風立ちぬ(ジブリ映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『風立ちぬ』とは、2013年にスタジオジブリが公開したアニメーション映画で、監督は宮崎駿。キャッチコピーは「生きねば。」。主人公の堀越二郎は、幼い頃から飛行機が大好きで飛行機乗りになりたかった。しかし近眼という決定的な欠陥から飛行機乗りの道を諦め、設計者を志すこととなる。そして大学生のころ関東大震災にあい、その時に出会った結核の少女、里見菜穂子と恋に落ちる。大正から昭和へと流れゆく時代に、生と死の間で苦悩する青年を描いた感動作となっている。
関東大地震は1923年(大正12年)9月1日11時58分32秒ころに発生した。190万人が被災し、10万5千人余が死亡、行方不明となったと推定されている。地震の発生時間が昼食の時間と重なったことから火災も多く発生した。多くの住民は近くの社寺や学校に避難し、陸軍のテントを借りて仮設住宅が作られたが、狭い土地に避難民が集中したため治安が悪化した場所もあったという。
『風立ちぬ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
「Le vent se lève. Il faut tenter de vivre.」
汽車のデッキで本を読んでいた二郎の帽子が、突然の風にさらわれ飛ばされた。帽子をキャッチした菜穂子は二郎にそれを手渡して「Le vent se lève.」と言う。その言葉に、この詩の続きを知っていた二郎は「Il faut tenter de vivre.」と返す。二人の出会いのシーンであると同時に、本作中でたびたび描かれる「風」が表現された最初の場面となっている。
フランス語で、訳すと「風が上昇している、私たちは生きていなければならない」。
この言葉はフランスの作家であるポール・ヴァレリーの「海辺の墓地」という詩の一節“Le vent se lève, il faut tenter de vivre”で、堀辰雄の小説『風立ちぬ』でも引用され「風立ちぬ、いざ生きめやも」と訳された。宮崎駿の『風立ちぬ』では、二郎が「風が立つ、生きようと試みなければならない」と訳している。ヴァレリーの詩の直訳である「生きることを試みなければならない」という意志的なものと、その後に襲ってくる不安な状況を予覚したものが一体となっている。
朗読詩「風」
誰が風を見たでしょう?
僕もあなたも見やしない
けれど木の葉をふるわせて
風は通りぬけてゆく
風よ翼をふるわせて
あなたのもとへ届きませ
この詩を口ずさみながら、二郎は体調を崩した菜穂子が寝ている部屋を見上げて紙飛行機を飛ばす。二郎の菜穂子への恋焦がれる気持ちが表現された場面だ。原詩の作者はイギリスの詩人クリスティーナ・ロセッティ。日本語訳は西条八十(さいじょう やそ)で、草川信(くさかわ しん)作曲の動揺としてもこの詩は知られている。だが、二郎が口ずさむ「風よ翼をふるわせて」以降は原文にもない。
「また鯖か?たまには肉豆腐を食え!」
二郎の親友であり同期の本庄が、学生時代に食堂で二郎に言った台詞。二郎は飛行機の翼断面が鯖の骨に似ているという理由から、鯖定食ばかり食べていた。本庄はそれを「マンネリズム」だとして肉豆腐を勧める。それと言うのも、日本の航空技術が世界から遅れていることに焦りを感じているからで、日本人は航空技術にしても、他の文化にしても同じことを繰り返し、なかなか前に進まないということに怒りを覚えている為だ。ジブリ映画といえば「おいしそうな食べ物が出てくるシーン」が有名だが、これもそのひとつだ。
シベリア
隼型試作戦闘機が試験飛行中に空中分解した夜に、寮への帰り道で二郎が買ったお菓子(カステラに羊羹や餡子を挟んだもの)。そんなシベリアを売っていた店の傍らにある街灯の下には、幼い兄弟を連れた女の子がいた。店の店主が言うには、帰りの遅い親を待っている子どもたちなのだそうだ。隼の開発中止に落ち込んでいた二郎は、少しでも何かを達成した気分になりたかったのだろう。買ったばかりのシベリアを「君たち、ひもじくない?これを食べなさい。」と差し出す。だが、女の子はそんな二郎に嫌そうな顔をして、弟たちを連れ走り去る。寮に着いた二郎は、本庄にそのことを話すが、本庄からも「それは偽善だ!」と言われてしまったのだった。
