The Beatles(ザ・ビートルズ)の徹底解説まとめ

The Beatles(ザ・ビートルズ)とは、1962年に英国でデビューした20世紀を代表する4人組ロック・バンド。その影響力は音楽のみならず、ファッション、言動、思想にまで及び、社会現象を巻き起こした。彼等の音楽を語るうえで特筆すべき点の一つは、彼等自身の音楽的成長がそのまま音楽界全体の、そして聴き手である我々ファンの音楽的成長を促したことだろう。1970年の解散後も彼等の影響力は引き継がれ、21世紀の現在でもそれは変わらない。

Side A
1. A Hard Day's Night
2. I Should Have Known Better
3. If I Fell
4. I'm Happy Just To Dance With You
5. And I Love Her
6. Tell Me Why
7. Can't Buy Me Love

Side B
1. Any Time At All
2. I'll Cry Instead
3. Things We Said Today
4. When I Get Home
5. You Can't Do That
6. I'll Be Back

1964年7月10日にリリースされたサード・アルバムであり、同名の初主演映画のサントラ盤。アメリカではイギリスより2週間早い6月262日にリリースされており、キャピトルではなく映画の配給権を持っていたユナイテッド・アーティスツからリリースされている。Side Aは映画の7曲で構成されている。
シングル「I Want To Hold Your Hand」「Can't Buy Me Love」と4曲入りEP「All My Loving」「Long Tall Sally」の後にリリースされたが、シングル「I Want To Hold Your Hand」と4曲入りEP「Long Tall Sally」の収録曲は本アルバムには収録されなかった。また本アルバムからのシングル「A Hard Day's Night」が同日にリリースされている。

レコーディング経過は以下の通り。

●1964年

1月29日
以下のステレオ・ミキシング。
・I Want To Hold Your Hand
*これは「Komm, Gib Mir Deine Hand(ドイツ語盤「I Want To Hold Your Hand)」のバック・トラックとなるリズム・トラック作成処理である。
以下の3曲をレコーディング。
・Komm, Gib Mir Deine Hand (「I Want To Hold Your Hand」のドイツ語ヴァージョン)
・Sie Liebt Dich (「She Loves You」のドイツ語ヴァージョン)
・Can't Buy Me Love

2月25日
以下の4曲をレコーディング。
・Can't Buy Me Love
・You Can't Do That
・And I Love Her
・I Should Have Known Better

2月26日
以下の2曲のモノ・ミキシング。
・Can't Buy Me Love
・You Can't Do That
以下の2曲をレコーディング。
・I Should Have Known Better
・And I Love Her

2月27日
以下の3曲をレコーディング。
・And I Love Her
・Tell Me Why
・If I Fell

3月1日
以下の3曲をレコーディング。
・I'm Happy Just To Dance With You
・Long Tall Sally
・I Call Your Name

3月3日
以下の6曲のモノ・ミキシング。
・I Should Have Known Better
・If I Fell
・Tell Me Why
・And I Love Her
・I'm Happy Just To Dance With You
・I Call Your Name

3月4日
以下のモノ・ミキシング。
・I Call Your Name

3月10日
以下をレコーディング。
・Can't Buy Me Love
以下の4曲のステレオ・ミキシング。
・Can't Buy Me Love
・Long Tall Sally
・I Call Your Name
・You Can't Do That
以下の3曲のモノ・ミキシング。
・Long Tall Sally
・Komm, Gib Mir Deine Hand (I Want To Hold Your Hand のドイツ語ヴァージョン)
・Sie Liebt Dich (She Loves You のドイツ語ヴァージョン)

3月12日
以下の2曲のステレオ・ミキシング
・Komm, Gib Mir Deine Hand (I Want To Hold Your Hand のドイツ語ヴァージョン)
・Sie Liebt Dich (She Loves You のドイツ語ヴァージョン)

3月20日
シングル「Can't Buy Me Love/You Can't Do That」イギリスでリリース。

4月16日
以下をレコーディング。
・A Hard Day's Night

4月20日
以下のモノ・ミキシング。
・A Hard Day's Night
以下のステレオ・ミキシング。
・A Hard Day's Night
*この日はモノラル、ステレオ共にラフ・ミキシングが行われている。

