沈黙の艦隊(かわぐちかいじ)のネタバレ解説・考察まとめ

『沈黙の艦隊』とはかわぐちかいじによって1988年から1996年まで『モーニング』に連載されていた、架空の戦争・軍事政策をテーマとした漫画作品、およびそれらを原作としたラジオドラマ、アニメ、映画作品である。政治的な陰謀や軍事技術の進展による国際関係の緊張を背景に、架空の最新鋭潜水艦「やまと」の艦長である海江田四郎とその乗組員たちの活躍を描いている。本作は、そのリアルな描写と緻密なストーリー展開で高い評価を受けた。

深町 洋(中央)

CV:大塚明夫(アニメ)/原康義(ラジオドラマ)
深町洋は海上自衛隊のディーゼル潜水艦「たつなみ」の艦長で、階級は二等海佐。昇進するための能力は備えているものの、その粗暴な言動が障壁となっている。防衛大学校時代から海江田の同期であり、良きライバルとして、海江田からも「自分に対抗できる唯一の人物」として認められている。特に「やまなみ」沈没事故の際、海江田の行動に疑念を抱き組織に内緒で独自に真相を追求した。深町は海江田との対立を経験しながらも「あいつは友達」と述べ、強い絆で結ばれていることを示している。
操艦技術においても海江田に劣らず、リムパック演習で米空母「カールヴィンソン」を5回撃沈するなどの実績を持つ。この技術は米海軍から「大胆」と評価され、彼もまた「シーバット」艦長候補として名が挙がった。深町の性格は海江田とは正反対であるが、乗組員からの尊敬と信頼は同様に強く、カリスマ的なリーダーシップを発揮している。
作中では「やまと」の護衛として東京湾で実戦を行い、米海軍の原潜複数隻を戦闘不能に追い込むなど、その能力を遺憾なく発揮した。これは、彼が「たつなみ」の限界を超えた運用を恐れずに行った結果であり、深町は「やまと」への乗艦を複数回経験している唯一の人物として物語の重要な役割を担っている。

ニコラス・J・ベネット(演:リック・アムスバリー)

ニコラス・J・ベネット

CV:上田敏也(アニメ)/勝部演之(ラジオドラマ)
ニコラス・J・ベネットはアメリカ合衆国の第43代大統領であり、『沈黙の艦隊』におけるもう一人の主人公として位置づけられている。彼は海江田とその指揮下の原子力潜水艦「やまと」を国際平和への脅威と捉え、彼らの排除を目指して積極的に行動を指示する。タカ派として知られ、ギリシア移民の子孫であり「強いアメリカ」の体現者としてアメリカの象徴的な存在だ。彼はアメリカの威信と責任を強調する一方で、「シーバット」の反乱事件を通じて海江田を捕らえようとする過程で多大な軍事損失を招き、政治的に批判される事態に直面する。
「やまと」との対立では戦略的に敗北を重ね第3艦隊の壊滅や複数の原潜の撃沈・大破、さらには多数の艦艇が戦闘不能となるなど大規模な損失を被る。これらの行動は一部で悪意ある計算のもと、日本を再占領する布石として利用されるとも解釈されている。しかし、物語が進むにつれてベネット大統領は海江田の思考や行動に深い興味を持ち、自らの役割と責任について悩み葛藤する。
物語のクライマックスでは、国連総会で海江田と直接対面し、彼の影響を受けてアメリカが国連の決定を尊重することを世界に宣言する。これは、ベネットが大統領として国際社会におけるアメリカの役割を再考する転機となった。作者のかわぐちかいじによると、ベネットは作品中で最も気に入っているキャラクターであり、その複雑な内面と国際政治における彼の役割が物語の重要な要素を形成している。

竹上 登志雄(たけがみ としお/演:笹野高史)

