オッペンハイマー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『オッペンハイマー』とは、「原爆の父」と呼ばれた物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた2023年公開の映画である。第二次世界大戦中にマンハッタン計画の監督として原爆の作成を主導する姿や、冷戦時の赤狩りに巻き込まれ、最終的に彼自身が失脚するに至るまでの様子が描かれている。IMAXカメラで撮影された高解析度の映像に、緊張感のある迫り来るようなサウンドが加わっており、天才科学者の頭脳と心を五感で感じることが出来る作品である。
『オッペンハイマー』の概要
『オッペンハイマー』とは、2023年7月21日にアメリカで公開された、原爆作成の第一人者である物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの活躍と、その後の失脚について描いた映画である。日本では2024年3月29日に公開された。伝記『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』が原作で、監督は『インセプション』や『インターステラー』など数多くの有名作を生み出してきた、クリストファー・ノーランが務めた。主人公オッペンハイマー役を務めたキリアン・マーフィーは、ノーランが監督を務めた作品に数多く出演していることで有名である。オッペンハイマーを支える妻キティ役にエミリー・ブラント、オッペンハイマーをマンハッタン計画の監督に任命し、共に計画を進めていく米国陸軍将校のレズリー・グローブス役にマット・デイモン。そして、米国原子力委員会の委員長のルイス・ストローズ役にロバート・ダウニー・Jr.、オッペンハイマーのかつての恋人ジーン・タトロックをフローレンス・ピューが演じるなど、豪華な俳優陣が出演している。
本作品はカラー映像とモノクロ映像で構成されており、クリストファー・ノーラン作品ならではの時系列の行き来のある作品である。カラー映像ではオッペンハイマーを中心に、彼の学生時代やマンハッタン計画など、主に戦前の様子を描いている。モノクロ映像はストローズに焦点を当てており、戦後に行われたストローズを商務長官に指名するか否かの公聴会での出来事を中心に話は進んでいく。
また第96回アカデミー賞では、最多13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、作曲賞、撮影賞、編集賞の合計7部門を受賞した。更に、第81回ゴールデングローブ賞では5部門、第77回英国アカデミー賞では7部門を受賞した。世界で唯一原爆の被害を受けた日本でも、アンコール上映されるなど大きな話題を読んだ。
『オッペンハイマー』のあらすじ・ストーリー
学生時代~講師を始めるまで
1925年にハーバード大学を首席で卒業したJ・ロバート・オッペンハイマーは、イギリスのケンブリッジ大学に留学し実験物理学の勉強をしていた。しかし実験は上手くいかず、また自国を離れていたので不安を抱えホームシックになっていた。オッペンハイマーは、ケンブリッジ大学で講義をしていた物理学者のニールス・ボーアに師事しており、彼の講義をこっそり受けに行っていた。ボーアは、もっと自由に自分を抑える必要のない場所で勉強をした方が良いと奨めた。
1926年、ボーアの助言を受けドイツのゲッティンゲン大学で理論物理学を学び始め、物理学者のイジドール・イザーク・ラビと出会う。オッペンハイマーとラビは共にニューヨーク出身のため、意気投合した。後に、彼らは理論物理学者のヴェルナー・ハイゼンベルクと出会う。ハイゼンベルクは、オッペンハイマーにとって大きな影響のある人物であった。
ゲッティンゲン大学で博士号を取得後、米国に戻りカリフォルニア大学バークレー校で教壇に立ち始める。講義を始めた頃は生徒一人のみだったが、講義を進めていくうちに生徒で満席になる。
また、オッペンハイマーは、弟のフランクと弟の彼女と共に、共産党の集会に参加する。そこで共産党員のジーン・タトロックと出会い、恋仲になる。そしてフランクは共産党へ入党する。
後に、あるパーティーで共産党員のキティ・ピューニングと出会う。彼女は当時既婚者だったが、元夫と離婚しロバートと結婚することになる。二人の間に息子が生まれたが、キティは育児の大変さと孤独さからアルコール依存症になる。
1938年、ドイツでは、ウランの原子核に中性子を照射し、核分裂させた。また、翌年にはヒトラーがポーランドに侵攻する。
マンハッタン計画
1942年、オッペンハイマーは米国陸軍に所属するレズリー・グローブス将軍とケネス・ニコルズ中佐に出会う。二人は原子爆弾を開発するマンハッタン計画のディレクターとして、オッペンハイマーを採用した。マンハッタン計画の拠点をロスアラモスに構え、研究所の近くに小さな町を造った。
計画を進めていたところ、マンハッタン計画のメンバーの一人であるエドワード・テラーが、核爆発の連鎖反応により大気引火が起こり、地球丸ごと破滅する可能性がある事に気付く。調査を重ね、その可能性は「ほぼゼロ」であるという結論に至る。