4月23日
以下のモノ・ミキシング。
・A Hard Day's Night

5月22日
以下をレコーディング。
・You Can't Do That
*ジョージ・マーティンがピアノをオーヴァーダブするが、このテイクは未使用に終わっている。

6月1日
以下の4曲をレコーディング。
・Matchbox
・I'll Cry Instead
・Slow Down
・I'll Be Back

6月2日
以下の3曲をレコーディング。
・Any Time At All
・Things We Said Today
・When I Get Home

6月3日
以下の3曲をレコーディング。
・You Know What To Do
・It's For You
・No Reply
*以上3曲はデモのレコーディング。この日の「You Know What To Do」と「No Reply」はのちに「Anthology 1」に収録される。「It's For You」は未発表。
以下の2曲のオーヴァーダブ。
・Any Time At All
・Things We Said Today
*オーヴァーダブの内容は不明。

6月4日
以下の7曲のモノ・ミキシング。
・Long Tall Sally
・Matchbox
・I Call Your Name
・Slow Down
・When I Get Home
・Any Time At All
・I'll Cry Instead
*「When I Get Home」と「Any Time At All」は未使用に終わっている。
以下をレコーディング。
・Slow Down
*ジョージ・マーティンがピアノをオーヴァーダブ。

6月9日
以下のモノ・ミキシング。
・A Hard Day's Night
・Things We Said Today

6月10日
以下のモノ・ミキシング。
・I'll Be Back
*未使用に終わっている。

6月19日
4曲入りEP「Long Tall Sally」イギリスでリリース。収録曲は以下の4曲。
・Long Tall Sally
・I Call Your Name
・Slow Down
・Matchbox

6月22日
以下の4曲のモノ・ミキシング。
・Any Time At All
・When I Get Home
・I'll Be Back
・And I Love Her
*意図は不明だが、「Any Time At All」「When I Get Home」「I'll Be Back」の3曲はイギリス発売用とアメリカ発売用の2種類のミキシングが行われている。しかもこの3曲はアメリカ盤の「A Hard Day's Night」には収録されていない。
「Any Time At All」と「When I Get Home」は1964年7月20日リリースの「Something New」に、「I'll Be Back」は1964年12月15日リリースの「Beatles '65」にそれぞれ収録されている。
以下の17曲のステレオ・ミキシング。
・And I Love Her
・When I Get Home
・Any Time At All
・I'll Be Back
・If I Fell
・A Hard Day's Night
・I Should Have Known Better
・I'm Happy Just To Dance With You
・I Call Your Name
・Can't Buy Me Love
・You Can't Do That
・Tell Me Why
・Things We Said Today
・Matchbox
・Slow Down
・Long Tall Sally
・I'll Cry Instead

7月10日
シングル「A Hard Day's Night/Things We Said Today」リリース。
アルバム「A Hard Day's Night」リリース。

ジャケットはイギリス・オリジナル盤は映画のフィルムを模したデザインになっているが、アメリカ盤は4人の顔の上半分のアップが写っているデザインであり、日本盤は映画からのライヴ・シーンを使用していた。

アメリカではイギリス盤と全く同じ仕様、つまり同じジャケットで収録曲も同じアナログ・アルバムはリリースされていない。1987年のCD化で初めて登場した。
アメリカ盤の「A Hard Day's Night」の収録曲はイギリス盤と大きく異なり、映画で使用されたザ・ビートルズの8曲と、同じく映画で使用されたジョージ・マーティン・オーケストラによる4曲の演奏物で構成されていた。

日本盤はジャケットは異なるが、収録曲はイギリス・オリジナル盤と同一のものがリリースされた。ただしモノラルではなくステレオであった。1976年6月20日にイギリス・オリジナル盤と同ジャケットのアナログがリリースされるが、この時もモノラルではなかった。イギリス盤と同仕様によるアナログ・アルバムのモノラル盤は1982年1月21日にオリジナル・モノ・シリーズとして限定リイシューされたのが初めてになる。

イギリスのメロディ・メーカー誌のチャートでは、1964年7月18日付で、初登場1位に輝いている。その後、同年12月5日まで21週間1位に君臨していた。なお、12月12日に本アルバムを1位の座から蹴落としたのは、ザ・ビートルズの次作「Beatles For Sale」であった。

