弟切草（ゲーム）のネタバレ解説・考察まとめ

『弟切草』の概要

『弟切草』は、チュンソフトから1992年3月7日にスーパーファミコン用ソフトとして発売された、実在する同名の植物をモチーフに描かれたマルチシナリオのサウンドノベルゲーム。同社の初作品にあたり、サウンドノベルゲームの第一弾である。
ほぼ同じ過程で構成されている複数のシナリオから成り立ち、時折出現する選択肢をプレイヤーが選ぶことによって、様々なストーリーが展開され、登場人物の人物像の構成がなされる。各ストーリーによって登場人物の役割や成り立ちが異なってくるのが特徴。
スーパーファミコン用ソフトとして発売されたのちPlayStation用ソフトとしてリメイクされ『弟切草 蘇生篇』とのタイトルで2001年4月12日に新たに発売された。
本作はスーパーファミコン、PlayStation以外にニンテンドウパワー、Wii、Wii U、iアプリ、EZアプリ、S!アプリ、PlayStation 3、PlayStation Portableにてプレイ可能である。
『弟切草 蘇生篇』ではムービーシーンの追加やシナリオの大幅な加筆修正がされた。
森で事故を起こした男女2人が助けを求め森を彷徨い、ある異様な洋館に迷い着く。主人公とその恋人、奈美が館の中で様々な体験をする内容が本作の大まかなストーリー。

『弟切草』のあらすじ・ストーリー

物語の冒頭

森の中を車で走る公平と恋人の奈美。道の左右には黄色い花が咲き並んでおり公平はその花の名と名になった由来の伝説を奈美に語る。話が終わるころには雨が降り出し、2人は繰り返す同じ風景で道に迷ってしまった。曲がりくねった道路の先に「この先カーブあり、スピード落とせ」とあり、坂を下った所に右曲がりの急なカーブがあった。公平はブレーキを軽く踏むがブレーキペダルは軽々と底についてしまう。ブレーキが効かない。突然対向車が現れ、ヘッドライトが迫る。強引に車を停めたことで車は走行不能になってしまい、勢いを増した雨は雷雨になり、雷を受けた大きな木が真っ二つに焼き切れ車へ倒れてきて車内にとどまることが出来なくなってしまう。
車を失った2人は助けを求め森を進むが、そこには周り一面に弟切草がしげっている。それは森の奥にある光への道しるべのように連なっていた。

その先には全体をふちどる異様な光によって青みがかって見える、異様な古い館があった。2人は雨から逃れる為、その館へ続く弟切草の誘う門に手をかけ敷地内へ踏み込む。庭は広く一面に弟切草が咲き乱れていた。不思議な猫の幻覚のを見る2人。強い風が吹く。何か不吉なことの前触れのように、胸の中に黒い不安を感じて雨の中に立ち尽くす。2人は突然のアクシデントに襲われ、迷うことを許されないまま館の中へ入ることになる。
玄関は2階まで吹き抜けになっていて天井には大きなシャンデリアが下がっている。ホールの左側に大きなレンガ造りの暖炉があり、その前にはソファーがコの字の形に置かれている。暖炉の前には西洋風のいかにも重そうな甲冑が飾られている。玄関のホールの右側に人が入れるほどの巨大な水槽があった。藻によって濁っていて水槽の中の様子は全くわからない。
突然2階から物音が聞こえる。館には誰かがいるようだった。階段を上がる2人。音のする方へ進むと再度部屋ドアの前で物音が聞こえるた。部屋の中に入るが人のいる気配はない。左側には電気スタンドが立っており、赤い小さな光を放っていた。その横にもチェックの布がかけられ、上に本が載ったテーブルがる。稲光が部屋を照らす。そこにはミイラが車椅子に座っていた。本が載っていたテーブルと思っていたものはミイラの膝だった。急に明かりが消える。車椅子の動く音が聞こえ、戸惑う2人。閉じ込められたと思われた固く閉ざされたドアをなんとか脱出する。廊下に出るがそこにも明かりはない。暗闇の中階段を駆け降り、水槽の前に置いてある懐中電灯のスイッチを入れる。すぐさま2階を照らすがミイラの姿はない。2人はミイラの正体を調べる為再び2階へ上がろうとする。それは奇妙な現象のはじまりであった。