1945年、ヒトラーが亡くなりドイツは降伏したが、原爆の開発は続いた。準備が整った後、トリニティ実験と呼ばれる核爆発のテストを行った。実験は成功し、爆発によりキノコ雲が出来た上に大きな衝撃が起きた。チームは成功を祝った。
トリニティ実験の成功を受け、ハリー・トルーマン大統領は、広島と長崎に原爆を投下する事を指示する。原爆の投下により、甚大な被害を受けた日本は降伏することとなった。オッペンハイマーは周りから称賛されるが、罪悪感に苛まれおり、支持者の前でスピーチをした際には、その場にいた全員が爆発により身体が焼け落ちていく姿が脳裏に浮かんだ。後にトルーマン大統領と面会し、大統領は初めての原爆の開発を祝ったが、オッペンハイマーは、原爆の被害は自分の責任であると伝えた。その言葉に対し大統領はオッペンハイマーを叱責した。
終戦後
数年後の上院聴聞会の頃、冷戦の影響で弟フランクや友人のシュヴァリエを含む、オッペンハイマーの周りの共産党支持者らは赤狩りにあっていた。原爆が与えた日本への被害に責任を感じていたオッペンハイマーは、原爆より強力な水爆の開発ではなく軍備管理プログラムの推進を進めようとしたが、大統領はそれを拒否した。当時米国原子力委員会の委員長だったルイス・ストローズは、アイソトープの輸出に対しての自身の意見を公の場でオッペンハイマーに否定されたことと、ソ連が核爆弾の爆発に成功した後にオッペンハイマーがソ連と交渉するよう薦めたことに対して憤りを感じていた。また、ストローズがオッペンハイマーに出会ったのは1947年のことだが、その際オッペンハイマーとアインシュタインが会話していたのを見ており、その時二人が自身を貶したと思っている。
1954年、オッペンハイマーの地位を崩落させたいと考えていたストローズは、秘密裏に工作し、オッペンハイマーがソ連のスパイであるという疑いをかけて聴聞会を開かせた。聴聞会は密室で行われ、ストローズが用意した人物が審査員だった為、不公平な聴聞会であった。
オッペンハイマー仲間達は共産主義者が多かった為、彼らとの繋がりを聞かれた。またオッペンハイマーの仲間達の証言も捻じ曲げられた。キティはこの聴聞会が行われている間も、夫であるオッペンハイマーを支えた。
聴聞会の結果、オッペンハイマーは米国に忠誠であると証明されたが、機密情報へのアクセス権は剥奪されてしまい、核政策への影響力は失われてしまった。
1959年、ストローズを商務長官に指名するか否かの公聴会が開かれた。マンハッタン計画にも携わった元技術者のデヴィッド・L・ヒルが、ストローズはオッペンハイマーに対して個人的な恨みや不満を持っており、オッペンハイマーを失脚させる行動をとっていたことを暴露する。結果ストローズの指名は否決され、ストローズは憤慨した。
1963年、オッペンハイマーは、当時のリンドン・B・ジョンソン大統領からエンリコフェルミ賞を授与される。
また最後の回想シーンでは、1947年にプリンストン高等研究所の池のほとりで、オッペンハイマーとアインシュタインが会話した内容が明らかになる。二人はストローズのことではなく、自分達が携わった科学の進歩について話し合っていた。アインシュタインは、オッペンハイマーに自分が作り上げた原爆と向き合う必要があると話した。そして、世間はオッペンハイマーと原爆を非難するだろうが、十分に罰を受けたらいずれオッペンハイマーを称賛するだろう。しかしそれは彼の為でなく、称賛する人達のためなのだ、と伝える。その後オッペンハイマーは、マンハッタン計画時にアインシュタインへ相談した核爆発の連鎖反応の話をし、連鎖反応はおそらく成功したとアインシュタインに伝える。それは核兵器を自分達が作り上げたことにより、世界中で核開発の連鎖反応が起きてしまったことを示唆している。その話を聞いたアインシュタインは愕然とし、近付いてきたストローズを無視し歩いて行ってしまうのであった。オッペンハイマーは、池に降り注ぐ雨を見ながら、世界中で核爆発が起き煙と炎に包まれる地球のビジョンを見る。そして、絶望した表情で映画は幕を閉じる。
『オッペンハイマー』の登場人物・キャラクター
主要人物
J・ロバート・オッペンハイマー(演:キリアン・マーフィー)
日本語吹替:内田夕夜
米物理学者。ハーバード大学を主席で卒業し、ゲッティンゲン大学で物理学の博士号を取った。カリフォルニア大学バークレー校で教授をした後、第二次世界大戦時は、ロスアラモス研究所でマンハッタン計画の監督として、原爆の作成に力を注いだ。
キティ・オッペンハイマー(演:エミリー・ブラント)
日本語吹替:園崎未恵
ドイツ系アメリカ人の生物学者で、オッペンハイマーの妻。
オッペンハイマーとの間に二人の子供に恵まれたが、育児の大変さと孤独から病み、アルコール依存症になる。
レズリー・グローブス(演:マット・デイモン)
日本語吹替:平田広明
アメリカ陸軍工兵隊の将校で、マンハッタン計画の責任者。
グローブスはカリフォルニア大学バークレー校でオッペンハイマーと出会った際、彼の知識の豊富さに魅了され、マンハッタン計画の監督としてオッペンハイマーを採用することになる。後にマンハッタン計画で共に原爆の開発を進める。
ルイス・ストローズ(演:ロバート・ダウニー・Jr.)
