うみべの女の子(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『うみべの女の子』とは、『マンガ・エロティクス・エフ』(太田出版)にて2009年から2013年にかけて連載された浅野いにおによる成人向け恋愛漫画作品である。本作は、田舎で暮らす中学生たちの性や葛藤を描いている。憧れの先輩にフラれた中学2年生の女の子・小梅は、その腹いせに同級生・磯辺と初体験を済ませてしまう。はじめは自分に好意を抱いている磯辺を利用していた小梅だったが、1枚の写真をきっかけに2人の立場は逆転していく。

狭い浴槽で磯辺に顔を近づける小梅。
親が不在の磯辺の家でさんざん求めあった後、湯船につかりながら磯辺に顔を近づけた小梅は「してもしても何か足りない気がするのは、なんでだと思う?」と問いかける。磯辺に距離を置かれ心にぽっかりと穴が開いていた小梅は、この少し前にフラれたはずの三崎と会っていた。しかし小梅は、案の定求められた性的な行為を拒んでその場から逃げる。小梅はこの時すでに、「自分は磯辺を好きになってしまった」と自覚していたのだ。
磯辺「テメーの理屈を押しつけてくるバカが多過ぎる。バカの一番悲しい所はそのバカさを説明しても理解できない所だ。誰のこと言っているかわかるか?お前だお前だお前だ、この勃起野郎。俺は俺の理屈でお前の内蔵をひきずり出して、屈辱的な死に様を世界中に晒してやる」

殴られながらも不敵な笑みを浮かべる磯辺。
磯辺に小梅との関係性と追及するはずが磯辺の煽りに乗せられ殴りかかってしまった鹿島。その勢いのまま磯辺の兄の死について触れてしまう。すると磯辺はニヤリと口角を上げて「テメーの理屈を押しつけてくるバカが多過ぎる。バカの一番悲しい所はそのバカさを説明しても理解できない所だ。誰のこと言っているかわかるか?お前だお前だお前だ、この勃起野郎。俺は俺の理屈でお前の内蔵をひきずり出して、屈辱的な死に様を世界中に晒してやる」と言う。磯辺は兄を排除した者たちに復讐したのちに、兄と同じく自殺しようと考えていたのだ。しかしその考えは、「うみべの女の子」本人と出会うことによって変わっていくこととなる。
磯辺を探し回る小梅

荒れる町で磯辺の名前を叫ぶ小梅。
磯辺と連絡が取れなくなっていた小梅。学園祭の日になっても顔を見せない磯辺を探し回る小梅だったが、その姿を見つけることはできなかった。猛烈な豪雨の中を必死に駆け回る小梅の描写に相反する『風をあつめて』の穏やかな歌詞が差し込まれている印象的なシーンである。
小梅「そんな楽しそうな磯辺…見たくなかった…」

変わってしまた磯辺に涙を流す小梅。
行方をくらませていた磯辺と再会した小梅。しかし、磯辺は人が変わったように明るくなって「うみべの女の子と同じ高校に行く」と言い出した。磯辺は自分と今の関係を断つ気だと悟った小梅は涙を流しながら「そんな楽しそうな磯辺…見たくなかった…」と告げる。自分に思いを寄せていたはずの磯辺が他の誰かに取られたことからくる嫉妬心や、想いを遂げられない絶望のような感情が小梅の中に渦巻いているのだった。
磯辺「…やっぱりやめとく。最後までお前に振り回される訳にはいかない」

