おろち(楳図かずお)のネタバレ解説・考察まとめ

『おろち』とは、楳図かずお原作のホラー漫画。『週刊少年サンデー』誌上にて、1969年から1970年まで連載された。2008年には、実写映画版が公開されている。同作品の特徴は、視覚的な恐怖描写よりも人間の深層心理の不気味さを克明に描いた点にあり、サイコサスペンスものの先駆けとして人気が高い。『おろち』は、謎の美少女おろちを狂言回しにして、数々の人間の暗部がドラマとして紡がれていくオムニバスホラー作品である。

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突然「ねむり」が襲ってきたおろち

「ねむり」とは、『おろち』に登場する架空の現象。彼女には、100年に1度通常の睡眠とは違う眠りの期間がある。1度「ねむり」に陥ると約10年間は目覚めないため、おろちは他人に発見されないように人里から離れてねむりに備えていた。「ねむり」の影響で、彼女が不老不死であることが明かされている。また、おろちの肉体にダメージがあると、「ねむり」の訪れるタイミングが早まるようである。

『おろち』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ナレーション「これははき気をもよおすほどいやらしい女心の恐ろしさと執念をえがいたものである」

「これははき気をもよおすほどいやらしい女心の恐ろしさと執念をえがいたものである」というナレーションは、『おろち』の第1話『姉妹』の冒頭で書かれた。同エピソードは、18歳になると醜くなる宿命を背負わされた竜神エミ・ルミ姉妹の人生をおろちが見届けるというストーリーである。ルミは、母親から自分が竜神家の血を引いていないことを聞かされた。それを知ったエミは、半狂乱状態に陥ってルミを虐待するようになり、遂には自分の顔を焼いてしまう。しかし、ルミが18歳になろうとした時、実はルミが噓をつき、本当に血を引いていないのはエミだと告白した。騙されていたエミは、狂い死にしてしまう。姉妹の間には絆が希薄であり、お互いに醜くなりたくないという思いと血縁ではない相手に対する酷い嫉妬が渦巻いていたのだ。冒頭のナレーションは、そのことを端的に表現した名言だと高く評価されている。

三郎「舌が……!!くさっているのだ!!」

『おろち』の第2話『骨』に登場する三郎は、おろちの呪術の失敗によって、土葬された墓の中から蘇った。しかし、元々は三郎本体が蘇生する予定ではなかったため、彼は所謂ゾンビのような状態で生き返ってしまう。記憶は途切れ途切れで、身体の至る所が腐敗していた。特に、舌が腐っていたため喋ることができないことが、三郎にとっては致命的であった。墓から這い出た際、三郎は野犬に襲われたが、舌がないので助けを呼ぶことができなかった。「舌が……!!くさっているのだ!!」のセリフとともに描かれる三郎の苦悩の表情は、『おろち』屈指のホラーシーンとして知られている。

一生を懸けた目黒佑一の復讐

車に轢かれそうになる目黒佑一

『おろち』の第6話『ステージ』のメインキャラクター目黒佑一は、自分の人生を復讐に捧げた。彼は幼少時に、父親を轢き逃げで亡くしている。しかも、それは佑一の眼前で起きたのだ。しかし、唯一の目撃者である彼は、まだ幼過ぎたため、裁判で正確な証言ができず、容疑者の芸能人田辺新吾は無罪となった。心に耐え難い傷を負った佑一は、花田秀次として芸能界に戻ってきた田辺新吾を告発したい一心で独学で歌をマスターして上京し、花田に弟子入りして付き人となる。そして、徐々に彼を追い込んでいき、最高のタイミングで彼が轢き逃げ犯人であることを告発したのだ。復讐を終えた佑一は、故郷に戻って真面目な暮らしを送るようになった。1人の男性の執念を描いた同エピソードを、『おろち』の中で最も好むファンも多いといわれている。

戦争という極限状態の中で生き延びる岡部正の父親

佐野に何かの肉を食べるよう強制される岡部正の父親

『おろち』の第7話『戦闘」に登場する岡部正の父親は、ガダルカナル島での従軍時に、飢えの極限状態を経験した。飢餓状態は、部隊の中で弱って死亡した者の肉を喰らうというカニバリズムを引き起こしてしまう。岡部の父親は、最後まで人肉を喰うことに抵抗したが、そのままでは死んでしまうという絶望的な状況下で、佐野からトカゲの肉と偽った人肉を喰わされたことで九死に一生を得た。そして、撤退命令が出た際に、生きる希望が湧いた彼は、爆撃で取れかけた佐野の右腕を捥いで持ち帰る。真相は不明だが、岡部の父親が、帰国の途上で佐野の右腕を喰った可能性も示唆された。こうした極限状態が描かれた『戦闘』を、『おろち』のベストエピソードに推すファンが多いといわれている。

『おろち』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

サイコホラー作品の先駆けとなった『おろち』

秋田書店サンデーコミックス版『おろち』第1巻表紙

『おろち』の原作者である楳図かずおは、ホラー漫画家の大家として有名である。楳図は、1960年代中盤に『へび少女』や『紅グモ』といった視覚的に読者を怖がらせるホラー漫画を量産し、圧倒的な人気と高い評価を獲得した。『おろち』においては、視覚的な怖さもさることながら、人間の深層心理や行動の不気味さを冷徹な筆致で描くことが追及された。所謂サイコホラーものの先駆けとも評されており、同時期に連載された『イアラ』とともに楳図かずお作品は、次のフェーズに移行したと評されている。『おろち』以降の楳図漫画は、『漂流教室』や『洗礼』、『わたしは真悟』など傑作サイコホラー作品が多い。

楳図かずお作品の中でも人気の高い美少女キャラクターおろち

楳図かずおは、ホラー描写に定評のある漫画家だが、一方で美少女キャラクターを数多く描いていることでも高く評価されている。2019年8月には、『楳図かずお・美少女コレクション』という彼の美少女キャラにスポットを当てた書籍も刊行された。楳図作品における美少女キャラの筆頭に挙げられるのが、同名作品の主人公おろちである。おろちは正体不明の存在であり、謎と神秘性を秘めた表情に美を感じるファンが多いといわれている。また、おろちに1960年代後半のファッションを見る読者もいて、彼女の大きな魅力の1つと評されているのだ。

楳図かずお作品が多数連載された『週刊少年サンデー』

『おろち』第1話(通算第2回)扉絵

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