県庁の星（小説・漫画・映画）とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『県庁の星』の概要

『県庁の星』とは、桂望実によって執筆され2005年に『小学館』から発行されたヒューマン小説及び、それらを原作として作られた漫画および映画作品である。監督は西谷弘。主演は織田裕二と柴咲コウで、その脇を佐々木蔵之介や石坂浩二など豪華俳優陣が固める。原作の小説、漫画、映画ではそれぞれ人物名や設定が若干違う部分がある。撮影は香川県高松市などで行われ、茨城県庁や銚子市など関東での撮影もある。作中の庁舎で登場するビルは、実際の香川県庁舎が使われている。
県庁に勤める野村聡（のむらさとる）は、総予算200億円という莫大な費用を投入するケアタウンプロジェクトの中枢で尽力していた。しかし市民団体からプロジェクトへの反対の声が上がっていることを受けた民間人事交流企画により、野村はスーパー満天堂に派遣されることになる。満天堂では教育係の二宮あき（にのみやあき）を筆頭に野村のことを厄介者扱いし、野村も民間企業を見下していたため衝突を繰り返す。しかし野村がケアタウンプロジェクトから外されたことをきっかけに両者の壁はなくなり、同時に満天堂の危機も救うことになる。この物語は立場のまったく違った野村と二宮たちが互いの気持ちに気づき理解し、次第に歩み寄って一つのことを成し遂げる過程をスピード感満載に描いた作品となっている。

『県庁の星』のあらすじ・ストーリー

県庁と民間企業の壁

物語はある県の県庁で行われている会議から始まる。プレゼンテーションをする男性野村聡（のむらさとる）が主人公で、県庁でのエリート課長だ。彼は県庁内で、様々な分野で完璧な仕事ぶりを見せていた。更にその仕事ぶりから様々なお偉い方々にも顔が広く、篠崎建設の社長令嬢である篠崎貴子（しのざきたかこ）とも婚約を交わしていた。

ある日野村は仕事ぶりを称され、野村含む7人の県庁で働くエリート達はある式典に参加した。その式典は「民間人事交流企画 辞令交付式」。現在県が力を入れている「ケアタウンリゾートルネッサンス。特別養護複合老人施設」の建設に反対する民間組織や市民団体も多くあることから、県庁と民間の壁を取り除くべく発足された企画だった。そして、野村が研修先に指定されたのは「スーパー満天堂」だ。

満天堂のパンフレットには鮮やかなスーパーのイラストが描かれていたが、実際には防災センターの奥では競馬の予想をする従業員がいたり、ゴミ捨て場には犬やホームレスがいる綺麗とはいえない状況だった。野村を店長室に案内する店員も愛想は悪く、店長室も物であふれかえってイメージとはかけ離れているものだった。そんな中、野村は自身の教育を担当してくれる人物を紹介される。野村の教育担当は二宮あき（にのみやあき）という、長年スーパー満天堂に勤めているパート契約の女性だった。

二宮は野村に「二宮です」とだけ挨拶をして、野村をあまり客の来ない暇な寝具売り場に連れて行った。野村は暇な売り場では何も学べないと二宮に申し出るが、二宮は忙しい売り場を任せられるわけがないと即座に断った。二宮は自身の仕事もある為、寝具売り場を離れようとする。野村はそれを引き留め、接客マニュアルを欲しいと二宮に頼んだ。しかし民間企業にはマニュアルなんてものはなく、組織図も存在しなかった。野村はそれに驚愕し、役所仕事と民間の壁を大きく感じることとなる。

野村以外の研修に向かった6人も、同じような状況だった。県庁の休憩室で研修に行っている全員で珈琲を飲みながら、各自派遣場所の愚痴を言い合うばかりだった。しかし、半年もすれば彼らには「特別養護複合老人施設」の建設という一大プロジェクトが待っていた為、期待に沿えるよう報告も良いものに書き換えて提出していたのだった。

