cocoon(今日マチ子)のネタバレ解説・考察まとめ

『cocoon』とは、今日マチ子によって2009年3月から2010年5月にかけて秋田書店の『Eleganceイブ』に連載された戦争漫画である。単行本は2010年8月、文庫版は2015年4月に、それぞれ秋田書店より刊行された。
沖縄のひめゆり学徒隊から着想を得た戦争と少女の物語。女学校に通う少女・サンの視点から、刻一刻と悪化していく戦況と、その中を懸命に生きた少女たちの姿が描かれる。戦争の悲惨さと、その中でも失われない主人公の少女性の描写が見どころである。

『cocoon』の概要

『cocoon』とは、今日マチ子によって2009年5月号(3月26日発売)から2010年7月号(5月27日発売)にかけて秋田書店の『Eleganceイブ』に連載された戦争漫画である。同作家の「戦争3部作」の第1作にあたり(他の2作品は『アノネ、』『ぱらいそ』)、2013年には劇団「マームとジプシー」によって舞台化された。
単行本は2010年8月、文庫版は2015年4月に、それぞれ秋田書店より刊行され、各方面から称賛を浴びる話題作となった。2010年文化庁メディア芸術祭においては、審査員会からの推薦を受けた。
沖縄のひめゆり学徒隊から着想を得た戦争と少女の物語。女学校に通う少女・サンの視点から、刻一刻と悪化していく戦況と、その中を懸命に生きた少女たちの姿が描かれる。「新世代の叙情作家」と評される作者による、戦争の悲惨さと、その中でも失われない主人公の少女性の描写が見どころである。

『cocoon』のあらすじ・ストーリー

島の女学校に通うサンの日常

サンは島1番の女学校に通う少女。東京からの転校生・マユや、瓜二つの双子の姉妹・ユリとマリなどの級友と共に、戦争のための土木作業に明け暮れる日々を送っている。
戦況の悪化により学校では授業や部活も行われておらず、先日の空襲ではユリが背中に大火傷を負うなど、サンたちの日常生活には、戦争が暗い影を落としていたのだった。
マユはもともとサンたちと同じ島の出身で、「諸事情」により東京より戻って来た。島の名家の娘で背が高く整った顔立ちを持つマユは、学園の「王子様」として人気を集めており、サンはそんなマユの1番の親友であることを誇りに思っていた。
ある日の土木作業の休憩時間、マユはサンに、「雪って見たことある?」と質問する。ずっと暖かい島で育ったサンは雪を知らず、マユは「寒い日に息を吐くとそれが糸みたいにのびる。まるで蚕が糸を吐くみたいに」「雪の日はすっぽりと自分たちの繭の中にいるみたい」と話す。サンはその話から、自分たちのおしゃべりが糸になって、白い繭を作る様子を夢想する。
その日、寮でサンがマユたちと話していた時、またしても空襲が起こる。避難したガマの中で、サンは「私が蚕だったらこんな世界には出てこないだろう。ずっと繭の中にいるだろう」と考えるのだった。

看護隊として招集される女学生たち

戦況はさらに悪化し、サンたち女学生は看護隊として戦地に派遣されることになる。家族の許可を取るため学校の寮から一時帰宅したサンを迎えた母親は、「こんなご時世だしお国のためになるのなら応援しなくてはね」と娘を送り出すことを決める。満州にいる父と南の島にいる兄に報告することは叶わなかったが、「自分もお国の役に立てることをきっと喜んでくれる」とサンは晴れやかな気持ちだった。その夜、サンは母親に石鹸をねだった。石鹸の香りは、心を落ち着かせてくれるサンのお気に入りの香りだったのだ。
翌日、「勝利の日まで頑張ってくるね!」とサンは笑顔で実家を後にする。しかし、同郷の友人であるエツ子は、母との別れに号泣していた。泣きじゃくるエツ子と母親の様子を見たサンは、こっそり手のひらに残った石鹸の匂いをかいだ。
サンとエツ子は、学校への道を戻る。歓談しながら歩いていた2人だったが、「なんかにおう?」と足を止めた。そこには、爆撃を受けたまま放置された街並みが広がっていた。肉の焼けるにおい、溶けたガラスのにおい、セルと金属が混じったにおいの中を目を瞑って駆け抜けながら、ここでもサンは手のひらのにおいをかぐ。そして、「大丈夫。わたしの手は石鹸の香りに包まれているから」と自分自身に言い聞かせるのだった。

悪化する戦況とタマキとひなの死

サン(右)におまじないをかけるマユ(左)

