四畳半神話大系(小説・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ
『四畳半神話大系』とは、森見登美彦による日本小説、及びそれを原作として制作、放送されたアニメ作品。
小説は単行本では2005年に太田出版から、文庫本では2008年に角川書店から刊行されている。
アニメは2010年に放送された。
そして森見登美彦原作の「夜は短し歩けよ乙女」の映画化を受け、2017年1月から特別放送が開始された。
時計台の時計の針が巻き戻されるシーン
『こんなはずではなかった!』『もう一度、やり直したい!』
そんな「私」の思いを受けて、物語の終わりには、大学の時計台の時計の針が巻き戻される。
その瞬間、「私」の物語は、再びふりだしへともどるのだ。
羽貫さんの酒癖の悪さが描かれるシーン
小津と言う強烈なキャラクターがいるため、ついかすみがちだが、四畳半神話大系には他にも強烈なキャラクターが登場する。
まずは羽貫さんである。
美人で、色気たっぷり。それでいて、どこかさばさばとした気質を漂わせている彼女に、「私」はメロメロになる。
しかし、彼女の酒癖は最悪であった。
ひとたび、酒が入ると悪態を吐き、人の顔を舐めまわす。
それはまさしく、百年の恋も冷めるような醜態である。
城ケ崎先輩の本性が暴かれるシーン
そしてもうひとり、羽貫さんと同じく、端正な容姿と、強いカリスマ性から、皆の兄貴分として描かれている人物がいる。
それが城ケ崎先輩である。
しかし、この城ケ崎先輩の本性はとんでもないものだった。
ナルシストであるのは良いが、無類の乳好き。
それは「私」をもってして、「おっぱい独裁者」と評されるほどである。
女性のおっぱいを評価したリストをつけていたり、自分の部屋におっぱいを貼り付けていたりと、もはやドン引きのレベルである。
しかも生身の女性のおっぱいには並々ならぬ興味を持っている一方で、本当に愛しているのはラブドールの香織さんだけなのだから、なおのことタチが悪い。
「私」が四畳半の世界から脱出を果たしたシーン
自らの学生生活が、実はどれほど楽しく、賑やかで、恵まれたものであったかに気がついた「私」。
その「私」が四畳半の世界から脱出を果たし、現実世界に戻っていくシーンは、今作の最大の見どころである。
またこの後の流れも必見である。
「私」の明石さんに対しての気持ちを感じさせるのは勿論なのだが、小津に対しての気持ちも感じさせる流れになっている。
「僕なりの愛ですよ。我々は運命の黒い糸で結ばれているというわけです。」
小津の台詞であり、ことあるごとに小津から「私」に向かって口にされる言葉である。
小津は他人の不幸が大好き、意義のないことに全力を尽くす男である。
そんな小津のせいで、「私」の学生生活はとんでもない方向に振り回されることもある。
「私」はだから、小津と何とかして距離を置こうと試みる。
しかし、それはうまくいかない。絶望的にうまくいかない。
その、うまくいかない理由を示しているひとつの答えが、小津のこの言葉である。
「運命の赤い糸」ではなく「運命の黒い糸」と言うのが、シュールであり、ユーモアでもある。
またアニメにおいては、その黒い糸に全身をがんじがらめにされて、小津と共に海溝に沈んでいく「私」の映像も挟まれる。
しかし最終的には「私」は、その小津との「黒い運命の糸」があったからこそ、四畳半の世界から抜け出すことができたのである。
「ひどいなあ、私は無意義な学生生活を力いっぱいエンジョイしているのです。」
小津の台詞。
小津のやっていることと言うのは、基本的にはくだらないことである。
しかもそこに他人を巻き込むのだから、なおタチが悪いとも言える。
「可能性と言う言葉を無限定に使ってはいけない。」
九話にて、もっと有意義で、もっと薔薇色の学生生活があったかもしれないのに、と言う悩みを吐露する「私」。
その「私」に対して、樋口師匠が口にする台詞である。
大学8回生の樋口師匠だからこその、深い、深い言葉である。
「不毛と思われた日常はなんと豊穣な世界だったのか。ありもしないものばかり夢見て自分の足元さえ見てなかったのだ。これは私が選んだ人生。私が望んだ結末である。」
四畳半の世界に閉じ込められ、孤独に苛まれた「私」による語り。
人は、自分が置かれている状況に関しては、どうしても冷静な目で、客観的な目で見ることができない生き物である。
あるものよりはないものに、欲しくないものよりは欲しいものに、意識や目を傾けてしまいがちになるためである。
「私」もそうだった。