暗雲立ち込める民間人事交流企画

二宮は店長に野村の教育係をやめさせてほしいと懇願するが、店長は二宮以外の適任者は居ないと二宮のお願いを却下してしまう。二宮は店長の指示通り、野村を様々な現場に立たせた。しかし、野村はお客様目線での対応ができず、ほとんどの業務で二宮がサポートしなければならないお荷物状態になっていた。野村自身は真面目に仕事をこなしているつもりだったが、自分の思う正しい業務ができず苛立ちを募らせていく。

そんなある日、店内で万引きをしたと思われる男性を野村が追い詰めていた。しかし、万引き犯は逃げている最中、盗んだものを他の商品の中に隠していた為冤罪となった。野村はその処置に納得がいかないまま、その日の業務を終える。

後日、県庁では研修を行っていた野村を含む7名の役員が呼び出されていた。呼び出された理由は、研修中の役員が客に対して暴力行為をしてしまったり、業務に支障をきたす行動をしているという雑誌の記事が書かれた為だった。「民間人事交流企画」自体を良く思っていない市民団体が、野村を含めた役員たちを見張っていることが判明したのだった。

この事態を知った満天堂の店長は、野村を客から目につかない場所に置くように指示する。
野村が配置されたのは惣菜を作る厨房だった。しかし野村が目にしたのは、古いじゃがいもを使い、フライは前日のものを揚げなおして商品として販売しているという、不正の現場だった。

あまりにもずさんな環境に野村は二宮に声を荒げながら報告する。その際に野村は、店の為ではなく自身のキャリアに傷が付くことを嫌って報告していることを、二宮に口走ってしまう。
二宮は野村の発言に対し、「あんたの将来なんか知るか！とっとと県庁に帰って、その大プロジェクトとやらで大活躍すればいいじゃない！！」と啖呵を切るのだった。

二宮はバックヤードに戻り、売れ残った在庫の山を見てため息をついた。満天堂には問題が山積みで野村を気にかけている暇などなかったのだった。しかし野村は不正を改善するために、店長と副店長に改善書を提出した。しかし、様々な面でギリギリの経営を強いられている満天堂には、問題点を改善をする余裕はなかった。

それでも食い下がらない野村に対し、副店長は野村に弁当対決を勧める。ルールは簡単で、野村が指摘する部分を改善したAチームと、従来の形で作るBチームで売上対決をするというものだった。

Aチームでは野村が指揮を執り、衛生的で高級な弁当を販売したが売れ行きは伸びることはなかった。しかしその反面、Bチームの弁当はAチームと比較することによって従来より売れ行きが伸び、店長たちは大喜びだった。その様子を見た野村は悔しさをにじませていた。

それに追い打ちをかけるように、県庁に報告へ出向いた野村は、自身が手掛けていたプロジェクトが勝手に進められていることを知る。結局自身の親や親族のつながりが重要視される世界であることを、野村は思い知らされることになる。野村はそういったつながりがなかった為、意図的に上層部の人間にプロジェクトから外されたのだと悟る。

その後野村は婚約者の篠崎貴子の家に向かうが、家に入れてもらうことさえ許されなかった。原因は貴子自身が、野村との婚約破棄を父親に申し出たからだという。野村は電話越しに貴子を説得するが、仕事ばかりで自分の事も見てくれない人とは結婚したくないと話し電話は切られた。
野村は全てを失い、自分が携わってきた「ケアタウンリゾートルネッサンス。特別養護複合老人施設」の建設の予定地で倒れた。

一方二宮は、店に消防署から抜き打ちで検査にやってきた職員の対応をしていた。職員からは消防法に抵触する在庫管理の問題の指摘や、その他様々な問題点が指摘された。前回も同じ検査が行われた際、満天堂は消防署から同じような指摘をされていた。

次回も改善されていない場合は、店自体の存続が怪しまれると警告を受けることとなる。もちろんその話は従業員にも伝わり、二宮が退勤する頃には従業員全員が自身の仕事についての不安を口にしていた。

