007/カジノ・ロワイヤル(2006年の映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『007/カジノ・ロワイヤル』(原題: Casino Royale)とは、2006年公開のスパイアクション映画で、「ジェームズ・ボンド」シリーズの第21作目。ダニエル・クレイグが架空のMI6諜報員ジェームズ・ボンドを演じた最初の作品である。
マダガスカルで爆弾密造犯の監視をしていたボンドは、犯人の携帯電話に残されたメッセージから、黒幕の存在を知る。バハマに向かったボンドは、黒幕の武器商人・ディミトリオスらが企てる大型旅客機爆破テロを阻止すべく、奔走するのだった。

工場現場のパルクール

物語序盤で展開された、マダガスカルでの激しいチェイスシーンである。爆弾密造犯グループのモロカと、それを追跡するボンドが、互いの身体能力を駆使して建設中の鉄筋コンクリートの上を駆け抜けた。新ボンドであるクレイグへの不安と疑問を、このパルクールで一気に吹き飛ばした。

フランス発祥のパルクールは、走る・跳ぶ・登る等、移動しながら身体の鍛錬を行う、運動方法の一種である。リュック・ベッソンが脚本を担当した『TAXi2』等で使用されるなど、多くのアクション映画で取り入れられている。ちなみに、このアクションシーンの撮影には6週間を要した。

従来の洗練されたジェームズ・ボンド像とは異なり、汗と粉塵にまみれて強引に敵に迫る新ボンドの姿は、観客の目をくぎ付けにした。クレイグが、過酷なアクションに耐えうる強靭な肉体と精神を持つ事を証明した、爽快なシーンだったといえる。

フィリックス・ライター「ありがとう、兄弟」

ボンドがシッフルとのポーカーゲームに勝利し、「シッフルの身柄をCIAに渡すよ」と告げると、ライターは敬意と感謝を込めて、「ありがとう、兄弟」と伝えた。
わずかな時間の関わり合いでありながら、2人の間に確かな友情が生まれた瞬間である。
ライターは次作『007/慰めの報酬』にも登場し、陰ながらボンドへの協力を惜しまなかった。
2人はその後『007/ノー タイム トゥ ダイ』で邂逅し、ボンドは「僕の兄弟はフィリックス・ライターだけだ」と言い切ったのだ。

ヴェスパー・リンド「たとえあなたが全てを失い、残ったのが笑顔と小指だけだったとしても、私にとっては誰よりも立派な男よ」

ボンド(右)の愛を知り、涙を浮かべながら彼の心を受け入れるヴェスパー(左)。

湖畔の療養所にスイスの銀行員を呼び、ポーカーゲームの勝利金1億2000万ドルの送金手続きを行った後、ヴェスパーがボンドに告げた愛の言葉だ。口座のパスワードが「VESPER」と、自分の名前が使われている事を知ったヴェスパーは、ボンドが心から自分を信頼し、愛している事を実感したのだ。
「たとえあなたが全てを失い、残ったのが笑顔と小指だけだったとしても、私にとっては誰よりも立派な男よ」、ヴェスパーは優しくそう囁き、ボンドも「僕の小指の技を知りたいのか」と茶化しながらも、喜びを滲ませた。
だがヴェスパーは、シッフルの拷問で殺されそうになっていたボンドを救う為、ホワイトに金が渡るよう別の口座へ送金していたのだった。このヴェスパーの愛と裏切りは、次作『007/慰めの報酬』以降、ボンドの性格に深い影響を与えるエピソードなのだ。

ヴェスパー・リンド「ジェームズ、私を許して」

水の底に沈む寸前、ボンド(左)の手を一瞬だけ握るヴェスパー(右)。

ボンドは、ヴェスパーが自分を裏切り、ホワイトに渡す為に大金を引き出していた事を知り、その後を追っていた。
ヴェネツィアでの銃撃戦の最中、崩壊し始めた建物の中でヴェスパーを見つけたボンド。エレベーターに閉じ込められたヴェスパーは、「ジェームズ、私を許して」と小さく呟き、崩れたエレベーターと共に水面に落下した。
ボンドは潜水してヴェスパーを救おうとするが、彼女はボンドの手にそっと口づけしてから離すと、自ら水の底に沈んで溺死した。

ジェームズ・ボンド「ボンドだ。ジェームズ・ボンド」

イタリアの豪邸に帰宅したホワイトを待ち受け、その足を撃ち抜いたボンド。

本作品のラストシーンである。
歴代の名優たちが演じたジェームズ・ボンドと同様に、スーツ姿で銃を構え、「007」シリーズ定番のセリフを口にしたのだ。
往年の映画ファンに、「ジェームズ・ボンドが帰ってきた」とあらためて強く印象付けた場面である。

ホワイトは、ヴェスパーを利用してポーカーゲームの勝利金1億2000万ドルを横取りした挙句、彼女を死に追いやった男だ。
ボンドは容赦なく彼の足を撃った。そして痛みで苦しみ、逃げる術を失くしたホワイトに向けて、「ボンドだ。ジェームズ・ボンド」と名乗る。
ボンドの次なる任務は、ホワイトを生け捕りにし、名も知れない国際テロ組織の実態を暴き出す事だ。このラストシーンが、次作『007/慰めの報酬』の序章とつながっているのだ。

『007/カジノ・ロワイヤル 』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ボンドのスーツはイタリア製のブリオーニ

カジノロワイヤルのバーにて。ボンド(左)のスーツはヴェスパーが見立てたブリオーニ製だ。CIAのフィリックス・ライター(右)が、ボンドに接触する機会を伺っている。

『007/カジノ・ロワイヤル』においてボンドが着用しているスーツは、イタリア製のブリオーニである。イタリアでは最高評価を得た事もある、高級ブランドである。
1995年に公開されたピアース・ブロスナン主演の『007/ゴールデンアイ』からクレイグ初主演の本作品まで、5作品連続で採用された。カジノのシーンが多くタキシード姿のボンドが堪能できる他、ラストのホワイトを捕えようとするシーンも、ブリオーニ製のスーツを着用している。英国紳士としてのボンド像に良く合うブランドだったと、ファンからの評価も高い。

ヴェネツィアの建物崩壊シーンはスタジオのジオラマ撮影

ヴェネツィアにて、ボンドがホワイトの部下達と闘った末に建物が水没していくシーンがある。ボンドは敵を追い詰める為に、建物の浮袋を銃で破壊し、建物を崩壊させた。
ヴェネツィアは、沼地に大量に打ち込まれた杭の上に街が築かれており、その杭が腐ってくると街全体が沈んでしまう為、それぞれの建物が浮袋で支えられている。耐震構造の基準が非常に厳しい日本とは、異なる街づくりである。
このシーンは、実際にはロンドン西部のパインウッドスタジオで、本物を1/3に再現したセットで撮影された。

『007/カジノ・ロワイヤル 』の主題歌・挿入歌

主題歌:クリス・コーネル「You Know My Name」

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