前2作と異なり、カヴァー曲が収録されていない初のアルバムであり、また全曲が「Lennon-McCartney」で占められた最初で最後のアルバムである。全13曲中、10曲がジョンを中心に作られており、彼のザ・ビートルズにおける最高傑作と位置付けるファンも多い。
邦題「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」は当時日本ユナイト映画に在籍していた故水野晴郎氏が命名している。由来は諸説あり、前年の1963年にイギリスで制作されたニュース映画「The Beatles Come To Town」と本作を取り違えて翻訳してしまったという説と、ザ・ビートルズのドイツ盤ではすでに「YEAH! YEAH! YEAH!」というタイトルのアルバムが存在し、それを流用したという説がある。当時の東芝音楽工業でザ・ビートルズを担当していた高嶋弘之氏は「取り違えの可能性は否定できないが、むしろあの時代の状況やファンの気持をうまく取り込んだ結果ではないか」と語っている。

タイトルの「A Hard Day's Night」はリンゴの言い間違いを面白がったジョンによって決定された。非常に忙しい一日が終わり、まだ昼間だと思っていたリンゴは「A Hard Day(大変な日)」と言いかけたが、既に夜になっていることに気が付くと「A Hard Day's Night」と言いなおしたことが発端となっている。リンゴは時折、文法を無視したユニークな言い回しをしており、ジョンはそれらを「リンゴイズム」と呼んで面白がり、メモに取っていた。

このアルバムの音楽的な特徴のひとつに「リッケンバッカー・360/12」の存在がある。これは当時としては珍しいエレクトリック12弦ギターであり、使用しているアーティストも皆無であった。このギターは全13曲中約半数の7曲で使用されている。アメリカのバンドでフォーク・ロックの生みの親と言われているザ・バーズのメンバー、ロジャー・マッキンはこのザ・ビートルズのエレクトリック12弦ギターの音に触発され、すぐに同じギターを入手している。

EMIスタジオに4トラックのレコーディング・デッキが設置されてから初めてのアルバムであり、全2作に比べてサウンドが豊かになっている。

映画に関してジョンは「軽薄なストーリーと台詞のくだらなさに僕はちょっと頭にきていた」と語っている。

収録曲概説

● A Hard Day's Night
ジョンの作品。リード・ヴォーカルはジョンだが、サビはポールが歌っている。これはジョンではキーが高すぎたからである。
ジョン「ポールが『A Hard Day's Night』で歌った唯一の理由は、ぼくには高音が出せなかったからだ」

タイトルの「A Hard Day's Night」はリンゴの言い間違いを面白がったジョンによって決定された。非常に忙しい一日が終わり、まだ昼間だと思っていたリンゴは「A Hard Day(大変な日)」と言いかけたが、既に夜になっていることに気が付くと「A Hard Day's Night」と言いなおしたことが発端となっている。リンゴは時折、文法を無視したユニークな言い回しをしており、ジョンはそれらを「リンゴイズム」と呼んで面白がり、メモに取っていた。
ジョン「車で家に帰る途中に、ディック・レスター (映画「A Hard Day's Night」を監督したリチャード・レスターのこと) が『Hard Day's Night』というタイトルを (映画用に) 提案したんだ。前にリンゴが言った言葉をヒントにしてね。僕も同じフレーズを『In His Own Words (絵本ジョン・レノンセンス)』で使ってたけど、あれはリンゴが何気なく口にした言葉だった。間違った語法っていうか……リンゴ語だな。別に面白がらせるつもりで言ったんじゃない。ただ、口をついて出ただけ。で、ディック・レスターから、このフレーズをタイトルに使うつもりだと聞かされた次の日の朝に、僕は曲を提供した。というのも僕とポールの間には、ちょっとした競争があったんだ。どっちがたくさんA面をものにするか、そしてどっちがヒット・シングルを書くかっていう」
ポール「リンゴのおかしな言い間違いがタイトルになった。ルイス・キャロルの味わいがあるね」

