わたしのすきなひと（CLAMP）のネタバレ解説・考察まとめ

『わたしのすきなひと』の概要

『わたしのすきなひと』とは、『ヤングロゼ』（角川書店）にて1993年12月号から1995年6月号にかけて連載されたCLAMPのアンソロジーコミック。
単行本は全1巻で、1995年に同社からヤングロゼコミックスDXのレーベルから発売された。
作者のCLAMPは大川七瀬、いがらし寒月、猫井椿、もこなの4人からなる日本の女性漫画家グループで、1989年に『サウス』掲載の『聖伝-RG VEDA-』でデビューした。
2001年には『カードキャプターさくら』で、第32回星雲賞コミック部門を受賞。
全12話のストーリーで、各話7ページの読みきりコミックとショートエッセイという2つの構成で成り立っている。コミックの原作とエッセイは大川七瀬、作画は猫井椿が担当。
1週間前に喧嘩をした彼氏といつもと違う自分で待ち合わせる女性、多忙な職業の彼氏に寂しさを募らせる女の子、塾講師に恋する女子高生など、毎話異なる主人公の恋愛エピソードが描かれている。
今までのCLAMP作品はファンタジー要素を多く含んでいるため、このようなシンプルなラブストーリーは新鮮味があるとの声がファンの間であがっている。

『わたしのすきなひと』のあらすじ

SCENE1 ちがう

一週間前に女性は、彼氏と些細なことで喧嘩をしたが、自分も相手も頑固なためどうしても「ごめんなさい」の一言が言えなかった。
そして、このまま二人の関係も終わりになってしまうのではないかと不安な気持ちに駆られてしまう。
恋人との待ち合わせの日、いつもと違う素直な自分になるため、いつもはお稽古でしか着ることのない着物を着た。
そわそわした気持ちを抱きながら公園で恋人待っていると、そこへ彼の方も普段のラフな格好ではなくスーツ姿で現れる。
照れた彼氏の表情を見て、「貴方も『違う』自分になりたかったのね」と女性がほほ笑む。
その後、お互い素直に「ごめんね」と言い合うことができた。

SCENE2 かわいい

どんなものにでも使えて、街にありふれている「かわいい」という言葉に納得がいかないと女の子は彼氏に話す。
自分でも適当なところで適当なところに「かわいい」を連発していたことがあるため、「かわいい」を信用できないでいた。
なので、人から言われる「かわいい」を、19年間単なる社交辞令だと受け取っており、そのまま聞き流していたと言う。
「でもね、最近ちょっと考えを改めたのよ」と女の子が彼氏に微笑むと、続けて「私のことどう思う？」と問いかけた。彼氏は迷わず「かわいいよ」と笑顔で返す。
顔を真っ赤にした女の子は「どうして貴方の言う『かわいい』だけこんなに『どきどき』するのかしら」と嬉しそうに言い、大好きな彼氏からの「かわいい」という言葉だけは特別な気持ちになることに気づいた。

SCENE3 あいたい

女の子には漫画家の恋人がいるが、いつも忙しくしており、なかなか会える時間がない。
普段は我慢しているが、バレンタインやクリスマス、自分の誕生日も一緒に過ごせなかったことに加え、最近は電話にも出てくれないためとても不安を募らせていた。
つい、「『私』と『仕事』、どっちが大切なの？」という一言が出そうになる。それほど会いたい気持ちが加速し、さらに我慢しているのは自分だけなんだと寂しくなっている時に、突然玄関のチャイムの音が鳴る。
出てみると、会いたかった恋人が立っていた。
急な訪問で戸惑う女の子に「『会いたかった』から」と笑顔で言う恋人の言葉を聞いて、恋人も自分と同じ気持ちでいてくれたことに心から安堵し、幸せを感じるのであった。

SCENE4 としした

2か月前に年齢が原因失恋してしまったばかりの女性は、その経験から年齢に対してコンプレックスを抱くようになった。
女性の実家がケーキも販売するパン屋で、忙しい時期にはお店の手伝いもするようにしている。
普段から忙しい店だが、クリスマスを控えた12月はアルバイトの手を借りなければ店を回せないほどの忙しさになる。
閉店まで何とか働いた後、先程まで一緒に働いてくれていたバイトの高校生男子が女性に「ケーキを買わせてください」と話しかける。
一生懸命働いてくれたので女性は「持って帰っていいよ」と伝えるが、高校生男子は「買わせてください」と言葉を強めて言い、ケーキを購入して行った。
その後、帰宅途中の女性の目の前に男子高校生が姿を現し、「俺と…付き合ってくれませんか」と告白する。
年齢が原因で失恋してしまった女性は、もっと自分より若くて可愛い子が似合うのではないかと涙を浮かべる。
しかし、男子高校生は「年で好きになった訳じゃないから」と照れながらもはっきりと答え、自分が知っているケーキの中で1番美味しいケーキをと、先程購入したケーキを女性に渡す。
女性は自分に真摯に向き合ってくれるその姿に嬉しく思い、「食べながら教えて、年以外の貴方の事」と男子高校生に微笑みかける。

