風立ちぬ（ジブリ映画）のネタバレ解説・考察まとめ

「スタジオ・ジブリ」の名前の元ネタは飛行機である。「ジブリ」という名前は、イタリアのカプロニ社製Ca.309ギブリ(Ghibli)から取られたもの。ギブリとは「サハラ砂漠に吹く風」のこと。
この飛行機はイタリアが植民地向けに作った偵察、軽爆撃機でこれまた大変マイナーな機体。
このように宮崎駿は飛行機へのこだわりが強く、『風立ちぬ』でもマニアックな飛行機が登場している。特に「逆ガル翼」（胴体から翼端への途中で上向きに曲がっている主翼。途中から下向きに曲がったガル翼（原義は「カモメの翼」）とちょうど上下逆になっている）へのこだわりが強く、原作漫画でも堀越二郎がヒロインと出会うきっかけの会話に繋がっている。また、映画でも二郎の理想とする美しい飛行機は逆ガル翼を持っていた。
ここでは映画『風立ちぬ』に登場する飛行機を紹介する。

隼型試作戦闘機

日本陸軍の国産主力戦闘機として開発されていた機体。入社直後の二郎が初めて関わった戦闘機となっている。劇中、急降下試験に空中分解した戦闘機はこの隼型試作戦闘機である。
この結果を受け、陸軍は中島の機体を九一式戦闘機として正式採用する。
史実では、1927年に内示された新型戦闘機競争試作計画に沿って開発された機体。三菱はドイツ人航空技師のアレクサンダー・バウマン設計のパラソル翼型戦闘機を完成させた。
1928年6月13日に所沢で行われた飛行試験では、他社戦闘機よりも優れた成績を残したが、急降下試験中に空中分解を起こした。その後の強度試験で強度不足が発覚し、不採用となっている。テストパイロットを務めていた中尾純利は落下傘降下により無事だった。（なお、これが日本初のパラシュートによる脱出であった。）

九試単座戦闘機

映画のポスターには逆ガル翼機「九試単座戦闘機」が使われている。九試単座戦闘機とは、 1934年（昭和9年）に三菱重工と中島飛行機の両社に試作指示が出された機体で、1935年（昭和10年）に試作機が完成し、三菱機が採用された。日本海軍初の全金属単葉戦闘機であり、沈頭鋲の採用と徹底的な軽量化で高速化を目指し、試験飛行では最高速度440kmという驚異的な数値を記録した。この戦闘機の完成によって、外国機のコピーの域を出なかった国産機が一躍世界水準を超えることになった。

堀越二郎が設計した戦闘機として有名なのは「零式艦上戦闘機」だが、宮崎駿はあえてその前に作られた「九六式艦上戦闘機」の原型「九試単座戦闘機」の試作一号機をポスターに起用した。九六式艦上戦闘機の原型として数機が試作された九試単座戦闘機の内、逆ガル翼なのは一号機のみである。

九二式超重爆撃機

1932年に採用された三菱による「超」重爆撃機。ドイツの大型輸送機G36（Junkers G.38）をライセンス生産したもの。全幅44mという当時としては超大型機で、戦後しばらく経つまで日本最大の飛行機であった。
しかし、あまりに大きく重すぎたため速度は200km/h程度しかでず、結局一度も実戦に使われることは無かった。さらに造ペースが遅く、製造中に時代遅れとなってしまった悲運の機体。本庄が設計に関わった。
映画では九二式超重爆撃機の原型G36にドイツ視察中の二郎は実際に搭乗することになり、ドイツの技術力に感嘆することとなる。

なお、実在する三菱内燃機製造（三菱航空機）株式会社は、1934年に三菱造船と合併し三菱重工業へと再編された。
二郎の設計した「九六式艦上戦闘機」や「零式艦上戦闘機」、「雷電」、本庄の設計した「九六式陸上攻撃機」、「一式陸上攻撃機」、その他「一〇〇式司令部偵察機」、「四式重爆撃機飛竜」など日本の主力航空機メーカーとして多くの航空機を設計製造した。
2008年に国産旅客機三菱リージョナルジェットの開発が決まり、三菱重工の事業会社として再び事業をスタートさせている。

