風立ちぬ(ジブリ映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『風立ちぬ』とは、2013年にスタジオジブリが公開したアニメーション映画で、監督は宮崎駿。キャッチコピーは「生きねば。」。主人公の堀越二郎は、幼い頃から飛行機が大好きで飛行機乗りになりたかった。しかし近眼という決定的な欠陥から飛行機乗りの道を諦め、設計者を志すこととなる。そして大学生のころ関東大震災にあい、その時に出会った結核の少女、里見菜穂子と恋に落ちる。大正から昭和へと流れゆく時代に、生と死の間で苦悩する青年を描いた感動作となっている。
「ニホン、ハレツする。ドイツもハレツする。」
(日本とドイツの行く末を案じて、カストルプが二郎に言う台詞。)
二郎と菜穂子が再開した、軽井沢のホテルに泊まっていたドイツ人。戦争を快く思っておらず、ナチス政権を「ならず者の集まり」と非難する。二郎が戦闘機の設計者であることを知っているそぶりを見せ、今後戦争に巻き込まれるであろう日本の将来も案じている。ホテル滞在中は二郎と菜穂子の恋を見守り、二郎が菜穂子の父に菜穂子との交際の許しを請う場面にも同席する。そしてある日唐突にホテルを去っていくのだった。
カストルプのキャラクターは声優を務めるスティーブン・アルバートがそのままモデルになっている。彼はスタジオジブリの海外事業部にいた人物だ。また、カストルプという名前は、『風立ちぬ』作中でもそのタイトルが引用されている、ドイツの小説家トーマス・マンの小説『魔の山』の主人公からきている。この小説での主人公もまた、結核患者であった。
【声のキャスト】
スティーブン・アルバート
里見(さとみ)
「いい青年だ。」
(里見が、軽井沢での二郎の印象を言った台詞。)
菜穂子の父親で資産家の紳士。軽井沢のホテルで菜穂子に恋をした二郎に、交際の許しを求められると、菜穂子が結核であるため難色を示す。だが、二郎のまっすぐな決意に交際を認めた。病気を治して二郎とともに生きたいと決意した菜穂子を、療養所へ入れたり、二郎に菜穂子の病状を電報で伝えたりと、陰ながら二人の交際を支えている。
【声のキャスト】
風間杜夫
二郎の母
「喧嘩はいけませんよ。」
(喧嘩して帰ってきた二郎の顔の傷を見て、母親が二郎に言う台詞。)
登場するのは二郎の幼少期だけだが、優しく品の良い夫人。いじめられていた下級生を助けるために喧嘩して帰ってきた二郎を温かくいさめる。よき日本の母といった印象の人物である。
【声のキャスト】
竹下景子
堀越 加代(ほりこし かよ)
「にいにい様は菜穂子さんをどうするつもりなの?」
(病状の思わしくない菜穂子を思って、加代が二郎に言う台詞。)
二郎の妹。小さい頃から活発で、二郎を「にいにい様」と慕い、後を追いかけては煙たがられていた。その勝気な性格から、女の身でありながら医者を目指している。このことについては父親からなかなか許可が下りなかったが、二郎の口添えもあってついには医大生になった。そんな中、加代は二郎と菜穂子が結婚したと聞き、菜穂子に会いに行くようになる。二人はすぐに仲が良くなり、菜穂子は加代を「未来がいっぱい詰まった、お日様のような人」だと語っている。加代が菜穂子に会いに行くのは、ただ単に二郎の妹としてだけではなく、医者の卵として菜穂子の診察も兼ねているものだった。
【声のキャスト】
志田未来
服部(はっとり)
「いやぁ、面白かった。」
(二郎が職場で開いた自主的研究会を覗いた帰りに、服部が黒川に言う台詞。)
二郎が所属する設計課の課長。二郎を海軍の戦闘機開発の代表に抜擢したり、その開発がうまくいかず二郎が落ち込んだ時は、休暇を出したりした。二郎が職場で開いた自主的研究会をのぞいて感動したりと、二郎の直属の上司である黒川と同じく、二郎の才能を認めている。九試単座戦闘機の開発では設計主務として二郎を再び推薦する。
彼もまた実在した人物で、モデルとなったのは服部譲次(はっとり じょうじ)。三菱での実在の堀越二郎の上司であった。
服部譲次は、東京帝国大学大学院の工学科を卒業後三菱造船に入社。名古屋航空機製作所にて部長などを歴任した。
入社してまだ五年の堀越二郎の才能を見出し、七試艦上戦闘機の主任設計者に任命する。
その七試艦上戦闘機は、競合した中島機と同様、兵器採用されることなく試作のみに終わった。七試艦上戦闘機が「醜いアヒルの子」と言われる失敗作となってしまった後も堀越二郎の力を信用し、続く九試単座戦闘機でも主任に指名した。 1934年(昭和9年)、三菱重工と中島飛行機の両社に試作指示が出され、1935年(昭和10年)に九試単座戦闘機の試作機が完成。審査の結果、三菱機が採用された。
完成した九試単戦は欧米レベルに追いつく初の日本製全金属単葉戦闘機として、日本航空機史上のエポックメーキングといえる機体に仕上がった。
【声のキャスト】
國村隼
黒川の妻
「美しいところだけ、好きな人に見てもらったのね…。」