まず、タイトルが決められてから曲作りに入っているが、これはザ・ビートルズにとって初めてのことであった。

間奏はジョージ・マーティンのピアノとジョージ・ハリスンのギターのユニゾンになっている。まず、マーティンが通常の回転数でピアノをテープに録音。その後、テープの回転数を半分にし、ゆっくりとしたテンポに落とした演奏に合わせてジョージはギターを弾いている。そして回転数を通常に戻せば早いフレーズの完成、ということになる。

イントロとエンディングは映画監督のリチャード・レスターの貢献度が大きいといわれている。つまり、レスターは「映画の冒頭にインパクトのある何かが欲しい」と主張したことで、あの印象的なイントロの「ジャーン!」が誕生した。また、「ドリーミーなフェイド・アウトが欲しい」と主張したことで、ジョージのリッケンバッカー12弦ギターによるエンディングが誕生した。

以前はアナログ・レコード、カセット・テープ以外に「オープン・リール」というテープが存在し、この「A Hard Day's Night」のオープン・リール盤も存在した。このオープン・リール盤の「A Hard Day's Night」のエンディングは通常よりもかなり長く繰り返されるヴァージョンが使用されていた。

A Hard Day's Night オープン・リール盤。

*レコーディング詳細
1964年
・4月16日
第1~第9テイクをレコーディング。
・4月20日
第9テイクを元にモノ、及びステレオ・ミキシングが行われる。
*この日の音源は、映画の音声用としてユナイテッド・アーティスツに渡されている。
・4月23日
第9テイクを元にモノ・ミキシングが行われる。
*この日の音源は、映画用ではなくレコード用。前回4月20日のミックスに替わり、こちらがベストとなった。どちらも第9テイクを元にしているが、混乱を避けるためにこの日のミキシングはミックス10と呼ばれる。
・6月9日
第9テイクを元にモノ・ミキシングが行われる。
*この日の音源は、再度映画の音声用としてユナイテッド・アーティスツに渡されている。編集によりエンディングが長くなっている。
・6月22日
第9テイクを元にステレオ・ミキシングが行われる。

● I Should Have Known Better
ジョンの作品で、リード・ヴォーカルもジョン。
ジョン「何のメッセージも持たない、ただの歌さ」

モノラル・ヴァージョンとステレオ・ヴァージョンでイントロが異なる。
ステレオでは、イントロのハーモニカの4小節目にブレイクが入る。また、カウベルが入っていない。
モノラルでは、イントロのハーモニカの4小節目にブレイクが入らないが、カウベルは入っている。
これは1964年3月3日のモノ・ミキシングの際に、テープ編集でイントロの3小節目を4小節目に切り貼りしているが、同年6月22日のステレオ・ミキシングの際にはこのテープ編集が行われなかったためである。
つまりオリジナルのテイクにはハーモニカのブレイクが存在し、4小節目にはカウベルは入っていなかったことになる。

1982年3月22日にリリースされた「Reel Music」には、イントロの4小節目にブレイクが入らず、カウベルが入っているステレオ・ヴァージョンが収録された。これはモノ・ヴァージョンの疑似ステレオではなく、従来のステレオ・ヴァージョンのイントロの2小節目を4小節目に切り貼りするというテープ編集を行ったためである。

*レコーディング詳細
1964年
・2月25日
第1~第3テイクをレコーディング。
・2月26日
第4~第22テイクをレコーディング。
・3月3日
第22テイクを元にモノ・ミキシングが行われる。
*この際に、イントロのハーモニカの修正が行われている。
・6月22日
第22テイクを元にステレオ・ミキシングが行われる。
*この際に、イントロのハーモニカの修正が省かれてしまったため、モノとステレオではイントロに違いが生じることになった。

● If I Fell
ジョンの作品で、ジョンとポールがヴォーカルを分け合っている。
ジョン「あれは初めてバラードらしいバラードを書こうとした曲だ。『In My Life』の原型だよ。コード進行も似通っている。DからBmにいって、そこからEm、という。自伝的な要素もあるけれど、意識的にそうしたわけじゃない」
ポール「これは僕らのクローズ・ハーモニー時代だ。何曲か……『This Boy』や『If I Fell』とか『Yes It Is』とか……同じ調子で作っている」

