イチケイのカラス(漫画・ドラマ・映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『イチケイのカラス』とは、浅見理都(あさみりと)による裁判官を主人公とした日本のリーガル漫画。『モーニング』で2018年から連載された。主人公・坂間は、武蔵野地方裁判所第一刑事部、通称「イチケイ」に配属される。そこで型破りな判事・入間みちおに出会う。入間は「ただ裁判官は判決を下すのみ」と思っている坂間とは違い、実際の事件現場を訪れたり、気になることは徹底的に検証したりするタイプだった。被告人の人生まで考える入間と関わるうちに、坂間も裁判官として、そして人として成長していくヒューマンリーガル作品。

『イチケイのカラス』の概要

『イチケイのカラス』とは、浅見 理都による裁判を舞台にした日本のリーガル漫画。
『モーニング』で2018年24号から2019年14号まで連載された。単行本は全4巻。
また、2021年4月には実写ドラマ化され、入間 みちお(いるま みちお)を竹野内 豊(たけのうち ゆたか)が演じた。全11話で平均視聴率は12.6%を記録した。2023年には映画版も予定されており、実写ドラマから2年後の設定で描かれる。

主人公・坂間 真平(さかま しんぺい)は、武蔵野地方裁判所第一刑事部(むさしのちほうさいばんしょだいいちけいじぶ)、通称「イチケイ」に配属された裁判官だ。坂間は「裁判官の仕事はただ判決を下すのみ」と思っており、「被告人がその後どんな人生を歩むか」ということは仕事外のことだと思っていた。
そんな時、イチケイで入間と出会う。入間は元弁護士でかなり型破りな判事だ。裁判で提出された証拠だけではなく、気になることがあれば自ら事件の現場まで赴き、被告人の証言が正しいか検証まで行っていた。そして入間は被告人のその後の人生まで考え、考え抜いた先に判決を下していた。
そんな入間の姿勢を見ているうちに、坂間も裁判官としてあるべき姿や1人の人間として成長していくヒューマンリーガル作品。

『イチケイのカラス』のあらすじ・ストーリー

坂間、入間みちおとの出会い

武蔵野地方裁判所第一刑事部、通称「イチケイ」に配属された特例判事補の坂間は、同じ裁判官の入間と出会う。入間はとにかく被告人の話を聞き、証拠を吟味して、時には自ら事件の現場にも赴く型破りな裁判官だった。坂間は「効率が悪い」と入間の行動に対して理解が出来なかった。また坂間の上司で裁判官の駒沢義男(こまざわ よしお)に関しても、無罪判決を10件以上出してきたことから、2人は裁判所内で煙たがられているという話を聞く。
そんな中、強制わいせつの疑いで逮捕された田端 紀道(たばた のりみち)が起訴され、裁判が行われることになった。坂間は初めて、駒沢と入間と3人で裁判を行うことになる。
事件の概要は、田端が夜のトイレで被害者の女性にわいせつな行為をしたというものである。その内容を聞いた上で、駒沢は田端に「被告人には黙秘権があります。そして何より、もし本当にやっていないのなら、やっていないと言ってください」と言った。それを聞いた坂間は驚く。
黙秘権を説明することは義務であるが、まるで駒沢が被告人に「やっていない」と言いやすいように被告人へ語りかけたからである。裁判官が被告人が「やっていない」と言いやすい環境を作る裁判官なんて前代未聞だ。坂間が驚いていると、田端は「やっていません…!」と告白した。その瞬間駒沢は笑っており、坂間は「被告人が裁判に来てから犯行を否認なんて絶対に面倒になるのに、どうして笑っているんだ?」と駒沢の気持ちが分からなかった。

田端は世界的に有名な作家であり、締め切り前でストレスが溜まっていた。気分転換に外に出たところ、嵐が丘駅のトイレに女性が入るのを確認。出来心で電気を消して女子トイレに忍び込み、背後から胸を触るなどわいせつな行為に及んだ。しかし、被害者が大声を上げたため逃亡。その後、被害者が田端の顔を覚えており、逮捕に至った。
弁護人は無罪を主張。
裁判後、坂間は入間に「駒沢部長はなぜわざわざ被告人に『やっていないならやっていないと言って欲しい』と言ったんですか?被告人が世界的に有名な作家で注目が集まっているからですか?」と聞く。入間は「そんな意図はない。ただ駒沢さんは被告人も生身の人間だと思っているからこそあんな風に伝えたんだ」と答える。坂間は「生身の人間だということくらい自分も分かっている」と納得は出来ていなかった。

