文豪とアルケミスト(文アル)のネタバレ解説・考察まとめ

『文豪とアルケミスト』(略称:文アル)とは、「文豪」を題材にした育成シミュレーションゲームである。開発・運営は、ゲームプラットフォームのDMM GAMESである。2016年11月にブラウザ版がリリースされ、翌年の2017年6月にスマートフォン版の配信が開始された。大正ロマンとスチームパンクを基調にした現実とは異なる歴史を歩んだ日本を舞台に、物語を展開していく。侵蝕者と呼ばれる敵から文学を守る為、プレイヤーは文豪達を転生させ、彼らと共に侵蝕者達と戦っていく事となる。

芥川龍之介が戦闘終了時、また潜書終了時に述べるセリフ。彼のモデルとなった文豪の芥川龍之介が、己の子ども宛てて遺書に記した一文「人生は死に至る戦いなることを忘るべからず」が元ネタと推測される。史実における芥川龍之介は、睡眠薬投与による自殺で最期を迎えた。この自殺に関しては、狂言自殺であったものが本当になった説もある為、彼が本当に自殺をしようとしていたのかは不明となっている。しかし、彼自身が当時不安定な立場にあり、精神的にも身体的にもボロボロであった事は事実だ。「人生は死に至る戦い」と、子どもに聞かせるにはあまりにも残酷過ぎる現実を突きつけるほどに、彼にとって生き続ける事は苦しみであったのは確かだといえる。
『文アル』では、侵蝕者との戦いが終了した後にこのセリフを芥川龍之介が述べるわけだが、そこからはモデルとなった芥川龍之介へのリスペクトにくわえ、「今目の前の戦いが終わったからと言って、安心してはいけない」「戦いはまだまだ続く」といった『文アル』のゲーム性そのものを指しているようにも感じられる。実際、『文アル』は何度も同じステージを周回して敵を倒し、素材を集めて文豪達を強くしながら敵と戦っていくゲームとなっている。1つの戦いが終わったところで、次から次に新しい敵との戦闘が始まるだけであり、目の前で行われている戦闘は次の戦いに至るものでしかない。『文アル』のゲーム性と文豪の史実を見事に融合させた名セリフだといえる。

太宰治「あぁ、芥川先生が俺の作品を読んでみたいって仰ってたんだよ!まさかまさかこれは……脈アリってやつ!?」

上記のセリフを述べる文豪・太宰治。助手設定にしている時の画面。

文豪・太宰治を助手に設定した際に述べるセリフ。図書館側の画面で太宰治をタップすると喋るランダムボイスの1つである。彼のモデルとなった文豪・太宰治が芥川龍之介を尊敬していた事が元ネタのセリフと推測される。憧れの人でありながらも自身が文豪として活躍していた頃は本人と邂逅する事はなく、また彼の名を冠した文学賞においても賞を取る事が叶わず、苦しい思いをしてきた太宰治。しかし、転生という形でよみがえる事ができた『文アル』においては、その憧れの人と話をするどころか肩を並べて一緒に戦える可能性すらも存在している。「芥川先生が俺の作品を読んでみたいって仰った」という太宰治の発言からも、転生前には叶わなかった事が叶い、彼が驚きながらも喜んでいるさまがわかる。
こうした「転生前は叶わなかった」「転生前ではどうにもできなかった」といった未練を、転生後に解消、もしくは少しだけ改善する文豪達は、太宰治以外にも少なからず存在する。こうした要素は、文豪達が生前の記憶のままに転生する『文アル』という世界観だからこそできるものだ。
太宰治のこのセリフは、そんな『文アル』ならではの魅力を存分に表した名セリフだといえる。

井伏鱒二「小説の主人公なんていうのは中途半端でいいんだ。そのほうがリアルで面白いだろ?」

上記のセリフを述べる文豪・井伏鱒二。実装決定時の告知画像。

文豪・井伏鱒二を助手に設定した際に述べるセリフ。図書館側の画面で井伏鱒二をタップすると喋るランダムボイスの1つである。本セリフは、彼のモデルとなった文豪・井伏鱒二の作風が元ネタのセリフと推測される。彼はいわゆる「普通の人」といえるような庶民的な人々の姿を主軸に、ユーモラスと哀愁の両方を持つ、明るいか暗いかといった両極端な作品達とは異なる作風の小説を多く生み出した。そのさまは、まさに「そのほうがリアル」という本セリフの内容と重なる。「面白いだろ?」とプレイヤーに聞き返してくるセリフも、彼が自身の作風・小説の書き方に誇りを持っているからこそのものだと捉えられ、井伏鱒二の文豪としての矜持が感じられる。
侵蝕者と戦い文学を守る事がメインストーリーの『文アル』であるが、作中の端々では本セリフのように「文豪」や「文学」そのものを意識した要素が多く取り入れられている事も、本メディアの魅力の1つだ。創作者としてぶつかる壁や悩み、葛藤といったものもしっかりと描かれ、ただ敵と戦うだけではない深みのある回想がいくつも存在する。井伏鱒二のこのセリフは、『文アル』がただのアクション・育成ゲームではなく、キャラクターのモデルとなっている文豪達や、文学という創作ジャンルへのリスペクトもしっかりとしている事がわかる代表格にあたるものだ。

