アメリカン・スナイパー(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『アメリカン・スナイパー』とは、2014年公開のアメリカ映画である。イラク戦争に従軍した実在の狙撃兵クリス・カイルの自伝的原作を、巨匠クリント・イーストウッド監督が実写映画化。主演はブラッドリー・クーパーが務める。クリスは海軍史上最強と言われる伝説的スナイパー。だが過酷な任務に心を蝕まれ、彼と家族はその影響に苦しむ。残酷な戦場と虚しい戦争の実像を、過剰な演出を排除した構成で淡々と描く。ミリタリー・アクションとしての鑑賞にも十分堪えるが、極めてメッセージ性の強い反戦映画である。
ここでいうアメリカ大使館爆破事件とは、1998年8月7日にケニアとタンザニアで起こった同時爆破テロ事件のことである。ケニアのナイロビとタンザニアのダルエスサラームにある両アメリカ大使館が爆破され、死者は224人に上り5000人以上の負傷者を出した。アメリカ政府はこれをアルカイダの犯行と断定し、当時のクリントン政権はスーダンとアフガニスタンを攻撃するに至る。
ロデオの賞金稼ぎや牧場の使用人として生活していたクリスは、この事件に衝撃を受け海軍へ入隊した。
アメリカ同時多発テロ事件
2001年9月11日未明に、アメリカ合衆国に対して行われた4か所の同時多発テロ攻撃事件である。マンハッタンにあるワールドトレードセンターのノースタワーとサウスタワー、そしてバージニア州アーリントンのペンタゴン(国防総省本庁舎)に旅客機が突入し、大爆発を起こした。そして未遂に終わったがワシントンD.Cを標的としていた旅客機は、ペンシルバニア州の野原に墜落した。旅客機4機は全てハイジャックによりコントロールを失い、乗客や搭乗員もろとも標的に突っ込むというテロ事件であった。
この攻撃により2,977人が死亡、25,000人以上の負傷者が出た。アメリカ史上どころか人類始まって以来、最悪の事件だといわれる。アメリカ政府はこの事件をアルカイダによるテロ攻撃と認定し、アフガニスタンへ侵攻を開始する。これにより、その後のイラク戦争へと発展していくことになった。
クリスとタヤは、自宅のテレビでこの様子を目の当たりにする。あまりの惨劇に言葉を無くし、タヤは泣き崩れた。その後しばらくしてふたりは結婚するが、式の最中にクリスが所属する部隊に招集命令が下り、戦地イラクへと派遣されることになる。
イラク戦争
イラク戦争は、2003年3月20日から始まったイラクに対する軍事介入である。アメリカが中心となり、イギリスとオーストラリア、ポーランドなどの各国が参加する有志連合が参加した。第二次湾岸戦争ともいわれる。この戦争において大規模な正規軍同士の戦闘は同年5月には収束し、以後は中小規模の反米武装勢力との小競り合いが続いた。ベトナム戦争以来の泥沼化の様相を呈していたが、2010年8月末にバラク・オバマ政権によって終結宣言が発令される。
このイラク戦争にクリス・カイルは4度出征し、ファルージャ、ラマーディー、サドルシティなどの戦闘に参加した。無事に生き残り、帰還を果たすが戦闘による心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症、クリスは家族と共にその影響に苦しんだ。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
強いストレスを感じる出来事を経験したり、目撃するなどして精神的に機能障害を起こす症状のことをいう。恐怖感や無力感を覚えたり、悪夢に悩まされ過去のイヤな思い出がフラッシュバックしたりもする。そのような状態が1ヵ月以上継続し、日常生活や社会生活に大きな支障が出た際に医師から心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断される。症状が慢性化した場合、治療が数か月~数年に及ぶことも珍しくない。
4度のイラクへの派兵を経験したクリスは帰国後、この症状に悩まされる。血圧が高い状態が続き、頭の中では戦場の銃撃音や爆発音が鳴り響く。タヤの言葉にも上の空で、時には怒鳴ったりもした。クリス自身はそのことを認めたがらなかったが、タヤの説得に応じて軍のカウンセラーを受ける。やがてクリスは自分を見つめなおし、軍医の勧めにより退役軍人をサポートするボランティアを始める。