第二公判で被害者は「真っ暗なトイレの中で、はっきりと田端を見た」と証言。弁護人は「検証を新たに請求します」と駒沢に言った。
つまりは裁判官が実際に事件の現場に行き、本当に暗闇の中で相手の顔が見えるのかを検証して欲しいということである。
公判後、坂間は検証の必要性を感じられず反対する。しかし、入間と駒沢は「実際にやってみないと分からないことがある」と検証には賛成だった。
坂間は「無駄なことだ」と思いながらも数日後、駒沢や入間、弁護人や検察、そして田端に似たスタッフ数人で事件現場を訪れていた。検証内容は、まず坂間がトイレの中に入る。電気を消した後に田端に似たスタッフが1人入り、坂間の後ろに立つ。坂間が振り返り、トイレを出た後でそのスタッフを当てられるかというものだ。
坂間だけではなく、駒沢や入間も検証を重ねた結果、ほぼスタッフを当てることが出来た。つまり、被害者は嘘をついておらず、本当に田端の顔を見ていたのである。
検証が終わり、帰りの電車の中で坂間は「やはり無駄だったのでは?」と入間に聞く。入間は「結論だけで言えば検証は無駄だったかもしれない。だけど判決を下すまでのプロセスも大切なんだ」と反論。
またこの時、田端が有名な作家であることから世論は「有名な作家が犯罪を犯すわけない」と思っており、この事件は被害者のでっち上げという風評が広がっていた。

公判を重ね、ついに田端への判決を下す日が来た。検察や弁護人が提出した証拠、被告人や被害者の証言、そして夜のトイレでの検証を元に田端へ有罪という判決を下す3人。
しかし世論は、未だに「冤罪だ」と言っている。SNS等でその声を見た坂間は「駒沢や入間が冤罪を防ごうと検証したのは分かる。こちらがどれだけ熟考して判決を出しても、やっぱり一般人には分からないんだ」と不満を抱えていた。その上、田端が控訴しなかった。つまり有罪判決に納得したのである。
それを聞いた坂間は「実は罪を犯していたから控訴しなかったのか?それとも無罪なのに裁判所は取り合ってくれないと諦めただけなのか?」とモヤモヤしていた。

裁判官としての気持ちが変わっていく坂間

ある時、坂間は入間が裁判官を務める裁判の見学に行くことにした。
入間が担当した裁判の事件内容は、次の通りである。
ある日、妻が胸の痛みを訴えたため夫・大木 義晴(おおき よしはる)は妻を病院に連れて行った。医師が診察した結果、問題なしとされ帰宅。しかし数日後、妻は死亡。大木も妻もホームレスだったため、「ホームレスだから医者はちゃんと診てくれなかった」と大木は感じ包丁を持って病院へ行く。そこで「医者を出さないと痛い目見せるぞ」などと病院側を脅迫したために逮捕された。
入間は大木にしっかりと話を聞いて、証拠も踏まえた上で「罰金20万円に処する」と判決を下した。そして更生施設への案内や、今後の人生がより良い方向へ行くよう検察にもサポートを要請し、裁判は終了となった。
裁判後、坂間は「僕なら今回の裁判、罰金ではなく執行猶予にします」と入間に言った。入間は「この先、大木さんがホームレスに戻らず真面目に働くことはハードルが高いように思える。執行猶予をつけてその間に再犯をしたら次は確実に実刑だ。そうならないために罰金刑にした」と話した。そのことに対し坂間は「我々の仕事は判決を下すまでで、被告人のその先までずっと考えたってどうにもなりません」とはっきり自分の考えを伝えた。入間は「だけど例えば大木さんが再犯して刑務所に入り、刑を終えて出た後もまた罪を犯して戻ってくる。俺たちがしたことはなんだったんだと思わないか?大木さんの弱さは大木さんだけのものか?」と聞いた。その言葉に坂間は答えられなかった。
数年後、大木から入間の元へ手紙が届く。大木は裁判後、更生支援施設に行って今は桃農園で働いていた。手紙には「あの時、亡き妻が入間裁判官様に巡り合わせてくれたのだと思います」と更生のチャンスをくれた入間に対しての感謝が綴られていた。