サンたちが派遣された病院はガマを利用して作られており、看護婦2人と巡回してくる医師が1人、看護を担当する女子生徒が15人配置されていた。サンたち7人はその第1陣として病院に到着しており、サン・マユ・エツ子・ユリ・マリの他には、タマキとひながいた。タマキはおしゃれが大好きな美少女で、他の少女たちが忙しく働いている時でも鏡を眺めているなど、マイペースなところがあった。ひなは絵を描くのが得意なおとなしい少女だったが、もともと病弱だったため栄養失調に陥り、ほどなくガマの奥で休んでいることが多くなった。
最初の負傷兵が運ばれてくる直前、サンはマユに「わたし男の人がこわい!」と打ち明ける。サンは今まで家族以外の男性と関わる機会がなかったのだ。マユはサンに「おまじないをかけてあげる」と言って目を瞑らせる。そして、「ここには男の人なんていない。男の人はみんな白い影法師」「想像してみて。自分たちは雪空のような繭に守られていると」と語りかける。直後に搬送されてきた負傷兵たちは、サンの目には本当に白い影法師のように映るのだった。
次々と運び込まれる兵隊たちの看護のために、少女たちは懸命に働いた。掃除などをさぼりがちだったタマキは、切断した兵隊の脚を外に捨ててくるように命じられ、思わず嘔吐する。またサンとマユは、病院壕から離れた場所で煮炊きされた食事を取りにいく「飯上げ」に従事していた。いつ被弾するかもわからない命懸けの任務だったが、サンは「やっとお国のために仕事してるって感じ!」と明るさを失わなかった。
しかし夏が近づくにつれて、戦況は悪化の一途を辿っていた。ある日、病院壕の入り口が砲弾によって攻撃され、患者受付としてその場にいたタマキが命を落とす。はらわたを周囲に撒き散らしているタマキの姿は、直視できないほど凄惨なものだった。サンとマユはタマキの亡骸を抱え、死体置き場へと向かう。その際にひなの前を通ったが、栄養失調で衰弱したひなはすでに視力を失い、2人が通り過ぎたことにもタマキの死にも気が付かなかった。サンは「ひなちゃんは幸せだ。この現実を見ないですむのだから」と考える。視力を失ってもひたすらに手帳に絵を描き続けていたひなだったが、それからまもなく、壕の奥でひっそりと息を引き取った。

看護隊の解散と減っていく仲間たち

過酷な日々の中で、少女たちの精神は限界に近づいていた。ユリは死体を運んでいる最中に「疲れて体が動かない。お国の役に立てない」と泣き、サンは極度の睡眠不足の中で、マユのことを自分の母と見間違えてしまう。死ぬ直前の兵隊に「お母さん」と呼びかけられたことがあったサンは、自分が兵隊たちと同じ状況まで追い詰められていることを思い知らされ愕然とするのだった。
ある日少女たちは、軍からの命令で看護隊は解散となり、夜明け前にはガマを退去するようにという命令が下されたと知らされる。戦況の悪化を見込んだ軍が、病院壕を基地として占有するための措置だった。ガマの外は砲弾の音が響き、少女たちは「こんな時に外に出たら死んじゃうよ!」「なんで急にこんな命令を…」とパニックになる。しかし軍の命令に逆らうことはできず、少女たちは恐怖を紛らわせるため、出発の直前まで歌を歌っていた。サンは、その歌声が糸となって白い繭を作り、自分たちを守ってくれる様子を想像するのだった。
翌朝、砲弾が降り注ぐ中をサン・マユ・エツ子・ユリ・マリの5人は出発した。しかし途中でエツ子が脚に被弾し、マユがエツ子を背負っての逃亡となる。5人は隠れ場所にしようとガマに入るが、中では負傷して動けなくなった重症患者たちが、甘いミルクに見せかけた毒で殺されていた。
エツ子は脚の傷にうじ虫がわき、高熱にうなされていた。エツ子を休ませるためにしばらく隠れていようとするが、火炎放射器を持った敵兵が近づいてきて、逃亡を余儀なくされる。足の傷の痛みと、自分が仲間の足でまといになっている状況に絶望したエツ子は、「もう頑張れない。…だめな子で…お母さんごめんなさい」と言い残し、手近にあった岩で自身の頭を殴り、自決する。衝撃を受けたサンたちだったが、逃げ延びるためにはエツ子を置いていくしかなかった。
ここまで一緒に逃げ延びてきたユリとマリも、痩せ細って衰弱していた。水を飲みに行ったサンとマユが2人のもとに戻ると、2人はカラスから奪ったウージ(さとうきび)を貪っていた。2人の落ち窪んだ虚ろな目を見たサンは愕然として立ち尽くす。その夜マリはサンに、「ユリと2人で食べちゃってすみませんでした」と謝罪する。「ウージ…とてもおいしかったです。今まで食べた物のなかでいちばん」と語ったマリだったが、翌朝サンが目を覚ますと、ユリもマリも息絶えていた。

