機動戦士ガンダム 水星の魔女（G Witch）とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

ソフィたちの襲撃によって生じた余波は大きく、ニカは「裏切り者」としてレノアに制裁を受ける。一方シャディクは、ベネリットグループの利権の源である“地球圏で意図的に発生させている戦争”を、“抑止力としての兵器の必要性”に切り替えるという己の目的を捕らえたサリウスに明かしていた。
その頃グエルは、“いざという時の交換材料”として「フォルドの夜明け」に捕らえられていた。意図せず父を殺してしまったショックから、グエルは未だに立ち直れずにいた。

ベネリットグループもプラント・クエタの襲撃犯がアーシアンの武装組織である情報はすでにつかんでおり、報復のためにいくつもの部隊が地球に侵入。その前に新しい拠点へと脱出しようとするフォルドの夜明けだったが、完全に退避が終わる前にスペーシアン側の襲撃を受けることとなる。
フォルドの夜明けのMSが次々と撃破される中、戦闘の余波で拘束から逃れたグエルは、目の前で致命傷を負った幼いし幼女を助けようと奮闘。しかしその努力も虚しく、彼女は息を引き取る。生き残ったフォルドの夜明けの構成員から、「ジェターク社が危機的状況にある」という話を聞いたグエルは、自分と父とのつながりを示すものをもう失いたくないと考え、自らの意志で宇宙を目指す。

敗北と決別

アスティカシア高等専門学園への襲撃事件は、ベネリットグループにも大きな波紋を生んだ。デリングが意識不明のままで、サリウスも行方が分からない中、グループは新たな総帥を選出することを決定。シャディクはその候補者の1人として立候補する。地球を発ったグエルはこのタイミングで学園に戻り、ジェターク社の混乱を収拾するために動き出す。
同じ頃、学園にはミオリネが戻ってきていた。プラント・クエタで「人殺し」と罵ったことをスレッタに詫びるミオリネだったが、そのスレッタが「お母さんがやれと言ったことだから気にしていない」と笑顔を浮かべたことで逆に混乱する。スレッタが完全に母親の言いなりになっていることを理解したミオリネは、激昂してプロスペラに詰め寄るも、「人殺しはお互い様」と嘲笑される。かつてデリングが自分の夫や恩師、仲間たちを虐殺する指示を出したことを持ち出して、プロスペラはミオリネもまた罪の輪の中にいること、そこから逃れるためにもクワイエット・ゼロを進めるよう命じる。

「スレッタには幸せになってほしい、そのためにはプロスペラから引き離さないとダメだ」と考えたミオリネは、プロスペラの要求を飲んでクワイエット・ゼロを引き継ぐことを決意。それだけの事業を動かすために、ミオリネはベネリットグループの次期総裁を目指すこととなる。その代わりスレッタにはこれ以上手を出すなとプロスペラに釘を刺すミオリネだったが、彼女は「あと1つだけやってもらうことがある」との言葉を返す。
学園に戻ってきたグエルは、思い出したかのようにスレッタの前に足を運び、「好きだ」との本心を告白。ミオリネの婿であることを理由にスレッタがこれを断ると、この結果は分かっていたとばかりに小さく笑む。

このやり取りを聞いていたミオリネは、スレッタに「自分の誕生祝いを少し早くプレゼントすると思って、グエルと決闘してほしい」と言い出す。その真の狙いは総裁選のためにジェターク社を自分の後ろ盾につけることにあり、つまりは「グエルをホルダーに復帰させて自分の婚約者にして、ジェターク社が自分を援助する口実を作る」ための提案だった。戸惑いながらも「ミオリネのお願いなら」とスレッタは決闘を了承し、傾きかけていたジェターク社の再生のためグエルもこれを受け入れる。
かくして始まるスレッタのエアリアルとグエルのダリルバルデの決闘。その最中にエアリアルは突然機能を停止し、勝機を見出したグエルの一撃によりブレードアンテナを破壊されて敗北する。実はエアリアルの機能を遠隔で停止させたのはミオリネであり、スレッタは彼女の口から直接その事実と「あなたはもういらない」との言葉を聞かされて動揺し、慟哭する。