『風立ちぬ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
原作漫画『風立ちぬ』
宮崎駿の漫画『風立ちぬ』は、「崖の上のポニョ」の制作を終え一段落したことから、モデルグラフィックスで連載することとなった作品だ。2009年4月から2010年1月号まで連載されていた。
この漫画は登場人物のほとんどが擬人化された動物の姿であり、主人公の堀越二郎も豚の姿で描かれている。宮崎監督いわく、「この漫画はいわば趣味として描いたもの」だそうで、映画化は全く考えていなかったとのこと。鈴木プロデューサーがこの漫画の映画化を勧めても宮崎監督は、内容が大人向けであることにくわえて、「アニメーションは子どものためにつくるものだ」という主張から反対していたのだそうだ。だが、鈴木プロデューサーが宮崎監督の「矛盾」を指摘し、その矛盾の答えを出す映画をそろそろ作ってもよいだろうと促した。その矛盾とは「宮崎駿は、戦争は嫌いだが戦闘機が大好き」というものだ。映画化してみて宮崎監督が出した、矛盾に対する答えは「この映画は戦争を糾弾しようというものではない。ゼロ戦の優秀さで日本の若者を鼓舞しようというものでもない。本当は民間機を作りたかったなどとかばう心算もない。自分の夢に忠実にまっすぐ進んだ人物を描きたいのである」というものだった。
小説『風立ちぬ』と堀辰雄
小説『風立ちぬ』は、序曲、春、風立ちぬ、冬、死のかげの谷の5章から成る恋愛小説だ。著者は堀辰雄(1904年-1953年)。堀辰雄は1904年(明治37年)東京に生まれ、向島で育った。堀は数学者を目指していたが、1923年(大正12年)に萩原朔太郎の「青猫」 を読んだことがきっかけになり、文学の道へ進むことになる。高校在学中、室生犀星や芥川龍之介の知遇を得た一方で、関東大震災の際に母を失っており、その後の堀の文学を形作ったのがこの期間であったと言われている。
『聖家族』で1930年文壇デビュー。 肺結核にかかり軽井沢で療養することが度々あったため、そこを舞台とした作品を多く残している。
小説『風立ちぬ』は、堀辰雄が執筆のために軽井沢のつるや旅館に滞在中に出会った、油絵を描く少女、矢野綾子(やの あやこ)と出会いから生まれた作品だ。彼女との体験は辰雄の別小説「美しい村」にて描かれている。
ある年の夏。「私」は、避暑地の高原で「節子」という美しい少女と出会った。やがて節子の父親が迎えに来て節子は高原を去るが、「私」は生活の目途が立ったら彼女をめとることを決意する。
時は経過し、約2年後の春。「私」は節子と婚約を果たしていたが、節子は結核を患っていた。
重い病(結核)に冒されている婚約者に付き添う「私」が、彼女の死の影におびえながらも、2人で残された時間を支え合いながら共に生きる物語となっている。
この物語では、主人公の名前は語られず、最初から最後まですべて「私」の一人称で物語は語られる。
また、「私」の職業は小説家らしいことから、モデルは堀辰雄自身と考えられる。
辰雄と綾子は婚約したが、綾子もまた結核患者だった。二人はともに富士見の療養所(サナトリウム)で闘病することとなるが、綾子はその時すでに重症で、いつ死んでもおかしくない状態であった。辰雄の結核は幸いにも回復に向かい、懸命に綾子に寄り添い看病するが、結局綾子は療養所に入った翌年に亡くなってしまう。『風立ちぬ』はそんな堀辰雄の実体験をもとに書かれた小説である。
後年、加藤多恵と知り合い、結婚。身近な人が多く亡くなり、自身も肺結核を患う堀辰雄を妻として支えた。
戦争末期から体調を崩し、作品発表もままならない状態のまま1953年5月28日に没した。享年48歳。
『風立ちぬ』は単なる恋愛小説ではなく、命の大切さを伝えるものであり、「一生懸命生きなさい」と訴えかける小説となっている。
「堀越二郎」のモデルとなった人物