襲われたサンと自決する少女たち

深夜、水を飲むために1人水辺に降りて行ったサンは、突然後ろから白い影に羽交い締めにされる。「寒いよ寒いよ」と言いながらサンにのしかかってきたその人物により、サンは服と靴を脱がされてしまう。そこにマユが駆けつけ、サンはなんとか逃げることができたが、頭に血が上ったマユは、その人物を絞め殺してしまう。その際にその人物は、「おまえ…女じゃな…」という言葉を残した。
駆けつけてきたマユに、サンは「私たちの兵隊さんだった!」「男の人なんて大嫌い!!」と訴える。マユは狼狽えているサンを抱き締め、「男なんていない。みんな白い影法師なんだ」といつの日かのおまじないを繰り返す。
ユリとマリを喪ったサンとマユは、2人だけで逃亡を続けていた。サンは途中で何度も挫けそうになるが、その度にマユが手を引き、助けてくれるのだった。
逃亡の最中、サンとマユはかつての級友たちと再会する。お互いの生存を喜んだのも束の間、級友たちは手榴弾で集団自決することを決意していた。すでに近くに敵が上陸しており、鬼畜に純潔を奪われるくらいなら死んで誇りを守るという彼女たちを見て、サンの脳裏には味方の兵士に襲われた瞬間が蘇る。自分はもはや「きれいな体」ではないと悟ったサンは、「わたしにはここで死ぬ資格はないんだ」とその場から駆け出す。その背後で手榴弾が爆発し、花火のように少女たちが飛び散っていた。
逃げ出したサンにマユが追いついてくる。マユは、「蚕は手榴弾なんか使わないんだ。自分で繭を守るんだ」「繭を破って孵化するんだ。絶対に学校に戻るために」とサンを鼓舞する。サンの目には力が戻り、2人は再び駆け出した。

マユとの別れと戦争の終わり

手を繋いだ2人は、夜の浜辺を駆け抜けていた。至る所に集団自決の跡があり、それはまるで花火の跡のようだった。思わず死体を見つめてしまったサンに、マユは「前だけ見ろ!」と檄を飛ばす。しかし、そんなマユの体に、銃弾が命中した。負傷したマユを庇い、なんとか岩影に身を潜めたサンだったが、「デッテコイ、デッテコイ」という投降を呼びかける敵兵の声が聞こえていた。怯えるサンに、マユが声をかける。「嫌いにならないでほしい。人を殺した。我慢ならなかった。サンがあんなやつにーーー」と声を振り絞るマユを見て、サンは少しでもマユが楽になるようにと服を脱がせようとする。そんなサンに「好きだよ。ずっと一緒にいたいよ」と想いを告げたマユは、「おまじないしてくれないか」と懇願する。「わたしたちは想像の繭に守られている。誰もこの繭を壊すことはできない」といういつものおまじないを繰り返すマユの服を脱がせたサンは、マユが少女ではなかったことに気がつき、愕然としていた。そんな彼女のことを、敵の兵士たちが取り囲んでいた。
それからひと月が経過し、サンは収容所で暮らしていた。捕虜として働きながらも、心優しい若者と親しくなり年上の女性たちから見守られるなど、これまでには考えられなかったような穏やかな生活を送っていた。また、これまで白い影法師としか映らなかった男性たちの姿が、ここでは鮮明に見えるようになっていた。
ある日、母親が収容所に迎えに来て、サンは自宅に戻れることになる。サンを抱き締めた母親からは、石鹸の匂いがした。帰宅途中、サンの家族は皆無事だったことが母親から知らされる。「学校のおともだちは残念だったわね…」とマユたちを悼む母親に、サンは「うん…でも戦争だったから…」と返した。
サンは戦争で亡くなった仲間たちのことを思い返す。その中には、少年にしか見えない上半身を晒した、亡骸になったマユの姿もあった。「繭が壊れてわたしは羽化した。羽があっても飛ぶことはできない。だからーーー生きていくことにした」という決意と共に、サンは力強く一歩を踏み出した。

『cocoon』の登場人物・キャラクター

主要キャラクター

サン

島で1番の女学校に通う少女。戦況の悪化に伴い、女学校の仲間たちと共に看護隊として戦地に派遣されることとなる。父と兄は戦地に赴いており、自分もお国の役に立てることを嬉しく思っていた。男性に対して恐怖心を抱いているが、親友のマユの「ここに男の人なんかいない。男の人は影法師」という言葉により、男性を白い影と思い込むことで現実と折り合いをつけるようになる。

マユ

サンが通う女学校に東京からやってきた転校生。背が高く、整った顔立ちをしていて、後輩女子たちからは憧れの対象として見られている。
悲惨な状況の中でサンの精神を守るため、「ここに男の人なんかいない。男の人は影法師」というおまじないの言葉をかける。しかしある時、味方の軍の兵士がサンに襲いかかっているのを見て、思わず絞め殺してしまう。
女学校に通っているが実は少年であり、作者の今日マチ子は、「新聞で読んだ、戦争で徴兵されることを免れるために女の子として育てられた少年の話をもとにしています」と語っている。

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