坂間はとある万引き事件の裁判で判事を務めていた。その事件とは、潮川 恵子(しおかわ けいこ)がスーパーで万引きをしたという事件である。恵子は万引きの前科を持っており、その執行猶予中の犯行だった。恵子の夫・拓馬(たくま)は単身赴任中で、恵子1人が娘・ほたるの育児と義母の介護をこなしていた。そのストレスと、元々患っていた軽いうつ病から逃げるように万引きをしてしまうクレプトマニアを患っていた。恵子の弁護士・堤(つつみ)は恵子をクレプトマニアの治療に専念させるために再度執行猶予付きの判決を希望。一方、検察は再犯の可能性があると懲役1年4ヶ月の実刑が妥当だと主張していた。
裁判で恵子は「娘にも迷惑をかけたと思っている、今後はクレプトマニアとうつ病を治療していく」と言っているが、裁判後も恵子の置かれている状況は変わらないため、恵子本人も再犯しない自信がなかった。そんな中、傍聴席から「ママ、頑張れー!」という声が聞こえた。そこにはほたるがいた。ほたるは学校をずる休みして、こっそりと恵子の裁判を見に来ていたのである。ほたるは「ママは大丈夫だもん!ほたるもおつかい行けるもん!ほたるがいるから大丈夫だもん!」と叫んだ。
恵子はそんなほたるの姿を見て裁判後、拓馬に「育児も介護も辛い。助けて欲しい」とようやく心の内を吐露する。拓馬も「今まで無理に頑張らせてごめん」と、裁判所に1人で来るほど恵子を思っているほたるに心を打たれて、恵子のクレプトマニアに理解を示し始めていた。
その間、坂間も判決に迷っていた。執行猶予中の再犯である恵子は実刑に処すべきである。しかし、ほたると離れ離れになってしまうことが正しいとは思えない。だが、子供がいるからといって刑を軽くすることも不平等だ。迷った末に坂間はもう一度裁判を開いた。
坂間は恵子に「娘が法廷に来たことについてどう思うか?」と聞いた。恵子は「それほどまでに娘に心配をかけていたと感じた。これからは自分の限界を周りに伝えて、治療を頑張っていきたい」と強い意志で答えた。恵子から揺るぎない意志を感じた坂間は、執行猶予付きの有罪判決を出した。実刑ではないため、恵子はほたると離れ離れになることなく生活を送ることが出来る。
裁判後、潮川家族が笑い合っている姿を見て坂間は「判決に正解はないが、この判決が潮川家族にとってよかったのか」と未だに悩んでいた。

裁判員裁判の陪審員である柳田の話

とある刑事事件が裁判員裁判で行われることになった。この章の話は主人公が坂間から、裁判員の1人である柳田 紀一(やなぎだ のりいち)になっている。
柳田はある日突然、裁判員裁判の陪審員に選ばれてしまう。

事件の概要は、被告人・小木島 修二(おぎじま しゅうじ)が、公園で被害者・露井 清(つゆい きよし)と殴り合いの喧嘩をし、死亡させて起訴されたものである。
小木島は公園に向こう途中のコンビニで、ポイ捨てをしている露井に出会う。小木島が注意したところ、口論になったため埒が開かないと小木島はその場を去った。小木島が公園に着いたところで、露井が追いかけてきた。先ほどのポイ捨て注意に腹を立てた露井は「お前と喧嘩しにきた」と小木島に言った。小木島は公園の原っぱの方へ移動し、露井から殴られる。小木島の眼球に露井の拳が入り、小木島も無我夢中で殴り返す。その一発が露井の顔面に入り、露井が倒れる。小木島は露井を心配したが、露井が「あっちへ行け」という手振りをしたのでその場を去った。
しかし、2人の喧嘩を見ていた川嶋 拓也(かわしま たくや)という男性が、露井が起き上がらないことを不審に思い救急車を呼んだ。その2週間後、急性硬膜下血腫を発症し露井は死亡。
弁護人は無罪を主張、検察は無罪は妥当ではなく処罰があるべきだと主張していた。

