007/慰めの報酬(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『007/慰めの報酬』(原題: Quantum of Solace)とは、2008年公開のスパイアクション映画で、「ジェームズ・ボンド」シリーズの第22作品目。ダニエル・クレイグが架空のMI6諜報員ジェームズ・ボンドを演じる2作目の作品である。興行収入は全世界で5億8900万ドルを記録した。
謎の組織の幹部、ミスター・ホワイトを捕えたボンドは、上司のMの元にホワイトを連行した。だが仲間内の裏切りに遭い、ホワイトを逃してしまう。新たな手掛かりをもとに、ボンドはハイチでのミッションに挑むのだった。

ルネ・マティス「ヴェスパーを許してやれ。そして自分自身も許すんだ」

ボリビアにて。汚職警官に撃たれ、瀕死のマティス(左)を抱きかかえるボンド(右)。

ボリビアに同行したマティスは、協力者であったはずのカルロスに裏切られ、路上で汚職警官に撃たれた。「僕が守っていれば」と悔やむボンドに、こう声を掛ける。「ヴェスパーを許してやれ。そして自分自身も許すんだ。」。
ヴェスパーはかつてボンドが初めて愛し、その為に007を辞めても良いとさえ思った女性だ。しかしヴェスパーはクァンタムのスパイであり、ボンドを裏切った末にヴェネツィアで自ら命を絶ったのだ。
マティス自身も、ボンドの誤解で拷問を受けた過去を水に流し、またヴェスパーの苦境も理解していたからこその台詞である。絶命したマティスの遺体を、名残惜し気に見つめるボンドだが、冷たい路上に放置する事を避けるように、友の体をごみ収集場の上に乗せたのだった。
この、「ヴェスパーを許して」という台詞は、ヴェスパー自身の最期の言葉であり、ボンドの上司Mから、また後の作品『007/No Time To Die』に登場するマドレーヌ・スワンからも掛けられる言葉だ。裏を返せば、いかにボンドがヴェスパーに囚われていたかが分かる台詞である。

カミーユ・モンテス「あなたを自由にしてあげたい。でも地獄はこの中」

ボンド(右)と共に戦ったカミーユ(左)。この後、キスをして車を降り、別れを告げた。

カミーユは、自分の家族をなぶり殺しにしたメドラーノへの復讐を果たした。ともに戦ってくれたボンドを優しく気遣い、「あなたを自由にしてあげたい。でも地獄はこの中」と彼の頬を撫でると、彼にキスをし、車を降りて別れを告げたのだった。
「ジェームズ・ボンド」シリーズで、主要キャストのボンドガールがボンドと寝なかったのは、初めての事である。

ジェームズ・ボンド「あなたは正しかった」

ヴェスパーの恋人ユーセフの身柄をM(右)に引き渡したボンド(左)は、グリーンが死んだ事を聞かされる。

雪が舞うロシアのカザフにて、ヴェスパーの恋人をMI6に引き渡した後、ボンドはMに「あなたは正しかった」と言った。何の話かと訝しがるMに、ボンドは「ヴェスパーの事です」とつぶやく。
ボンドは、ヴェスパーが自分を裏切り、自殺した事で苦しんできた。だが、ヴェスパー自身も恋人に騙され、利用された挙句にクァンタムの魔の手に落ちて死んだのだ。ボンドは静かに留飲を下げ、復讐を止めようとしたMの意図を理解して、こう言ったのだ。
ヴェスパーの恋人を逮捕したのは、クァンタムの情報を引き出す為だ。復讐の念に流されず、その職務を冷静に果たしたボンドは、この瞬間に本物の007となったと言えるだろう。

『007/慰めの報酬』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ほぼノースタントのアクションシーン

イタリアにて、ホワイトをMの元に連行する為にアストンマーティンを操るボンド。敵の銃撃を受けて、車のドアが外れた直後のシーン。

「ジェームズ・ボンド」シリーズといえば、派手なアクションシーンが売りのひとつ。一部のカーチェイスシーンを除いて、その殆どが主演のクレイグ自身が演じたものである。
危険と隣り合わせの激しいアクションシーンを、スタントマンを極力使わずに俳優自身が演じるのは、「ジェームズ・ボンド」シリーズでは通例である。それらの緊迫感が生み出すリアリティーが、作品により一層の臨場感を与えているのだ。