スーパーファミコン版の最初に進行できる4つの物語

一番初めの物語は下記の4つのストーリーになるようになっている。

火傷編

奈美の双子の姉であるナオミは、幼いころの奈美の過ちにより起きた火事で額に火傷を負っていた。その火傷のせいでナオミは長年周りから化け物扱いを受けており、原因である奈美を恨んでいた。そのため心を病んでいくナオミは母親を部屋に閉じ込め餓死させ、2人が発見したミイラの正体は母親のなれの果てだった。
ナオミに閉じ込められ、殺されそうになった公平はなんとか窮地を脱し、奈美を探す。ミイラの姿のある食堂に奈美とナオミがいた。奈美は気を失って椅子に縛り付けられておりナオミは自分が奈美だというが、手にはナイフが握りしめられている。奈美に襲われ仕方なく縛ったとナオミは言う。泣きわめきながら訴えるナオミの姿に公平はどちらが本物の奈美かわからなくなり混乱するが、火傷の跡があるほうがナオミだと気付き縛られている方の額を確かめようとする。目をそらした公平にナオミは背後からナイフをふるうがなんとか撃退する。
縛られた奈美を解放し、食堂を飛び出す2人だったがボイラーの爆発によって館は炎に包まれてしまう。炎で分断されてしまった2人は仕方なく別々に脱出を試みる。奈美は「もし何があっても絶対に私を忘れないでね」と叫び公平と別れていく。先に脱出した公平だったが、いつまでたっても出てこない奈美に焦りを感じるも漸く奈美は姿を現した。しかし奈美は意識を失っている。公平は奈美を連れ、館から離れる。館は目の前で崩れ落ちていく。その時公平の名を叫ぶ、聞き覚えのある叫び声が聞こえる。
奈美と思い連れ出した女がむくりと起き上がる。そして前髪を掻き上げた。公平は衝撃を受ける。

ぼくの海編

ナオミによって書かれた青色の表紙の日記には、奈美とナオミの二人には直樹という弟がいたと書かれていた。ナオミは病にかかった直樹の世話を1人で看ており、直樹は自分の病気がこの先治らないものであれば苦しむことなく楽に殺してほしいとナオミに訴えていた。
「ぼくの海に沈めて。ぼくが死んだらぼくの身体をぼくの海に沈めて」
ナオミは直樹の最後の言葉に受け遺体を「直樹の海」に沈めたと書かれていた。
ことの真相を探ろうとした公平は開かずの間を開けようとしたところをナオミによって気絶させられてしまう。気が付いた公平は車椅子に縛り付けられている。ナオミがその車椅子を押す。公平を奈美と間違えているナオミは、一緒に「直樹の海」へ行こうと話し出した。ポケットに入っていたライターで何とか車椅子から逃れた公平は「奈美は渡さない！」と叫ぶ。その声に奈美ではないと気付いたナオミは「おまえは誰だ！？」と言い放ち公平を階段から突き落とした。
ナオミから離れることで助かった公平は奈美を探す。開かずの間に奈美たちの母親のいることを知った公平は奈美たちの母親のミイラの膝の上ある、ナオミの日記を発見する。公平は、その最後に「母さん、奈美と一緒に直樹の海にいきます」と書き足されていることに気付く。
「直樹の海」。「それはあの水槽ではないか？」そう思った瞬間、大音響とともに部屋が大きく揺れる。異常のあったボイラーが爆発し始めたのだ。奈美がいると考えた公平は、急いで水槽へ向かうとその中に奈美が沈んでいるのを見つける。水槽を割って奈美を救出するが水槽からは小動物の骨が流れ出るだけでナオミの姿はない。
奈美を抱え逃げようと思った公平の前には奈美の姿もない。意識を取り戻して自力で逃げたのかもしれないと思った公平は裏口から脱出する。
外へ出た公平は館の中に人影を見る。一瞬逃げそこなった奈美かと思ったが足元には奈美が横たわっていた。館に見えた人影はナオミのものだった。
館が焼け落ちる中、奈美が目を覚まし弟の存在を気にするが、公平は奈美へ語った。
本当は弟などいない。「直樹の海」には小動物の骨しかなかったのがその証拠だった。ナオミの行った行動は、幼いころ奈美が起こした火事によって心を病んでしまったナオミの妄想だったのだ。
そして館はナオミの妄想と共にすべて崩れ落ちていった。

双子編

奈美は「私たちがお母さんを殺したのよ。」と言い、罰してもらわなければならないと残してナオミと共に消えてしまう。
館は恐ろしい呪いがかけられていた。かつての主は双子の娘に殺されていたのだ。その怨念は、主になった者は双子を産み、その娘に殺されるというものだった。奈美もナオミもその呪いに抗えず母親を殺してしまったのだった。
しかし公平は館に残る新聞の切り抜きなどによってそれは間違いだと知る。呪いの真相は、生まれた双子を母自らの手で殺してしまうというものだった。
公平は館の呪力によって壁にされ、そこで過去の情景を見る。それは奈美とナオミを殺そうとする呪いから逆らおうとする母親の姿があった。実は二人は養子に出されており、ナオミだけは戻ってきてしまっていた。母親はナオミを殺そうとするが、ナオミは階段から転落死してしまい母親の手で殺されることはなかった。ナオミは母親に殺されなかったことを詫び、奈美を連れて今度こそ母に殺されるからと約束をするし、そこで時間は現在にもどる。館の呪いは今まさに行われようとしていた。奈美たちの母親のミイラは呪いに抗い、ついに母の愛が呪いに勝ったと同時にボイラーが爆発し始める。呪いから解放され壁から脱出した公平は奈美を連れ、館から逃げ出すことに成功する。
崩れ落ちた館から2つの光が上る。
「ありがとう…それから、さよなら。」
奈美は母とナオミの魂に別れを告げる。