レコーディングは本人たちの希望により、ジョンとポールが1本のマイクを挟んで歌っている。

モノラル・ヴァージョンとステレオ・ヴァージョンでヴォーカル・パートが異なる。
ステレオでは、イントロのヴォーカルはジョンのダブル・トラックになっており、2度目のサビの「was in vain」の箇所のポールのヴォーカルは、息切れをしているように聞こえる。
モノラルでは、イントロのヴォーカルはジョンのシングル・トラックになっており、2度目のサビの「was in vain」の箇所のポールのヴォーカルは、スムーズに聞こえる。
イントロのパートのヴォーカルに違いがある意図は不明だが、2度目のサビの「was in vain」に関しては、1964年3月3日のモノ・ミキシングの際に、テープ編集で修正しているが、同年6月22日のステレオ・ミキシングの際にはこの修正が行われなかったからである。
「I Should Have Known Better」もそうだが、当時のイギリスではステレオよりもモノラルが重要視されており (ステレオは軽視されていた) モノラル・ミキシングの際にはきちんと修正をかけるが、ステレオ・ミキシングの際には手を抜く、といったことがよくあったと推測できる。

*レコーディング詳細
1964年
・2月27日
第1~第15テイクをレコーディング。
・3月3日
第15テイクを元にモノ・ミキシングが行われる。
*この際にヴォーカル・パートの修正が行われている。
・6月22日
第15テイクを元にステレオ・ミキシングが行われる。
*この際にヴォーカル・パートの修正が省かれてしまったため、モノとステレオではイントロと2度目のサビ、その他でヴォーカル・パートに違いが生じることになった。

● I'm Happy Just To Dance With You
ジョンの作品で、リード・ヴォーカルはジョージ。
ジョン「あれはジョージにも活動の場を与えてやりたくて書いた曲だ。自分じゃ歌う気になれなかった」
ポール「自分たちで歌うつもりはなかったよ。ファンに取り入っているみたいだろ」

日本盤「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」のジャケットは、映画の中でこの曲を演奏するシーンを使用している。

*レコーディング詳細
1964年
・3月1日
第1~第4テイクをレコーディング。
・3月3日
第4テイクを元にモノ・ミキシングが行われる。
・6月22日
第4テイクを元にステレオ・ミキシングが行われる。

● And I Love Her
ポールの作品だが、ジョンが作曲に手を貸している。リード・ヴォーカルはポール。
ジョン「僕ら二人で書いた。最初の半分はポール。ミドルエイトは僕だ」「あの偉大な名曲『Yesterday』の前触れになる曲だな」
ポール「ただのラヴ・ソング。特定の誰かに向けた曲じゃない。文の途中から始まるタイトルというのが、なかなかのアイディアに思えたんだ。ペリー・コモも、ずっとあとになってから『And I Love You So』をやっているだろ。あのアイディアを生かしたかったんだ。好きだよ、いい曲だもの。いまだに好きだな」「星と空というイメージがいい。曲名に『And』と入るのが重要なポイントだね」「初めて納得のいくバラードを書くことができた」

アメリカ盤「A Hard Day's Night」及び映画で使用されたヴァージョンはポールのヴォーカルがほとんどシングル・トラックであるのに対し、イギリス盤のヴァージョンはポールのヴォーカルがほとんどダブル・トラックになっている。
この違いの要因の推測に関しては下の「レコーディング詳細」を参照のこと。

ドイツ盤「Something New」に収録されている「And I Love Her」はエンディングのギター・リフの繰り返しが6回になっている(イギリス盤、アメリカ盤ともに4回)。
この違いが生じた要因に関しては不明。
このヴァージョンは、アメリカ盤「Rarities」、イギリス盤「The Beatles Box」(EMIの通販部門であるワールド・レコーズが企画した8枚組の編集アルバム・セットで通販のみの流通)、及びその日本盤である「リヴァプールより愛を込めて ザ・ビートルズ・ボックス」(こちらは一般小売店でも流通した)に収録されている。