何度も議論を重ね、柳田達が出した判決は無罪。小木島が「わざと露井に怪我をさせた」と確固たる証拠や確信はない。そのため無罪という結論を出した。
柳田は陪審員という経験をして、人を裁くということはとても重たいことだが、事件の真相や被告人のことを議論するのは面白かったと感じていた。

入間の過去と暴力教師の裁判

入間は刑事弁護を担当していた元弁護士である。しかし、冤罪事件に巻き込まれた依頼人の無罪を勝ち取っても、依頼人の人生が元通りになるわけではない。その時から、入間は無力感を感じていた。
ある時、赤信号を無視して男子高校生を車で轢いてしまった依頼人の弁護を担当することになった。依頼人は「信号無視などしていない」と主張。入間も信じ、再度証拠や承認を集めたが、裁判所は「必要性が認められないので却下する」と、入間が必死に集めた証拠に目も通さなかった。結果、依頼人は有罪となる。
このことから入間は、「どれだけ頑張っても何も変わらない」と絶望し、しばらく弁護士としての活動を休むことにした。
そんな時、妹から「どうしても欲しい本があるのに行けないから、同人即売会に行って欲しい」とお願いされる。暇な入間は代わりに同人即売会へ向かった。

同人即売会の一角で、駒沢が自作の本を出していた。『裁判官の為の訴訟指揮入門』という本を売っており、入間はそれに目を惹かれる。目を通すと自分の理念に近いことが書かれていた。
これに深く共感した入間は駒沢に「この本、とても素晴らしいです」と感想を伝えた。駒沢も入間を知っており、「入間先生、あなたように理不尽や弱い立場の気持ちを知っている人が裁判官になってくれれば嬉しい」と打診した。
この言葉を受けた入間は一念発起、裁判官としての道を歩み始めた。

駒沢、入間、坂間3人でとある刑事事件の裁判を担当することになった。
都立五月雨高等学校(とりつさみだれこうとうがっこう)の教諭・更科 康平(さらしな こうへい)が男子生徒・巣堂 祐樹(すどう ゆうき)に怪我をさせた疑いで起訴された。
巣堂は日頃から更科に対し不満を持っており、担任を外そうと企んでいた。そのため、巣堂は授業中に騒いで授業の妨害をしていた。更科がこれに腹を立て、生徒指導室に巣堂を連れて行こうと腕を引っ張り廊下に連れ出す。その際に巣堂が抵抗。更科が腕を離した瞬間に、勢い余って巣堂は転倒。全治3週間の怪我を手に負った。
その様子を巣堂の友人が動画に撮っており、勝手にSNSへ投稿、拡散まで行った。その結果、メディアに注目され瞬く間に更科は暴力教師のレッテルを貼られることとなった。

巣堂はあくまでも「授業を妨害しようと騒いだのは自分」「単なる事故による怪我」と思っているのに、メディアや両親は「更科は暴力を振るう教師だ!」と過激に糾弾していく。勝手にSNSに動画を上げた友人も全く反省しておらず、巣堂は本当のことが話せないまま追い詰められていた。

迎えた裁判の日、両親から授業を妨害したことを口止めされていた巣堂は、弁護士との打ち合わせ通りに証言していく。そして裁判が終わりそうな時、坂間と巣堂の目が合った。何か言いたげにしていた巣堂の様子を汲み取った坂間は「裁判所に対して言い残したことはありますか?」と聞いた。
形式的なことは聞き終え、裁判の時間も終わろうとしている中で坂間がわざわざ被告人の様子を感じ取り、質問することは初めてだった。これは入間たちの裁判で、「被告人の話をきちんと聞く」ということを見てきたからこそ、坂間の口からこの言葉が出てきたのである。
巣堂は勇気を振り絞り「先生は悪くない、授業の妨害をしたのは自分で手の怪我は事故だ」と涙ながらに説明した。巣堂からの真実を聞いた3人が出した判決は、更科に対し「罰金10万円」だった。その後、巣堂は更科に謝罪し、和解している。

坂間は再び、裁判の見学に来ていた中学生たちの質疑応答に対応していた。
その中で、中学生から「裁判官の仕事は怖くないんですか?人を裁くなんて…」と聞かれる。坂間は「恐怖というよりも、人の人生を左右するという緊張感はある。裁判官の仕事はイノベーションを起こさないし、0から1を生むわけでもない。それでも裁判官という仕事は面白い」と笑って答えた。