ライラック編

公平を見た奈美は、「誰なの！？」と叫んで逃げてしまう。鏡に映った自分の顔が白髪の中年男になっていることに気付く。後を追い、なんとか奈美に自分が公平だと信じてもらい、ミイラのいる部屋にあった日記を見に行く。日記にはいなくなった家族を思う言葉と、その続きにある男と恋に落ちたことが綴ってあった。
部屋にあったドレッサーに映る白髪になった自分の姿を見た公平は有ることに気付く。その顔は写真の中だけで存在していた、自身の父の顔にそっくりだった。実は奈美の母親が恋した男性は、公平の父だった。
奈美の母親は公平を死んだ思い人の身代わりにしようとしていたのだ。
突然奈美の口から見知らぬ中年女性の声が聞こえる。奈美の身体に母親が乗り移ったのだ。公平の腕に掴まれた奈美の腕が枯れ木のようになってしまう。奈美はミイラになってしまった。それでも奈美を愛する公平から母親は奈美を連れ去ってしまう。
気が付くとナオミの部屋にいる。ナオミは霊として公平の前に現れるこう告げる。
「ここにいて、あなたを母に渡したくはない。」
公平は奈美を救うため、開かずの間へ乗り込む。その姿を見てナオミの霊は姿を消した。
去り際に「私だって…あなたを。」とつぶやいた。
開かずの間に乗り込んだ公平の目にミイラになった奈美の姿が映る。奈美を返せという公平。
公平の父とみている奈美の母親は二人でミイラになって永遠に愛し合おうとするが、公平の奈美を思う愛が勝り2人は元の姿に戻っていた。
そこでボイラーが爆発し始める。館から逃げようとする2人だったが煙に巻かれてしまい気を失ってしまう。
気が付くと館は焼け落ちており、2人は外で倒れていた。薄れゆく意識の中で2人がお互いを外まで連れてきたと思っていたが、2人を救ったのはナオミだった。
2人は館の周り一面に咲いていた花が紫色に変わっていることに気が付く。そして公平はナオミの部屋に飾ってあった花を思い出す。それはライラックであった。
一つの恋もせず死んでしまったナオミ。家族をなくし、恋に溺れてミイラになった奈美たちの母親。
奈美は「花言葉があるの。」と公平に語る。
ライラックの花言葉、それは「初恋の痛み」。

『弟切草』のゲームシステム

基本システム

画面いっぱいのドット絵で構成される一枚絵の背景の上に文字が表示されていく。プレイヤーは文字を読みながら時折出現する選択肢を自由に選び、ストーリーを進めてゆく。
主人公とその恋人、奈美が館の中で様々な体験をし、主人公であるプレイヤーの選んだ選択肢によってストーリーが進行する。選択肢によって分岐やその後の展開、登場人物の人物像が構成されていき、『弟切草』を題材にした多様なストーリーを楽しむことが出来る。
落雷の音やブレーキ音、ガラスが割れる音などプレイヤーを「ドキッ」とさせる効果音的演出の他に、シーンによっては時計の針が時を刻む音、ドアの開閉音、水槽の水の音など実際の生活音をサンプリングした音によって独特な緊張感を体験できる。物語の展開が起こるシーンなどでミステリアスな音楽や、焦燥感を煽る音楽が流れ、ただ文章を読んでいるだけでは体感できない経験ができる、まさに「サウンドノベル（後記に説明あり）」と言われる当時新感覚の革新的なゲーム。
いわゆる「ゲームオーバー」という概念が無く、必ず何かしらの結末にたどり着く。
物語背景の設定から想像される通り、ゲームの全体的な雰囲気はホラーテイストである。

当ゲームにおいてのストーリー・エンディングの概念

エンディングの結末が全く一緒でありながらプレイ中に選んだ選択肢がちがうだけで別物扱いになる。その為、後記にある特別なストーリーを遊ぶためにはネットなどの攻略情報などを参考にしてゲームを進めていく必要がプレイヤーによってある。
本作の本当のラストシーンを見る条件として「全てのエンディングをクリアする」とある。システム的に全てのエンディングに到達すると、エンディングのスタッフロール後に「完」と表記される。

サウンドノベル