スレッタとエリクト

ベネリットグループの次期総裁を目指してグエルと共に味方集めに奔走するミオリネだったが、シャディク相手に劣勢を強いられる。一発逆転を狙って、ミオリネは悪化の一途を辿っていたアーシアンとの関係改善を画策。そのために最低限の護衛を付けた上で地球に降りることを決意する。株式会社ガンダムの主力製品としてエアリアル、そのパイロットとしてプロスペラもこれに同行する。
その出発が間近というタイミングでスレッタたちが会社を来訪。プロスペラは彼女をエアリアルに乗せるよう誘導し、そこで驚愕の事実を告げる。スレッタは、プロスペラの本当の娘であるエリクトのリプリチャイルド（クローン）であり、エアリアルの中に取り込まれたエリクトの記憶と人格を呼び覚ますための道具だというのだ。

プロスペラにとってスレッタはもはや用済みの道具ではあったが、家族として相応の愛情も抱いており、「これ以上自分の復讐には関わらず、学園で自分の幸せを見付けろ」と言って突き放す。母から見放され、宇宙空間を1人さまようスレッタは、あまりのことに現実を受け止め切れずただ大声で泣き続けるのだった。

地球と宇宙の溝

アーシアンとの関係改善のため、グエルと共に地球へと降りるミオリネ。しかしそこで彼女を待っていたのは、アーシアンとスペーシアンの間に横たわる果てしなく深い憎悪と不理解の溝だった。なんとかアーシアン側の代表を説得しようと試みるミオリネだったが、有益な結果は得られずに最初の会合は終わる。
その頃、グエルはかつて「フォルドの夜明け」に囚われていた頃に出会った少年と再会し、彼の何気ない言葉からここ数か月の間にベネリットグループとアスティカシア高等専門学園で起きた事件の黒幕がシャディクであることを知る。

部屋にこもって泣き続けていたスレッタが、地球寮の仲間たちの激励によって立ち直ろうとしていた頃、地球ではプロスペラがエリクト復活のための策謀をいよいよ本格的に動かし始めていた。地球側への示威目的で持ち込んだエアリアルを駆り、“地球側の舞台から攻撃された”風を装って反撃し、ミオリネとの話し合いのために集まった地球の人々を蹂躙したのだ。自分の選択の結果巻き起こったおぞましい惨劇と、より決定的な決裂を迎えるアーシアンとスペーシアンを見て、ミオリネは「私のせいだ」と呆然とつぶやく。
ミオリネたちの動きから、シャディクは「自分こそがここに至るまでのテロ事件の首謀者である」という事実を突き止められたことを悟り、先んじて動き出していた。シャディクを捕らえようと学園に急ぐグエルと彼の護衛部隊を仲間と共に急襲し、強引に幕を引こうと図ったのである。そこには、ミオリネに“アーシアンとスペーシアンの不和を決定的にした大罪人”という十字架を背負わせたグエルへの憎悪も含まれていた。

この時、シャディクは監禁して自分の監視下に置いていたニカ、ノレア、エラン5号を、もはや利用価値は無いと判断して解放。プロスペラの暗躍により地球で起きた虐殺事件をニュースで知ったノレアは、スペーシアンへの憎悪のあまりシャディクが保管していた自分のガンダムに乗り込んで学園を攻撃する。共に“ガンダムに振り回されて死んでいく”という立場であることから彼女に共感を感じていたエラン5号が必死になって制止するも、ノレアは駆け付けたMS部隊の攻撃によって命を落とす。
グエルとシャディクの戦いも、同じタイミングで決着していた。決闘用ではなく実戦仕様の機体で襲い掛かり、仲間との連携も駆使してグエルを苦しめたシャディクだったが、一瞬の勝機を逃さなかった彼に相打ちに持ち込まれる。かくしてシャディクは捕らえられるが、「自分の目論見が明るみに出たことで議会連合が動く、そうすればベネリットグループの力は自然と削がれる」と己の敗北も利用しようというしたたかさをグエルに見せつける。

少女たちの決意

シャディクの暗躍が表沙汰になったことで、ベネリットグループは窮地に立たされる。議会連合が圧力を強める中、ミオリネはグループを守るために奔走するが、優秀ではあってもまだ学生でしかない彼女にできることは限界があった。
この事態の直接的な引き金を引いたプロスペラは、いよいよクワイエット・ゼロを発動。エアリアルを制御中枢に使用した巨大な宇宙要塞を起動させ、パーメット・リンクを支配することであらゆる兵器を我が物として掌握する。今の時代、パーメット・リンクを使用しない機械などというものはこの世にほぼ存在しておらず、議会連合の大艦隊をも造作もなく葬る宇宙要塞の力に世間は震撼する。