日本語吹替:山路和弘
慈善家。第二次世界大戦中は米国海軍の少将を務めていた。
第二次世界大戦後の1946年に発足したアメリカ原子力委員会の初期メンバーであり、1950年代には委員長も務めた。
冷戦初期は、ソ連より先立って核兵器の技術を進歩させることを重要視していた。また、水素爆弾の発展を強く支持していたので、水爆の開発に反対していたオッペンハイマーと対立することになる。
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目次 - Contents
- 『オッペンハイマー』の概要
- 『オッペンハイマー』のあらすじ・ストーリー
- 学生時代~講師を始めるまで
- マンハッタン計画
- 終戦後
- 『オッペンハイマー』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- J・ロバート・オッペンハイマー(演:キリアン・マーフィー)
- キティ・オッペンハイマー(演:エミリー・ブラント)
- レズリー・グローブス(演:マット・デイモン)
- ルイス・ストローズ(演:ロバート・ダウニー・Jr.)
- ジーン・タトロック(演:フローレンス・ピュー)
- マンハッタン計画参加者
- アーネスト・ローレンス(演:ジョシュ・ハートネット)
- デヴィッド・L・ヒル(演:ラミ・マレック)
- エドワード・テラー(演:ベニー・サフディ)
- イジドール・イザーク・ラビ(演:デヴィッド・クラムホルツ)
- ヴァネヴァー・ブッシュ(演:マシュー・モディーン)
- ジョヴァンニ・ロッシ・ロマニッツ (演:ジョシュ・ザッカーマン)
- ロバート・サーバー(演:マイケル・アンガラノ)
- ケネス・ベインブリッジ(演:ジョシュ・ペック)
- ハンス・ベーテ(演:グスタフ・スカルスガルド)
- セス・ネッダーマイヤー(演:デヴォン・ボスティック)
- リチャード・P・ファインマン(演:ジャック・クエイド)
- エドワード・コンドン(演:オーリー・ハースキヴィ)
- リチャード・トルマン(演:トム・ジェンキンス)
- ルース・トルマン(演:ルイーズ・ロンバード)
- クラウス・フックス(演:クリストファー・デナム)
- ドナルド・ホルニグ(演:デヴィッド・リスダール)
- フィリップ・モリソン(演:ハリソン・ギルバートソン)
- ルイス・ウォルター・アルヴァレズ(演:アレックス・ウルフ)
- ジョージ・キスチャコフスキー(演:トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ)
- エンリコ・フェルミ(演:ダニー・デフェラーリ)
- レオ・シラード(演:マテ・ハウマン)
- 科学者達
- ニールス・ボーア(演:ケネス・ブラナー)
- アルベルト・アインシュタイン(演:トム・コンティ)
- パトリック・ブラケット(演:ジェームズ・ダーシー)
- ヴェルナー・ハイゼンベルク(演:マティアス・シュヴァイクホファー)
- オッペンハイマーの家族・友人
- フランク・オッペンハイマー(演:ディラン・アーノルド)
- ジャッキー・オッペンハイマー(演:エマ・デュモン)
- ハーコン・シュヴァリエ(演:ジェファーソン・ホール)
- その他
- ボリス・パッシュ(演:ケイシー・アフレック)
- ウィリアム・L・ボーデン(演:デヴィッド・ダストマルチャン)
- ケネス・ニコルズ(演:デイン・デハーン)
- ロジャー・ロッブ(演:ジェイソン・クラーク)
- ストローズの補佐(演:オールデン・エアエンライク)
- 公聴会の弁護士(演:スコット・グライムス)
- ロイド・ギャリソン(演:メイコン・ブレア)
- ジョージ・エルテントン(演:ガイ・バーネット)
- ゴードン・グレイ(演:トニー・ゴールドウィン)
- クルト・ゲーデル(演:ジェームズ・アーバニアク)
- ジョン・パストーレ(演:ティム・ディケイ)
- ヘンリー・スティムソン(演:ジェームズ・レマー)
- ハリー・S・トルーマン(演:ゲイリー・オールドマン)
- 『オッペンハイマー』の用語
- オッペンハイマーが携わったマンハッタン計画
- マンハッタン計画
- トリニティ
- 冷戦時に度々使用された用語
- 共産主義
- 赤狩り
- 『オッペンハイマー』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- J・ロバート・オッペンハイマー「今や我は死なり、世界の破壊者なり」
- トリニティ実験の直前に、世界が崩壊する可能性について話すオッペンハイマーとグローブス
- 罪悪感に苛まれ幻覚に悩まされるオッペンハイマー
- 『オッペンハイマー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- ミーム「バーベンハイマー」が流行し悪ノリをしたバービー公式アカウントが謝罪
- アカデミー賞のスピーチで核兵器について触れたキリアン・マーフィー
- 米国での公開から約8ヶ月後に日本で公開
- 『オッペンハイマー』の主題歌・挿入歌
- 挿入歌:ルドウィグ・ゴランソン「Can You Hear The Music」