確かに、女の子とラブラブな関係になるような、薔薇色の学生生活を送ることはできなかったかもしれない。
しかし、思い返してみると、小津と言う男にある時は振り回され、またある時は協力し、とても賑々しい、語るに十分なほどのボリュームのある学生生活を送ってきた。
友人も得ず、有意義なことも無意義なこともせず、誰かに語ろうにも語ることができない学生生活を送ってきた人に比べれば、なんて恵まれた、豊かな学生生活だったのだろう。
しかし、そのことに目を向けず、全ての選択肢を放棄した挙句、四畳半の世界に閉じ込められ、孤独になってしまった「私」。
その「私」の後悔、悲しみが、しっかりと伝わってくる台詞である。
「今なら踏み出せる。何十歩でも、何百歩でも。」
Related Articles関連記事
ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジカン)の徹底解説まとめ
「アジカン」の略称で知られる4人組ロックバンド2002年11月、ミニアルバム『崩壊アンプリファー』でデビュー後、2004年10月アルバム『ソルファ』がオリコン初登場1位を記録。一躍有名バンドの仲間入りをする。 『鋼の錬金術師』OPとなった「リライト」や、浅野いにおによる漫画を原作とする映画『ソラニン』の主題歌である「ソラニン」を発表するなど活動の幅を広げ、2016年に結成20周年を迎えた。
Read Article
ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジカン)の名言・発言まとめ
ASIAN KUNG-FU GENERATIONは後藤正文(Vo&G)、喜多建介(G&Vo)、山田貴洋(B&Vo)、伊地知潔(Dr)からなる4人組ロックバンド。 フロントマンである後藤正文がほとんどの楽曲の作詞作曲を担当、歌詞は比喩的な表現を多様し、曲作りに込められた発言から、音楽のみならず、社会的、政治的発言も数多く残している。
Read Article
有頂天家族2(アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ
「有頂天家族2」とは、「森見登美彦」による小説作品「有頂天家族」シリーズ2作目をアニメ化した作品。2007年に小説「有頂天家族」が発売、2013年に第一期がアニメ化。2015年に小説「有頂天家族 二代目の帰朝」が発売、2017年に「有頂天家族2」としてアニメ化。主人公で狸の「下鴨矢三郎」は、天狗の息子「二代目」と出会う。二代目はヒロイン「弁天」と険悪な仲になり、矢三郎たち狸も巻き込まれていく。
Read Article
有頂天家族(アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ
2013年に放映されたアニメ。 原作は『四畳半神話大系』、『夜は短し歩けよ乙女』の森見登美彦。3部作となる予定の「たぬきシリーズ」である。キャラクターデザインは『さよなら絶望先生』の久米田康治。 2013年には漫画化、2014年には舞台化された。 豪華なキャストと丁寧な描写で根強いファンがついており、2017年4月9日より第2期である『有頂天家族2』が放送開始する。
Read Article
ペンギン・ハイウェイ(小説・アニメ映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『ペンギン・ハイウェイ』とは、突如街に現れたペンギンの謎を突き止めようとする少年の恋と成長を描いた、森見登美彦のSF小説。2018年にアニメ映画化され、Netflixで公開された。 小学生のアオヤマの暮らす町に、突如大量のペンギンが現れる。淡い思いを寄せるお姉さんから「この謎を解いてごらん」と焚きつけられたアオヤマは、ペンギンについて独自に調査を開始する。アオヤマの研究は、やがて町の奥に眠っていた壮大な秘密と、お姉さん自身がその謎と深く結びついていることを明らかにしていく。
Read Article
【四畳半神話大系】絶対に観たい10のおすすめ名作アニメ【電脳コイル など】
世界に誇れる文化なのに、アニメというだけで敬遠するのは勿体無い!!大人が楽しめる考え抜かれたストーリー展開を軸に、死ぬまでに観ておきたい良質のアニメを厳選して紹介。質の高さは折り紙つき。四畳半神話大系や電脳コイルなど、名作だらけですのでぜひ最後までご覧ください!
Read Article
隠れた名作アニメをまとめて紹介!もっと評価されるべき傑作揃い!