一度近づけた顔を離した磯辺。
告白を断られた小梅が「最後にキスをしてくれたら磯辺のことを忘れられる」と言い、思わず小梅に顔を寄せる磯辺。しかしあと少しのところで、「…やっぱりやめとく。最後までお前に振り回される訳にはいかない」と小梅から離れていく。一瞬小梅といたころの自分が顔をのぞかせるが、生きていく希望を見出した磯辺は「そんな自分と決別する」という選択をしたのだ。
『うみべの女の子』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
磯辺の決意
鹿島が「小梅はバンプの藤原みたいなのが好きだ」と言っているのを聞いてから、前髪を伸ばし続けていた磯辺。しかし、行方をくらませたのちに小梅と再会した磯辺は前髪をバッサリ切っていた。これは「うみべの女の子」との出会いをきっかけに、「小梅との今の関係を断とう」という決断をしたことの表れととれる描写である。
「都市部の人間」と「地方の人間」の比較
作者の浅野は、「これまでは都心部を舞台にした作品が多かったため、それらと差をつけるために生み出した“田舎を舞台とした作品”である」と語っている。
小梅っていうのはそこで育って、そこの文化圏を形成している人。対して磯辺は外からやってきた人だから、そこで明確に「都市部の人間」と「地方の人間」っていう比較が生まれているんですよね。だから最初のスタート地点からふたりには全然違うものが見えてるっていうのは明らかでもある。
出典: qjweb.jp
実写化にあたって外せなかったシーン

小梅が荒れる町の中磯辺を探すシーン。
本作の実写化を考案した制作人の中で、これが欠けたら『うみべの女の子』ではないというほど大切なシーンが3つある。1つは小梅と磯辺の性描写、2つめは『はっぴいえんど』の楽曲『風をあつめて』、そして3つめは台風のシーンである。作者の浅野が中でも重要だと語るのは、台風で荒れる町の中を行く小梅の描写の合間に『風をあつめて』の歌詞が差し込まれるシーンだ。完成された映画を見た浅野は「僕はこういうことを漫画でやろうとしていたんだ!完璧!」と語っている。
『うみべの女の子』の主題歌・挿入歌
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目次 - Contents
- 『うみべの女の子』の概要
- 『うみべの女の子』のあらすじ・ストーリー
- 秘密の関係
- 「うみべの女の子」
- 兄の死にとらわれる磯辺
- 小梅と磯辺の葛藤
- 小梅の気持ちと磯辺の復讐
- 磯辺の決断
- 高校に進学した小梅
- 『うみべの女の子』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 佐藤小梅(さとうこうめ/演:石川瑠華)
- 磯辺恵介(いそべけいすけ/演:青木柚)
- 同級生
- 鹿島翔太(かしましょうた/演:前田旺志郎)
- 小林桂子(こばやしけいこ/演:中田青渚)
- その他
- 三崎(みさき/演:倉悠貴)
- うみべの女の子(演:高崎かなみ)
- 湯ノ原明(演:髙橋里恩)
- 白瀬香菜恵(演:宮﨑優)
- 鈴木摩理(演:円井わん)
- 土井洋文(演:西洋亮)
- 大津克俊(演:平井亜門)
- 磯辺の兄
- 磯辺の父(演:村上淳)
- 『うみべの女の子』の用語
- うみべの女の子
- はっぴいえんど
- 『うみべの女の子』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 磯辺「…俺が嫌いなのは、そういう自分勝手な欲求を満たすために他人の内面に土足で踏み込んでくる奴。自分の腹黒さに無自覚で平然と生きてられる奴が世の中多すぎるから、俺等は生きてるだけで息が苦しいってことをお前は一瞬でも想像したことある?」
- 小梅「してもしても何か足りない気がするのは、なんでだと思う?」
- 磯辺「テメーの理屈を押しつけてくるバカが多過ぎる。バカの一番悲しい所はそのバカさを説明しても理解できない所だ。誰のこと言っているかわかるか?お前だお前だお前だ、この勃起野郎。俺は俺の理屈でお前の内蔵をひきずり出して、屈辱的な死に様を世界中に晒してやる」
- 磯辺を探し回る小梅
- 小梅「そんな楽しそうな磯辺…見たくなかった…」
- 磯辺「…やっぱりやめとく。最後までお前に振り回される訳にはいかない」
- 『うみべの女の子』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 磯辺の決意
- 「都市部の人間」と「地方の人間」の比較
- 実写化にあたって外せなかったシーン
- 『うみべの女の子』の主題歌・挿入歌
- 挿入歌: はっぴいえんど『風をあつめて』