『恐怖』とは、楳図かずおによるホラー漫画。『月刊平凡』にて1966年から1970年まで連載された『高校生記者シリーズ』をコミックスにまとめたものである。全21エピソードから成り、視覚的な怖さやサイコサスペンス的な恐ろしさなど、あらゆる形の恐怖ストーリーが描かれている。同作品はみやこ高校新聞部に所属する高校生男女が、様々な恐怖体験や事件に巻き込まれていくホラー作品である。
コンドラ
コンドラとは、『恐怖』に登場する怪獣。どのような作品に出ていたのかが不明だが、人形が発売されていたことから人気のある怪獣だったことが窺える。正少年が大切にしていたコンドラ人形は、後に彼を殺害した轢き逃げ犯人を見つけ出して復讐するために、意志を持って巨大化・行動したのだった。
百物語(ひゃくものがたり)
百物語を開催したみやこ高校ミステリークラブの面々
百物語(ひゃくものがたり)とは、日本に実在する怪談を行う会合スタイルである。怪談を100話行うことが名前の由来であり、100話を語り終えた時に本物の物の怪が現れたり、怪現象が起きると言われている。『恐怖』では、『うばわれた心臓』の中でみやこ高校のミステリークラブ女子部員たちが百物語を開催しており、100話目が終了した時に死んだはずの御山多加子が現れ、松山瞳に移植された自分の心臓を奪うという恐ろしい出来事が勃発したのだった。
『恐怖』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
『コンドラの童話』におけるコンドラが意志を持つシーン
正の遺影の横で意志を持ったコンドラ
『恐怖』の1エピソード『コンドラの童話』は、正少年が轢き逃げに遭って死亡し、その犯人を怪獣コンドラが追うというストーリーである。コンドラの正体は正が大切にしていた人形であり、彼の墓前に備えてあった人形が突如意志を持ち、巨大化して街中を暴れ回るシーンが描かれた。楳図かずおの描線によって描かれたコンドラには、怪獣としての魅力と恐怖が内包されており、特に巨大化以降のコンドラが怖かったと読者の間で高く評価されている。
『白い右手』における右手が暴走するシーン
『白い右手』扉絵
『白い右手』は、天才ピアニスト野木カオルの右手が、ピアノ好きだがスキルの低い五十嵐文子に移植されたことによって物語が動き出すホラーものである。文子の意思に反して、右手が勝手に動き出してピアノを弾こうとするシーン、文子が右手の暴走を止めるために自分をベッドに縛り付けるシーン、そして右手が床を叩きながら暴走するシーンが名場面として多くの読者に強烈な印象を残した。
『うばわれた心臓』における心臓移植手術シーン
意識があるまま心臓を取り出される御山多加子
『うばわれた心臓』は、『恐怖』秋田書店サンデーコミックス版第1巻のトップを飾ったエピソードであり、そのためファンの間で特に人気が高いエピソードとして知られている。病気になった時に、お互いの心臓を譲り合おうという約束をしたほどの親友だった松山瞳と御山多加子だったが、瞳が本当に心臓の病に侵されると、そのことを知って心臓を奪われるかもしれないとの恐怖にかられる多加子の心理描写が秀逸である。そして、事故で亡くなったと勘違いされ、生きたまま多加子の心臓が取り出される手術シーンは、『恐怖』の中でもとりわけスプラッター色の濃い名場面だと高く評価された。この手術シーンが、後の楳図かずおの代表作『洗礼』における脳移植手術シーンに活かされたと考察するファンも多い。
『サンタクロースがやってくる』における一男の祖父が佳司の頭を捥ぎ取るシーン
佳司の頭部を捥ぎ取る一男の祖父
『サンタクロースがやってくる』は、『恐怖』の中でも屈指の後味の悪さを誇るストーリーが展開される。一男と彼の祖父の関係が描かれて、成長した一男には息子の佳司が生まれた。佳司が一男の祖父の形見といえるハト笛を吹くと、何故か祖父が生き返って現れる。こうした超常的な場面が描かれた後、佳司を孫と勘違いし続けた祖父が佳司の頭部を腕力で捥ぎ取り、白い袋に入れて消え去ってしまう。この不条理な結末が、多くの読者にトラウマを植え付けたといわれている。
『恐怖』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
あらゆるタイプのホラーストーリーが展開される『恐怖』
『恐怖』 ビッグコミックスペシャル版 第2巻表紙