海軍特殊部隊シールズ(Navy SEALs)
海軍特殊部隊シールズ(Navy SEALs)とは、大きく分けた2つの特殊戦グループと8つのチームから成るアメリカ海軍の特殊部隊である。シールズという名の由来は、SEが海(SEA)、Aが空(AIR)、Lが陸(LAND)と、それぞれアルファベットの頭文字から取られており、アザラシ(英語でseal)と掛けている。その名が語る通り、環境を問わず偵察や監視、戦闘等の特殊作戦に対応出来る能力を持つ部隊である。訓練は過酷そのもので、しかも長期に及ぶ。
まず「ASVABテスト」という資質試験があり、クリアした者のみが5週間の基礎教育課程を受けられる。続けて、3段階25週間に及ぶ「基礎水中爆破訓練」と呼ばれる独自のカリキュラムがあり、それらを修了して初めてシールズ入隊の資格が与えられる。さらにパラシュート降下や衛生、語学の学習などを行う21週間の「最終訓練」を終えた者のみ、実際の任務に就くことができる。アメリカ軍の中でも特に過酷な訓練課程とされ、約6ヶ月の基礎水中爆破訓練だけでも入隊志願者のおよそ8割が脱落する。
クリス・カイルは過酷極まりない入隊資格訓練をやり遂げ、8つのうちチーム3に配属された。チーム3の担当は中東地域であるため、イラク戦争に派遣されることになる。
アメリカ国防情報局(略称DIA)
アメリカ国防情報局(略称DIA)とは、アメリカ国防総省の諜報機関である。FBIやCIAなどと同様に、アメリカ政府のインテリジェンス・コミュニティーのひとつ。軍事情報を専門に収集、調整するための機関であり、DIA長官は国防総省の意思決定にも参加する。また、統合参謀本部(実質的な軍上層部)の偵察作戦支援を担当する幕僚も兼ねている。本部の所在地はワシントンD.C南西にある「アナコスティア=ボーリング統合基地」にあるとされ、およそ16,500人の職員が働いている。
本作で登場するスニードDIA捜査官は、イラクに赴きアルカイダ幹部などの情報を統括、収集する任務を負っている。そのため、クリス・カイルの所属するシールズに協力を仰ぎ、イラク・アルカイダにおける有力人物の捜索活動を行っていた。
『アメリカン・スナイパー』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
ウェイン「人間には3つの生き方がある」
少年時代の出来事である。ある日、弟のジェフがひどく殴られいじめられていた。そこへクリスは割って入り、相手を殴り倒してジェフを助け出した。顔にあざを作り泣きべそをかいたジェフと、まだ興奮冷めやらぬ様子のクリスを前に父のウェインは息子たちを諭すように言う。
「この世界には3種類の人間がいる。羊と狼、そして羊の番犬だ。この世の悪意に無縁な者もいるが、そんな人々はいざという時に身を守る術を知らない。彼らは羊。じっとしているだけだ。その羊を襲って食べようとする奴らがいる。そいつらが狼だ。そして戦う術を知り、羊の群れを守る才能を持って生まれた者がいる。狼に立ち向かえるのは彼らだけ。それが番犬だ」
父の言葉はクリス少年の心に強く響いた。「うちでは羊など育てていない。だが狼になればケツをひっぱたく」と、ウェインは続けた。クリスはこの時から、羊の番犬になることを決意する。そして、父の薫陶や教えはクリスの生き様に大きな影響を与え、イラクでは仲間を守るため奮戦することになる。
クリス「そうじゃない。君からバーを救い出したんだ」
軍事訓練を終え、クリスは正式に海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊する。そんな時に行きつけのバーで、運命の女性タヤと出会う。初めはぎこちない二人だったが、次第に打ち解けていった。やがて飲み過ぎてしまったタヤは、バーを飛び出し店先で吐いてしまう。クリスは嘔吐物が付かない様にタヤの髪をまとめてやり、背中をさすって介抱する。
やっと一息つき、タヤが「ずっと兵士になりたかったの?」とクリスに問いかけると、クリスは「カウボーイになりたかった。だけど何か物足りなくてさ」と答える。するとタヤは「それでバーから私を助け出したのね」と、やや自嘲気味につぶやく。まだ少し苦しそうな様子だ。それを受け、クリスが「そうじゃない。君からバーを救ったんだ」と笑顔で言うと、タヤも思わず吹き出してしまった。
