沈黙の艦隊(かわぐちかいじ)のネタバレ解説・考察まとめ

『沈黙の艦隊』とはかわぐちかいじによって1988年から1996年まで『モーニング』に連載されていた、架空の戦争・軍事政策をテーマとした漫画作品、およびそれらを原作としたラジオドラマ、アニメ、映画作品である。政治的な陰謀や軍事技術の進展による国際関係の緊張を背景に、架空の最新鋭潜水艦「やまと」の艦長である海江田四郎とその乗組員たちの活躍を描いている。本作は、そのリアルな描写と緻密なストーリー展開で高い評価を受けた。

ウィンストン・サロー

ウィンストン・サローは、イギリスの伝統ある大手テレビ局BBCの会長で、貴族出身である。彼はヨーロッパ報道界で高い権威を持ち、セシル・デミルも敬意を払う存在。サローはデミルが進めようとした情報の無差別な流通に対し、イギリスを含むサミット参加各国が自国のマスメディアに自制を促す中でデミルからの協力の申し出を断った。彼は「全てのメディアが一つの方向を向くならば、それはもはやメディアではない」との考えを示し、イギリス政府の方針に従う決意をデミルに伝えた。また、サローはデミルや海江田の行動を「やるべきこととやるべきでないことを見分けられず、やるべきことにのみ焦点を当てている」と評している。

国際連合関係者

ジョージ・アダムス

ジョージ・アダムスは、任期残り1年となる国連事務総長で、ニュージーランド出身の親日家である。彼はアメリカを含む常任理事国の拒否権行使により戦争や紛争の調停が難航し、国際平和を実現するための国連の能力に限界を感じている。この現状を打開すべく、海江田の「やまと」独立宣言および国連加盟の動きを積極的に支持。また、竹上登志雄による自衛隊の指揮権を国連に移譲する決断を高く評価し、その考えが日本の国民全体の意志となることを願っている。アダムスは現在では経験を積んだことで老獪であり、時には独走的な行動を取ることもあるが行動力がある。大滝によれば、アダムスは40代以前には理想主義者であり、情熱的な政治活動を行っていたとされている。

リック・ソーンバーグ

リック・ソーンバーグは国連事務次官で、ジョージ・アダムス事務総長の信頼厚い右腕である。アメリカ出身ではあるが、自身を国連の一員と強く意識しており、その職務に対する姿勢は国際的な視野に立っている。日本政府が深町たちをニューヨークに派遣した当初は、この行動を「日本政府の独断行為」とみなし、アダムス事務総長に対してその認可を勧めなかった。しかし、アダムスの説得によって考えを改め、後には国連本部へ到着した深町たちの身柄を引き渡すよう要求したアメリカ海兵隊の攻撃ヘリ部隊に対し、国連憲章を引用してその要求を断固として拒否した。ソーンバーグの行動は、国連の独立性と主権を守ることに対する彼の強い決意を示している。

タワンダ・モヨ

ジンバブエの国連大使であり、海江田が参加した国連総会で議長を務めていた。彼の役割は国連総会を冷静にかつ効率的に進行させることであり、この責任を見事に果たしている。海江田が狙撃された衝撃的な事件が発生した後、アメリカ合衆国大統領ニコラス・J・ベネットから翌日への決議延期の提案があった際には、モヨはその提案を受け入れ重大な決定を次の日に持ち越した。この行動は彼のリーダーシップと、緊急事態における判断力の高さを示している。

シャバール

ネパールの国連大使として、国連総会で海江田の演説に対し、独特の立場から意見を提出した。彼はマハトマ・ガンディーの非暴力不服従運動を引き合いに出し、海江田の国家概念に対する批判的な見解を否定した。シャバールの発言は国連大使たちの間で海江田に対する反論のきっかけとなり、国家肯定派の大使たちによる議論を活発化させることに寄与した。このやり取りは、国連総会における多様な意見の交流と国際的な問題に対する異なる視点の重要性を浮き彫りにした。

