ガラスの仮面(美内すずえ)のネタバレ解説・考察まとめ

「ガラスの仮面」は美内すずえによる日本の少女漫画作品。1976年から白泉社「花とゆめ」に40年以上も長期連載されている。2014年9月の段階で累計発行部数が5,000万部を超え、少女漫画の金字塔とも言われる大ベストセラー。
平凡な1人の少女・北島マヤが演劇への熱い情熱を滾らせ、演劇に全てをかけ、才能を開花させる。演劇界のサラブレッド・姫川亜弓と競いながら幻の名作「紅天女」を目指す超人気大河ロマン。

マヤが真冬の海に飛び込んでチケットを拾う場面

ある日、「椿姫」の舞台が公演されることを知ったマヤ。どうしても見てみたいがチケットは高すぎて手が届かない。マヤが苦悩しているところに住み込み先の娘・杉子がボーイフレンドに誘われてその舞台を見に行くという。そのチケットを譲って欲しいとマヤが頼み込むと、杉子はマヤに条件付きで譲ってもいいと言い出した。
12月31日、杉子の家の中華料理店は、年越し蕎麦屋となり120軒もの出前をしなければならない。学生アルバイトが急に来れないと連絡が来たため、出前はマヤと杉子だけでやらなければならない。
杉子は、この120軒もの出前を12月31日中、横浜中の船の汽笛が成り終わるまでにマヤが1人で出前をやり遂げられたらチケットを譲ると約束した。
マヤはその条件を飲み、12月31日、たった1人で出前を開始した。一軒に10人前もの注文が入る時もあるが、マヤは徒歩で全ての出前をこなす。
本来ならば、大の男が3人でもねを上げるほどの辛い出前だが、マヤはチケットのために、夕食もとらず、休憩もせずにひたすら配達を繰り返す。手には血豆ができ足はガクガクと震えるが、椿姫の舞台を見れるという思いだけでマヤは出前を続ける。
船の汽笛が鳴り始め、出前は残り2軒となった。マヤの姿を見た杉子の母は、マヤにチケットを譲れと杉子に言うが、デートに行くのだから絶対に渡さないと杉子は叫び、12時までに1軒でも残っていたら、チケットは譲らないとマヤに念押しをする。
息を切らして全力で走り、12時ぴったりに最後の1軒に配り終えたマヤは、そのまま出前先で倒れてしまった。
母と杉子に連れられて店に戻る途中、山下公園でデート中の杉子に会った。約束通り、チケットを頂戴と言うマヤに、杉子は受け取りなさいと言いながらチケットから手を離し、チケットは風にさらわれて真冬の海に落ちてしまった。「あきらめなさい、あんたには観劇なんてぜいたくよ…。出前もちの子がなまいきよ…」という杉子。
マヤはチケットめがけて真冬の海に飛び込んだ。
チケットを手に取り、「いける…これで『椿姫』をみに…いける…」とマヤはびしょ濡れになりながらチケットを抱きしめ泣いた。
母は、マヤのこの姿を見て、一体この子はどんな人生を歩むことになるのだろうかと、思った。

誰もが無理だと思う無謀な挑戦でも、芝居を見に行くために執念を燃やし、真冬の海にまで飛び込むマヤの熱すぎる執念に驚愕する名場面。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 1巻

「あたし女優になります!」

「椿姫」の舞台を観劇し、学校の学芸会の芝居も経験し、もっと芝居をやってみたいという思いが強くなったマヤ。劇団員を募集していた劇団オンディーヌの入団テストを受けに行った。しかし、月謝が高くて、とても入団することができない。せっかく来たのだから、マヤは、せめて稽古を見て帰ろうと窓から稽古の様子を覗いていた。2時間もの間、つま先立ちで稽古をのぞき見ているマヤのことが気持ち悪いと思うようになった団員が、ドーベルマンをマヤにけしかけた。マヤが犬に襲われ怪我をしたところを、大都芸能の速水真澄と団員である桜小路優が助けた。速水の計いで、中で見学できることになったマヤに意地悪な団員たちは嫌がらせのようにパントマイムの課題をやらせた。
誰にも指導など受けたこともないマヤは、戸惑いつつも「逃げた小鳥」のパントマイムを始めた。拙い演技に団員たちは笑うが、同じ団員の姫川亜弓だけは、マヤの才能が分かり、以後注目するようになった。
一方のマヤは、亜弓の素晴らしい演技を見て、どうしても自分も演技をやりたいという気持ちになり、月影を訪ねた。中途半端な情熱ならやめろと忠告する月影に、マヤは「お芝居ができるならなんでもするつもりです!」と答えた。マヤの気持ちが本物だと感じた月影は、マヤを劇団つきかげという演劇研究所に連れて行った。この劇団に入れて欲しい、入学金や月謝はあとで働いて返す、と言うマヤに月影は、「演劇をやりたいというのは趣味なの?大人になったらどうするの!?演劇をやめて働くの!!」と強い口調で怒鳴った。マヤは月影の言葉に「いいえあたし、あたし女優になります!」と叫び返した。