その頃、スレッタはベルメリアの訪問を受けていた。かつてヴァナディース機関は、エアリアルの母体となったガンダムルブリスと同時期にもう1機別のガンダムを作り上げており、その機体ならエアリアルを止められる可能性があるというのだ。ノレアやエラン5号から得た情報で、ガンダムに乗るということがどれほど危険かを理解したニカが抗議の声を上げるも、スレッタは「プロスペラとエリクトを止めたい」という一心でその機体に、ガンダムキャリバーンに乗ることを承諾する。
密かに逃げ延びて地球寮の近くに潜伏していたエラン5号は、これを聞いて「自分も連れていけ」と話に割って入る。「死ぬのは御免」と言って逃げ回っていたエラン5号だったが、ノレアが生きた地球という場所を見てみたい、そのためなら多少の無茶もしてみようと考えるようになっていた。改めて自身がかつてスレッタと出会ったエラン4号とは別人であることを明かすと、エラン5号は彼女に「4号について知っていることを全て話す」と伝える。

プロスペラとエリクトを止めるため、スレッタたち地球寮の生徒たちはミオリネとの合流を目指す。ベネリットグループの本社コロニーでスレッタたちを出迎えたにグエルは、彼女を試すように決闘を行い、わざと負ける形でホルダーとしての地位とミオリネの婚約者という立場を返還する。
「自分の判断のせいで多くの人が死んだ」という事実に打ちひしがれていたミオリネだったが、あれだけ手酷く突き放したスレッタが自分で自分の問題を克服して再びやってきてくれたことで、落ち着いて己を顧みる。罪を犯したからこそ責任から逃げるわけにはいかないと決意したミオリネは、スレッタの手を取って立ち上がり、地球寮の面々と合流。クワイエット・ゼロ阻止のために動き出す。

魔女たちの対話

その頃、プロスペラはプラント・クエタに向けて宇宙要塞を侵攻させていた。そこに宇宙要塞の機能を完成させ、地球圏全体をパーメット・リンクで覆うために必要なユニットが存在するのだ。その圧倒的な攻撃力と防御力には議会連合の艦隊すらもが歯が立たず、ひたすら様子見に徹することしかできずにいた。
世界の破滅へのカウントダウンが迫る中、スレッタを乗せた船が戦場に到着。ガンダムキャリバーンで出撃したスレッタは、高レベルのデータストームに命を蝕まれながらも宇宙要塞の展開するパーメット・リンクの内部に突入。護衛のために展開していたMSを次々と撃破する。彼女が血路を開いたところで、ミオリネたちがパーメット・リンクを切った機体で宇宙要塞に突入し、その停止コードを打ち込もうというのが一行の計画だった。

スレッタの奮戦によって出来た敵陣の隙を突いて、ミオリネはエラン5号やベルメリアと共に宇宙要塞に潜入。侵入者を排除しようとする防衛装置を仲間たちに食い止めてもらい、宇宙要塞の基幹システムに接触する。しかし停止コードを打ち込もうとしたところでプロスペラに発見され、銃撃戦を繰り広げる。
スレッタはスレッタで、エリクトの駆るエアリアルを相手に翻弄されていた。自分を助けるためならプロスペラは決して止まらないことを理解しているエリクトは、スレッタが自身にとっても家族であることを認めつつ本気で撃墜しようとするが、その直前でミオリネたちの工作が完了。宇宙要塞は機能を停止し、無防備になったところで議会連合の艦隊によって外部からハッキングを受けて操作系統を乗っ取られ、プロスペラの野望はここに費える。

しかし、議会連合の上層部はより決定的で暴力的な事態の解決を目論んでいた。密かに開発していた大出力のレーザー砲で超長距離から宇宙要塞を狙撃し、完全に消滅させようというのだ。ベネリットグループを離れて議会連合に協力するようになっていたペイル社の面々も、この計画に加担していた。この無慈悲な一撃を察知したエリクトは、母と妹を守るために全ての力を尽くしてバリアを展開。なんとかレーザーを打ち消すも、エアリアルは破壊されてしまう。