カミーユのイブニングドレスはプラダ製

グリーンの資金パーティにて。離れた所からグリーンの様子を伺っているカミーユ。

カミーユが、グリーンの資金パーティに現れた時に着用していた黒いドレスは、イタリアの高級ブランド、プラダである。ボンドが着用するスーツ、トムフォードとつり合いの取れた高級なドレスを、という事で選ばれた。シンプルだが、綺麗な彼女の肌に良く似合うドレスだ。
ちなみにカミーユを演じたオルガ・キュリレンコは、ウクライナ出身の女優。カミーユはロシア人とボリビア人の混血という設定なので、役作りの為に日焼けで肌を小麦色にしたという。従来のボンドガールとは違って性的魅力は抑え気味だが、ボンドと共に闘うカミーユは、クレイグ版の「ジェームズ・ボンド」シリーズの中では特に人気の高い女性キャラクターである。

ダニエル・クレイグのシークレットブーツ

「ティエラ計画」をその目で確かめた後、砂漠の中を道路を目指して歩くカミーユ(左)とボンド(右)。並んで歩くと、身長差があまり無い事が分かる。

主演のクレイグの身長は、178cmである。『007/カジノ・ロワイヤル』にてジェームズ・ボンド役に起用された当初、「ジェームズ・ボンドなのに背が低い」という批判を受けた事があった。
これは、初代ジェームズ・ボンドのショーン・コネリーを始め、歴代の主演俳優達が180cm超の高身長であった為だ。178cmは、日本人の平均身長から見ると十分に背が高いと思えるが、競演する敵役や、ボンドガール達も長身である事が多く、バランスを取る為にシークレットブーツ(シークレットヒールとも呼ぶ)を履いている事があったという。これは、本作のボンドガールであったジェマ・アータートンが後に暴露した事である。もっともクレイグ自身は、その事を特に気にしてはいないが、劇中でマティスに「薬なら何でもあるぞ。睡眠薬とか、背を伸ばす薬とか」などとからかわれるシーンがあった。

『007/慰めの報酬』の主題歌・挿入歌

主題歌:アリシア・キーズ&ジャック・ホワイト「アナザー・ウェイ・トゥ・ダイ」

1oKaname_Sound
1oKaname_Sound
@1oKaname_Sound

Related Articles関連記事

007/カジノ・ロワイヤル(2006年の映画)のネタバレ解説・考察まとめ

007/カジノ・ロワイヤル(2006年の映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『007/カジノ・ロワイヤル』(原題: Casino Royale)とは、2006年公開のスパイアクション映画で、「ジェームズ・ボンド」シリーズの第21作目。ダニエル・クレイグが架空のMI6諜報員ジェームズ・ボンドを演じた最初の作品である。 マダガスカルで爆弾密造犯の監視をしていたボンドは、犯人の携帯電話に残されたメッセージから、黒幕の存在を知る。バハマに向かったボンドは、黒幕の武器商人・ディミトリオスらが企てる大型旅客機爆破テロを阻止すべく、奔走するのだった。

Read Article

007 スカイフォール(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

007 スカイフォール(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『007/スカイフォール』(原題: 『Skyfall』)とは、2012年公開のスパイアクション映画で、「ジェームズ・ボンド」シリーズの第23作目。ダニエル・クレイグがMI6諜報員ジェームズ・ボンドを演じる3作目の作品である。全世界での興行収入は約11億ドル。 ボンドはトルコでのミッション中に、女性エージェントの誤射により渓谷に落下し、行方不明となっていた。数か月後、MI6本部が何者かに爆破された。その一報を目にしたボンドはロンドンに戻り、007への復帰テストに臨むのだった。

Read Article

007 スペクター(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

007 スペクター(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『007 スペクター』(原題: 『Spectre』)とは2015年公開のスパイアクション映画で、「ジェームズ・ボンド」シリーズの第24作品目。ダニエル・クレイグがMI6諜報員ジェームズ・ボンドを演じる4作目の作品である。全世界での興行収入は約8億8000万ドル。前作『007 スカイフォール』(原題: 『Skyfall』)に次ぐシリーズ2位の興行成績を収めた。ボンドはメキシコで、ある組織の殺し屋スキアラを追っていた。ボンドの出生の秘密と極秘組織の正体に迫る、シリーズの中でも異彩を放つ名作だ。