『文豪とアルケミスト』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

作中背景に描かれている原稿には実在する小説の一節を記載

背景に実際の小説が使われているログイン画面。

『文アル』では、ゲームタイトルや文豪達の能力を開放する開花システムの1つ・文豪ノ途の背景に、実際の小説の一節が使用されている。
使用されているのは、文豪・芥川龍之介作『羅生門』と文豪・夏目漱石作『吾輩は猫である』の2つである。前者はゲームタイトルと文豪ノ途の背景で、後者は文豪ノ途で開放したい力のマスを選択した際の背景に使われている。
このほかにも潜書時の背景をよく見ると、『いろは歌』や文豪・太宰治作『人間失格』の一節が書かれている場合がある。どの作品も日本を代表する文学作品であり、「文学」を題材にする本作ならではの背景美術だ。

一度廃止された食堂回想

詩人・萩原朔太郎と歌人・若山牧水の食堂回想の画面。

文豪同士の食事に関する会話が見られる「食堂回想」。『文アル』リリース当初からあったシステムだが、実は一度だけそのシステムが廃止されていた時期がある。
廃止されたのは、2021年7月28日のこと。その日、『文アル』では大型アップデートが行われ、新たなゲームシステムの追加・変更がされていた。そのなかで、食堂回想に関わるゲームシステム・食堂がなくなる事態が起き、多くのプレイヤー達が驚愕する事となった。
食堂のシステムは、図書館内にある「食堂」で曜日毎に決まっているメニューを文豪達に食べさせる事ができる仕組みとなっており、特定の条件をクリアする事で食堂回想を入手できる仕組みとなっていた。『文アル』ファンの中でも人気が高いシステムであった為、その消失を悲しむ声が多くあげられたのは言うまでもない。復活を望む声も多くあげられた。その結果、同年11月1日に、ゲームシステム・散策の一部として食堂が復活。以前のような自由性はなくなってしまったが、ランダムで出現する文豪に食事をさせられ、食堂回想を見られるようになっただけでも感謝するプレイヤーは多い。
なお、食堂と食堂回想が廃止された理由については不明である。

音楽担当の坂本英城の妻はDMM GAMES作品のファン

『文アル』のサウンドトラック「文豪とアルケミスト 劇伴音樂集」のジャケット。

『文アル』の音楽担当である坂本英城の妻は、本作の開発元であるDMM GAMESの作品のファンである事が明かされている。坂本英城が本作の音楽制作に携わるきっかけになったのも、この事が大きく関わっているとのこと。『文アル』は、音楽面でもファンから高く評価されている。坂本英城自身も本作のテーマソングや作中のBGMはもちろん、舞台やアニメのBGM、アニメOPの編曲にも携わっており、本作において欠かせない存在である。彼の妻がDMM GAMES作品のファンでなければ、『文アル』に坂本英城は存在せず、音楽も違うものになっていた事は明白だ。

『文豪とアルケミスト』の主題歌・挿入歌

テーマソング:坂本英城「文豪とアルケミスト」

『文アル』のテーマソングである楽曲。ゲーム作中だけではなく、舞台やアニメ作中でもアレンジ版が使われるなど、『文アル』を代表する看板曲となっている。制作を担当したのは、サウンドクリエイターであり、音楽・サウンド制作会社・ノイジークロークの代表取締役である坂本英城。クラシック音楽を思わせるオーケストラ編成のインストゥルメンタルソングとなっている。
2017年5月6日には、ノイジークロークが開催したゲーム音楽イベント「TOKYO GAMETAKT 2017」にて、坂本英城指揮のもと、オーケストラによる演奏が行われた。また、同年5月31日に発売された『文アル』のサウンドトラック「文豪とアルケミスト 劇伴音樂集」に、トラック1として収録される。
さらに翌年2018年8月19日に開催された『文アル』のコンサート「Music 4Gamer #3『文豪とアルケミスト』オーケストラコンサート」でも、坂本英城の指揮のもと演奏が行われた。同年11月28日に、本コンサートでの演奏を収録したアルバム「文豪とアルケミスト オーケストラ演奏會」が発売。「文豪とアルケミスト」もコンサート音源で収録されている。

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