目一杯の祝福

宇宙議会連合の目的は、ベネリットグループを解体してその資産を我が物とすることにあった。エリクトによってレーザー砲の第1射を防がれるも、宇宙議会連合は不都合な人間をまとめて消せるこの機会を逃さず、第2射の準備を進めていく。
地球寮の仲間たちの助けを得たスレッタは、キャリバーンと破壊されたエアリアルのシステムを連結させ、エリクトを目覚めさせようと試みる。この状況になってもなお命に代えてクワイエット・ゼロを実行しようとするプロスペラに対し、スレッタは「エリクトにも消えてほしくないし、お母さんにも死んでほしくない」との本心を打ち明ける。“母を死なせたくない”という想いはエリクトも同様で、彼女の意志によってキャリバーンはエアリアルのパーツと連結。さらなる力を得る。

データストームにさらされ続けたことで命尽きかけるスレッタだったが、エリクト同様にデータストームの中で情報の塊として存在していたエラン4号の助けを得て奮起。この場にあったGUNDシステムを搭載する全ての機体を遠隔で操作し、その共鳴によって疑似的なクワイエット・ゼロを発動。遥か彼方から自分たちを狙うレーザー砲と、全てのガンダムを消滅させる。合わせてミオリネが「ベネリットグループを解散し、その資産は地球の救済に充てる」旨を全世界に宣言し、これにより宇宙議会連合は介入の口実を喪失。事態は収束する。
3年後。罪を償い、釈放されたニカはかつての地球寮の仲間たちと再会。グエルがジェターク社の再建のために悪戦苦闘する中、シャディクは一連の罪を認めて服役し、生き永らえたエラン5号はノレアとの約束を果たすため地球で一人旅を続けていた。どういうわけかエリクトの意識はスレッタが贈り物として購入した人形付きのキーホルダーに宿り、ミオリネにあれこれと助言しては煙たがれる日々を送っていた。そのミオリネは元ベネリットグループ総裁として地球の復興事業を精力的に進めつつ、正式に結婚したスレッタや復讐から解放されたプロスペラと共に幸せに暮らすのだった。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の登場人物・キャラクター

PROLOGUE

エルノラ・サマヤ

CV：能登麻美子

ヴァナディース機関のテストパイロット。右腕はGUNDフォーマットのシステムを利用した義手になっており、その研究の第一人者であるカルドに感謝と敬意を抱いている。
ベネリットのMS部隊にラボを襲撃された際、娘を守るために彼女と共にガンダム・ルブリスに搭乗。恩人カルドを救えず、夫のナディムも犠牲にしながらも、からくも戦場からの脱出ら成功する。

ナディム・サマヤ

CV：土田大

ヴァナディース機関のラボに務めるスタッフで、エルノラの夫。優しく実直な性格の青年で、娘のエリクトのために資材の限られた小惑星帯の中でケーキを用意するなどかなりの子煩悩。
ベネリットのMS部隊がラボを襲撃してきた際、家族と仲間を守るために研究中のMSで出撃してこれに応戦。エルノラとエリクトがルブリスを起動させて戦域から脱出しようとしているのを見て取ると、彼女たちのために敵機に特攻して死亡する。その際、ちょうど4歳になった娘に最後に贈る言葉として、朦朧としながらも誕生日を祝う歌を歌い続けていた。

エリクト・サマヤ

CV：市ノ瀬加那

エルノラとナディムの娘。好奇心旺盛で天真爛漫、ガンダム・ルプリスのことは「父と母が作ったのだから自分の家族（妹）のようなもの」だと認識していた。
4歳の誕生日にベネリットのMS部隊にラボが襲撃され、母エルノラと共にルブリスに搭乗して脱出。この際今まで安定した形で起動させられなかったルブリスが、彼女をマスターとして認める形で起動しており、ガンダムとの適性が非常に高いことを示す。しかしその適性の高さとガンダムの兵器としての完成度の高さにより、わずか4歳にして人の命を殺めることとなった。

プロスペラによれば、エリクト自身の生体データは「エアリアルに取り込まれた」状態にある。スレッタとは外見がよく似ているが、これは彼女がエリクトの肉体のデータから作られたリプリチェイルドであるため。