『恐怖』とは、楳図かずおによるホラー漫画。『月刊平凡』にて1966年から1970年まで連載された『高校生記者シリーズ』をコミックスにまとめたものである。全21エピソードから成り、視覚的な怖さやサイコサスペンス的な恐ろしさなど、あらゆる形の恐怖ストーリーが描かれている。同作品はみやこ高校新聞部に所属する高校生男女が、様々な恐怖体験や事件に巻き込まれていくホラー作品である。
みやこ高校のご神木であるグラウンドの隅に生えている巨大な桜の枯れ木を切ることになった。ところが、切ろうとした男性教師の斧が折れて、彼が重傷を負うなど、誰かが木を切ろうとすると災難が発生したことで、枯れ木の祟りだと言われるようになる。エミ子は、祟りが真実なのかを確かめるために、ご神木のしめ縄を外そうとした。すると、がけ崩れが発生して、彼女は下敷きになってしまった。祟りの噂が真実味を帯びるが、実は一連の災難は女性教師が仕組んだことだった。女性教師は殺人を犯しており、その死体をご神木の根元に埋めていた。しかし、彼女の犯罪は暴かれ、やはり祟りではなかったことが証明された。
うばわれた心臓
ある夜、みやこ高校ミステリークラブは百物語を開催した。そこへ、普段とは様子の違うエミ子が取材へやって来る。99話目になった時、松山瞳(まつやまひとみ)は、これまで秘密にしてきた御山多加子(みやまたかこ)と自分にまつわる怖い話を話し始めた。瞳と多加子は大親友で、その仲の良さはどちらかが心臓の病気になった時、片方が死ねばその心臓を相手にあげるという約束をするほどであった。ところが、瞳が心臓の病に罹患した際、それを知った多加子は心臓を奪われるのではないかと戦慄した。メンタルに異常をきたした多加子は家に引きこもるが、ある日彼女の家にダンプが突っ込む大事故が起き、即死してしまった。そして、約束通り心臓移植手術が行われ、瞳は全快した。この話を終えた後、突如エミ子が実はその時多加子が生きながら心臓を奪われたと告白する。このエミ子の正体は多加子で、彼女の身体には心臓がなかった。多加子は瞳から心臓を取り返す。そこへ本物のエミ子が訪れ、多加子と瞳の後を追うと、心臓を奪われて息絶えた瞳の無残な姿を目撃したのだった。
顔を見ないで
ある日、夏彦は交通事故に遭い気絶した。彼が目を覚ますと、久美(くみ)という女性の家で看病されていた。夏彦は久美の美しさに惚れて、以降彼女の家へと足しげく通うようになる。エミ子は、夏彦のただならぬ様子に戸惑い、ひたすら神仏に祈った。実は、久美の正体は幽霊であり、その肉体は腐乱していた。正気に戻った夏彦は、気分転換に海水浴へ出かけたが、実はそこは久美がいる場所だった。久美は、夏彦を海中深く沈めようとしたが、エミ子の祈りが通じて、夏彦は救われたのだった。
毒ガ
ある日、エミ子は飼っていた小鳥が逃げてしまい、後を追ってみやこ高校へと来た。すると、理化学部のリーダー大宮ルミ子(おおみやるみこ)が小鳥を捕まえて、毒ガの鱗粉から生成した防腐剤を注射していた。悲しみと怒りの感情を見せるエミ子に対して、ルミ子は悪びれることもなく研究の成果を自慢する。後日、田中由美(たなかゆみ)という女生徒が学校で転落死した。由美の両親は、娘を火葬にするに忍びず、ルミ子の提案を受け入れて遺体に防腐剤を注射してもらう。数日後、由美の遺体は毒ガの化け物へと変貌し、両親に毒鱗粉を浴びせて町を徘徊した。何とか遺体は捕らえられたものの、今度はルミ子の口から糸のようなものが出るようになった。それは、ルミ子が毒ガの化け物になる前兆だった。
こわい絵
みやこ高校の教師江夏(えなつ)の妻優子(ゆうこ)は、重い病に臥せっており、亡くなる直前に自画像を描き上げていた。優子の死後、ふさぎ込んでいた江夏は、教え子だった麻利アヤコ(まりアヤコ)と恋に落ちて再婚する。アヤコは、幸せな日々を過ごしていたが、部屋に飾られている先妻の自画像の表情が憤怒を帯びたものに変化していることに気付いて恐怖を覚える。彼女は、江夏に絵を捨てるよう懇願したが、夫は躊躇して断るのだった。ある時、絵画から剣を持った優子が抜け出してアヤコを殺そうとした。エミ子と夏彦が駆けつけたことでアヤコは九死に一生を得たのである。
われたつり鐘