人気作ほど名が知られてはいないものの、名作と呼ぶにふさわしいアニメ作品をまとめてみました。『四畳半神話大系』や『妄想代理人』など、作画が良く独特な世界観に惹き込まれる作品を多く紹介しています。気になった作品は、レンタルや配信サービスなどでぜひ視聴してみてください。
Read Article
大学生が主人公の漫画・アニメまとめ【四畳半神話大系など】
大学生を主人公にしたおすすめの漫画やアニメをまとめました。大学生活の雰囲気を堪能できる「四畳半神話大系」や、恋に生き方に迷う学生たちを描いた「ハチミツとクローバー」など、各作品のあらすじやおすすめポイントを紹介していきます。
Read Article
『PSYCHO-PASS(サイコパス)新編集版』追加シーンまとめ
【新編集版を見逃した方必見!!】サイコパス1期に無かったシーンが「新編集版」に追加されているのをご存知ですか?本編の補足を兼ねた追加シーンでは、分かりづらかったキャラクターの心理が細かく描かれています。狡噛と対峙する直前の槙島は何を考えていたのか?狡噛はどんな思いで事件捜査にあたっていたのか?などなど…。見れば見るだけ、本編の面白さが濃密に感じられる新規カットについて迫ります!
Read Article
PSYCHO-PASS(サイコパス)1係メンバーと声優陣まとめ
ノイタミナの大人気アニメ「サイコパス」「サイコパス2」を支える登場人物とは?主人公・狡噛慎也を筆頭に、公安局刑事課1係の監視官や執行官たちをご紹介。cvを担当する人気声優情報にも迫る。
Read Article
『劇場版 PSYCHO-PASS』狡噛復活!舞台は海外、熱い戦いが幕を開ける!
自らの正義を貫いた男は、殺人犯となり姿をくらました。彼は今何を思い、何を成そうとしているのか?一人前の刑事として成長した常守朱は、新たにシビュラシステムが導入された「シーアン」に足を踏み入れる。そして銃弾が飛び交う危険地帯で、1人の男と再開するのだった。
Read Article
【NARUTO】歴代名曲まとめ~OP編~
2002年から放送が開始されたアニメ「NARUTO(疾風伝)」。10年以上にわたる放送の中で数々の名場面がアニメ化されてきましたが、それと同時に増えていったのがアニメ主題歌です。今回は、懐かしの名曲から新しい名曲まで気になったOPをまとめてみました。
Read Article
「冴えない彼女の育てかた」 ハーレムアニメはここまで進化した(笑)!
フジテレビ「ノイタミナ」にて2015年1月に放送されたアニメ。このアニメはもともと丸戸史明によるライトノベルが原作。主人公がヒロインに囲まれ取り合いになるよくあるパターンのアニメかと思いきや...!
Read Article
【森見登美彦作品】有頂天家族聖地巡礼
人気作家・森見登美彦さんの代表作「有頂天家族」に登場する京都の名所をまとめました。京都ならではのグルメ情報や観光情報もご紹介していますので、修学旅行や出張の際はぜひお立ち寄りください!
Read Article
主人公が謎!?今でも根強い人気の「モノノ怪」の魅力に迫る!!
2007年に放映された「モノノ怪」。この和製ホラーアニメは今でも人気が根強く人気があり、2016年3月には主人公の薬売りがフィギア化します。なぜこんなにも人気があるのか!?「モノノ怪」の魅力を今回ご紹介します!!
Read Article
アニメ『PSYCHO‐PASS』とは?人工知能が支配する近未来…凶悪犯罪を追う刑事達の物語をご紹介
平和なはずの社会に突如現れた凶悪な殺人犯たち。彼らは一様に「マキシマ」という男の名を口にする。しかしマキシマは、人工知能でも裁くことができないイレギュラーな存在だった…。人工知能が絶対正義となった社会で、刑事は葛藤する。コンセプトは「近未来SF・警察もの・群像劇」。ノイタミナの大人気アニメ『サイコパス』のあらすじや見所をご紹介。
Read Article
「甲鉄城のカバネリ」主人公の生駒の魅力に迫る!!
蒸気鍛冶師で顕金駅に住むただの青年、生駒 密かに収集したカバネの死体を用いて研究を行っており、顕金駅に侵撃したカバネと戦うも、その最中、人でもないカバネでもない存在になってしまう生駒。そんな彼の生い立ちや戦い方等、生駒の魅力をまとめてみました
Read Article
人工知能の支配は終わらない。シビュラの支配下で葛藤する刑事の物語『PSYCHO-PASS2』とは
一人前の刑事に成長した常守朱のみが知るシビュラシステムの秘密。人工知能と思われていたシビュラの正体は、凶悪犯罪者の脳だったのだ。恐ろしい事実を知りながら、それでも現状世界を維持することを決めた常守朱。しかし彼女の前に、新たな謎と事件が立ちふさがる。
Read Article
アニメ化直前! すべてがFになるの魅力大特集
フジテレビ系列でドラマ化もされた「すべてがFになる」が今度は、同じくフジテレビ系列のノイタミナ枠でアニメ化されます。 ドラマではいまいち、と思った方も、ぜひアニメの方を見てみてください。 今回はアニメ放映に先駆けて、その魅力をご紹介したいと思います。
Read Article
12年前の曲がリバイバルヒット! ASIAN KUNG-FU GENERATIONの人気曲ランキング
4人組ロックバンドASIAN KUNG-FU GENERATIONの2004年に発表したアルバム「ソルファ」の収録曲「Re:Re:」がアニメ「僕だけがいない街」のOPに起用されリバイバルヒットしています。 ここでバンドの人気曲を紹介します。
Read Article
江戸川乱歩の世界をアニメ化!?ノイタミナ「乱歩奇譚」が面白そう!