*レコーディング詳細
1964年
・2月25日
第1~第2テイクをレコーディング。
・2月26日
第3~第19テイクをレコーディング。
・2月27日
第20~第21テイクをレコーディング。
・3月3日
第21テイクを元にモノ・ミキシング。
*マーク・ルイソン著「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版」によると、この日のミキシングはEMI及び映画製作会社であるユナイテッド・アーティスツ社のための作業となっている。
「And I Love Her」に関しては「この日のリミックスは、後に手を加えることになっていたため、レコードには使用されていない」という記述があるが、これはイギリス盤のレコードには使用されていない、ということだと推測される。
「And I Love Her」にはアメリカ盤とイギリス盤でポールのヴォーカルに違いがある。
アメリカ盤、及び映画で使用されたヴァージョンはポールのヴォーカルがほとんどシングル・トラックであるのに対し、イギリス盤でのポールのヴォーカルはほとんどダブル・トラックになっている。
この日、ユナイテッド・アーティスツ社に渡されたのはヴォーカルがシングル・トラックのヴァージョンで、6月22日に行われたミキシングの際にヴォーカルがダブル・トラックに処理されたとすれば、この違いの謎は解ける。
・6月22日
第21テイクを元にモノ、及びステレオ・ミキシングが行われる。
*前出のように、アメリカ盤「A Hard Day's Night」及び映画で使用された「And I Love Her」のモノ・ミキシングはすでに3月3日に渡されており、この日のミキシングはイギリス盤でのみ使用されたと解釈すれば、ヴァージョンの違いの謎は解ける。

● Tell Me Why
ジョンの作品で、リード・ヴォーカルもジョン。
ジョン「もう1曲アップテンポのが欲しいといわれたんで、その場ででっち上げた。ニュー・ヨークの黒人ガール・グループみたいな曲だな」
ポール「ジョンの浮気やシンシアとの口論などの実体験が元になっていたと思う」

モノラル・ヴァージョンとステレオ・ヴァージョンでヴォーカル・パートが異なる。
ステレオでは、ジョンのヴォーカルはダブル・トラックになっている。
モノラルでは、ジョンのヴォーカルはシングル・トラックか、薄いダブル・トラックになっている。
モノ・ミキシングは1964年3月3日に行われているが、同じ日に「If I Fell」と「And I Love Her」もモノ・ミキシングされている。
「If I Fell」はイントロのジョンのヴォーカルがシングル・トラック、「And I Love Her」のポールのヴォーカルも殆どがシングル・トラックである。つまりこの日にモノ・ミキシングされた「If I Fell」「And I Love Her」「Tell Me Why」はどれもがヴォーカルはシングル・トラックがメインとなっており、3曲とも同年6月22日のステレオ・ミキシングの際にヴォーカルがダブル・トラックに処理されている。これについての意図は不明。

*レコーディング詳細
1964年
・2月27日
第1~第8テイクをレコーディング。
・3月3日
第8テイクを元にモノ・ミキシングが行われる。
・6月22日
第8テイクを元にステレオ・ミキシングが行われる。

● Can't Buy Me Love
ポールの作品でリード・ヴォーカルもポール。
ジョン「あれは完全にポールだ。コーラスの部分を手伝ったかもしれないけれど、よく覚えていない。いつもこれはポールの曲だと思っていた」
ポール「エラ・フィッツジェラルドもこの曲をレコーディングしたのを知って、すごく誇りに思った。彼女がこの曲をやることの意味なんて、ちっともわかっちゃいなかったけど」「個人的には、何についても好きなように解釈をしていいと思う。でも『Can't Buy Me Love』が売春婦の歌だといわれると、一線を引きたくなる。そりゃ行きすぎというものだよ」

曲をサビのコーラスから始めたのはジョージ・マーティンのアイディアによる。
マーティン「『Can't Buy Me Love』の最初のヴァージョンは、ヴァースの部分から始まっていた。けれど私が『イントロというか、即座に耳を惹きつける部分が必要だ。サビから始めてみよう』といったんだ」

