる名前)が仲人を務めると言って男の甲斐性云々ともなると信じてしまい、「よかったわね、逆玉に乗れて!!」と涙ながらに言った。
その後知人に言われて琢矢とまた会って本当のことを確かめようとすると、沙貴は琢矢の借金をなかったことにするよう父に頼むという条件で、琢矢への“本当の愛”を測る試練(見知らぬ男とのセックス)を課す。それに耐えられず、下着を切られそうになった段階で泣いて「あなたは人間じゃないわ鬼よ!悪魔よっ!!」と批難して逃げ出した時に事故死したと思われていたが、一命を取り止めていた。
ちなみに乗り越えたとしても沙貴に履行の意志は最初からなく(それだけの価値があるとは思わず、父、天善が甘くないことも重々承知)、彼女が言うことは正しかった。また、下記の人間性を踏み躙るゲームにも誇りを失わない魂を見せた琢矢とはどのみち一緒になれなかったと思われる。
美娟と一緒になると誓い合っていた琢矢はテレビに映った姿を見て、急いで会いに行った。半年眠り続け、琢矢への想いで奇跡的に回復したのだという。目覚めて早々琢矢が沙貴と組んでビジネスをしたと知り、一緒になれないと悟ったという。
結婚が決まったと話す。琢矢はその相手に「和美を幸せにしてやってください!お願いします!!」と託した。
勤め先の住和銀行に責任を擦り付けられる危機を漢っぷりを見せる琢矢に救われ、感謝して「あなたもきっと幸せになってね」と願った。琢矢がしてほしい礼は昔のままで自分が捨てた世界で幸せになることと言うと、了承して抱き合った。

琢矢は親子程歳の離れた飯塚頭取から大手の住和を引き継ぐこととなる(ちなみにこの時諸行無常の達観ぶりも見せ、頭取を驚かせている)。住む次元は異なると改めて感じた琢矢(ドラマでは復縁を持ちかけられて断ったという。演じたのは朱門みず穂女史)をテレビで見て、思わず応援した。

りさ子

「私のカンによれば、どんなに遠く離れていても、私達は必ず再会するはず……私達はそういう運命なのよ」
「うん……それでこそ、私の認めた男だわ!」

銀座の高級クラブでママをしている情報通。
和美が忘れられない琢矢の節操は笑った。
天善を極度に恐れつつ追い落とすとする中年の愛人、横山正彦(りさ子自身の家と店はあり、後ろ盾ではない)など、見切った相手に冷淡。
5年前に飛行機事故で亡くした恋人のような闘志に満ちた男に弱いと言う。そうした目をした琢矢の才能を見出し、100億どころか1000億稼げると保証した。

ショーケンこと根本健治とも知己。終盤で琢矢香港での大儲けを知っており、本当の情報通。
琢矢に天善に面従腹背の成新党の野沢悦郎(これまた時代を感じさせる名前)のことを教え、世界の富沢琢矢が生まれるのを楽しみにした。

前島マリエ

「だってあたし、20億のへこみがあるのよ、ちんたらやってらんないわ! それに、みんなと同じに賭けて勝ったってつまんないもの!」
「そうよ……私には物心ついた時から、母親はいなかったわ……いたのは、夫の亡霊に取り憑かれて仕事ばかりしてるひとりの未亡人だったのよ!」

一流の株式会社マエジマ(社長は下記のように演技をした琢矢に手切れ金を束で気軽に渡した)の跡取り娘。無理やりお見合いをさせようとする母のために屈折している。母は沙貴が「働く女性の鑑」と評するやり手(沙貴のリップサービスの可能性大)のあまり、親らしさがなかった。琢矢に前からの恋人を演じてもらい、安堵していた。
賭け好きで、真鍋政一が胴元の金持ちの若者間のゲームで彼からの貸しは20億に上る。琢矢に強運を感じ、ご利益に肖ろうとも考えた。政一と他の参加者の出した1億8千万円を賭けた、狂気を帯びたゲームに臨み、琢矢との目合いを見せた(それまでのゲームはカード類、それで借金がそこまで膨らむのは本作らしくない)。終えると金のかかった青姦云々で笑い者にされ、愚かさを悔いた。その時は殊勝にも琢矢に詫びたが、都合の悪いことがあれば彼のせいにして、涙ながらの演技をする狡猾さも有する。
政一との仕手戦では図らずもショーケンにヒントを与えた。
琢矢は政一との株の仕手戦を行い、相手の株価を下げるために(彼女が図らずもヒントを与えた)社長夫人とセックスをして株価を下げようとした。一度は一笑に付された琢矢だが、天善の姿を見かけてその失脚のためにも決意を改めにする。そうした事情を知らずに琢矢が自分は30過ぎの人妻より魅力がないと見做したと思って、やけ酒を煽る愛嬌もある。
フランクな言い方を織り交ぜることもあるが、基本、女性語を話す。母にためていたものをぶつけた時も一貫してそうしていた。

篠田冴子命
篠田冴子命
@saekosuki

目次 - Contents