ガラスの仮面(美内すずえ)のネタバレ解説・考察まとめ

「ガラスの仮面」は美内すずえによる日本の少女漫画作品。1976年から白泉社「花とゆめ」に40年以上も長期連載されている。2014年9月の段階で累計発行部数が5,000万部を超え、少女漫画の金字塔とも言われる大ベストセラー。
平凡な1人の少女・北島マヤが演劇への熱い情熱を滾らせ、演劇に全てをかけ、才能を開花させる。演劇界のサラブレッド・姫川亜弓と競いながら幻の名作「紅天女」を目指す超人気大河ロマン。

真夏の夜の夢

【背景】
劇団つきかげぷらす一角獣の舞台「フランケンシュタインの初恋」が大成功に終わり、一角獣の団長・堀田は更なる飛躍を求め、地下劇場ばかりでなく座席数が多い大きな劇場・アテネ座を借りようとするのだが、話題性がないということで断られてしまった。
他の場所はないかと考えた結果、「真夏の夜の夢」の題材にピッタリというマヤの提案に乗り、断られた劇場の近くに有る公園内にある野外ステージを公演場所に選んだ。
マヤも月影に許可を得て、公演に参加が決まった。

アテネ座の支配人は、断った劇団が実は演劇コンクールで上位入賞を果たした劇団だったと知り、野外ステージにつきかげと一角獣の様子を見に来ていた。
もし、アテネ座の収容人数よりも多く観客を集めることができたら、アテネ座への出演を考えるという約束を、大都芸能・速水の立会のもとで行った。
俄然やる気になるマヤたちに、速水は舞台が成功するための様々なアドバイスをする。速水が何の企みもなくマヤに協力するとは思えないとして、マヤは帰ろうとする速水を追いかけた。体調を崩した月影の様子を聞きたがるマヤを言葉巧みに連れ出し、成り行きでボートに乗ることになったマヤと速水。マヤはそこで月影の容態を聞くことができ、いつしか話題は紫のバラの人のことになった。マヤはいつか大劇場に出られるようになったら紫のバラの人を招待したいというマヤの夢を速水に語った。
もしも、紫のバラの人が嫌な人間だったらどうするかと問われたマヤは、どんな人でも好きになれると断言した。もっと深く問いかけようとした速水だったが思いとどまり、「日差しが眩しいな」と言ってごまかしてしまった。

速水が新聞社に手を回し、マヤたちの芝居を織り交ぜた派手な宣伝の効果が出て、初日の動員数は1400人、3日公演の総動員数は6000人も及ぶ大成功となった。

【あらすじ】
シェークスピア原作。
アテネ近郊の森に脚を踏み入れた貴族や職人、森に住む妖精たちが登場する喜劇である。
デメトリアスと結婚する予定のハーミアだが、ライサンダーと恋仲になり、そのことを咎められ駆け落ちをしてしまった。
デメトリアスを思うヘレナは、デメトリアスに2人の駆け落ちを知らせ、デメトリアスはハーミアを取り戻すために森の奥へ探しに行った。

妖精の王と女王は養子を巡り喧嘩中。
森の奥に逃げ、疲れて眠るライサンダーとハーミア、そして2人を追うデメトリアスとヘレナ。ふた組の男女の恋のもつれを治すため、養子を自分のものにするために妖精王は妖精パックに浮気草を持ってこさせ、策を講じる。
妖精パックの活躍により、最終的には大団円となる物語。

【配役】
妖精王・オーベロン:堀田太一
妖精の女王・タイターニア:沢渡美奈
デメトリアス
ライサンダー:青木麗
ハーミア:水無月さやか
ヘレナ:二の宮恵子
妖精・パック:北島マヤ

椿姫

【あらすじ】
青年貴族アルフレードは、パリの社交界の華・ヴィオレッタ(高級娼婦)に恋をし、情熱的に愛を捧げた。それによりヴィオレッタは真実の愛に目覚めた。
しかし、アルフレードの父は、2人の恋を認めず、2人は引き離されてしまった。

2人は困難を乗り越え、最後に再会できるのだが、その時にはヴィオレッタは結核に冒されており命が消える寸前だった。
アルフレードの腕の中でヴィオレッタは息を引き取った。

【配役】
アルフレード:桜小路優

二人の王女

【背景】
「ふたりの王女」オーディションにて圧倒的な実力差を見せつけ、亜弓の相手役を勝ち取ったマヤ。華やかな美少女・アルディスと暗く憎しみに満ちたオリゲルドのふたりの王女の対照的な生き方を描いた物語だが、誰もが絶世の美少女役は亜弓がやるものと思っていたのに、割り当てられた配役は、亜弓がオリゲルド、マヤがアルディスだった。
なかなか役が掴めないマヤと亜弓はお互いの環境を入れ替えることで役を掴もうとする。マヤが役作りに煮詰まっているのを知った速水は、紫のバラを贈って、マヤをレストランに呼び出した。紫のバラの人と会えると思い、期待に満ち溢れていたマヤだったが、現れたのは速水。そして、嘗てアルディス姫を演じたことがある北白川藤子だった。2人が初対面ということで、2人と面識がある速水が同席し、仲立ちを務めた。
紫のバラの人が引き合わせた北白川によって、マヤは「感覚の再現」という演技を学んだ。