エミ子は、ある年の大晦日を父の実家で迎えた。彼女は、従兄弟の豊と一緒に近くの寺へ除夜の鐘を突きに行った。しかし、この寺のつり鐘は割れると不吉なことが起きるいう言い伝えがあるため、誰も鳴らそうとはしなかった。エミ子が何も考えずに鐘を突くと、鐘は勢いよく割れてしまう。村は騒然としたが、エミ子と豊は白を切り通した。しかし、正月が終わったエミ子に次々とトラブルが降りかかった。彼女は目の手術を受けようとするが、受診した病院の医者は医療事故を起こしていた。エミ子の目にメスが刺さりそうになった時、目からつり鐘の破片がこぼれ落ちる。つり鐘の呪いから解放されたエミ子は、手術を受けることなく無事に生還したのだった。
みにくい人
みやこ高校で一番の美人と言われる阿利砂ミカ(ありさミカ)と一番の醜女の石川土子(いしかわつちこ)は、大の仲良しだった。しかし、土子は自分の顔にコンプレックスを感じており、整形手術の費用を貯金している。ある日の登校時、駅のホームにて土子は衝動的にミカを後ろから電車の前に突き落とした。轢死は免れたミカだったが、全身打撲の重傷を負い、顔にもひどい傷跡が残った。その後、土子は整形手術を受けて美人に生まれ変わった。しかし、顔に醜い傷を負ったミカが彼女の前に現れ、執拗にホームで自分を突き落としたのは誰かと尋ねてきた。そして、再び駅のホームにて、今度は土子の後ろにミカが立つ。堪りかねた土子は、自分が犯人だと白状する。すると、実は顔の傷が癒えていたミカが冷たい視線で土子を見つめた。こうして、2人の少女の友情は終焉したのだった。
とりつかれた主役
みやこ高校の演劇部は、発表会に向けて「地獄変」という劇に取り組んでいた。ところが、当日主役を演じるはずだった女子生徒が、急性盲腸炎で倒れてしまう。その窮地を救ったのは、大根役者扱いされていた男子の中村(なかむら)だった。彼は台詞を全部覚えていたばかりではなく、メーキャップを施されると見事に女性を演じ切ったのである。発表会の後、部員の1人が悪戯心で歌舞伎のようなメーキャップを中村に施すと、彼の性格が凶暴になった。中村は、取材に訪れていたエミ子が劇の最中に自分を嘲笑していたと勘違いして襲いかかる。その時雨が降っていたため、中村のメーキャップが落ちて、エミ子は助かった。この事件以降、中村はメンタルが壊れてしまい、滅茶苦茶なメーキャップをして暴れ出し、遂には自分で自分の腹を刺してしまうのだった。
夜あるく者
エミ子は、取材のために女子バレーボール部の合宿に参加していた。合宿場所は、キャプテン森本花代(もりもとはなよ)の地元である。夜に恒例の肝試しが行われ、花代はこの地に伝わるとされる怖い話をした。その内容は、大人しい嫁が夢遊病にかかり、墓場で土葬された死体を貪り食うというものだった。この話を聞いていた新人部員の葉子(ようこ)は、夜に目を覚ました時に、何故か自分の両手土に塗れて口の周りに血が付いていたことで、自分も夢遊病者になったのだと恐怖した。しかし、これは花代をはじめとするバレー部の先輩たちの悪戯であることが後に判明する。
サンタクロースがやってくる
みやこ高校の教師である一男(かずお)は、エミ子と夏彦に少年時代の自分のことを話していた。彼の両親は幼い頃に亡くなっており、祖父の手で育てられた。祖父は元大工で、ハト笛を作って売ることで生計を立てていた。やがて、祖父は病で床に臥せってしまう。その間、叔母が2人の面倒を見たが、その態度は厳しいものであった。祖父は、叔母内緒でおもちゃを用意し、それを大きな白い袋に詰めるようになった。ある年の12月25日、祖父は孫にハト笛を渡し、辛い時にはこれを吹くように言い残して亡くなった。一男は叔母に引き取られたが、実は彼女は人情味のある良い性格であり、彼は逆に祖父に甘やかされてきたことを実感する。やがて、彼は祖父のことを忘れていった。大人になった一男には、今佳司という息子がいる。あるクリスマスの夜、一男は懐かしいハト笛の音色を聞いたような気がする。それは佳司が吹いたものだった。すると、死んだはずの祖父が現れる。祖父は佳司のことを一男だと思い込み、おもちゃを与え続けた。そして、祖父は孫を自分の傍に置こうとして、一男の制止を振り切って佳司の頭部を捥ぎ取ってしまう。祖父は佳司の頭部を袋に詰めて、何処へと去った。一男のもとに残されたのは、血塗れの佳司の胴体だけだった。
