かもめ食堂(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『かもめ食堂』とは2006年に公開された映画で、フィンランドのヘルシンキに日本人女性・サチエがオープンした小さな食堂を舞台に、3人の日本人女性とフィンランド人との穏やかで心温まる交流を描いたヒューマンドラマである。原作は群ようこの同名の小説。小林聡美、片桐はいり、もたいまさこの3人が主演の萩上直子監督作品。かもめ食堂がヘルシンキの人々に受け入れられ、身近な食堂としてみんなの居心地の良い居場所になっていく物語である。

『かもめ食堂』の概要

『かもめ食堂』とは2006年3月に公開された、フィンランドのヘルシンキに日本人女性・サチエがオープンした小さな食堂を舞台に、3人の日本人女性とフィンランド人との穏やかで心温まる交流を描いたヒューマンドラマである。原作は群ようこの同名の小説。小林聡美、片桐はいり、もたいまさこの3人が主演の萩上直子監督作品だ。キャッチコピーは「ハラゴシラエして歩くのだ」。
最初は、東京と横浜の2館だけの上映であったが、口コミで人気が広がって全国公開となり、興行収入5億8000万円のヒットとなった。2007年の第28回ヨコハマ映画祭では、第5位を獲得。2006年には、『かもめ食堂』が評価され、新人映画監督に贈られる日本の映画賞・新藤兼人賞において、萩上直子監督が銀賞を獲得した。

「かもめ食堂」は、フィンランドのヘルシンキにサチエがオープンした食堂の名前である。最初は、異国の小さな人がやっている店として、近所のフィンランド人にはいぶかしがられていたかもめ食堂に、お客さん第一号としてトンミ・ヒルトネンがやって来てから物語は動き始める。トンミが日本オタクであったことから、「『ガッチャマンの歌』を教えてほしい」と頼まれたサチエ。なかなか歌詞を思い出せずにいたときに出会ったのが、たまたま世界地図で指をさした場所がフィンランドだったという不思議な理由でヘルシンキに来ていたミドリだった。サチエはミドリを自分の家に居候させ、ミドリはかもめ食堂もお手伝いするようになる。サチエとミドリが運営するかもめ食堂には、次々に個性的な面々が現れ、お店も段々とお客さんが入るようになっていく。かもめ食堂と同じ場所で店をやっていたフィンランド人男性のマッティや20年間の親の介護から解放されてふらりとフィンランドへやって来たマサコ、夫に出て行かれて酒に溺れていたリーサなどを中心に、言語を超えた人々の交流を描いたヒューマンドラマである。

『かもめ食堂』のあらすじ・ストーリー

かもめ食堂お客さん第一号

フィンランドのヘルシンキに一軒の小さな食堂があった。名前はかもめ食堂、店主は日本人女性のサチエ。いつも客がいない店を、通りかかる人たちにいぶしがられていた。
ある日、サチエがいつものように店内でうたた寝していると、フィンランド人の青年トンミ・ヒルトネンが来店する。トンミは日本のアニメのTシャツを着ており、日本語も話せる、日本オタクのようだった。サチエは、日本語でコーヒーを注文したトンミに「日本語、上手ですね」と話しかけた。すると、トンミは「『ガッチャマン』は好きですか」と尋ねる。トンミは、『ガッチャマン』の主題歌の歌詞を全部教えてほしいと言い、ノートを取り出す。サチエは歌詞を思い出そうとするが、なかなか思い出せない。結局、トンミがいる間に、思い出すことは出来なかった。サチエは「かもめ食堂第一号のお客さんだから、コーヒー代は無料でいいです」と言い、トンミは笑顔で帰っていった。

ミドリとの出会い

サチエはトンミが帰った後も、『ガッチャマン』の歌詞を思い出せずに気になってしまう。立ち寄った本屋のカフェで、日本語の『ムーミン』の本を読む女性ミドリを見かけた。サチエは読んでいた本から漫画に詳しいかと思い、「『ガッチャマン』の歌をご存知ですか」と唐突に話しかけ、教えてほしいと頼み込む。ミドリは戸惑いながらも歌いながらノートに歌詞を書き、ノートを千切ってサチエに渡した。サチエは喜んでお礼を言い、そこから2人で他愛のない話を始めた。ミドリは、世界地図で指を指した場所がフィンランドだったので、フィンランドに来たことを話した。いつまで滞在するか決めていないと言うミドリに、歌詞を教えてもらったお礼に、自分の家に来ないかと誘うサチエ。
一緒にサチエの家に帰り、ミドリに和食を振る舞うサチエ。ミドリは一口お米を口にすると、日本の味に安心したのか涙を流した。サチエに、フィンランドで食堂をやることにした理由を聞くミドリ。サチエは冗談を言いながら、「本当はここならやっていけると思った」と曖昧に答えた。そして、「かもめ食堂のメインメニューはおにぎりなんです」と言った。
翌日、2人で買い出しに行った後、一緒にかもめ食堂に向かう。着いてすぐに、トンミが再び来店する。サチエはトンミに、ミドリが『ガッチャマン』の歌を教えてくれたことを話した。その後、ミドリは1人観光に出掛け、再びかもめ食堂に戻ってくる。
戻ってきたミドリはサチエに、かもめ食堂を手伝わせてもらえないかとお願いする。サチエはミドリを受け入れて、一緒に働くことになった。