飲み過ぎたタヤを優しく介抱して、実際には助けたと言える。だがタヤの軽妙な比喩に対して、クリスは照れ隠しもあったのかジョークで返したのだ。タヤがあまりにも大酒飲み(単に飲み過ぎただけだが)なので、バーからお酒が無くなっては大変とのジョークである。ふたりはその後、愛を育み結婚することになる。クリスにとって人生で最良のひとコマであり、タヤとの親交が深まった重要なエピソードである。
『アメリカン・スナイパー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
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目次 - Contents
- 『アメリカン・スナイパー』の概要
- 『アメリカン・スナイパー』のあらすじ・ストーリー
- クリス・カイルの生い立ち
- 運命の出会い
- 第一回派遣
- 第二回派遣
- 第三回派遣
- 第四回派遣
- その後のクリス
- 『アメリカン・スナイパー』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- クリス・カイル(演:ブラッドリー・クーパー)
- 少年時代のクリス(演:コール・コニス)
- 主人公の家族
- タヤ・カイル(演:シエナ・ミラー)
- コルトン・カイル(演:マックス・チャールズ)
- ウェイン・カイル(演:ベン・リード)
- デビー・カイル(演:エリース・ロバートソン)
- ジェフ・カイル(演:キーア・オドネル)
- 少年時代のジェフ(演:ルーク・サンシャイン)
- 主人公の元恋人
- サラ(演:マーネット・パターソン)
- アメリカ軍の上司・同僚
- マーク・リー(演:ルーク・グライムス)
- ビグルス/ライアン・ジョブ(演:ジェイク・マクドーマン)
- ドーバー/ケヴィン・ラーチ(演:ケヴィン・ラーチ)
- ゴート/ウィンストン(演:カイル・ガルナー)
- D(ディー)/ ダンドリッジ(演:コリー・ハードリクト)
- リス(Squirrel)/ケイス(演:エリック・ラディーン)
- トニー(演:レイ・ガイエゴス)
- マーテンス中佐(演:サム・ジェーガー)
- スニードDIA捜査官(演:エリック・クローズ)
- ギレスピー大尉(演:ブライアン・ハリセイ)
- イラクの住民
- オボーディ師(演:ナヴィド・ネガーバン)
- アルカイダの人物
- ムスタファ(演:サミー・シーク)
- 虐殺者(ブッチャー)(演:ミド・ハマダ)
- 『アメリカン・スナイパー』の用語
- イラク周辺地図
- アメリカ大使館爆破事件
- アメリカ同時多発テロ事件
- イラク戦争
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- 海軍特殊部隊シールズ(Navy SEALs)
- アメリカ国防情報局(略称DIA)
- 『アメリカン・スナイパー』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- ウェイン「人間には3つの生き方がある」
- クリス「そうじゃない。君からバーを救い出したんだ」
- 『アメリカン・スナイパー』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 当初、監督はスティーブン・スピルバーグを予定
- ブラッドリー・クーパーの壮絶な役作り
- モロッコで行われた大規模なロケ
- 本人役での出演やカメオ出演したスタッフがいた
- 『アメリカン・スナイパー』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:Van Morrison『Someone Like You』
- 挿入歌:Ennio Morricone『The Funeral』
- 挿入歌:Clint Eastwood『Taya's Theme』
- 挿入歌:Dean Valentine『Main Theme』
- 『アメリカン・スナイパー』の予告編