それでも夜は明ける(12 Years a Slave)のネタバレ解説・考察まとめ

19世紀のアメリカで、自由黒人であるにも関わらず奴隷として売られ、12年間の奴隷生活を送ることとなったソロモン・ノーサップの実話を、彼が書いた体験記をもとにスティーヴ・マックイーン監督が映画化、2013年に公開された。主人公のソロモン・ノーサップをキウェテル・イジョフォーが熱演。監督の志に賛同したブラッド・ピットが制作段階から参加し、出演も果たしている。

エップスに雇われたカナダ人の大工。正義感が強く良識ある人物で、奴隷制度にも疑問を持っている。多くの地を旅してきているので見識も広い。自分の信念を持っていて、雇い主のエップスに対しても意見を堂々と言うが、ソロモンに手紙を出してくれと頼まれると、危険を冒すことが怖いとこぼす正直者。
しかし信念を貫くため、約束を守りソロモンの知人に宛て手紙を書いた。それがきっかけとなり、ソロモンは自由黒人であることが証明され、12年に及ぶ奴隷生活から解放された。

時代背景

アメリカ合衆国では、15世紀から19世紀にかけて、アフリカ人とその子孫であるアフリカ系アメリカ人たちが合法的に奴隷化されていた。1200万人以上の黒人奴隷がアメリカに渡り、そのほとんどが南部で奴隷として買われていった。16世紀のアメリカでは、奴隷を使い作物を栽培する大規模な農園が増え、1800年頃にはイギリスで消費される綿花の80%がアメリカ南部で生産されていた。

アメリカ北部が産業革命によって工業立国を目指すのに対し、南部では奴隷を酷使した綿花栽培が長く続いた。やがて北部と南部の対立は内戦に発展。1861年に南北戦争が起こる。1863年にはリンカーンによる「奴隷解放宣言」がなされ、1865年に北部が勝利し南北戦争が終結するとともに、多くの黒人奴隷が解放された。ソロモン・ノーサップは解放されたのち、彼の誘拐にかかわった人物たちを訴えたが、当時ワシントンD.C.で黒人は法廷で証言できず、犯罪を立証することはできなかった。

見どころ

これまでアカデミー賞では、黒人差別や奴隷制度を扱った作品が数多くノミネートされてきた。しかしそれらはすべて作品賞を撮るまでには至らなかった。そんななかで本作が作品賞を受賞したことは、映画史だけでなくアメリカの歴史上においても大きな意味を持っていると言えるだろう。

そしてその評価を支えたのが豪華なキャスト陣である。制作から携わったブラッド・ピットをはじめ、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチなど、ハリウッドの人気俳優たちが多数参加し、キウェテル・イジョフォーが重厚な演技で主人公を熱演した。そしてパッツィー役に抜擢された新人のルピタ・ニョンゴは、本作の演技が絶賛されアカデミー助演女優賞を獲得。そんなキャスト陣の魂のこもった演技は、何度観ても心震えるものがある。

『それでも夜は明ける』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

3分間にわたる首吊りシーン

本作において最も衝撃的といえるのが、ソロモンがフォードの大工ティビッツによって首を吊られるシーンである。ソロモンに鞭打ちをしようとして返り討ちにあってしまったティビッツは、仲間を連れてソロモンを襲い、ロープで木に吊るし上げる。しかし農園の監督官チェイピンが「奴隷はフォード氏の財産であり、お前たちにそれを奪う資格はない」と銃で脅したため、縄が緩まり、ソロモンはかろうじてつま先をつくことができた。

しかしチェイピンにも縄を解く権利はない。ソロモンはフォード氏が帰るまでの数時間、ぬかるんだ地面で足を滑らせないよう、つま先で必死にバランスを取りながら耐える。その姿が3分以上映し出され、観客に奴隷制度の残酷さを知らしめている。もちろんほかの奴隷たちもソロモンを助けることは出来ない。一人の女性が周りを気にしながらソロモンに水を飲ませるが、その後は奴隷たちも次第に普通の生活に戻っていく。問題を起こした奴隷が首を吊られることなど日常茶飯事なのだと思い知らされる。命の瀬戸際にいるソロモンの背後で、無邪気に遊ぶ子どもたちの姿が印象的なシーンである。

「法は変わるが普遍の真理は変わらない」

エップスのもとで酷い扱いを受けていたソロモンは、ある日エップスに雇われたカナダ人大工のバスと出会う。彼は奴隷たちに対等な扱いをするだけでなく、エップスに対し「君の家で働く人の労働環境がひどすぎる」と苦言を呈す。そして世の中には悪法もあるとし、「君の自由を奪い奴隷にできる法が成立したら?」とエップスに質問する。

エップスはありえないと笑うが、バスは「法は変わるが普遍の真理は変わらない」と毅然と述べる。エップスの奴隷に対する態度は最後まで変わらないが、バスのこの言葉はソロモンに一筋の光をもたらす。そして勇気を持ってバスに自分の正体を打ち明けたことで、ソロモンは12年という長い奴隷生活から解放されることとなるのだ。

『それでも夜は明ける』のエピソード・逸話

ソロモン・ノーサップの物語は、アカデミー作品賞を受賞したことで、より多くの人たちに知られることとなった。そして全米学区教育委員会協議会は、この映画を公立高校での推薦教材に加えることを決定。元教師であるジュディス・フラディン、デニス・フラディン夫妻は、このソロモンの物語を子どもたちに伝えたいと、かねてから原作を基に児童書や絵本を出版していた。これらの本にも再び注目が集まり、奴隷制度という負の歴史を子どもたちにきちんと教えようという動きが強まりつつある。

黒人初の大統領が誕生する一方で、黒人の青年が白人警官に射殺されるなどの事件は後を絶たない。そんななかで奴隷問題を扱った本作がアカデミー作品賞を獲得し、子どもたちの教育に使われることは、今なお根強く残る黒人差別問題に、一石を投じることとなるかもしれない。

予告動画

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@masaki12259

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