ただお芝居が好きなだけだったマヤが、初めて明確に将来の夢を持った瞬間。マヤの決意が伝わる名セリフ。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 1巻

マヤを連れ戻しに来た母から月影がマヤを庇うシーン

芝居をやりたいという強い気持ちを持つようになったマヤは、母に月影の演劇研究所に行きたいと頼むのだが、なんの取り柄もないマヤに芝居など無理だとして取り合わない。母に逆らっても芝居をやりたいマヤは、母に黙って家を出て、歩いて横浜から東京まで月影のもとに行った。
マヤを受け入れた月影は、マヤを寮に住まわせ演技の指導を開始する。
家出したマヤを連れ戻しに母・春が東京の月影のもとにやってきた。マヤの気持ちも言い分も聞かず、頭ごなしにマヤを連れ戻そうとする春に、月影は「この子をなんの取り柄もない子にしてしまっているのはあなたです!」と春を咎めた。月影に非難された春は怒り狂い手近にあった熱湯の入ったやかんに手をかけた。マヤを返さなければ熱湯を浴びせると激しく言い放つ春の前に、マヤを庇って月影が立った。自分の子でもないのだから、熱湯に恐れをなしてすぐに逃げると思っていたのに、春がやかんを投げつけても月影は逃げず、マヤを守った。
実の親よりも、女優としてのマヤを大切に思い身を呈してマヤを庇った名シーン。
春は、月影のマヤに対する強い思いを感じて、マヤを月影に託すことにした。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 1巻

4つの言葉だけで演技を続けなければいけない課題で、マヤが亜弓と対決するシーン

劇団つきかげに入団したマヤが、日々芝居の稽古に励んでいると、かつて「紅天女」を演じた月影千草が作った劇団に興味を持った姫川亜弓は、つきがげの練習を見学に来ていた。それというのも、劇団オンディーヌの桜小路に誘われて、亜弓の稽古場に見学に行っていたマヤが、亜弓に月影のことを話していたからだ。
「はい」「いいえ」「ありがとう」「すみません」の4つの言葉だけを使って演技をする課題。亜弓は自分が先生の代わりに相手役になると言い、舞台に上がった。亜弓の相手をするのはマヤ。亜弓は巧みな問いかけで、マヤから4つの言葉以外の言葉を引き出そうと演技を続ける。マヤは、4つの言葉を使うと不自然という場面ではジェスチャーを使い、亜弓の質問を巧みにかわしていく。その演技は1時間以上も続き、誰もがマヤの実力に目を見張り始めた。段々とマヤへの声援が増えてくる中、亜弓はマヤを屈服させようと、「音楽は好き?じゃあレコードをかけるわ、いろいろあるのよ。どんな曲が好き?」と質問した。この質問に4つの言葉はどれも使えない。亜弓は勝利を確信し、マヤは思考を巡らせ、椅子から立ち上がるとレコードを探すパントマイムを始め、好きなレコードを選び出すと、「はい」と言いながら亜弓に手渡すパントマイムをした。

月影の合図で課題はここで終了。亜弓はマヤの才能に驚き、いつか舞台で戦う日が来るかも知れないと思うようになった。
劇団オンディーヌでのパントマイムでマヤの才能の片鱗に気づき、この課題で対決したことで、亜弓はマヤを意識し始めた。これからライバルとして競う2人の初めての対決シーン。高飛車だった亜弓の意識を変えた名シーン。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 1巻

「“生きがい”があるということは人間として生きることの価値を自分でみいだすことです」

栄進座の「おんな河」、「嵐が丘」の子供時代のキャサリンで舞台を行ったマヤ。栄進座の原田菊子も東洋劇場の会長もマヤの実力を高く評価しての起用だったにも関わらず、マヤを舞台に出すと舞台が荒らされるとしてその舞台を失敗と評価した。
マヤの演技は人目を引きつける輝きを持つ。しかし、その演技は周りに溶け込んでおらず浮き立っていた。

月影は、劇団つきかげの次の舞台として「石の微笑」を上演することにした。マヤには自分の意志では動くことができない人形の役を割り当て、周りとの協調を学ばせることにした。人形なんて、「何もしないでただ座っているだけ」とつまらなく思っていたマヤに月影は、人形としての演技があると諭した。マヤは人形としての動きが掴めず、月影から竹の物干し竿を体中に括りつけられ体の動きを制限された。
ギクシャクとしか動かすことのできない体を感じ、マヤは人形の動きを学んでいく。

