機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ(鉄オル)のネタバレ解説・考察まとめ

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』とは、2015年10月から2016年3月に第1期(第1話~第25話)、2016年10月から2017年4月に第2期(第26話~第50話)が放送されたアニメ作品。「機動戦士ガンダム」シリーズの一作である。
火星の民間警備会社に所属する少年の三日月・オーガスは、ガンダム・バルバトスに乗って戦うことになる。生き抜くために戦いを繰り広げる少年少女たちの成長や挫折といった人間ドラマが濃密に描かれている。

モビルスーツ同士の戦闘

ガンダムシリーズにおいて多く登場するのがビーム兵器である。
モビルスーツに標準的に装備されていることが多いビームライフルなどがその代表格である。

しかし今作品においては、ビーム兵器はほとんど登場しなかった。
唯一、登場したのは2期においてハシュマルが再起動してしまい、それによりハシュマルが対人にビームを放射した時のみである。

ビーム兵器と言うのは、殺傷能力が高く、またマップ兵器(広範囲にわたり攻撃をすることが可能)としての一面も備えている。
そのため端的に言えば、これ一つあれば、戦闘を簡単に終わらせることも可能になってしまうのである。

今作では、そのビーム兵器が対モビルスーツの戦闘には登場しなかった。
あくまでモビルスーツは、その機体やビーム兵器以外での戦闘を行い、その殴り合いのような武骨な、骨太な戦闘シーンは視聴者からも好評を博した。

なお今作放送前。キービジュアルには三日月が搭乗する機体、ガンダム・バルバトスの武器がメイスであることが明らかにされていた。
主人公機の武器がメイス、つまり鈍器であると言うことは話題となっていた。
そして1話の戦闘シーンにおいて、地面から突然、現れたかと思ったら、そのメイスで敵を叩き殴っていくと言う、まさに力任せでありながらどこかスタイリッシュさすら感じさせる戦闘シーンが繰り広げられた。

兵器としては強力であるビーム兵器を排除した結果、今作の戦闘シーンには今までにない緊迫感、スピード感、重量感が生まれ、またそれぞれのモビルスーツの個性が十二分に描かれたとも言える。

善悪の判断が付け辛い人間ドラマ

今作で繰り広げられる人間ドラマは、様々な登場人物の思惑をはらんで進行していく。
その中には単に善と悪では判断できない思いもあり、それが人間ドラマにより幅を持たせ、見る者の心を強く打つ。

たとえば鉄華団は、自分たちが生き残ると言う目的のために、多くの人命を奪っている。
しかし大人たちに搾取され続け、またギャラルホルンと言う圧倒的権威に蹂躙され続ける彼らは、戦う以外に、それに対抗する手段を知らない。
そしてそんなふうになってしまったのは、彼ら自身の責任と言うよりは、彼らが生まれついた時からそのような環境下に置かれてしまっていたからである。
また策略によって命を奪われてしまったタービンズ、その仇を討とうとする彼らの心情には、多くの者が理解を覚えるはずである。

一方で彼らに敵対するギャラルホルンは、正義の名のもとに彼らを蹂躙し続ける。
しかし正義の名のもとに何をやっても良いのかと言うと、決してそんなことはない。
またギャラルホルンの内部は腐敗しきっており、ラスタルでさえも自分の意のままに状況を押し進めるために、様々な、表立っては公表できないような手練手管を駆使している。たとえば革命軍との戦いにおいては、革命軍内に密偵を送り込みダインスレイブを撃たせた。そして敵側が先に撃ってきたのだから、と言う口実の下に、禁止兵器であるダインスレイブを撃ち返すと言う行動に出ている。こうした様は、正義から連想されるイメージとは程遠いものである。

こう考えると、単純にギャラルホルンが善、鉄華団が悪とも言い切れず、その逆も然りである。
その割り切りない感覚に見る者の心はかき乱されていく。
だからこそ今作のストーリーに対しては賛否両論が多く、それは放送終了後も渦巻いている状態である。

特に最終回に対してはその傾向が強い。
以下、視聴者の意見を引用しておく。

オルフェンズ。救いがあって良かった。それぞれの想いや願いは叶ったのかも知れないな。名作をありがとうございました。

出典: anicobin.ldblog.jp

鉄血最終話。鬱ENDというよりは、一発逆転の展開もなく徹底的に現実を突きつけて来る「ザ・現実はそう甘くないEND」だった。

出典: anicobin.ldblog.jp

生きてたら邪魔になったであろうイオク様とノブリスまで
勝手に死んでくれて、ラスタル様が完全勝利過ぎる

出典: anihatsu.com

結局生まれが全てだったという夢も希望もない話

出典: anihatsu.com

少年兵や児童労働という難しい問題を題材としているだけに、少年兵たちが自分たちの考えで良かれと思って行動しても現実は上手くいかず、犠牲者が出るたびに見ていて辛くなることもあったが、考えさせられる所があり、メカ描写は迫力があり、ラストはそれぞれに救いがあり、良い作品だったと思う。

