火垂るの墓(ジブリ映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『火垂るの墓』とは、自身の戦争体験を題材にした野坂昭如の短編小説を元に、監督と脚本を高畑勲、新潮社とスタジオジブリが製作した劇場用長編アニメーション映画。1988年4月16日から東宝系で公開された。第二次大戦下の兵庫県神戸市と西宮市近郊を舞台に、父の出征中に母が亡くなってしまった14歳の兄・清太と4歳の妹・節子が、終戦前後の混乱の中を必死で生き抜こうとする姿を描いた物語。
清太は空襲で無人となった家から火事場泥棒もするようになり、必死に飢えをしのいでいた。しかしある日のこと、防空壕の近くで倒れている節子を見つける。すぐに医者に連れて行くと医者は栄養失調から来るものだという。「薬とか注射とか治療してもらえないのか」と聞く清太に対し、医者は「滋養をつけることだ」といって次の患者を呼ぶ。その態度にカチンときた清太が医者に怒鳴ったセリフ。
節子においしいものを食べさせたいがために走り回って食物を手に入れようと頑張っていた清太のやるせない気持ちが、医者のそっけない態度にストレートに爆発したシーン。
「テンプラにな、御作りにな、トコロテン、アイスクリーム。それから...またドロップ舐めたい。」
医者から滋養をつけるしかないと言われた清太は、その帰り道に節子に「今何が食べたい?」と聞く。このセリフは節子が答えた食べ物である。
このセリフを聞いて、銀行の残りの貯金を下ろしておいしいものを買って来てやるという清太に、節子はしがみつくように「どこへも行かんといて!」と繰り返し叫ぶのだった。節子が自分の最後を予感しているかのようなとても切ないシーンである。
『火垂るの墓』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
高畑監督による本作についての意図
本作について高畑監督は、「兄妹が二人だけの閉じた家庭生活を築くことには成功するものの、周囲の人々との共生を拒絶して社会生活に失敗していく姿は現代を生きる人々にも通じるものである。特に高校生から20代の若い世代に共感してもらいたい」と語っている。
また「当時は非常に抑圧的な、社会生活の中でも最低最悪の『全体主義』が是とされた時代。清太はそんな全体主義の時代に抗い、節子と二人きりの『純粋な家族』を築こうとするが、そんなことが可能か、可能でないから清太は節子を死なせてしまう。しかし私たちにそれを批判できるだろうか。我々現代人が心情的に清太に共感しやすいのは時代が逆転したせいだからであり、いつかまた時代が再逆転したらあの未亡人(親戚の叔母さん)以上に清太を糾弾する意見が大勢を占める時代が来るかもしれない。それがぼくはおそろしい気がする。」とも語っている。
そして、本作が反戦アニメと受け取られたことに対して当初は「反戦アニメなどでは全くない、そのようなメッセージは一切含まれていない」と繰り返し述べていた高畑監督だが、後に「決して単なる反戦映画ではなく、お涙頂戴のかわいそうな戦争の犠牲者の物語でもなく、戦争の時代に生きた、ごく普通の子供がたどった悲劇の物語を描いた」と述べ、反戦アニメと受け取られたことについてはやむを得ないだろうとしている。
宮崎駿VS高畑勲に近藤喜文の争奪戦があった
宮崎駿監督作品『となりのトトロ』と本作『火垂るの墓』は、公開時に同時上映されているが、先に企画された『となりのトトロ』は当初、60分程度の中編映画として企画されており、単独での全国公開は難しかった。そこで同時上映作品として高畑勲監督作品『火垂るの墓』の企画が決定したという経緯が伝えられている(最終的に、両作とも上映時間は90分近くなり、長編2本体制となった)。
両映画の制作はスタジオジブリで同時に進行した。東映動画でも長編作品を2本同時に進行したことはなく、高畑・宮崎の信頼に耐える主要スタッフ(アニメーター)は限られており、人員のやりくりに制作側は苦慮することになった。特に作画監督の近藤喜文の処遇では争奪戦が起こった。高畑は「他は何もいらないから近ちゃん(近藤)だけ欲しい」、宮崎は「近ちゃんが入ってくれないなら僕も降板する」と言ったといい、結局、宮崎は自分で絵が描けるからという鈴木敏夫の助言で、近藤は『火垂るの墓』の制作に携わった。結果として宮崎側は新しく参入したスタッフを中心に制作し、高畑側は近藤や美術監督の山本二三など旧知のベテランを集める形となった。高畑が追求する実にリアルな描写の実現は、近藤の強く鋭い感受性あって初めて可能なものであり、その後、再び高畑の元で『おもひでぽろぽろ』のキャラクターデザインと作画監督を担当する。