『沈黙の艦隊』の用語

原子力潜水艦

原子力潜水艦は原子炉を動力源とする潜水艦で、その最大の特徴は非常に長い期間、海中での活動が可能であること。従来のディーゼルエンジンを用いた潜水艦と比較して燃料補給の必要がほとんどなく、また空気を必要としないため長期間潜航することができる。これにより、原子力潜水艦は全世界のあらゆる海域に隠密かつ迅速に展開することが可能となり、戦略的にも非常に価値の高い兵器とされている。
原子力潜水艦の用途は多岐にわたるが、主に以下のようなものがある。
戦略ミサイル潜水艦(SSBN): 核弾頭を搭載した弾道ミサイルを運用し、核の抑止力として機能する。
攻撃型潜水艦(SSN): 敵の艦船や潜水艦を攻撃するための魚雷や巡航ミサイルを装備しており、海上の脅威に対処する。
巡航ミサイル潜水艦(SSGN): 従来のSSBNやSSNに加え、地上目標を攻撃するための巡航ミサイルを多数搭載している。
原子力潜水艦はその静粛性により敵に察知されにくいため、偵察任務や特殊作戦にも使用される。また、その高い持続力と速度は迅速な部隊展開や長期間の哨戒活動を可能にし、海上の安全保障に欠かせない役割を担っている。
原子力潜水艦の建造と運用は高度な技術と莫大なコストを要するため、これを保有する国は限られている。保有国はアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国などの核保有国を中心に、インドやブラジルなどが開発や建造に取り組んでいる。

やまと

やまと

『沈黙の艦隊』に登場する原子力潜水艦「やまと」は、物語の中心となる架空の潜水艦である。この潜水艦は、日本がアメリカと共同で極秘に建造した日本初の原子力潜水艦であり、その存在は国際社会に大きな衝撃を与える。悪天候でも遠距離の敵を補足するアクティブレーダースキャナを搭載し、魚雷発射管は8門、ミサイルは50発搭載可能。
「やまと」は非常に高度な技術で設計されており、静粛性、速力、武装などあらゆる面で当時の世界最先端を行く性能を有している。特に、その静粛性は他のどの潜水艦にも劣らず探知されにくいという特徴を持つ。また、「やまと」は核兵器を搭載している可能性があり、そのために一層の緊張を国際社会にもたらしている。
物語の中で、「やまと」の艦長である海江田は、この潜水艦を用いて独自の国際政治的行動を展開する。彼は「やまと」を旗艦とする独立戦闘国家「やまと」を宣言し、世界の海を舞台に自由と平和、核廃絶を目指す理想を追求する。この過程で、「やまと」は様々な国家の軍隊と衝突し国際的な危機を引き起こすが、同時に既存の国際秩序に疑問を投げかけ、新たな世界秩序の可能性を示唆している。
「やまと」はただの潜水艦ではなく、『沈黙の艦隊』における平和と自由への願望、そして人類の未来に対する問いかけを象徴する存在として描かれている。

シーウルフ級原子力潜水艦

『沈黙の艦隊』に登場するシーウルフ級原子力潜水艦は、アメリカ海軍が実際に運用しているシーウルフ級(Seawolf-class)原潜を指す。このシーウルフ級は、オハイオ級の後継として開発された冷戦時代の末期に設計されたクラスで、極めて静粛性が高く、深海での作戦能力、高速性、そして先進的な武装を備えている。シーウルフ級は、やまとのモデルになったとされている。実際のシーウルフ級は、アメリカ海軍が運用する最も高度な技術を持つ攻撃型原潜(SSN)の一つで、その設計目的はソビエト連邦の潜水艦や海軍力に対する優位性を保持することにあった。ただし、その高額な建造コストと冷戦終結後の軍縮の流れにより当初計画されていた29隻のうち、実際に建造されたのは3隻のみである。

アルファ級原潜「レッド・スコルピオン」

『沈黙の艦隊』に登場するソビエト連邦海軍のアルファ級原潜「レッド・スコルピオン」は架空の潜水艦である。アルファ級原潜は1970年代から1980年代にかけてソビエト連邦が開発した攻撃型原子力潜水艦で、その設計と性能において当時としては革新的な存在であった。このクラスの最も顕著な特徴は、その高速性能と深潜航能力にある。アルファ級はリードバイスメット製の圧力殻を採用しており、これが非常に高い強度を実現し、他のどの潜水艦よりも深く潜る能力を持っていた。この深潜航能力によりアルファ級は敵の対潜探知網を効果的に避けることが可能となり、その隠密性をさらに高めている。
また、アルファ級は液体金属冷却型原子炉を搭載していたことも特筆すべき点だ。この原子炉は高い出力をコンパクトな形で提供することが可能で、それが高速性能を支える重要な要素となっていた。ただし、この冷却システムは運用と保守の面で複雑かつ困難を極め、アルファ級の運用期間を制限する一因ともなっていた。
武装面ではアルファ級は魚雷や対艦ミサイルを装備し、敵艦船や潜水艦に対する攻撃能力を有している。しかし、その革新的な設計と高い性能にも関わらずアルファ級は冷戦の終結とともにその役割を終え、早期に退役することとなった。その存在は、潜水艦技術の歴史において特異な節として記憶されている。

通常動力型潜水艦

たつなみ

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