(高原病院へ帰ってしまった菜穂子を思って、黒川夫人がつぶやく台詞。)
高等警察に目をつけられた二郎を、黒川が自宅の離れに招いて以降ずっと世話をしてくれている女性。療養所を抜け出した菜穂子を連れて、二郎が結婚すると告げた時も、難色を示す夫を「いいじゃないですか」と制して結婚式をしてくれる。結核である菜穂子を嫌な顔ひとつせず世話してくれる、立派な女性だ。
【声のキャスト】
大竹しのぶ
カプローニ
「飛行機は美しい夢だ。設計家は夢に形を与えるのだ!」
(二郎が設計家になると決めたきっかけとなった、カプローニの台詞。)
二郎の夢や幻の中にだけ出てくる世界的に著名なイタリアの飛行機設計家で、たびたび登場しては二郎にアドバイスしたり、良い刺激を与えたりする。幼い二郎が視力の問題で飛行機乗りになれないと落胆していると、自分も飛行機には乗れないが設計家だと自信満々に笑う。夢でしか会えない人物だが実在もしており、二郎は英字雑誌を通して彼の活躍を知っていた。飛行機に夢を抱く、二人の技術者の意識がつながったかのようなファンタジー要素を持つキャラクターだ。
モデルはジャンニ・カプローニ(ジョヴァンニ・バッチスタ・カプロニ)。作中同様、イタリアの飛行機設計家だ。
カプローニはミュンヘン工科大学で土木工学を学び、その後リエージュ大学で電気工学を学んだ。1908年にカプローニ飛行機工場を立ち上げると、その後の第一次世界大戦での航空機需要に応えて多くの爆撃機などを設計、製造して成功を収めた。
戦後、飛行機の旅客化を推進し、作中にも登場するCa.48やCa.60などの巨大な旅客輸送機設計に尽力した。
1957年8月27日ローマで死去(享年71歳)。
【声のキャスト】
野村萬斎
ユンカース
二郎がドイツ留学で見学することとなった航空会社、ユンカース社の設計家。作中で二郎や他の日本技術者たちが、ユンカース博士と会話するシーンは一切ない。だが彼は「日本人はすぐに真似をする」との理由から、ドイツ側の関係者が飛行機内の見学を拒否していたところへ現れ、機内の見学を許可してくれる。
モデルはフーゴー・ユンカース。ジョヴァンニ・バッチスタ・カプロニ同様、著名なドイツの飛行機設計家だ。
フーゴー・ユンカースは、1859年にドイツで生まれた発明家、実業家。全金属製航空機や初期の高速ディーゼルエンジンの開発に先駆的な役割を果たした。
全翼機の特許や後のルフトハンザ航空となる会社の設立など、その功績は数多い。
70歳を超えた後も航空機関連技術の開発に尽力したが、時のナチス政権に批判的な姿勢をとったことから、政権から会社を奪われ、追放された。晩年は監視下での生活を余儀なくされ、1935年失意の中で亡くなった。
『風立ちぬ』に関連する飛行機・戦闘機
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目次 - Contents
- 『風立ちぬ』の概要
- 『風立ちぬ』のあらすじ・ストーリー
- 堀越二郎の夢
- 運命的な出会いと別れ
- 夢の先へ
- 『風立ちぬ』の登場人物・キャラクター
- 堀越 二郎(ほりこし じろう)
- 里見 菜穂子(さとみ なおこ)
- 本庄(ほんじょう)
- 黒川(くろかわ)
- カストルプ
- 里見(さとみ)
- 二郎の母
- 堀越 加代(ほりこし かよ)
- 服部(はっとり)
- 黒川の妻
- カプローニ
- ユンカース
- 『風立ちぬ』に関連する飛行機・戦闘機
- 隼型試作戦闘機
- 九試単座戦闘機
- 九二式超重爆撃機
- 一三式艦上攻撃機
- 八試特殊偵察機
- 零式艦上戦闘機
- 鳳翔
- Ca.60
- Ca.36
- Ca.90
- Junkers F.13
- Junkers G.38
- 九六式陸上攻撃機
- ポリカルポフ I-16
- 実在の堀越二郎が設計した機体
- 七試艦上戦闘機
- 九六式艦上戦闘機
- 雷電
- 烈風
- YS-11
- 幻の零戦後継機「烈風改」
- 実在のジャンニ・カプローニが設計した機体
- Ca.48
- Ca.64
- 『風立ちぬ』の用語
- 結核
- 関東大震災
- 『風立ちぬ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 「Le vent se lève. Il faut tenter de vivre.」
- 朗読詩「風」
- 「また鯖か?たまには肉豆腐を食え!」
- シベリア
- 『風立ちぬ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 原作漫画『風立ちぬ』
- 小説『風立ちぬ』と堀辰雄
- 「堀越二郎」のモデルとなった人物
- 「里見菜穂子」のモデルとなった人物
- 庵野秀明が「堀越二郎」の声に選ばれた理由
- 瀧本美織が「里見菜穂子」の声に選ばれた理由
- 『風立ちぬ』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:荒井由実『ひこうき雲』