この曲は映画「A Hard Day's Night」の中で印象的に使用されている。監督のリチャード・レスターは、映画の冒頭シーンの殆どを密閉された空間で撮影することによって、閉塞感を高めている。これはレスターが「この間のスウェーデン・ツアーはどうだった」とジョンに質問した際に、ジョンが「部屋、部屋、車、部屋、部屋、車……」と答えたことからヒントを得ている。
そんな閉塞感漂うシーンから、ついにザ・ビートルズは反旗を翻すことになる (重い鉄の扉を押し開けて明るい外へ飛び出していくシーン)。
レスター「そこで彼らは解放されるんだ。その解放感を視覚的に見せる必要があった。突然、映画は広々とした感じになる。それが『Can't Buy Me Love』のポイントだったのさ」

映画「A Hard Day's NIght」の中で「Can't Buy Me Love」が使用されたシーンは、当初はジョンの「I'll Cry Instead」が使用される予定であったが、監督のリチャード・レスターの「『Can't Buy Me Love』のほうがふさわしい」という判断によって変更された。「I'll Cry Instead」を気に入っていたジョンは、この曲が映画に使用されなくなったことを残念がった。

この曲は1964年1月29日にフランスの「EMIパテ・マルコーニ・スタジオ」でレコーディングされている。この日、ザ・ビートルズはドイツ語版の「She Loves You」「I Want To Hold Your Hand」をレコーディングしており、あまった時間を使ってこの曲をレコーディングし、その日のうちに (わずか4テイク) 完成させている。

モノ・ミキシングの際にエンジニアンのノーマン・スミスによってハイハットの音が重ねられている。これはジェフ・エメリックの回想本「ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実」によって明かされた。
ジェフ・エメリック「(フランスから)持ち帰ったテープを再生してわかったのだが、リールの巻きに不手際があったらしく、テープがわずかに波打っていた。その結果、リンゴのハイハット・シンバルの高音がところどころ飛んでしまっていた。しかしミキシングの時間はもうほとんど残っていない。一刻も早くプレス工場に納入しなければならず、しかも当のビートルズは、ツアーのスケジュールに縛られて、身動きが取れない状態だった。そこでジョージ(マーティン)とノーマンは、自分たちの手でちょっとした調整を加えることにした」
「嬉々として生まれて初めてのエンジニア席に座る僕を横目に、ノーマンはスタジオに入り、備えつけのドラム・キッドから、そそくさとハイハットを組み立てた。そして必要な箇所になるとハイハットを叩き、僕はそれを録音しながら、同時に2トラックから2トラックにダビングした。幸い、ノーマンはドラマーとしてもかなりの腕前だったので、修復作業は手早く行われ、繋ぎ目もまったく目立たなかった。多分、ビートルズ自身、自分たちの演奏がひそかに補修されたことに、気づいていなかったのではないだろうか」

マーク・ルイソン著「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版」によると、1964年3月10日に「誰か『ドラマー』が参加してオーヴァーダビングが行われた」とあり「これによりステレオ・ミックスのドラミングがモノ・ミックスと多少異なっている謎は一応解明された」とある。またザ・ビートルズの関連書籍の中には、この日の「誰か」がノーマン・スミスであり、この日にハイハットの補修が行われたと推測しているものもある。
実際にはこの日のステレオ・ミキシングは未使用に終わっている。「ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版」でも未使用に終わっていると記述されており、陽の目を見ていないヴァージョンを元に、「謎が解明される」ことは不可能である。
3月3日のモノ・ミキシングの際にノーマン・スミスがハイハットを叩いて補修したものがモノラル・ヴァージョンで、6月22日に行われたステレオ・ミキシングの際にハイハットの補修を行わなかったものが、そのままステレオ・ヴァージョンになった、と推測するのがスムーズ。
ちなみに、「Can't Buy Me Love」のシングルは1964年3月20日にイギリスでリリースされており、これはモノラルであった。
アメリカ盤「A Hard Day's Night」に収録されている「Can't Buy Me Love」はモノラルからの疑似ステレオであり、アメリカで「Can't Buy Me Love」のリアル・ステレオ・ヴァージョンが登場するのは1970年2月26日リリースのアルバム「Hey Jude」まで待たねばならないことになる。