一三式艦上攻撃機

日本海軍の日本初の本格的艦上攻撃機。初飛行は1923年。劇中では、空母への視察のシーンで二郎と上司の黒川が搭乗した飛行機がこの機体となっている。着艦時にエンジンからオイルが吹き出してしまった。
忠実では、海軍航空隊黎明期の日本最初の実用艦上攻撃機となっており、イギリスから招いた航空技師のハーバート・スミスが設計した。
複葉の三座機で堅実かつ実用的で兵からも好評であった。1923年の運用開始から1938年頃まで使用され続けた名機である。
攻撃機ながら日本海軍航空隊最初の空戦に参加した。なお、日本海軍初の空戦による敵機撃墜は、昭和7年2月22日に蘇州上空にて米国人義勇兵の乗ったボーイング218戦闘機を空母「加賀」所属の一三式艦攻と三式艦戦にて撃墜したのが最初といわれている。

八試特殊偵察機

長大な航続距離を持った双発の偵察機。1934年初飛行。本庄が設計した機体。「実験機みたいなものだから好きにやってる」の言葉どおり、本庄や堀越の様々なアイディアが盛り込まれた。
忠実では、日本ではほとんど経験の無かった全金属製の大型機として野心的な開発がなされており、結果として世界水準に達する本格的航空機となった。
計画が変更され7.7ミリ機銃二挺を搭載する「八試中型攻撃機」へと改称された。
これを元に、九六式陸上攻撃機へと発展していくことになる。

零式艦上戦闘機

「零戦（ぜろせん）」の略称で知られている大日本帝国海軍の主力艦上戦闘機。海軍の艦上戦闘機としては実質的に最終型式で、日中戦争の半ばから太平洋戦争の終戦まで前線で運用された。
零戦の開発は、1937年（昭和12年）9月に海軍から提示された「十二試艦上戦闘機計画要求書」から始まる。十二試艦上戦闘機に対する海軍の要求性能は、堀越二郎ら技師が「ないものねだり」と評するほど高いものであり、競合である中島飛行機が途中で辞退した。そのため、零戦の開発は三菱単独で行われた。
このように開発は非常に厳しいものだったが、堀越二郎は3000枚に及ぶ設計図をチェックし、開発に取り組んだ。
堀越は九試で開発した沈頭鋲に加えて主翼のねじり下げなどの技術を開発。沈頭鋲は、機体を打ちつける鋲の頭を削って、少しでも空気抵抗を小さくし、機体を軽くする工夫である。ねじり下げは翼にわずかな角度をつけることで乱気流を防ぐ工夫である。
その結果、航続距離2222km、最高速度533kmと高い運動性能、20mm機関砲2門の重武装を持ち、太平洋戦争の緒戦では無敵とも言える活躍をすることになる「零式艦上戦闘機（A6M2b）」が、堀越二郎の手により誕生した。堀越二郎によると、「私は一瞬、自分がこの飛行機の設計者であることも忘れて、「美しい！」と、喉咽の底で叫んでいた。」という。
劇中では最後のカプローニと二郎の会話シーンで登場しており、「美しい飛行機じゃないか」と語りかけるカプローニに「1機も帰ってきませんでした」と二郎は答えるのであった。

零戦は日中戦争から太平洋戦争初期にかけて、2,200 kmに達する長大な航続距離・20mm機関砲2門の重武装・優れた格闘性能を生かして、米英の戦闘機に対し優勢に戦い、米英のパイロットからも「ゼロファイター」と呼ばれた。海外でも最も有名な日本軍機である。

鳳翔

飛行機ではないが、作中に登場しているため紹介する。二郎達が着艦した空母。設計と開発段階から純粋空母としての運行を目的として建造された世界初の正規空母となっている。

Ca.60