出典: yabumi.blog107.fc2.com

ラスタルは『大衆ウケするには、多くの犠牲が必要だ!!』とか言って鉄華団を潰して
最後は報道規制してラインスレイブ乱射!
こんな腹黒い悪人が、善人ヅラの仮面を被って総統に成るとか胸クソ過ぎる!!
鉄華団に大団円のラストが無いのはフラグで
わかるが…本当に胸クソ悪いアニメだった!
評価を示すならマイナス100だわ。
(筆者注…ラインスレイブは、ダインスレイブのことだと思われる)

出典: zakuzaku911.com

いい感じに終わったけど、なんかモヤモヤするし、決して後味の良い作品ではないと思う。
それでも生き残った人達は皆それぞれ自分の居場所で頑張ってる姿を見れたのは嬉しかった。

出典: anicobin.ldblog.jp

戦うしか選択肢がなかったことが辛いけど、だからこそ生まれた家族であるということ。
命と引き換えになってしまったけど、その家族を守れたこと。

う~ん。とても悲しいけどハッピーエンドかな。
本人たちは自分のしたいことを貫いたんだから。
でもそもそもそんな世界じゃなければ戦わずに済んだのに。
でもそんな世界だからこそ生まれた家族であって…(ループ)
私はもうこの感情をどこへ消化させたらいいのかわからない。

出典: araota.com

結局、オルガ、三日月、マクギリスといった権力から虐げられた境遇の者たちが討たれ、平民とはいえまともな家のジュリエッタや良家の出のガエリオが生き残り、権力をほしいままにするラスタルが一人勝ち、という救いのないストーリー。近年、稀に見る駄作品でした。作者は、「悲惨な状況でも自分たちなりに進んでいく」という作品のテーマを表現するという」意図を持っていたのだというけれど、作中のオルガや、三日月の行動は若者が陶酔しやすい相手を殲滅することで活路を見出す戦争肯定、滅びの美学の肯定となっているし「悲惨な境遇のものが死に、権力に依る者が残り栄える」という、権力を賛美するだけの内容となっていてがっかりでした。

出典: gno.blog.jp

しかし三日月たちの「生きたい」という欲望が生んだ犠牲によって、世界が少しづつ良い方向に変わっていくのは「救いのあるバッドエンド」とでもいえるのではないでしょうか。

三日月の遺伝子は暁という子供に受け継がれ、オルガの「生きる、良い場所にたどり着く」という意思は生き残った鉄華団のメンバーたちに受け継がれています。

すべての黒幕であったラスタル・エリオンの手によって主人公側の目的が達成されようとしている、というのはかなり悔しい所もありますが、個人的には「世界ってそんなに甘くない」「それでも生きて自分の居場所を見つけて幸せになろう」ってメッセージが読み取れたと思います。

出典: space-tiger.hateblo.jp

ちなみに最終回の展開については、監督をつとめた長井と、脚本をつとめた岡田の間で意見が分かれたことも、放送終了後、小川プロデューサーがインタビュー内で明らかにしている。

長井は、鉄華団は仲間以外に対して酷いことを行ってきたのだから、その報いは受けるべきだろうと言う意見を持っていた。
そのため、クーデリアを含めて誰一人、鉄華団側の人間は生き残らない全滅エンドと言う可能性もあったそうだ。

しかし岡田が、視聴者に対してここまで鉄華団に感情移入させておいて、救いの一手もないまま終わるのはない、と意見した。
更に鉄華団が生きた証をちゃんと残してあげたい、と言う岡田の意見が採用される形で、最終回まで残り5話と言うところで話し合いが行われ、シナリオ補正が行われた結果、このような最終回になったと言う。
(参考:http://gundamseries.net/archives/sb5413.html

いずれにしても多くの視聴者が視聴を継続していなければ、そして物語がごく平凡な流れであったなら、これほど賛否両論が巻き起こることはなかった。
そう考えると賛否両論は、多くの人が視聴し、そしてその激流のような物語に心をかき乱された結果であるとも言える。

見る人、ひとりひとりの心に、いくつもの感情を残す作品。
それが今作品である。

2期のエンディングのワンシーン。
鉄華団がいちばん良かった頃の光景だと言われている。

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