ホーホケキョ となりの山田くん(ジブリ映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ホーホケキョ となりの山田くん』とは1999年に公開されたスタジオジブリの長編アニメーション映画である。監督を高畑勲が務め、スタジオジブリ作品において唯一松竹によって配給された作品となっている。原作は朝日新聞に連載されていた、いしいひさいち作の『となりの山田くん』。映画では4コマ漫画のエピソードを繋げたオリジナルストーリーで進んでいく。5人と1匹の犬によるほのぼのとした日常の中で、怒り笑い涙ありの様々なドラマがユニークに描かれた家族の絆の作品である。

作:与謝蕪村
現代語訳:空はうららかに晴れ渡り春の海には波がゆるやかにうねりを描いて、1日中のたりのたりと寄せては返している。

エンドロールの前である家族全員でプリクラを使って集合写真を撮った後の、物語の締めくくりに引用されている。

『ホーホケキョ となりの山田くん』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

藤原先生「適当。適当にね。」

出典: www.ghibli.jp

のの子の担任の先生である藤原先生が、今年の決意は何かと訊かれた際に出た台詞が「適当。適当にね。」であった。適当と聞くと不真面目、不誠実であり良くない印象を抱くが、この場面では捉え方が変わってくる。また現代の真面目すぎる日本人にこそ必要な言葉であった。完璧を求め何かと比較したり競い合うことの多い現代社会であるが、少し力を抜くことは決して悪いことではない。全てに全力で毎日を生きるのではなく、程良いところを見つける力をつけることこそが必要であると、先生の言葉は生徒だけでなく鑑賞者にも考えるきっかけを与えている。子供は言葉のままに受け取るだろう。しかし大人は自身の経験と照らし合わせ、考える能力が身に付いている。「適当」の言葉は本作の柔らかいタッチや、藤原先生の雰囲気と共に優しく響くものであった。

披露宴でのたかしのアドリブスピーチ

出典: x.com

一緒に披露宴に出席していたまつ子からカンニングペーパーを受け取り、マイクの前に立ったたかし。しかし手渡されたメモはスーパーの買い物メモと入れ替わっており、たかしはドン底に突き落とされることとなる。動揺するたかしの様子に気付き青ざめるまつ子。たかしはそれでも続行するしかなかった。こうして即興でスピーチをしなければいけなくなったのだが、これが深く心に刺さる素晴らしいスピーチへと繋がることとなる。しかし最初は感情のままに何を口走ってしまうかわからないハラハラがあり、そこで出てきた言葉が「人生諦めが肝心です。」というもの。スピーチが始まった時のまつ子はアチャーと手を顔に当てていた。しかしそのメッセージは次第に熱を帯びていく。たかしの底力が発揮された。家族であれど自分ではない人との共同生活。その中で家族の平和を保ち、楽しい家庭生活を送る為には許すことが必要であるとたかしは言う。そして許すためには諦めが必要なのだ。また自分自身も他人に許されている可能性があり、互いに許し許されることで生活や人生は成り立っているという気付きを、たかしはスピーチを通して訴える。諦めという言葉はマイナスなイメージで使われることが多いが、諦めることのできた人がやっとのことで許すという行為に至れるという人生の教訓のような素晴らしいスピーチであった。