【あらすじ】
ラストニアの王妃カタジーナは、反乱軍に手を貸していたという罪により、一族郎党処刑されてしまった。一人娘のオリゲルドも牢に捕らえられることになってしまった。しかしその罪は第2王妃ラグネイド一派が仕組んだ冤罪だった。第1王女オリゲルドは第2王妃一派への憎しみを胸に秘め、牢での生活に耐えていた。

新しく王妃となったラグネイドの娘、第2王女アルディスは、幼い頃から人々に愛され蝶よ花よと育てられた春の女神のような美しい娘に育った。牢に囚われている姉・オリゲルドにも心を尽くす優しい王女だった。
しかし、オリゲルドは一族の恨みを忘れず、密かにラストニアに対しての報復を企んでいた。反王国派の一派から旗頭とされたオリゲルドは協力するふりをして反王国派を欺き、城への復帰を果たした。

ラストニアと敵対関係にあるエリンワルドがデンマークと同盟を結んだと聞き、無益な争いを避けるため、アルディスをエリンワルドに嫁がせる計画が持ち上がった。しかし、まだ幼いアルディスは人質同然の婚姻を拒否。それを聞いたオリゲルドが代わりにエリンワルドに行くと名乗り出た。
これにより、オリゲルドの株は上がり、王位継承の証を王から授けられ、第1王女としてエリンワルドに嫁いだ。

エリンワルドに嫁いだオリゲルドはエリンワルド王に気に入られ、着実に力をつけていく。一方のアルディスは、隣国ハーランドとの戦を止めるために尽力し、2国は停戦に向かっていく。しかし、オリゲルドがラストニアに援軍を送ったことにより、停戦はラストニアから一方的に破棄、ハーランド王家を滅ぼした。
オリゲルドはラストニアの民から支持が高まった。アルディスは、ラストニアの行いに嘆き悲しむ。オリゲルドはさらに第一王位継承権を持つヨハンを殺害し、玉座を狙い始めた。重い病についた国王の死を憎き王妃・ラグネイドの陰謀として一族を処刑したオリゲルドは、ラストニアの女王の座につき、妹アルディスをかつて自分が入っていた牢獄に閉じ込めた。

アルディスが牢に入ってから3年の月日が流れた。天使のようなアルディスが苦しむ様を見ようと牢に行ったオリゲルドは、アルディスが昔のままその微笑みを絶やさず、番兵とも仲良くやっている様を見て愕然とした。
憎しみに駆られたオリゲルドはアルディスに剣を向けるが、アルディスはそれでオリゲルドの心が収まるならばと、剣を受け入れようとする。しかし、オリゲルドはどうしてもアルディスを殺害することはできなかった。
その時、アルディスを助けに騎士が牢に侵入、オリゲルドは騎士を見逃し、アルディスは騎士とともにラストニアを離れた。
アルディスは遠く離れた地で騎士と幸せになりながら、ラストニアの行く末を見守る。
オリゲルドは一族の復讐を果たし、念願どうりラストニアを手中に収めながらも、誰も信じない誰にも信じられない孤独と、いつ誰かに玉座を狙われるかわからない緊張の中で、ラストニアの女王として生きていく。

【配役】
オリゲルド:姫川亜弓
アルディス:北島マヤ
ラストニア国王:津田広志
王妃カタジーナ:東ひとみ
王妃ラグネイド:須坂田江子
皇太后ハルドラ:月影千草

アンナ・カレーニナ

【背景】
「ふたりの王女」を終えたマヤのもとに、差出人のない封筒が届いた。そこには舞台「アンナ・カレーニナ」の招待券が入っていた。
不審に思いつつも劇場に行き、指定席に座ると、舞台が始まる直前隣に現れたのは速水だった。「逃げないでくれ」という速水の必死な様子にマヤは絆され、一緒に観劇し、その後も一緒に縁日を巡ったりプラネタリウムに行ったりとデートのような一日を過ごした。

【あらすじ】
トルストイ原作

政府要人の妻として息子をもうけて幸せに暮らすアンナだったが、遊びに行った兄夫婦の家で、青年将校であるヴロンスキーと運命的な出会いをし、激しく愛し合うようになった。息子を置いて家を出たアンナは、街を追われヴロンスキーの領地で暮らすことになった。しかし、いつしか2人の間にすれ違いが生じるようになり、アンナは絶望し列車に身を投げた。
アンナを失い、生きる目的を見失ったヴロンスキーは戦争に身を投じトルコとの戦争に赴いた。

イサドラ!