Read Article

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』とは、シリーズ第25作目にあたる2021年のスパイ・アクション映画。主演のダニエル・クレイグは、本作を以てジェームズ・ボンド役を引退した。テロなどを陰で操る秘密組織・スペクターとの闘いを終え、00エージェントを退いたジェームズ・ボンドは、ジャマイカで平穏な日々を過ごしていた。ある日、CIAの旧友フィリックス・ライターから助けを求められ、誘拐された科学者の救出任務を引き受ける事になる。凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うボンドに、最大の危機が迫る。

Read Article

スパイダーマンの歴代スーツまとめ

スパイダーマンの歴代スーツまとめ

『スパイダーマン』とは、MARVEL COMICS発祥のアメコミヒーローである。 スパイダーマンは、スパイダースーツを着用してヴィランたちと戦いを繰り広げる。これまでスパイダーマンは『サム・ライミ版スパイダーマン』『アメイジング・スパイダーマン』『MCUスパイダーマン』の3つのシリーズで映画化されてきた。シリーズによってスパイダースーツの形状や能力が異なっている。

Read Article

グランド・ブダペスト・ホテル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

グランド・ブダペスト・ホテル(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『グランド・ブダペスト・ホテル』は、ウェス・アンダーソン監督、レイフ・ファインズ主演で製作された。ズブロフカ共和国にあるグランド・ブダペスト・ホテルが物語の舞台である。コンシェルジのグスタヴと部下のムスタファを主人公に、常連客をめぐる殺人事件と遺産争いに巻き込まれた二人が、ホテルの威信のためにヨーロッパ中を駆け巡り事件解明に奔走する。本作は1930年代、1960年代、1985年、現在と4つの時間軸で展開されていく。

Read Article

イコライザー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

イコライザー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『イコライザー』とは2014年に製作されたアメリカ映画で、1980年代にアメリカで放送されたテレビドラマ『ザ・シークレット・ハンター』の初の劇場版である。普段はホームセンターで働く主人公のロバート・マッコールは元CIAのエージェントで、偶然知り合った娼婦を救うためにロシアン・マフィアと戦いを挑むサスペンスアクション。監督はアントワン・フークアが務め、主人公をデンゼル・ワシントンが演じ、マートン・ソーカス、クロエ・グレース・モレッツらが共演した。

Read Article

アメイジング・スパイダーマン2(マーク・ウェブ版)のネタバレ解説・考察まとめ

アメイジング・スパイダーマン2(マーク・ウェブ版)のネタバレ解説・考察まとめ

「アメイジング・スパイダーマン2」は、映画「スパイダーマン」のリブート(再始動)作品。 恋人「グウェン」を危険にさらさないという、彼女の亡き父との約束に悩む「スパイダーマン」こと「ピーター」は、両親の死に繋がる大きな陰謀に巻き込まれ、運命に翻弄されていく。

Read Article

アメイジング・スパイダーマン(マーク・ウェブ版)のネタバレ解説・考察まとめ

アメイジング・スパイダーマン(マーク・ウェブ版)のネタバレ解説・考察まとめ

「アメイジング・スパイダーマン」は、映画「スパイダーマン」のリブート(再始動)作品。 幼いころ両親を亡くした青年「ピーター」は、ある時遺伝子操作された蜘蛛に噛まれ超人的な力を身につける。両親の死の真相を知るため、伯父を殺した犯人を探し出すため、彼は「スパイダーマン」となった。

Read Article

私がクマにキレた理由(The Nanny Diaries)のネタバレ解説・考察まとめ

私がクマにキレた理由(The Nanny Diaries)のネタバレ解説・考察まとめ

『私がクマにキレた理由』とは、ベストセラー小説である『ティファニーで子育てを』を原作とした2007年のアメリカ映画。小説版では続編もある。人気ハリウッド俳優のスカーレット・ヨハンソンが主役を務める。就職活動がうまくいかず、なりゆきで上流階級家族のナニー(子守)になってしまったアニーはその家族に振り回される。自分のなりたいものも分からなかったアニーは、子守を通して目標を考えていく。