のぼる「わが家が平和なのはどうしてか分かったよ。みなさんが3人ともみんな変で、どっちもどっちだからだ。」

出典: eiga.com

本作の終盤でのぼるが叫んだ台詞である。一家で最後の喧嘩騒ぎが起きた時のこと。まずはしげがたかしをムスッとさせ、次にたかしが反撃。間に入ったまつ子であったが今度は2人に絡まれまつ子が激怒。これが原因でテレビの音が聞こえずのの子が泣き出すという、3人もズッコケの展開を迎える。それまで静かにしていたのぼるは、ここで立ち上がり「わが家が平和なのはどうしてか分かったよ!みなさんが3人ともみんな変で、どっちもどっちだからなんだ!」と片手を握り締めて力説を始めた。これに大人3人がまた怒り出す。果たしてこれが平和なのだろうかとも思うが、のぼる曰く、ここで誰か1人でもまともな人がいればバランスが崩れてしまうのだそう。自分がまともで誰かがおかしいと責め立てるのではなく、みんながおかしいという考えが新鮮であった。またバランスが崩れるということを、どこか楽しそうに話すのぼるを見ていると、本当にこの家族が好きなんだということが伝わってくる。またのぼるはまだ子供だが、無意識でたかしがスピーチで話していた諦めることを実践していたとも言える。彼は家族が皆変であることを子供ながらに受け入れているのだ。自分と違う人ではあるが皆お互い様であり、助け合い支え合って家族として生きている。たとえ喧嘩ばかりであっても、それでも平和なのが山田家なのであった。

『ホーホケキョ となりの山田くん』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

絵巻の手法で作られているオープニング

冒頭以外の各エピソード間は右から左へと横に移動しながら映像が流れていく。そしてその進行を促す役は全て、花札に登場する動物や昆虫が担っていた。このようにしてできた映像は一巻の絵巻のようにして展開されている。 またまつ子とたかしがリモコンの取り合い合戦をした後の2人でダンスをするシーンには、絵巻の異時同図法が用いられている。 手前で踊る2人と奥で踊る2人が同時に描かれており、時間差で動いている。同じ画面内に同じ人物を描くことで時間経過を表しているものであった。 また別のシーンでは動く「〜」の波線が、公衆電話における音声を表していたり、他にも湯気の表現に「〜」が使われている。通常であればエアブラシであったり半透明にする等の特殊効果が使われるが、本作では漫画表現に用いられている線での表現がされている。またこの線を使った音声等の表現の始まりは中世の絵巻物にもあったとされている。こうした点からも、絵巻物を意識したアニメーションであることが窺える。

徳間康快の東宝との喧嘩により唯一松竹に配給された映画

ジブリの親会社である徳間書店の初代社長、徳間康快が東宝と喧嘩をした為に、松竹によって配給されているジブリの中で唯一の作品である。出資額は『もののけ姫』を上回っているものの配給収入は60億円という目標を大きく下回る7.9億円であった。平成に制作されたジブリ作品の中で最も低い結果となっている。また興行収入は15.6億であり、元々の期待値が高かった為、良くない印象として鈴木敏夫は受け止めていた。また松竹が客席の多い映画館を用意してしまったことも悪く作用し、ガラガラな印象を与えてしまったという。さらに本作の営業担当が初心者であったこと、当時西日本に新作映画の観れる映画館がほとんど無かったこと等もあり、散々な状況の中で勝負をしなければならなかった。

観客不入りの要因は描かれている部分が少ないことによる画面の白さ

高畑監督の考えにより本作は水彩画のような手描きの質感を出したデジタル彩色が施されている。通常の3倍にもなる作画の数である17万枚もの絵が使われており、『かぐや姫』に次ぐ絵の量とされている。その分、制作費は莫大な金額となった。また色彩や描かれている範囲は控えめでありながらもキャラクターの感情表現は全身を使って大きく描かれているが、この描かれている範囲が狭いことによる全体的な白さが映画向けではなかったと言われている。画面から受ける印象が観客の少なかった要因の一つとされている。

『ホーホケキョ となりの山田くん』の主題歌・挿入歌

主題歌

矢野顕子「ひとりぼっちはやめた」

作詞作曲:矢野顕子
映画全体を表すような優しい雰囲気の音楽。数あるジブリのヒット作に比べて、莫大な制作費がかかったにも関わらず思うような結果が得られなかった本作。この楽曲は物語に寄り添いながらも、今思うとヒットとならなかった本作を包み込むような温かさを持った主題歌とも捉えることのできる1曲である。

挿入歌

popoi_3333
popoi_3333
@popoi_3333

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