【背景】
傾き始めた大沢演劇事務所は、大きな賞を狙うため黒沼の舞台に話題になるようなことをするようにと指示を出した。しかし、賞のための舞台はやらないと言う黒沼に業を煮やした大沢演劇事務所は、賞取りのための舞台を企画した。主演は星歌劇団の大スター円城寺まどか、演出は大ベテランの藤本夜彦。円城寺まどかの退団後初の舞台として話題を呼んだ。
大沢演劇事務所は「忘れられた荒野」が使っていた稽古場や予定していた劇場を「イサドラ!」のために使い、「忘れられた荒野」に出演予定の役者も何人も引き抜いて「イサドラ!」成功のために力を尽くす。
一方の「忘れられた荒野」は、パチンコ店の2階で電車の騒音が響き渡る劣悪な環境でありながらも、黒沼の舞台を作り上げようと稽古に励む。

【あらすじ】
裸足の天才舞踊手イサドラ・ダンカンの生涯を描いた舞台作品。
それまであった仰々しい舞台と美しく飾り立てた衣装を拒否し舞踊界に革命を起こしたイサドラ。成功し喝采を浴びたイサドラのもとには華やかな求愛者たちが集まり、そしてイサドラは結婚をせずに2人の子供を産んだ。
幸せの中にいたイサドラに突然の不幸が襲った。最愛の子供たちを事故で亡くし、イサドラは狂気の中で生きる日々を過ごす。
公演先のロシアで年下の天才詩人・イェセーニンと出会い結婚するがやがて破局し、イェセーニンはピストル自殺をしてしまう。
そして人生の終幕を迎えたイサドラ。残っているのはもう踊りだけ。イサドラは死の瞬間まで踊る。

【配役】
イサドラ・ダンカン:円城寺まどか

忘れられた荒野

【背景】
「ふたりの王女」で注目を浴びたマヤに、次々と出演依頼が舞い込んでくるのだが、月影と約束した2年の間に、亜弓と同等の賞を取らねばならないマヤには、次の作品で全てが決まるといっても過言ではない。
慎重に、次の舞台を選ぶマヤのもとに黒沼龍三という演出家がやってきた。マヤに「忘れられた荒野」の台本を渡した黒沼は、マヤの役は普通の人間ではなく狼少女の役だという。興味を惹かれたマヤは、「忘れられた荒野」に出演を決めた。
賞を取れ、という大沢演劇事務所の社長と反りが合わない黒沼に業を煮やした大沢社長は、もう一つ、賞が取れそうな舞台を企画、そちらをアカデミー芸術祭に参加させると決定してしまった。
しかし、大沢演劇事務所の「イサドラ!」初日公演後のパーティーで速水の挑発にのって、狼少女を演じたマヤの演技が話題を呼び、演劇関係者、芸術祭関係者は興味を持たれることになった。

公演初日、台風が直撃し、周囲の道路が封鎖される中、見に来た観客は速水一人しかいなかった。翌日からの公演も評判を呼び、「忘れられた荒野」はアカデミー芸術祭に参加が認められることになる。

【あらすじ】
1928年9月14日。カルパチア山奥にて狼の群れの中で四足で歩く裸の2人の少女が発見された。村人たちによって捕獲され、珍しい狼少女たちは見世物にされていた。姉は衰弱して亡くなり、残った妹は、若き人類学者であるスチュワートが引き取り、人間として育てていくことになった。
ジェーンと名付けられた少女は、まさに野生の狼そのものの生活をしていたが、スチュワートが根気よく人間としての教育を続けていく。途中、間違えてねずみ用の毒団子を食べてしまったジェーンをスチュワートが献身的に看病したことがきっかけで、ジェーンはスチュワートに懐いていく。
やがて二本足で歩くことを覚えたジェーンだが、言葉はなかなか覚えられない。しかし、スチュワートのスカーフの匂いを嗅いだジェーンは「スチュワアァ…」と叫んでいた。
やがて、スチュワートから離れ、人間の家庭のもとへと引き取られるジェーンだが、スチュワートからもらったスカーフだけは、絶対に身から離さなかった。

【配役】
狼少女ジェーン:北島マヤ
スチュワート:桜小路優

【背景】
全日本演劇協会最優秀演技賞を獲得したマヤは、亜弓とともに紅天女を目指せることになった。月影の意向で紅天女のふるさとへ行き、演技を学ぶことになった亜弓とマヤ。ここでふたりは月影から紅天女の全てを教わることになる。
まず、紅天女を演じるためには自然のことを理解しなければならない。月影は、2人に風・火・水・土を表現するようにと課題を出した。
まずは、風。2人は風をどう表現すればよいのか考え始めた。