入院中の月影を見舞いに行った速水は、月影が病院を抜け出していることを知り、月影を病院に戻すために、マヤたちが練習している古い教会へ行った。月影を連れ戻そうとする速水を見たマヤが体を動かそうとするが、物干し竿で動きを制限しているために転んでしまった。なかなか立ち上がれないマヤを見た速水が強引に立たせようとすると、体に括りつけた物干竿が肩に刺さり、マヤの腕から血が流れてしまった。速水が慌ててマヤの服を脱がすと、マヤの全身に物干し竿が括りつけられていた。
マヤを見て絶句した速水はなぜこんなことをするのかと月影に問いただした。人形の動きを学ぶためと聞かされた速水は、マヤの体に物干し竿を括りつけた月影とそれを受け入れたマヤを正気ではないと言う。そんな速水に対して月影が言ったセリフ。「どんな人間でもなにか生きている価値がある、あの子の場合それは演劇。あの子から演劇をとったら何もないただのつまらない女の子になってしまう。ただ時をすごすだけの人生を生きるでしょう。“生きがい”があるということは、人間として生きることの価値を自分でみいだすことです。」
月影の過去は、両親もなく貧困に苦しみ、生きるために泥棒などの罪を犯していた。しかし、尾崎一蓮に出会い演劇を知り、“生きがい”を知った。なんの取り柄もなくつまらない子、と親にも周囲にも言われ続けてきたマヤも同じく、演劇に出会いそれを生きがいとすることで生きていける。そのためにはどんな厳しい稽古でも厭わないという強い決意が滲む名セリフ。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 5巻

初めてマヤの仮面が外れたシーン

劇団つきかげと劇団一角獣の合同公演中、マヤの母が行方不明になったとの連絡を受けたマヤは、母に似た人影を都内で発見し、探し回る。しかし、全く見つからず手がかりもない。公演の千秋楽、「石の微笑」の公演中、人形の演技をしていたマヤは、母のことを考え涙を流してしまった。
演劇への情熱に燃やし、母を捨て家出までして演劇に打ち込んできたマヤが、横浜に残してきた母を思い、人形の仮面が外れてしまったシーン。
演劇のことになると夢中になり全てを忘れて打ち込んでしまうマヤが、母への思いに負け役者になりきれなかった。
このあと、月影から役者失格と言われ、謹慎処分を受けマヤはしばらく舞台に立てなくなった。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 5巻

速水真澄がマヤに抱きつかれて動揺するシーン

初めてマヤが舞台に立った「若草物語」から、姿は見えなくてもマヤを影から見守り、困っている時には必ず手を差し伸べてくれる紫のバラの人。
「奇跡の人」のヘレンケラー役を掴むため、紫のバラの人の別荘で稽古に励んでいたマヤは、耳に粘土を詰めて音を遮断し、目には目隠しをして視界を閉ざした。別荘の管理人からマヤが稽古のためにしていることを聞いた速水は、マヤの様子を見に別荘に出かけた。するとそこには荒れ果てた部屋とそこに傷だらけで座るマヤの姿があった。階段から転げ落ちそうになったマヤを抱きとめた速水の腕の感触を感じ、管理人ではないと判断したマヤは、その人物の手に文字を書き、「あなたはだれ」と問いかけた。その人物の胸にあるバラを触ったマヤは、その人物が紫のバラの人だと確信し、会えた嬉しさで強く抱きついた。これまでの感謝の気持ちを伝えたいが嬉しさのあまり泣くことしかできないマヤを速水は安全なソファに座らせた。そのまま立ち去ろうとした速水の気配を感じたマヤは、名前を知りたいと呼び止めた。速水はマヤの手に「あなたのヘレンを楽しみにしています」と書いてそのまま立ち去った。

マヤに抱きつかれた速水は、滞在予定を変更して逃げるように東京へ戻った。11歳も年下のマヤに抱きつかれて動揺する速水の姿は、いつも冷静な速水の様子とは違っていた。速水の気持ちがマヤへ傾いていることを示唆している名シーン。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 6巻

「なぐるなりとけるなりと好きにしろ…!おれは謝り方をしらん…!」

マヤをスターにするため、マヤの母を監禁し話題を作ろうとしていた速水は、監禁に気づいたマヤの母が病院を抜け出し事故に遭い、死亡したことで、生まれて初めて自責の念を持った。
マヤのために、全てはマヤを売り出すためだったが、マヤを傷つけるつもりはなかった。これまで誰に対しても謝罪をしたことがない速水が初めて見せる謝罪の態度は、腕を広げマヤの罵倒も制裁も甘んじて受けるという姿勢だった。
速水が言った初めての謝罪の言葉。

引用:白泉社文庫 ガラスの仮面 10巻

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