*レコーディング詳細
1964年
・1月29日
第1~第4テイクをレコーディング。
・2月25日
第4テイクに、ジョージのリード・ギターとポールのヴォーカルをオーヴァーダブ。
・2月26日
第4テイクを元にモノ・ミキシングが行われる。
*ハイハットの音に問題が生じたので、エンジニアのノーマン・スミスがハイハットを加え、修正をしたテイクでミキシングがされている。
・3月10日
第4テイクにドラムスのオーヴァーダブ。
*プロのドラマーを雇って、ハイハットの音の修正を再度行っている。
ドラムスがオーヴァーダブされた第4テイクを元にステレオ・ミキシングが行われるが、この日のステレオ・ミキシングは未使用に終わっている。
・6月22日
第4テイクを元にステレオ・ミキシングが行われる。
*この際に、ハイハットの音の修正を行わなかったため、モノとステレオで違いが生じることになった。

● Any Time At All
ジョンの作品でリード・ヴォーカルもジョン。一部、ポールが歌っている。
ジョン「『It Won't Be Long』と同じような曲を書こうとしたんだ。同工異曲。CからAm、CからAm、で、ぼくがシャウトしているというね」

「Any Time At All」と3回繰り返してシャウトするが、2回目のキーが高くなっているパートはジョンではなく、ポールが歌っている。これはキーがジョンでは高すぎたからである。

この曲はアメリカ盤「A Hard Day's Night」には収録されず、アメリカ編集盤「Something New」に収録されたが、イギリス盤とは異なるヴァージョンになっている。
イギリス盤の間奏ではギターとピアノが最初からユニゾンで入ってくるが、「Something New」ではピアノは6小節目あたりからフェイド・インしてくる。異なるヴァージョンにした意図は不明だが、6月22日のモノ・ミキシングの際に、イギリス用とアメリカ用のミキシング作業が行われているので、何かしらの意図はあったと推測される。

*レコーディング詳細
1964年
・6月2日
第1~第11テイクをレコーディング。
・6月3日
第11テイクにオーヴァーダブ。内容は不明。
・6月4日
第11テイクを元にモノ・ミキシング。
*このモノ・ミキシングは未使用に終わっている。
・6月22日
第11テイクを元にモノ・ミキシング。
*意図は不明だが、イギリス発売用とアメリカ発売用の2種類のミキシングを行っている。よって、イギリス盤とアメリカ盤では間奏が異なる。また、アメリカ盤「A Hard Day's Night」には収録されず、1964年7月20日リリースの「Something New」に収録された。
第11テイクを元にステレオ・ミキシング。
*ステレオ・ミキシングに関してはイギリス、アメリカの区別はない。

● I'll Cry Instead
ジョンの作品でリード・ヴォーカルもジョン。
ジョン「『A Hard Day's Night』用に書いたんだけど、(監督の)ディック・ レスターは欲しそうな素振りすら見せなかったな。彼は代わりに『Can't Buy Me Love』を引っ張り出してきた。けど、ミドルエイトの部分は気に入っているよ」

イギリス盤とアメリカ盤「A Hard Day's Night」「Something New」に収録されているヴァージョンでは曲構成が以下のように異なる。
イギリス盤の曲構成は
・1番
・2番
・サビ
・3番
・サビ
・4番(歌詞は1番と同一)
アメリカ盤「A Hard Day's Night」「Something New」の曲構成は
・1番
・2番
・サビ
・3番
・4番
・サビ
・5番
アメリカ盤の「4番」は「1番」と同じ歌詞であるが、歌い方や演奏が異なるため、単にテープ編集で「1番」を切り貼りしたのではない。
推測されるのは、当初この曲は映画「A Hard Day's Night」に使用されることになっており、それを見越して尺の長いヴァージョンを作ったと思われる。実際にこの曲のみSection 1 と Section 2 に分けてレコーディングされており、これも映画に使用されるのを前提として、編集しやすいような作業を行ったと推測される。
また、映画に使用されなかったにも関わらず、アメリカ盤「A Hard Day's Night」に収録されたのも、映画に使用されることを前提として、ユナイテッド・アーティスツに音源を渡したのではないか。
作業としては1964年6月4日のモノ・ミキシングの際に、アメリカ盤「A Hard Day's Night」「Something New」用とイギリス用のミックスが行われたのだろう。

8gfujiteru_1015
8gfujiteru_1015
@8gfujiteru_1015

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