SCENE5 とつぜん

デザイン事務所で毎日忙しく働く女の子は、一緒に働くデザインチームのチーフである上司に苦手意識を持っている。
とても無口で無表情で、何を考えているか全然わからないうえに、顔もタイプではないとハッキリ思っている。
ある日、女の子は自らが校正した商品のミスに完成後に気付く。ここは潔く謝罪するしかないと悟り、真っ先に取引先に向かおうとするが、上司がそれを止める。
間違えた分だけすぐにやり直すように指示を出し、「潔くあやまるのも責任の取り方だ。しかし出来るだけの努力もするのもプロとしての責任だろう」と言う。
そのまま自分の代わりに取引先へ向かおうとする上司の姿を見て、女の子は胸がときめいたのを感じ、人を好きになるのは突然のことなんだと確信した。

SCENE6 いっしょに

幼稚園に通う女の子は、楽器を演奏する時間になっても、自分の楽器が見つからずぽつんと立っていた。
その時、自分の楽器であるハーモニカを貸してくれた男の子に一目ぼれした。その出来事以降、男の子がハーモニカが好きだったので自分も一生懸命練習するようになる。
大人になってから考えてみると、男の子のことが本当に好きだったからハーモニカのことまで好きになっていたのだと気づく。その経験から、好きな人の好きなものを好きになることは素敵だと感じるようになった。
場面は変わり、幼稚園児だった男の子と女の子は恋人同士になっており、仲睦まじくあの頃のハーモニカの話をしていた。

SCENE7 きれい

楽しみにしていたデート当日を迎えた女の子。髪を巻いたり、服を完璧に準備したりと2時間もかけて一生懸命に用意していたが、デート当日の天気は雨で途方に暮れてしまう。
そうこうしているうちに、待ち合わせ時間ギリギリとなってしまい、服も髪も適当なまま家を出る。
道すがら鏡を見て、今日の自分はこの世で1番不細工だ、1番きれいな自分を見てもらいたかったのにと悲しい表情を浮かべる。
待ち合わせ場所へ行き、大好きな恋人とも会えたのに、女の子の表情は曇ったままで遅刻した理由も話さず俯いている。
その様子を見た恋人は「ま、今日は特別『きれい』だから許してやろう」とにっこり笑った。
恋人の言葉に女の子の表情は一気に華やかになり、雨が降ったことを小さく感謝した。

SCENE8 ふあん

恋人が大好きな女の子は、この幸せがいつまで続くのか不安な気持ちを感じている。
自分は恋人が好きだけど恋人もそうだと限らない、昨日は好きだけど今日も好きだとは限らないと不安は大きくなり、「もういらない」と言われる夢をよく見るようになる。
そんなある日、恋人の家に行きもらった合鍵で明けようとしたが鍵が開かず、彼女は「これは『家に入るな』ってこと！？」とパニックに陥る。
そこへ恋人が現れ、「先週もう1つ鍵をつけたと言っただろう」話す。
その言葉に、閉め出されたわけではなく、今朝見た夢も正夢になっていないことが分かり、女の子は心から安堵した様子を見せる。
これからも不安は解消されることはないが、不安ごと恋人を好きな気持ちを大切にしようと感じていた。

SCENE9 ゆうき

高校生の女の子は、ハプニングに見舞われた際に助けてくれた塾の先生に恋をしている。
その出来事をきっかけに仲良くなり、何度か出かけたものの相手からのアクションはなかった。
女の子はバレンタインという『特別』なイベントに力を借りて告白しようと決意するが、振られた場合を考えては落ち込んでいた。
そこへ塾の先生が待ち合わせ場所へ来てくれたので、女の子は真っ赤になりながらも「すきです！」と告白する。
先生は笑顔でプレゼントを受け取り「ありがとう」とお礼を言う。
振られた場合のことばかりを考えていたので、その反応に女の子は驚くがとても幸せな気持ちを抱くことができ、改めて告白する勇気をくれたバレンタインに感謝をした。

SCENE10 ふつう