楳図かずおの代表作の1つである『恐怖』は、様々なタイプのホラーストーリーが描かれていることから、ファンの間で人気の高い作品として有名である。特に視覚的な恐怖を追求し、スプラッター&ゴア描写が衝撃的な『うばわれた心臓』や不条理劇の傑作『サンタクロースがやってくる』が高く評価されている。一方で、『魔性の目』や『みにくい人』など、外面と内面の美醜が徹底的に描かれた傑作や、『夜あるく者』など後の代表作『おろち』に繋がるサイコホラーものも存在する。さらに、『雪女』のような古典的な怪談タイプのエピソードもあり、あらゆる恐怖が追及された。
また、『恐怖』は連載期間が1966年から1970年までの約4年間に及んだため、楳図の細かい絵柄の変化も楽しめる。第1話『800年目のミイラ』は『へび少女』などの少女漫画に近い絵柄だったが、最終話『雪山のまねき』は『おろち』や『イアラ』など所謂楳図かずおのパブリックイメージに近い絵柄で描かれた。
『コンドラの童話』と『ウルトラマン』の関係性
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目次 - Contents
- 『恐怖』の概要
- 『恐怖』のあらすじ・ストーリー
- 800年目のミイラ
- 悪魔の24時間
- 雪女
- 吸血面
- コンドラの童話
- 孤独なヨット
- 恐怖の館
- イヌ神
- 白い右手
- 魔性の目
- 枯れ木
- うばわれた心臓
- 顔を見ないで
- 毒ガ
- こわい絵
- われたつり鐘
- みにくい人
- とりつかれた主役
- 夜あるく者
- サンタクロースがやってくる
- 雪山のまねき
- 『恐怖』の登場人物・キャラクター
- メインキャラクター
- 荒井エミ子(あらいえみこ)
- 青木夏彦(あおきなつひこ)
- 800年目のミイラ
- 神無月京子(かなづききょうこ)
- 静(しずか)
- 悪魔の24時間
- 仁木(にき)
- 悪魔
- 雪女
- 水島(みずしま)
- 加藤(かとう)
- 雪女(ゆきおんな)/小夜雪子(さよゆきこ)
- 吸血面
- 美原レイ子(みはられいこ)
- コンドラの童話
- 正(ただし)
- さち子(さちこ)
- 孤独なヨット
- 宮下久美(みやしたくみ)
- 聖子(せいこ)
- 剛三(ごうぞう)
- 恐怖の館
- 洋館の男
- 老人
- イヌ神
- 犬部(いぬべ)
- 白い右手
- 五十嵐文子(いがらしふみこ)
- 野木カオル(のぎカオル)
- 魔性の目
- 直美(なおみ)
- 謎の老人
- えり子(えりこ)
- 枯れ木
- 男性教師
- 女性教師
- 校長
- うばわれた心臓
- 松山瞳(まつやまひとみ/演:高橋由美子)
- 御山多加子(みやまたかこ/演:杉山綾子)
- 顔を見ないで
- 久美(くみ)
- 毒ガ
- 大宮ルミ子(おおみやるみこ)
- 田中由美(たなかゆみ)
- こわい絵
- 江夏(えなつ)
- 江夏優子(えなつゆうこ)
- 麻利アヤコ(まりアヤコ)
- われたつり鐘
- 豊(ゆたか)
- みにくい人
- 阿利砂ミカ(ありさミカ)
- 石川土子(いしかわつちこ)
- とりつかれた主役
- 中村(なかむら)
- 夜あるく者
- 森本花代(もりもとはなよ)
- 葉子(ようこ)
- サンタクロースがやってくる
- 一男(かずお)
- 一男の祖父
- 一男の叔母
- 佳司(けいじ)
- 雪山のまねき
- 武内裕也(たけうちゆうや)
- 武内の恋人
- 『恐怖』の用語
- みやこ高校(みやここうこう)
- コンドラ
- 百物語(ひゃくものがたり)
- 『恐怖』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 『コンドラの童話』におけるコンドラが意志を持つシーン
- 『白い右手』における右手が暴走するシーン
- 『うばわれた心臓』における心臓移植手術シーン
- 『サンタクロースがやってくる』における一男の祖父が佳司の頭を捥ぎ取るシーン
- 『恐怖』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- あらゆるタイプのホラーストーリーが展開される『恐怖』
- 『コンドラの童話』と『ウルトラマン』の関係性
- 秋田書店サンデーコミックス版『恐怖』に収録された別エピソード『灰色の待合室』
- 実写ビデオソフトが制作・発売された『うばわれた心臓』
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