『イチケイのカラス』の登場人物・キャラクター

主要人物

坂間 真平(さかま しんぺい/演:黒木華)

鼻が高いため、入間に鳥顔と言われる坂間。

本作の主人公。イチケイに配属された特例判事補。姉が1人いるが、小さい頃から振り回されてきたので、あまり関わりたくないと思っている。
なお、実写ドラマ版では女性へと変わっており、名前も「坂間 千鶴(さかま ちづる)」になっている。

「裁判官はただ判決を下すのみで、その後被告人の人生がどうなるかまで考えていたらキリがない」とかなり割り切って裁判官の仕事をしていた。
イチケイに配属された当初も、入間や駒沢の「徹底的に被告人の話を聞き、時には現場に訪れ検証する。そしてその後の被告人の人生を考えながら判決を下す」といった姿勢に「冤罪を避けようとするのは賛成だが効率が悪い」と感じる。

田端の事件で坂間は、弁護人や検察と共に実際の現場で犯行時を再現をすることとなった。坂間は「そんなことをしても意味はない」と感じ反対。しかし入間に、「実際に行ってみないと分からないこともある」と言われ渋々同行した。
実際の事件現場に訪れ、真っ暗なトイレで検証を重ねる。結果は、「真っ暗なトイレの中でも相手の顔は見える」というものだった。坂間はこれに対し「やっぱり被害者の証言通りで、無駄足だった」と思っていた。
その後、田端に対して有罪判決を下す。しかし、世論は「あんな有名な作家が犯罪を犯すか?冤罪だ」などという声を上げた。それをSNSやマスコミなどで知った坂間は、「駒沢や入間が冤罪を避けようとするのは分かる。しかしどれだけ検証し、判決を考えて下しても世間は分かってくれない」と不満を抱えていた。また、田端が判決を受け入れ控訴しなかったことも、坂間は「本当にやっていたから認めたのか?それとも裁判所は取り合ってくれないと諦めたのか?」と疑問が残ったままだった。

ある時、坂間は入間が担当するホームレスの男性・大木の刑事裁判を見学することにした。
「早く有罪判決を出してくれ」と諦めている被告人に対し、入間は「あなたの中で奥さんはもう少し長生きさせてあげてもいいんじゃないですか?」と言葉をかけた。裁判官が被告人の心に訴えるようなことなどを言うなど、自分ではありえないと坂間は驚く。そして入間は被告人に寄り添いながら、検察と弁護人の主張を聞いて即日で判決を出した。
そして入間が出した判決は「罰金20万円」だった。これに対して坂間は「僕なら執行猶予を再度つけて有罪にします」と入間に言った。入間は「被告人はホームレスで前科持ちだ。また犯罪を犯さず生きていくのは難しいだろう。執行猶予をつけても罪を犯せば実刑、そうなるとまた被告人は刑務所に出たり入ったりを繰り返す」と答えた。坂間は「そこまで考えても仕方がないですよ、裁判官という仕事は判決を下すまでです」と言い返す。入間は「そうだな、だけど…俺たちがしたことはなんだったんだろうと思わないか?被告人が罪を犯さないと生きられないのは、被告人だけのせいか?」と坂間に問う。入間が言っていることは最もだったため、坂間は答えられなかった。

その後、坂間は恵子の裁判を1人で担当することになる。恵子には夫と子供がいるが、万引きの執行猶予中に再犯を犯した。それは恵子のクレプトマニアという病気のせいだったが、坂間はこの恵子の判決に迷っていた。
執行猶予中の再犯ならば実刑の有罪判決を下すことが多い。しかし、恵子に実刑判決を下せば親子は離れ離れになってしまう。
そんな時、ほたるが両親に内緒で学校を休み、1人で裁判に来ていた。その姿を見た坂間はより一層、母と子を離すべきではないと感じる。
坂間は思い切って、再度裁判を開き恵子の話を聞くことにした。恵子はほたるが裁判所まで1人で来たことに胸を打たれ、「本気で自分を変えたい」と思っていた。坂間がこれからのことについて恵子に聞くと、恵子は強い意志で「クレプトマニアの治療をしていきます。二度と裁判所に娘を来させません」と宣言した。その言葉を信じ、坂間は再び執行猶予付きの判決を出した。恵子は涙を浮かべて安堵し、裁判所の外でほたると抱きしめ合う。その姿を見ていた坂間は、「この判決がこの親子にとってよかったのか」と初めて判決に対しモヤモヤを抱えていた。