高畑勲はアニメ演出家廃業を決意していた
長編2本の同時進行となった制作過程において、本作は彩色の作業がどうしても公開までに完了しないことが判明する。高畑監督は作画監督補佐を担当する百瀬義行とともに、大幅なカットで破綻させることなく観客の鑑賞に堪える方法を検討した。その結果「『演出意図』としての必然性が感じられれば、見る人に受け入れてもらえるのではないか」という「苦肉の策」で対処することとした。それは、清太が野菜泥棒をして捕まる場面などを色の付かない白味(色の線の長さや形状等で示した状態での収録)・線撮り(彩色のない原動画を絵コンテ等に合わせて完成アニメと同じタイミングで撮影したもの)の状態で、1988年(昭和63年)4月の公開時点ではとりあえず上映することとなった。なお、これらの箇所は公開後も制作を続けて後に差し替えられている。
わずかながらも未完成のままでの劇場公開という不祥事を起こしてしまった責任から、高畑監督はいったんアニメ演出家廃業を決意したそうである。その後、宮崎駿の後押しを受けて3年後の1991年(平成3年)に『おもひでぽろぽろ』で監督に復帰することになった。
作画に参加した庵野秀明
本作は高畑勲のリアリズム志向により、1945年(昭和20年)当時の風景が忠実に再現された(一部資料が偏る傾向もみられる部分もある。)。
上京して間もない庵野秀明が、作画に参加していた宮崎駿監督作品『風の谷のナウシカ』終了後に、高畑監督から神戸港での観艦式(清太の回想)の場面の軍艦(高雄型重巡洋艦「摩耶」)を出来るだけ史実に則って描写することを求められ、舷窓の数やラッタル(階段)の段数まで正確に描いたという。だが、完成した映画ではすべて影として塗り潰されてしまい、庵野の努力は徒労に終わったそうである。
舞台となった場所は人気スポットになっている
神戸市と西宮市では、本作のモデルとなった場所を訪ねる人は絶えず、地域史研究の一環として地元の教育委員会が見学会を催すこともあるそうである。
神戸市には、清太と節子の家がある設定なっていた御影(みかげ)。そこには空襲で焼け野原となった街にぽつんと残っていた御影公会堂があり、現在でも当時の姿をとどめている。周辺には松の木がたくさん生えており、公会堂の裏は空襲を逃れるため清太が節子をおぶって逃げこんだ石屋川の河川敷で、脇には「火垂るの墓」の石碑がある。そして、御影駅の東にある御影小学校は、空襲で重傷を負った母が運び込まれたとされている場所である。
西宮市には、叔母の家がある夙川(しゅくがわ)駅・夙川公園、たくさんのホタルが飛び交うニテコ池(貯水池)、海を眺める清太と節子の後ろに建っていた西宮回生病院がある。
なお、舞台の1つである阪急三宮駅(神戸阪急ビル)は阪神・淡路大震災により建物が全壊し、別設計の駅舎が再建されている。
世界の巨匠・黒澤明の勘違い
映画監督・黒澤明は『火垂るの墓』を見て感動するが、宮崎駿監督の作品と勘違いしてしまい、宮崎に賞賛の手紙を送っている。受け取った宮崎は複雑な顔をしたという。
以下「後世に残したいラジオの話 : 鈴木敏夫が語る『宮崎駿に届いた黒澤明からの手紙』」より引用
鈴木敏夫と 黒澤和子 (映画衣裳デザイナー / 映画監督の黒澤明の長女) の対談から
鈴木 あのねぇ(笑)。黒沢さんからぁ、お手紙をね、そのぉ、宮崎が頂いたんですけれどぉ
黒澤 ええ
鈴木 そのお手紙がこうやって書いてあってぇ、まぁその前に全作品のね、ビデオだったと思いますけど、当時お送りして、それでぇ見たと。
黒澤 ええ
鈴木 『となりのトトロも良かった。魔女の宅急便も良かった。』
黒澤 うん
鈴木 それでぇー、『ラピュタも本当に面白い。で、ナウシカも更に面白かった。』と。『しかし私がね、なんと言ってもやっぱり心に残ったのは火垂るの墓である。』と。