歩み寄る野村と二宮

建設予定地に倒れていた野村は、その日スーパーの業務を無断欠勤してしまっていた。二宮は野村に電話をかけ予定地に向かった。泥だらけになって咳き込む野村に、二宮は歩み寄って声をかける。改めて二宮は野村の改善書を読み、改善書の内容は半分以上がやらなければいけないことであり、二宮は野村が正しいことを本人に伝えた。

しかし、全てを失いやる気をなくした野村は動けないままで、二宮は野村のそばに風邪薬を置きその場を去った。二宮がスーパーに戻ると、「防火管理衛生対策会議」が行われていた。しかし長年スーパーで勤めている人達では話がまとまらず、責任の押し付け合いになってしまっていた。

その時泥だらけのコートを着たままの野村が、会議中の部屋に飛び込んでくる。野村は一呼吸置いた後、スーパーの従業員に「検査報告書を見せてください」と伝えた。検査報告書と、問題のある倉庫を見て改善できる場所を次々に見つけ改善していった。

数日たった頃には、バックヤードも綺麗に整頓され汚れていた場所も綺麗に様変わりしていた。しかし、野村が最初に手掛けた惣菜の弁当は、未だにAチームの売り上げは悪いままだった。それがわからない野村は、ただ主婦たちが買う弁当コーナーを見つめていた。

立ち尽くす野村に二宮は後日デートと称した、マーケティングに誘いをかける。
出かけた先のデパートで二宮は野村に、女性が買い物をする際にする行動を女性目線で野村に教えていく。野村はデータにない二宮が話す内容を興味深く聞き、後日それをAチームの弁当の販売に活かしていく。豪華な弁当を「祝い膳 あなたの大切な日にこのお弁当を」という言葉を付け足し、弁当の見た目も変えた。

その結果、Aチームの弁当の売り上げは一気に伸びていった。最終日にはBチームの売り上げとAチームの売り上げは、同じ水準に到達した。競い合っていたが、Aチームの厨房とBチームの厨房を隔てていたカーテンを取り払うと、厨房で働いていた全員が抱き合って喜んだ。最終的に、全員が満足する結果となったのだった。

様々な面で満天堂の問題点は解決されていき、最終的には野村と二宮の名前で満天堂の従業員手引資料が制作された。その資料を基に満天堂のこれからを野村は店長に託し、野村の研修期間が終了することとなる。

野村の誇り

「民間人事交流企画」は無事終了し、野村は県庁の業務へと戻った。しかし「産業政策課係長」という肩書ではなく、「生活福祉課」へ移動して野村は業務に勤しんでいた。

野村は自ら異動を懇願したのだった。野村は生活福祉課で、「特別養護複合老人施設」の建設の費用について上層部に指摘をする為、街を駆け巡っていた。建築に必要な木材の発注元や、介護用の器具の工場等をめぐり、市民団体と協力し費用の訂正案を作っていた。もちろんそれは県庁でも話題になっていて、野村の行動をあまりいい目で見ている人間はいなかった。

ついに「特別養護複合老人施設」の特別委員会が開かれ、その場に野村も参加していた。野村はプロジェクトからは外されていた為、賛否の決定には参加できなかった。結果は多数決で、原案通りのまま進むことが決定された。会議が解散されるという場面で野村は立ち上がり、建設費用のコストカットを提示した。会議に参加していた人達はどよめき、県議会議長である古賀等（こがひとし）が野村に対し発言を控えるように促す。

野村は古賀に対し臆することなく、淡々と的確な問題点への指摘をしていく。古賀はそんな野村に対し、野村が個人的に市民団体と結託していることも問題だと指摘する。さらに古賀は市民に対し、「彼らは何の責任もなく、批判を生きがいにしているような外の人間だ」と罵ったのだった。

そんな野村と古賀の口論を横で聞いていた知事が立ち上がり、古賀の発言を止め野村の意見を聞くことを提案する。古賀は反論したが、知事は野村の提案を聞く必要があると古賀の意見を遮ったのだった。それにより野村は、改めて議会でコストカットされたプランBを提案することに成功する。