坂間は、駒沢や入間の裁判スタイルを見ていくうちに「裁判官の仕事は判決を下すこと、しかし裁判が終わった後も被告人の人生がある」ということを少しずつ感じていくようになっていた。
その考えが強く出てきたのは、高校教師が暴行の疑いで逮捕された裁判の時である。すでに裁判で事件の事実関係が明らかになっており、暴行を受けたとされる男子高校生・巣堂の証言も問題なく終了していた。そんな時、坂間と巣堂の目が合った。巣堂が何か言いたげにしていたことから、坂間は「何か裁判所に言い残したことはありますか?」と声をかけた。今までの坂間なら「時間内に裁判を終わらせよう」と効率を求めていた。しかし、入間たちに影響を受けて「時間よりも証人の話を聞こう」と思ったこその発言である。
こうして坂間は入間たちと裁判官の仕事をしていくうちに、裁判官として被告人の人生に寄り添い、裁判官の仕事を「被告人の人生を考え判決を下す面白い仕事だ」と思うようになっていった。

入間 みちお(いるま みちお/演:竹野内豊)

黒髪に七三、メガネに小太りが特徴的な入間。

元弁護士の中堅判事。38歳。メガネと小太りな体型が特徴的。机の上にはご当地の土産物や、お菓子が散乱している。歩いている時の足音は「ぼしっ」と重たい音がしている。

24歳の時に司法試験を合格し、刑事事件の弁護を担当していた弁護士。弁護士時代は無罪判決を10数件出してきた。しかし、無罪を勝ち取っても起訴された時点で依頼人は社会的信用を失う。会社からも家族からも「犯罪を犯したのではないか」と疑われ、無罪後も人生が戻るわけではない。そのことに対し、入間は「裁判とは何のためにあるのか」「弁護士は何のために戦っているのか」と感じるようになる。そして雨宮(あまみや)との事件で自身の無力さを痛感し、ついには弁護士活動を休むようになる。
実家に戻り、暇を持て余していたところ妹から「欲しい本があるから同人即売会で本を買ってきて」と言われる。会場へ行ったところで、自費で『裁判官の為の訴訟指揮入門』を売っていた裁判官の駒沢と出会う。そして駒沢が売っていた本に深く共感したことと、駒沢から「あなたのように弱い立場の人の気持ちと、理不尽を知っている人は裁判官に向いている」というようなことを言われたことから裁判官を目指す。
その後、弁護士会の推薦をもらったり、難関と呼ばれている最高裁判所の面接をパスして弁護士から裁判官になったエリート。
裁判官になった後も、弁護士時代と変わらず「徹底的に被告人の話を聞いて、時には現場にまで赴き証言や証拠を確かめる」というスタイルを貫いている。当初は効率を求める坂間と意見が対立することがあったが、坂間も次第に成長し入間と同じような姿勢で裁判に臨むようになる。その姿に感心しており、坂間も一人前の裁判官になったと認めている。

仕事関係

駒沢 義男(こまざわ よしお/演:小日向文世)

穏やかな顔つきの駒沢。

イチケイの判事部長。穏やかな性格かつ冷静な判断を下せるベテランの裁判官。62歳。趣味は無課金でスマホゲームをすること。
しっかりと被告人の話を聞き、証拠を吟味した上で場合によっては事件の現場まで訪れて真相を突き止める型破りな裁判官。イチケイに来てから無罪を10件以上出しているが、そのせいで上から煙たがられ未だ現場の裁判官止まりである。
何よりも冤罪を嫌っており、周りから白い目で見られようとも一つ一つの裁判を熟考して判決を下している。
そんな自分の信念を書いた『裁判官の為の訴訟指揮入門』を自費で作成し、同人即売会で1冊千円で売っていた。そこで偶然入間と出会い、以前から活躍を知っていた入間に「あなたのような人は裁判官に向いている」と言葉をかけた。坂間から「無罪を多く出すコツは?」と聞かれた際にも、この冊子を売っていた。

石倉 文太(いしくら ぶんた/演:新田真剣佑)

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