黒澤 フフ(笑)。火垂るの墓の時はもう、次の日行ったらもう目が真っ赤でした。
鈴木 それを頂いたのがですねぇ、宮崎への手紙なんですよね
黒澤 うん
鈴木 ね、火垂るの墓、あの、高畑勲(笑)
黒澤 そうですよね。一緒だと思ってました。
鈴木 フフフ、それでね(笑)。…一緒だと思ってらっしゃったんすね、じゃあ(笑)
スタッフ ハハハ(笑)
黒澤 ええ
鈴木 それでその後、火垂るの墓について延々書いてあるわけですよ
黒澤 ええ
鈴木 最初読み始めた宮崎はねぇ、感動して嬉しかったんですけどね、途中で火垂るの墓の話になった時にね、ちょっと顔色が変わりまして。フフフ(笑)。で、読んでったの最後まで(笑)
黒澤 たぶん、トトロが一番好きだと思います
鈴木 あ、そうですかぁ
黒澤 ただ、一番、その、手紙を書く直前に観たのが火垂るの墓だったんで、
鈴木 なるほど
公開当時のポスターに隠された真実
2018年4月13日に、高畑勲監督の死去を受けて本作が『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で急遽TV放映されたが、それをきっかけに、公開当時のポスターにネット上で関心が集まっている。
それは、清太と節子の兄妹が、草むらの中で蛍の乱舞を楽しんでいる微笑ましい光景のポスターだが、ツイッター上の指摘によると、背後に黒い影があるのが分かるというのだ。しかも、黒い影は神戸大空襲にも参加した米軍のB29のような爆撃機の形をしており、蛍の光の一部が米軍の落としていった焼夷弾だというのだ。
ツイートには、13万件ほども「いいね」が押されており、驚きの声が次々に上がっている。中には「映画のタイトルに火が垂れるという表現をかけているのか」といった声も出た。ネット掲示板では、解析されたポスターの写真も投稿され、それを見ると爆撃機の姿が分かるとの指摘もあった。話題は海外にも拡散し、台湾のネットメディアなどでも取り上げられているという。
アニメを制作したスタジオジブリは「当時を知る人が少なくなっており、確証を得られるものがありませんので、お答えは控えさせて下さい」と取材に答え、映画を手がけた新潮社は「文庫版は弊社から出ていますが、弊社の方では分かりかねます」と出版部が取材に答えている。
『火垂るの墓』の受賞歴
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目次 - Contents
- 『火垂るの墓』の概要
- 『火垂るの墓』のあらすじ・ストーリー
- 悪化する親戚との関係
- 節子の死
- 物語の終わり
- 『火垂るの墓』の主な登場人物・キャラクター
- 清太(せいた/ CV:辰巳努)
- 節子(せつこ/CV:白石綾乃)
- 清太・節子の母(CV:志乃原良子)
- 親戚の叔母さん(CV:山口朱美)
- 叔母さんの娘
- 叔母宅の下宿人
- 清太・節子の父
- 『火垂るの墓』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 「泳いだらお腹減るやん。」
- 「お母ちゃんのおべべあかん!お母ちゃんのおべべあかん!」
- 「味がいっぱいする!」
- 「何でホタル直ぐ死んでしまうん?」
- 「滋養なんてどこにあるんですか!」
- 「テンプラにな、御作りにな、トコロテン、アイスクリーム。それから...またドロップ舐めたい。」
- 『火垂るの墓』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 高畑監督による本作についての意図
- 宮崎駿VS高畑勲に近藤喜文の争奪戦があった
- 高畑勲はアニメ演出家廃業を決意していた
- 作画に参加した庵野秀明
- 舞台となった場所は人気スポットになっている
- 世界の巨匠・黒澤明の勘違い
- 公開当時のポスターに隠された真実
- 『火垂るの墓』の受賞歴
- 『火垂るの墓』の主題歌・挿入歌
- 挿入歌:アメリータ・ガリ=クルチ「埴生の宿」(原題「Home Sweet Home」)
- 『火垂るの墓』の関連映像
- 野坂昭如氏コメント映像『火垂るの墓』アニメーションについて
- 「金曜ロードショー」水野晴郎氏による解説