サチエの思い

店の中で作業するサチエとミドリ。ミドリはサチエに、初対面にも関わらずに、家に泊まれと言ってくれたことを尋ねた。サチエは「『ガッチャマン』の歌を完璧に覚えている人に、悪い人はいないですからね」と冗談交じりに答えた。
その夜、毎日の習慣となっている、合気道の膝行を行っているサチエ。今後のかもめ食堂の心配をしたミドリは、日本のガイドブックに掲載することを提案した。かもめ食堂には相変わらず、トンミ以外のお客さんは来ていなかった。
しかしサチエは、ガイドブックを見てきてくれるような人は、かもめ食堂の「匂い」とは違うと言う。もっと身近な存在としてふらっと入れる、そんな場所にしたいと語るサチエ。そして、「真面目にやっていれば、そのうちお客さんが来るようになる」と言い切る。

美味しいコーヒーを淹れるおまじない

コーヒーを淹れるサチエ

ある日、サチエが一人で店番をしていると、フィンランド人のマッティが来店する。マッティは、注文したコーヒーを飲み「うまい」と言うが、「もっと美味しいコーヒーの淹れ方を教えてやる」と言った。サチエは不思議に思うが、教わることにする。マッティは、コーヒーの粉におまじないとして「コピ・ルアック」と言って指を当て、それからお湯を注いだ。おまじない以外は、サチエの淹れ方と変わらなかった。サチエが一口飲むのを見て、マッティは「うまいだろ。コーヒーは自分で入れるより人に入れてもらうほうがうまいんだ」と言い、お代を置いて帰った。
サチエは教わった通り、おまじないをしてコーヒーを淹れた。帰ってきたミドリがそのコーヒーを飲むと、「豆を変えました?美味しい」とびっくりする。来店したトンミも満足そうな顔をする。二人の様子に、サチエは満足そうに微笑んだ。

お客さんを呼びよせたシナモンロール

ミドリは、おにぎりの具材を変えてみてはどうかと提案する。サチエは渋々ながらも、フィンランドでよく使われる食材で、試作を始める。居合わせたトンミと一緒に試食するが、米との相性が悪く、試作は失敗に終わる。
その夜サチエは、「膝行を教えて欲しい」と言うミドリと共に膝行をする。そして突然、シナモンロールを作ってみようかと思いつく。
翌日、シナモンロールを作るサチエとミドリ。すると匂いに誘われて、以前店を覗いていた、3人組のフィンランド人のおばあさんが来店してくる。ミドリはお客さんが来て、とても喜ぶ。サチエも、店じまい後に行ったプールで、ご機嫌に歌いながら泳いでいた。
ある日のかもめ食堂には、常連になった3人組のおばあさんとトンミが訪れ、いつもより賑わっていた。そんなかもめ食堂を覗く、フィンランド人の女性リーサの姿があった。サチエが会釈すると、リーサは何も言わず立ち去って行った。

マサコとの出会い

また別の日、かもめ食堂を覗くリーサの姿があった。かもめ食堂には、徐々にお客さんが来るようになっていた。リーサを見慣れていたサチエとミドリだが、日本人女性のマサコも、中を覗いていることに気づいた。マサコは中に入り、コーヒーを注文する。マサコはサチエに、空港に着いて荷物が届かなかったことを話した。
翌日、航空会社に「荷物はまだ届かないかしら」と電話かけるマサコ。その後、かもめ食堂に来店するマサコ。マサコはサチエとミドリと話し、「やりたいことをやってらしていいわね」と言う。サチエは「やりたくないことをやらないだけなんです」と答えた。

やりきれない気持ちとの向き合い方

翌日、かもめ食堂にトンミとマサコがやってきた。そして、じっと覗いていたリーサが、初めてかもめ食堂に来店した。リーサはマサコの隣の席に座り、コスケンコルヴァというフィンランドの強いお酒を注文した。一気に飲み干したリーサは、サチエにも酒を勧める。サチエは断り、ミドリも同様に断った。マサコはコップを受け取って、コスケンコルヴァを飲み干す。リーサはもう一杯飲むと、椅子から落ちて倒れてしまう。
居合わせたトンミがリーサを背負い、リーサの自宅まで運ぶ。サチエとミドリ、マサコも付き添い、リーサを介抱する。落ち着いたリーサは、泣きながらマサコに消えた夫の話をした。帰り道、マサコはサチエとミドリに、「リーサの夫が出ていってしまい、しかもその理由がわからないと言っていた」と話す。マサコは言葉は通じないが、身振りや口ぶりで言っていることがわかるし、悲しい気持ちはどこに居ても一緒だから通じると話した。
翌日、かもめ食堂に来店したトンミとマサコに、昨日のお礼を伝えるサチエとミドリ。マサコの介抱がとても手際良かったのを、尋ねるサチエ。マサコは両親の介護を20年してきたこと、相次いで両親を亡くしたことを話す。そして、テレビでフィンランドのエアギター選手権を見て、目的もなく来てしまったと語る。サチエはマサコに「しばらくぼーっとしていればいい」と言うが、マサコは「ぼーっとするって意外と難しい」と答える。「どうしてこの国の人は、ゆったりのんびりしているように見えるのかしら」と言うマサコ。会話を聞いていたトンミは「森があります」と言う。その一言を聞いて、「森に行ってきます」と店を後にするマサコ。そして、小川の音だけが響く静かな森で、きのこ狩りに没頭するのだった。