実験的でクオリティーの高いアニメ作品を生み出してきたフジテレビ「ノイタミナ」枠にて2015年7月から放送されるアニメ「乱歩奇譚」がかなり面白そうなのでまとめました。
Read Article
10月新作アニメ「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」まとめ(前編)
2015年10月より放送開始の「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」。放送まであと1カ月を切って事前情報も出揃ってきた事ですし、可能な範囲で作品の情報をまとめてみました。 今回は登場キャラクターが多いので前後編でそれぞれの魅力をご紹介。まずは前編からどうぞ!
Read Article
10月新作アニメ「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」まとめ(後編)
2015年10月より放送開始の「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」。放送まであと1カ月を切って事前情報も出揃ってきた事ですし、可能な範囲で作品の情報をまとめてみました。 後編では研究所や大学の関係者など、事件に関わる周辺人物についてご紹介していきます。
Read Article
森見登美彦の小説ランキング14選!あなたはこの独特の世界観から抜け出せるか!?
ファンタジーものや青春ものなど多彩なジャンルで独特の世界観を築いてきた、森見登美彦。その畳みかけるような言葉の洪水とみずみずしい感性は、一度触れると病みつきになること間違いなしである。 ここでは森見登美彦がこれまで発表してきた小説作品を、1位から14位までランキングにしてまとめている。また、それぞれの作品のあらすじ・ストーリーや、読者のツイートなども掲載している。
Read Article
タグ - Tags
目次 - Contents
- 『四畳半神話大系』のあらすじ・ストーリー
- 『四畳半神話大系』の登場人物・キャラクター
- 「私」(わたし)
- 明石さん(あかしさん)
- 小津(おづ)
- 樋口師匠(ひぐちししょう)
- 城ケ崎先輩(じょうがさきせんぱい)
- 羽貫さん(はぬきさん)
- 相島先輩(あいじませんぱい)
- 香織さん(かおりさん)
- 『四畳半神話大系』の物語(アニメ版)
- 一話『テニスサークル・「キューピット」』
- 二話『映画サークル・「みそぎ」』
- 三話『サイクリング同好会・「ソレイユ」』
- 四話『弟子求ム』
- 五話『ソフトボールサークル・「ほんわか」』
- 六話『英会話サークル・「ジョイングリッシュ」』
- 七話『サークル・「ヒーローショー同好会」』
- 八話『読書サークル・「SEA」』
- 九話『秘密機関・「福猫飯店」』
- 十話『四畳半主義者』
- 十一話『四畳半記の終わり』
- 『四畳半神話大系』の主題歌・挿入歌
- OP(オープニング):ASIAN KUNG-FU GENERATION『迷子犬と雨のビート』
- ED(エンディング):いしわたり淳治&砂原良徳+やくしまるえつこ『神様のいうとおり』
- 『四畳半神話大系』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 小津との出会いのシーン
- 時計台の時計の針が巻き戻されるシーン
- 羽貫さんの酒癖の悪さが描かれるシーン
- 城ケ崎先輩の本性が暴かれるシーン
- 「私」が四畳半の世界から脱出を果たしたシーン
- 「僕なりの愛ですよ。我々は運命の黒い糸で結ばれているというわけです。」
- 「ひどいなあ、私は無意義な学生生活を力いっぱいエンジョイしているのです。」
- 「可能性と言う言葉を無限定に使ってはいけない。」
- 「不毛と思われた日常はなんと豊穣な世界だったのか。ありもしないものばかり夢見て自分の足元さえ見てなかったのだ。これは私が選んだ人生。私が望んだ結末である。」
- 「今なら踏み出せる。何十歩でも、何百歩でも。」
- 「俺なりの愛だ。」
- 『四畳半神話大系』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- ロケ地には京都市が多く使われている
- 京都大学
- 鴨川デルタ
- 『四畳半神話大系』の用語
- もちぐま
- 猫ラーメン
- 自虐的代理代理戦争
- 大学の時計台
- 『四畳半神話大系』の評価
- 『四畳半神話大系』の小説