岩戸鈴芽（すずめの戸締まり）の徹底解説・考察まとめ

鈴芽の地元での様子は本作の序盤にしか出てこないが、友人たちが宮崎地方の方言を交えた口調で話しているのに対して、鈴芽自身は標準語に近い言葉を使っている。
これは「主人公である鈴芽にあまり強い方言を使わせると、それ以外の地方の視聴者に何を言っているのか伝わりにくくなる」という作劇的な理由以上に、「彼女がもともと宮城の生まれで、宮崎の方言を使い慣れていない」ことが理由になっていると思われる。

『すずめの戸締まり』は巧妙に伏線を織り込んだ物語で、この「鈴芽が標準語に近い言葉を使っている」というのもその1つとなっている。

母の形見のイスの「時系列がつながらない」矛盾

作中の重要アイテムとして登場する「鈴芽の母の形見のイス」だが、冷静に考えるとおかしな点がある。現在鈴芽が持っているこのイスは、幼い頃に常世の中で高校生になった自分から手渡されたものであり、つまり「幼い頃の鈴芽が高校生の自分から常世で受け取る → 草太と融合して要石となり、常世に封じられる → 高校生の鈴芽が常世に乗り込んで要石を解放し、草太とイスを分離させる → 高校生の鈴芽が常世に迷い込んだ幼い頃の自分に渡す」というループが発生している。ということは、本来母が作ってくれたイスとは無関係の代物になってしまっているはずなのだ。

しかし常世は“全ての時が同時に存在する場所”であり、東日本大震災で津波に薙ぎ倒された無数の瓦礫もまた流れ着いている。津波に飲み込まれた問題のイスも常世に存在しているはずで、この段階で現在のイスと過去のイスが融合した可能性がある。上述のループの中に閉じ込められているのであれば、本来もっと劣化していなければならないはずのイスが一定の姿を保っているのも、この説を後押しする材料となっている。