雪山のまねき
御殿場スキー場にて、エミ子と夏彦は怪しい男女2人を発見した。男性の武内裕也(たけうちゆうや)は恋人の女性と心中をするために雪山へとやって来た。しかし、死ぬのが怖くなり、女性をクレバスに突き落として一人逃げ帰ってしまう。それ以降、武内はどんなに暖かい場所にいても、酷い寒さに凍えるようになる。そして、遂に恋人の幽霊が彼の眼前に現れて、元の雪山へと引き摺り込んだのだった。
『恐怖』の登場人物・キャラクター
メインキャラクター
荒井エミ子(あらいえみこ)
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目次 - Contents
- 『恐怖』の概要
- 『恐怖』のあらすじ・ストーリー
- 800年目のミイラ
- 悪魔の24時間
- 雪女
- 吸血面
- コンドラの童話
- 孤独なヨット
- 恐怖の館
- イヌ神
- 白い右手
- 魔性の目
- 枯れ木
- うばわれた心臓
- 顔を見ないで
- 毒ガ
- こわい絵
- われたつり鐘
- みにくい人
- とりつかれた主役
- 夜あるく者
- サンタクロースがやってくる
- 雪山のまねき
- 『恐怖』の登場人物・キャラクター
- メインキャラクター
- 荒井エミ子(あらいえみこ)
- 青木夏彦(あおきなつひこ)
- 800年目のミイラ
- 神無月京子(かなづききょうこ)
- 静(しずか)
- 悪魔の24時間
- 仁木(にき)
- 悪魔
- 雪女
- 水島(みずしま)
- 加藤(かとう)
- 雪女(ゆきおんな)/小夜雪子(さよゆきこ)
- 吸血面
- 美原レイ子(みはられいこ)
- コンドラの童話
- 正(ただし)
- さち子(さちこ)
- 孤独なヨット
- 宮下久美(みやしたくみ)
- 聖子(せいこ)
- 剛三(ごうぞう)
- 恐怖の館
- 洋館の男
- 老人
- イヌ神
- 犬部(いぬべ)
- 白い右手
- 五十嵐文子(いがらしふみこ)
- 野木カオル(のぎカオル)
- 魔性の目
- 直美(なおみ)
- 謎の老人
- えり子(えりこ)
- 枯れ木
- 男性教師
- 女性教師
- 校長
- うばわれた心臓
- 松山瞳(まつやまひとみ/演:高橋由美子)
- 御山多加子(みやまたかこ/演:杉山綾子)
- 顔を見ないで
- 久美(くみ)
- 毒ガ
- 大宮ルミ子(おおみやるみこ)
- 田中由美(たなかゆみ)
- こわい絵
- 江夏(えなつ)
- 江夏優子(えなつゆうこ)
- 麻利アヤコ(まりアヤコ)
- われたつり鐘
- 豊(ゆたか)
- みにくい人
- 阿利砂ミカ(ありさミカ)
- 石川土子(いしかわつちこ)
- とりつかれた主役
- 中村(なかむら)
- 夜あるく者
- 森本花代(もりもとはなよ)
- 葉子(ようこ)
- サンタクロースがやってくる
- 一男(かずお)
- 一男の祖父
- 一男の叔母
- 佳司(けいじ)
- 雪山のまねき
- 武内裕也(たけうちゆうや)
- 武内の恋人
- 『恐怖』の用語
- みやこ高校(みやここうこう)
- コンドラ
- 百物語(ひゃくものがたり)
- 『恐怖』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 『コンドラの童話』におけるコンドラが意志を持つシーン
- 『白い右手』における右手が暴走するシーン
- 『うばわれた心臓』における心臓移植手術シーン
- 『サンタクロースがやってくる』における一男の祖父が佳司の頭を捥ぎ取るシーン
- 『恐怖』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- あらゆるタイプのホラーストーリーが展開される『恐怖』
- 『コンドラの童話』と『ウルトラマン』の関係性
- 秋田書店サンデーコミックス版『恐怖』に収録された別エピソード『灰色の待合室』
- 実写ビデオソフトが制作・発売された『うばわれた心臓』
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