【亜弓の演技】
亜弓の演技は最小限の動きで風を表現すること。まずはじめに静かに立つ。僅かに肩をすくめ、首を動かし視線と表情で風がうなじを風が通り過ぎたことを表現した。
月影は、亜弓の演技を完璧と評価した。

【マヤの演技】
マヤの演技は風になりきり風の一生を演じるものだった。旋風が巻き起こりそよ風、追い風、向かい風を体で表現する。
月影は、マヤの演技を「なりそこないの風」と酷評した。役、そのものになりきることは一見素晴らしいことのように見えて大きな欠点がある、といい、マヤに女優ならばなりきるのではなく、演じることを忘れるなと指導した。
月影の酷評を聞きながら亜弓は、役の本質に真っ直ぐに向かおうとするマヤの本能に恐れを抱いた。

【背景】
次の課題は火の演技。
マヤが風の演技で見せた、風そのものになろうとする演技が心に残る亜弓は、火のリズム、動きを演じようと試みる。
一方のマヤは、かまどの火を見ながら、心に宿る火を表現できないかと考えていた。
そんな時、源造に頼まれ町まで月影の薬を取りに来たマヤは、以前駅で出会った初老の男性に偶然出会った。甘味処で一緒に甘味を食べながら、火のエチュードのことを話したマヤにその男性は歌舞伎や浄瑠璃などでよく上演される「八百屋お七」という芝居を教えた。
マヤはお七の吉三に対する心の火を演じようとするのだった。

【亜弓の演技】
亜弓は、燃え盛る炎を両手に持った細長い布で表現した。激しく燃え盛る火、火の動きを音楽に合わせ、小さな頃から培ってきたバレエやダンスの練習を遺憾なく発揮し、火の勢い、リズムを表現した。亜弓の動きはこのまま舞台に立っても成立できるような完成されたものだった。

【マヤの演技】
マヤの演技は「八百屋お七」の1シーン。吉三に逢いたくて江戸の町に火を放ち、櫓に登って半鐘を打ち鳴らすシーンはパントマイムで表現している。全身を炎に巻かれ身を焦がすような切ないお七の心の火の演技をマヤは見せた。

月影は、亜弓の演技を火の精を思わせるほど美しいと賞賛し、マヤのお七を、演技的には未熟だが心の火がよく伝わると評価した。しかし、マヤのお七の目には恋の狂気がないとして、本物の恋をするようにと言うのだった。

【背景】
次の課題は水。
亜弓を追って、梅の里までやってきたカメラマン、ピーター・ハミルは月影にこれらのエチュードをやる意味を尋ねた。すると月影は、この課題の真の目的はその結果ではなく経過こそが大事なのだという。

マヤは水が雲や雨、時には虹に変化することに気づき、水力発電所を見学することで、水の力を知る。そして、水を司る龍神に思い至り、龍神を演ずることに決めた。
亜弓は水を生命をつなぐもの、愛としてとらえ、人間の全ての営みは愛の上に成り立っていると気づく。愛を失った時、水の泡になる定めを持った人魚姫を自分の水の演技とすることに決めた。

【亜弓の演技】
上半身裸になり水に飛び込んだ亜弓。水の中でしか生きられない人魚でありながら人間の王子様に惹かれ、人間になろうと魔女の薬を飲んだ。薬によって身体を作り替えられる痛みにのたうち、陸での呼吸もままならない。出来たばかりの足は立とうとするだけで激痛が走りなかなか歩けない。しかし、王子にもう一度会いたいという思いから激痛に耐え立ち上がった。
亜弓の演技は誰もが認めるほど美しく心惹かれるものであった。
ライバルであるマヤでさえも、亜弓の演技に夢中になり続きが見たいと惜しみない拍手を贈った。

【マヤの演技】
マヤは滝の裏側に入り込み、地響きのような唸り声を響かせながら両手を前に突き出し水の中から登場した。龍神として、自然をないがしろにし、水を当たり前のものとして感謝もせずに享受し、水を汚し水の恵みをむやみに取り漁る人間への怒りを表し、流れる水を人間の住処へとけしかける龍神の怒りを表現した。

見ていた人々はマヤの姿に龍神を見て、まるでマヤが水を動かしているように見え、しばらく口がきけないほどに衝撃を受けた。
抑えた演技ながら、効果的に両手を挙げ神の威圧感、怒りを見事に表現した。どうしてこの動きにしたのかと問われると、なんとなくかっこいいから、というマヤの返答にマヤの本能と才能に亜弓は嫉妬心を抑えることができなかった。

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