かもめ食堂のおにぎり

翌日、かもめ食堂には4組のお客さんがいて賑わっていた。そこへマサコが来店する。「きのこ狩りをしていたのに、いつの間にかきのこがなくなっていた」と不思議な話をするマサコに、ミドリは注文を尋ねた。マサコはおにぎりを注文した。初めてかもめ食堂でおにぎりの注文が入り、うれしそうにおにぎりを握るサチエ。運ばれてきたおにぎりに、興味津々なフィンランド人のお客さんは、マサコが食べる様子をじっと見ていた。美味しそうに食べるマサコを見て、サチエも自然と笑顔になっていた。
しばらくすると、マサコもかもめ食堂を手伝うようになっていた。ちょうど客がいない時、酒で酔いつぶれたことを謝りに来店したリーサ。目や身振りで会話するマサコとリーサ、突然「日本には人を呪うような魔術はあるか」と尋ねるリーサ。サチエは、藁人形に呪いたい人を思いながら、釘を打ち付けるものがあることを教える。その夜、消えた夫を思って実践するリーサ。
ある日、サチエとミドリ、マサコとリーサは4人でカフェに来ていた。リーサはサチエに、飼っていた一匹の犬の写真を見せる。夫が出ていってすぐに亡くなってしまったと話し、その犬とサチエが似ていると言う。リーサはサチエを見ていると、犬のことを思い出すと話し、かもめ食堂を覗いていたのもそのためだった。
またある日、かもめ食堂で作業をするサチエとミドリとマサコ。サチエはおまじないをかけて、コーヒーを淹れる。その淹れたてのコーヒーを飲む三人と居合わせたトンミ。飲みながらミドリは、サチエにメインメニューがおにぎりである理由を聞く。
するとサチエは、父親に作ってもらったおにぎりの話を始めた。母を早くに亡くし、小さい頃から家事をしていたサチエ。一年のうち運動会と遠足の日の2度だけ、父親がおにぎりを握ってくれる日があった。父親は「おにぎりは自分で握るより、人に握ってもらったほうがうまいんだ」と言いながら、用意してくれていた。そのおにぎりは、梅と鮭とおかかのシンプルなものだったが、とても美味しかったと話すサチエ。それが、かもめ食堂のメインメニューがおにぎりである理由だった。話を聞いたミドリは涙をにじませ、マサコもうなずきながら話を聞くのだった。

みんなの居場所になったかもめ食堂

翌日、マサコは荷物が見つかったことをサチエとミドリに話す。そして、「荷物が見つかったので、そろそろ帰る時期なのかな」と言い、かもめ食堂を後にする。マサコが日本に帰ってしまうことを寂しがるミドリ。サチエは「マサコさんが決めたことを、喜んであげないといけない」と言う。そして、「でも、ずっと同じではいられないものですよね。人はみんな変わっていくものですから」とつぶやく。
マサコが滞在しているホテルの部屋に、アタッシュケースが届いていた。開けてみるとそこには、一人で森に行った時に拾ったきのこでいっぱいになっていた。マサコは海辺で、再び航空会社に電話をかける。そこに一人のフィンランド人のおじいさんがやってきて、マサコに連れていた猫を手渡す。マサコが受け取ると、おじいさんは去ってしまった。マサコはかもめ食堂を訪れ、おじいさんから猫を預かってしまったので、帰れなくなったと話す。そして、「またかもめ食堂のお手伝いをしたい」と言うマサコに、サチエは「もちろんです」と答える。
いつものようにかもめ食堂の準備を始める3人。その日は大盛況で、ひっきりなしにお客さんが訪れた。そこへ、きれいにおめかしをしたリーサがやってくる。サチエの元へ駆け寄り、夫が帰ってきたことを嬉しそうに話す。そしてリーサは、おにぎりを注文した。サチエは笑顔で「キートス(フィンランド語でありがとう)」と返す。
サチエはふと顔を上げ、お客さんがいっぱいのかもめ食堂を見渡し、満足そうに微笑んだ。
ある日、かもめ食堂の準備をしながら、それぞれの「いらっしゃい」の言い方について話していた。ミドリは「サチエさんのいらっしゃいは、すごくいいんですよ」と言う。マサコに見せて下さいと言われるが、照れてやろうとしないサチエ。そこにトンミが来店する。サチエの「いらっしゃい」がかもめ食堂に響いた。

『かもめ食堂』の登場人物・キャラクター

サチエ(演:小林聡美)

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