堀越二郎(1903年6月22日 - 1982年1月11日)は高い操縦性や速度、長距離飛行が可能なことによって当時最強と言われた零式艦上戦闘機(通称零戦)の設計者で、実在した人物だ。そして彼が生まれた1903年はライト兄弟が世界初となる有人動力飛行に成功した年でもあった。
群馬県藤岡市出身の堀越は、藤岡中学校、第一高等学校を首席で卒業。藤岡中学校に通っていたころには、「ほかの生徒に合わせていると自分に合った勉強ができない」といったことを先生にもらしていたと言われている。
さらに東京帝国大学(現在の東京大学)工学部工学科を首席で卒業し、その頭脳から三菱燃料製造(現在の三菱重工業)にスカウトされて入社する。当時の三菱は恐慌の影響で業績が悪く、帝大出の優秀な人材を獲得、育成して挽回を図ろうとした。入社後の堀越は、航空技術を学ぶために会社の費用で渡米し、1年半もの間旅をする。そこで堀越は、イタリア航空機メーカーの創立者であるジョヴァンニ・バッチスタ・カプロニと出会い、彼の「飛行機は単なる戦争の道具ではなく、存在そのものが美しい夢である」という考え方に深く感銘を受けたという。
戦前には七試艦上戦闘機、九試単座戦闘機(後の九六式艦上戦闘機)、戦時中は「零式艦上戦闘機」を含め、「局地戦闘機雷電」、「艦上戦闘機烈風」と数は少ないものの、後世に語り伝えられる名機の設計を手掛けた。戦時中は零戦の改良と雷電の開発に追われ、過労で度々倒れてしまっていた。なお、設計主務である堀越二郎自身は、その零戦には一度も乗ったことはなかったという。
エンジンの種類が決まると、堀越はまずボディ全体のイメージを描き上げたと言われている。これは一般的な手順とは異なるが、何よりも流れるような美しい機体を実現させたかったのだろう。 ねじり下げ、沈頭鋲といった技術は、現在でも全世界のほとんどの航空機で利用されている。
エンジンが気に食わなかったときには、海軍の方針に反対してエンジンを換えさせたというエピソードもある。軍に一設計者が立てつくなど、当時は考えられないことだった。
また、大変几帳面な性格であり、自分が乗った客船の食堂のメニューを集めて保管しておく。領収証も一枚一枚保存、布団を敷くときには必ず部屋の壁と平行になるように敷くなどのエピソードがある。
戦後、日本初の国産ターボプロップ旅客機YS-11の設計に参加。新三菱重工業を退社した後の堀越は、教育・研究機関で教鞭をとり、1963年から1965年にかけて東京大学の宇宙航空研究所にて講師を務めた。1982年1月11日死去(享年78歳)。実際の堀越二郎は1932年に結婚し、子宝にも恵まれている。
長男の雅郎によると、自慢のライカで家族を写すのが好きな普通の父親だったという。機体を軽くするために防弾性能がなかった零戦に、戦後「人命軽視」と批判が出た時も、「(防弾用の鋼板を)外さなきや性能は出せっこねえ」と声を荒らげるなど、手掛けた飛行機への愛着は人一倍だった。
「父は理詰めで典型的な技術屋。ロマンチックな人間とは思えなかったが、あの世でにやりと笑って見ているのではないか」と話している。
このように本作『風立ちぬ』は、実話をなぞった物語となっている。だが、実在した人物を主人公としたのは宮崎監督作品で初めての試みでもあった。実際にあった出来事をなぞりつつも、フィクションを交えたオリジナル要素を盛り込んだストーリーであるため、堀越二郎氏の家族にも了承を得て映画製作は行われた。飛行機の設計者としての「二郎」は実在の堀越二郎氏が、「菜穂子」との恋愛面での「二郎」は、小説『風立ちぬ』の著者である堀辰雄氏がモデルとなったと言える。そのため『風立ちぬ』のポスターには『堀越二郎と堀辰雄に敬意を込めて。』と添えられているのだ。さらに、「二郎」には宮崎監督の父親の人生も要素として加えられているのだとか。監督の父も、幼い頃に関東大震災にあい、零式艦上戦闘機などの風防(コックピットの風よけガラスのこと)などを製造する会社の経営に携わっていた。そして「二郎」と同じように、妻(前妻)を結核で亡くしているのだそうだ。