Read Article

ストレンジャー・シングス 未知の世界(ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

ストレンジャー・シングス 未知の世界(ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』とは、Netfixで配信されているSFホラードラマシリーズ。 アメリカ・インディアナ州の町ホーキンスに超能力を持つ少女・イレブンが現れ、平凡な町が超常現象に見舞わていく様子が描かれている。エミー賞やゴールデングローブ賞ではドラマ部門の作品賞にノミネートされ、世界的な成功をおさめた。80年代のアメリカを舞台としているが、エッジの効いた作風で注目を集め、さまざまなブランドから関連商品が発売されるなど2010年代のポップ・カルチャーを代表する作品となった。

Read Article

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』とは、2019年にアメリカで制作されたミステリー映画である。世界的なミステリー作家のハーラン・スロンビーの85歳の誕生日パーティーが開かれた。しかし、その翌朝ハーランは遺体となって見つかる。正体不明の誰かに雇われた探偵のブノワ・ブランは、パーティーに参加していた人間全員を疑っていた。『007』シリーズのダニエル・クレイグや『アベンジャーズ』シリーズのクリス・エヴァンスら豪華キャストが出演し、緊張感ありつつも、それぞれの思惑などをコミカルに描いている。

Read Article

THE BATMAN-ザ・バットマン-(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

THE BATMAN-ザ・バットマン-(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(原題:The Batman)とは、2022年公開のアメリカ合衆国のスーパーヒーロー映画である。全世界の興行収入は830億円を突破した。幼い頃、両親を殺害されたブルース・ウェイン(ロバート・パティンソン)は、バットマンとしてゴッサム・シティの凶悪犯と戦い続ける孤独な青年だ。ある日、街の権力者を標的にした連続殺人事件が発生する。現場には、犯人からの謎めいたメッセージが残されていた。ウェイン家の秘密がブルースを狂気に駆り立てる、サスペンス・アクションである。

Read Article

キングスマン:ファースト・エージェント(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

キングスマン:ファースト・エージェント(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『キングスマン:ファースト・エージェント』とは2021年公開の米・英合作のスタイリッシュアクションスパイ映画。監督はマシュー・ヴォーン。本作ではレイフ・ファインズ演じるオーランド・オックスフォード公を中心として、第一次世界大戦時代の英国を舞台に「キングスマン」誕生のエピソードを展開する。 平和主義の英国貴族である主人公が大戦の最中、スパイとして世界の平穏を守ろうとする物語。レトロでありながらハイセンスな劇中ファッションや超過激スパイアクションが魅力の一作。

Read Article

歴代の美女が勢ぞろい!007シリーズの「ボンドガール」名鑑!

歴代の美女が勢ぞろい!007シリーズの「ボンドガール」名鑑!

英国秘密情報部のエージェント「ジェームズ・ボンド」の活躍を描いた長寿映画『007』シリーズ。各国スパイによる手に汗握る情報戦に加えて、毎回入れ替わる形で表れてはジェームズのパートナーとして活躍するヒロイン、通称「ボンドガール」の存在も見所である。 ここでは、歴代の007シリーズに登場したボンドガールたちを紹介する。

Read Article

【007シリーズ】シブすぎる!歴代ジェームズ・ボンドを演じた俳優まとめ【ショーン・コネリー】

【007シリーズ】シブすぎる!歴代ジェームズ・ボンドを演じた俳優まとめ【ショーン・コネリー】

日本では「007シリーズ」として知られる『ジェームズ・ボンド』の作品群。1962年に第1作が公開されて以来、2022年までに25作品が生み出されてきました。最初の公開から四半世紀以上という年月を経ているわけですから、映画のキャスト陣も当然変わります。この記事では、歴代ジェームズ・ボンドを務めた俳優についてまとめました。どの方もシブすぎて、溜息が出るほどカッコイイですね!

Read Article

『007シリーズ』の雑学・トリビア・都市伝説まとめ!ボンドには結婚歴があった!

『007シリーズ』の雑学・トリビア・都市伝説まとめ!ボンドには結婚歴があった!

『007』シリーズにまつわる都市伝説や豆知識、裏設定などをまとめました。シリーズ第1作目のイギリス初公開日にちなみ、10月5日はジェームズ・ボンドの日に制定されているというトリビアや、ボンドには結婚歴があったという設定、名監督のスティーブン・スピルバーグやクエンティン・タランティーノが映画を撮りたがっていたという噂を載せています。読み始めたら止まらない、興味深い情報が満載です。

Read Article

目次 - Contents