県庁での仕事を終えて、野村が向かった先はスーパー満天堂だった。丁度その時、消防・保健所・役所の職員が再度スーパーの管理体制を査察しにきたのだった。

店長が見当たらず二宮と副店長が役員たちをバックヤードに案内しようとすると、消防署職員が「認知義務のため、消防法第8条9項を暗唱するように」と言う。二宮たちは思わず固まってしまうが、無線で二宮に野村が消防法第8条9項を伝え復唱させる。しかし、途中で無線がつながらなくなり万事休すかと思った矢先、店長が商品棚の陰から姿を現し消防法第8条9項を暗唱したのだった。無事査察は終わり、満天堂の危機も逃れたこととなる。

危機を乗り越え、満天堂の駐車場で久しぶりに野村と二宮が再会していた。二宮は野村の県庁での仕事を聞くが、野村は自分が提案したプランが簡単に通るとは思っていなかった。それでも満天堂での経験を活かし、野村は県庁の改革に力を入れることを口にする。二宮はそんな野村の姿を見て微笑み、仕事に戻ろうとする。野村は二宮を引き止め、マーケティングなしのデートに誘ったのだった。

その頃県庁では、野村の提案をまとめた資料が議長と知事に手渡されていた。しかし議長はその資料をすぐにゴミ箱に放り捨て、知事もそれを容認するかのように何も言わなかった。知事は野村の意見を汲み取ったかのような態度を見せたが、実際は取り入れるつもりがないことが判明する。しかし、県庁内では税金から支給されていた珈琲が、自腹で払うシステムへと変わっていた。小さいことだが、県庁の内部も変わっていく兆しが見えてきていた。

『県庁の星』の登場人物・キャラクター

主人公

野村 聡（のむら さとる／演：織田 裕二）

県庁の産業政策課係長。中学高校大学と、学生時代は常に成績が一番で、県庁にもトップで入庁しそれを誇りにしている。ケアタウンプロジェクトの中枢を担っていたが、県が行った民間との人事交流企画によりスーパー満天堂に配属となる。満天堂に配属になった当初は他のスタッフのことを下に見ており、何をするにも野村は指図する側だった。しかしコネがないことによってケアタウンプロジェクトから外されて自暴自棄になったところを、二宮に救われる。立ち直った後は二宮とともに満天堂の改革をはじめ、成功して満天堂のスタッフからも認められる。帰庁してからは生活福祉課に志願し、より県民の立場にたった仕事を目指すようになる。

二宮 あき（にのみや あき／演：柴咲 コウ）

満天堂のパート従業員で、満天堂に配属になった野村の教育係となる。両親は他界しており、定時制に通う弟と2人でアパート暮らしをしている。16歳の頃から満天堂で働き始め数々の売り場を経験しており、満天堂の中でも古参の従業員。店長の清水や他のスタッフからの信頼もあつく責任ある立場を任せられるが、本人は「（他のスタッフと）給料は一緒」とぼやいている。野村のことは当初「使えない面倒なやつ」と思いろくに仕事を与えなかったが、満天堂の改革を進めるうちに心を通わせる。

県庁の人物

桜井 圭太（さくらい けいた／演：佐々木 蔵之介）

野村の同期で県庁の人事課に勤めている。国交省に伯父がいる。野村とともに民間との人事交流企画でペットショップに配属になる。野村同様民間企業の人間のことをバカにしており、人事交流報告会ではペットショップの店長や店に対してバカにしたような発言をしている。野村とともにケアタウンプロジェクトから外されたと思われていたが、国交省に伯父がいるというコネにより人事交流を早めに切り上げて帰庁した。そのことに驚く野村に対し、「人の上に人を作る。ここはこういう世界だよ。お前が一番知ってるだろ」と発言している。

北村 康男（きたむら やすお／演：矢島 健一）