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『紅の豚』は、1992年7月18日に劇場公開された、スタジオジブリ制作・宮﨑駿監督による日本の長編アニメーション作品である。舞台は世界大恐慌に揺れるイタリア・アドリア海。自分自身に魔法をかけて豚の姿になったイタリア人・マルコが偽名「ポルコ・ロッソ」を使い、飛行艇を乗り回す空中海賊「空賊」たちを相手に、賞金稼ぎとして空中戦を繰り広げる。
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耳をすませば(耳すま)のネタバレ解説・考察まとめ
「耳をすませば」は、1995年に公開されたジブリ映画。原作者は柊あおいである。この映画は、ジブリ作品を作画で支えていた近藤善文の最初で最後の監督作品で脚本・絵コンテは宮崎駿が担当している。ストーリーは、主人公「月島雫」を中心に恋や夢、悩みなどを描いている。誰もが一度は経験したことがある甘酸っぱい青春ストーリーで未だに人気の高い作品だ。
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借りぐらしのアリエッティ(ジブリ映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『借りぐらしのアリエッティ』とはメアリー・ノートン著書の『床下の小人たち』を原作として、米林宏昌が監督のスタジオジブリ制作アニメーション映画である。最終興行収入は92億5000万円で2011年に日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞。とても美しい映像は劇中の音楽とよく合い、見ている人を夢中にさせた。人間に見られてはいけない小人が、人間の家で物を借りながらどのように隠れて暮らすのか、そして短い間に築かれていく小人であるアリエッティと少年の翔との友情と絆を描く。
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目次 - Contents
- 『風立ちぬ』の概要
- 『風立ちぬ』のあらすじ・ストーリー
- 堀越二郎の夢
- 運命的な出会いと別れ
- 夢の先へ
- 『風立ちぬ』の登場人物・キャラクター
- 堀越 二郎(ほりこし じろう)
- 里見 菜穂子(さとみ なおこ)
- 本庄(ほんじょう)
- 黒川(くろかわ)
- カストルプ
- 里見(さとみ)
- 二郎の母
- 堀越 加代(ほりこし かよ)
- 服部(はっとり)
- 黒川の妻
- カプローニ
- ユンカース
- 『風立ちぬ』に関連する飛行機・戦闘機
- 隼型試作戦闘機
- 九試単座戦闘機
- 九二式超重爆撃機
- 一三式艦上攻撃機
- 八試特殊偵察機
- 零式艦上戦闘機
- 鳳翔
- Ca.60
- Ca.36
- Ca.90
- Junkers F.13
- Junkers G.38
- 九六式陸上攻撃機
- ポリカルポフ I-16
- 実在の堀越二郎が設計した機体
- 七試艦上戦闘機
- 九六式艦上戦闘機
- 雷電
- 烈風
- YS-11
- 幻の零戦後継機「烈風改」
- 実在のジャンニ・カプローニが設計した機体
- Ca.48
- Ca.64
- 『風立ちぬ』の用語
- 結核
- 関東大震災
- 『風立ちぬ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 「Le vent se lève. Il faut tenter de vivre.」
- 朗読詩「風」
- 「また鯖か?たまには肉豆腐を食え!」
- シベリア
- 『風立ちぬ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 原作漫画『風立ちぬ』
- 小説『風立ちぬ』と堀辰雄
- 「堀越二郎」のモデルとなった人物
- 「里見菜穂子」のモデルとなった人物
- 庵野秀明が「堀越二郎」の声に選ばれた理由
- 瀧本美織が「里見菜穂子」の声に選ばれた理由
- 『風立ちぬ』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:荒井由実『ひこうき雲』