ククルス・ドアン（機動戦士ガンダム）の徹底解説・考察まとめ

TV版より。ガンダムに乗ったアムロが追手のザクを追おうとした時、ドアンは自身のザクに乗ったままそれを制し、見出しの言葉を口にする。
その後敵のマシンガンによる攻撃を物ともせずに突進し、相手のザクの胴体に正拳突きを叩き込む。浸透勁のような攻撃だったのか、殴られたザクの背中から爆炎が上がり、そのまま海に転げ落ちて大爆発。追手との戦いはドアンの勝利に終わる。

いろいろと突っ込みたくなる、いかにも昔のアニメにありがちな大雑把な描写で、「ククルス・ドアンの島」というエピソードが長く愛される一因ともなった名シーンである。このシーンのためドアンは“格闘戦が強い”という定評を受けることとなり、ガンダムを題材としたゲームに登場する際は徒手空拳の攻撃がやたらと強く設定されることが多い。

「君に仲間と戦う覚悟はあるのか」

2022年劇場版より。
アムロの仲間たちとサザンクルス隊が同時にアレグランサ島にやってきた時、ドアンはそのどちらとも自分が1人で戦うと猛烈な戦意を露わにする。仲間たちと今やジオン軍とは無関係であるドアンが戦うところを見たくもなければ、さすがに一度に相手にするには数が多すぎると考えたアムロはガンダムに乗って共に戦うことを提案するが、そんな彼に向かってドアンが口にしたのが見出しのセリフである。
言葉だけ聞くと「アムロに仲間たちと戦えというのか」とも受け取れる内容だが、実際にはこれは「自分はこれからかつての仲間と戦うことになる。かつての仲間といえど、この島と子供たちを守るためなら殺し合いを厭うつもりもない。その自分と“一緒に戦う”ということの意味が分かっているのか」という、ドアンからの確認の言葉である。ともすれば、それはドアンの個人的な事情のために命を落とすことも十分にありえる選択なのだ。

アムロがドアンの意志をどの程度理解したのかは定かではないが、迷わず戦う道を選ぶ辺り、かなりのところまで察していたように思われる。何も言わずに自分についてきたアムロに対し、ドアンもそれ以上は声をかけることはなく、この時点で2人は「連邦軍の少年兵と秘密を抱えたジオン軍の脱走兵」ではなく「島と子供たちを守るための戦友」だと互いを認識していたことがうかがえる。
戦場の非情さと、だからこそ強く結びつく戦士たちの絆が感じられる名セリフである。

ククルス・ドアンの裏話・トリビア・小ネタ／エピソード・逸話

スタッフの熱意で再び伸びた“ドアン専用ザクの鼻”

安彦良和が「自分の最後の仕事になるかもしれない」と覚悟して臨んだ2022年の劇場版作品『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』。その原動力となったのは、原作でもあるTV版でのあまりに激しい作画崩壊をそのままにはできないという安彦良和の強い想いだった。実際TV版のドアンのザクは縦に妙にひょろ長い上にザクの“鼻”の部分が伸びており、見るからに珍妙な印象を受ける。
しかし、この劇場版のドアンのザクも、よくよく見ると妙に鼻が長い。どうしてこうなったのかというと、安彦良和とカトキハジメたちの奇妙な意見の対立が原因である。

本作の企画に勢い込んで参加したメカニックデザインのカトキハジメは、「ドアンのザクは鼻が長くあるべきだ」との想いを抱き、劇場版作品としてふさわしいクオリティながら妙に鼻の長いザクを設定案として提出。安彦良和はこれに首を傾げ、「どうしてこんなに鼻が長いのか」とカトキを問い質した。これに対し、カトキは自信満々に「ドアンは脱走兵なのだから、正規のザクが使えるはずもなく、補修と改造を繰り返した結果このような鼻の長いザクになったのだ」と理屈をつけて説明した。
納得できない安彦良和は、数名のスタッフにカトキの提出した設定画を見せて意見を求めたが、彼らもまた一様に「鼻が長くなければドアンのザクではない」、「カトキさんの作った設定はよくできている」と絶賛。「補修や改造を繰り返したとしても、ザクの鼻が伸びるなんてことは考えられないと思うが、これだけのベテランスタッフがそこまでいうならこれでいいのかもしれない」と、安彦良和も意見を引っ込めるしかなくなったという。

『機動戦士ガンダム』の生みの親の1人である安彦良和からすれば不格好にしか見えなかった「鼻の長いザク」は、しかしそのガンダムを夢中で見ていた世代の者たちにとっては「ドアンのザクといったらこういうもの」というある種のシンボルとなっていた。少なくともガンダムや最新鋭の高機動ザクを相手に獅子奮迅の戦いを見せる2022年劇場版のドアン専用ザクを見て、「鼻が長くて不格好だ」と感じる者はいないはずである。