竹上登志雄

CV:阪脩(アニメ)/宮川洋一(ラジオドラマ)
竹上登志雄は、国際的な緊張が高まる中で日本の安全と利益を守ることに尽力した日本の総理大臣である。彼は「やまと」という独立戦闘国家との平和的対話を模索する政治的立場を取り、初めは日本民自党に所属していた。当初は外交に関して批判されることも多く「外交オンチ」や「中継ぎ政権」などと揶揄されていたが、幹事長の海渡にはその実力を認められていた。
状況が深刻化するにつれ竹上は一連の重要な決定を下し、政治家としての成長を遂げていく。彼は過去に大蔵大臣として英語でアメリカ代表と会談した経験を持ち、外交においても一定の能力を持っていた。
竹上は「やまと」と友好条約を結び、国際社会における日本の立場を固める一方で浮きドック「サザンクロス」の提供や「やまと」の独立が国連で承認されるまでの間、自衛隊及び「やまと」の指揮権を国連に委ねるなど大胆な外交策を展開した。これらの施策は与野党からの批判を受けることとなり、竹上は衆議院を解散し総選挙を行う決断を下す。選挙では日本民自党を離党し、新たに自らが党首となる新民自党を立ち上げ、総選挙後の首相指名選挙で再選を果たす。

日本政府関係者

海原 大悟(うなばら だいご/演:橋爪功)

海原 大悟

CV:渡部猛(アニメ) / 納谷悟朗(ラジオドラマ)
海原大悟は、元日本国防衛庁長官を務める人物である。彼は莫大な資産と人脈を持ち、日本政界の黒幕として「影の総理」とも呼ばれている。物語中、海原大悟は原子力潜水艦「シーバット」(後に「やまと」と改名)の逃走事件に際して兵器の純国産化を視野に入れ、米ソよりも早く「シーバット」を捕獲してアメリカに返却する前にデータ収集を試みるよう命じる。彼は「やまと」の独立国承認を認めず、あくまで日本政府の支配下に置こうとする野心的な政治家であり、様々な方法で日本の政界に暗躍する。最終的には息子である海原渉に引導を渡されることになる。
実写版では役職が内閣官房参与に変更され、さらにシーバット計画の黒幕であるという設定が加えられている。劇中で彼は病を患っていると思われる描写がなされており、物語において重要な役割を担っている。

海原 渉(うなばら わたる/演:江口洋介)

海原 渉

CV:若本規夫(アニメ)/屋良有作(ラジオドラマ)
海原渉は影響力ある政治家であり、日本国内閣官房長官を務めている。彼は「影の総理」とも称される海原大悟の息子であり、政治的には竹上派に属している。彼と天津は古くからの友人であり、政治的な同盟関係にもあるとされている。海原渉は「シーバット」計画の露見がもたらす影響を慎重に考慮し、父・大悟の決定に従い計画への参加を見送った。しかし、やまと問題に対処する際にはアメリカとの交渉において強硬な立場を取り、その解決のために積極的に行動した。政界再編の流れの中で竹上が立ち上げた新民自党の結成に参加し、外務大臣としての新たな役職を担うこととなる。
海原渉のキャラクターは、日本政界内での影響力と国際舞台での強硬な姿勢を通じて、『沈黙の艦隊』の物語において重要な役割を果たしている。彼の行動と決断は物語の進行において中心的な要素の一つとなっており、父親である海原大悟の影響から自立した政治家としての成長を示している。

天津 航一郎(あまつ こういちろう)

天津 航一郎

CV:村山明(アニメ)/佐々木勝彦(ラジオドラマ)
天津航一郎は日本の外務次官(外務事務次官)として、『沈黙の艦隊』の物語の中で重要な役割を担っている。彼は「やまと」事件における日本政府の主要な交渉者の一人であり、事件解決のためにアメリカとの外交交渉を進める。これには浮きドック「サザンクロス」の発注や駐日アメリカ大使館、ハワイ、国連安全保障理事会での交渉が含まれている。
天津は日本の外交を新たな方向へと導く野心を持ち、日本がアメリカに依存する現状からの脱却を目指している。彼は日米安全保障条約に疑問を持ち、日本の外交政策を「環太平洋共同体」という新しい枠組みへと誘導することを計画しており、その一環として「シーバット計画」の活用を考えていました。「シーバット」が逃亡した後、天津はこれをアメリカからの独立を象徴する新しい日本の表明と捉え自衛隊による撃沈を阻止し、日本および米ソ海軍から「シーバット」を守るべきだと主張した。
彼の努力は日本が国際舞台で自立した立場を築くためのものであり、海原渉とともに「やまと」との対話を推進し、事件の平和的解決に貢献しようとする姿勢を示している。天津航一郎は、日本外交の新たな地平を開くために尽力する政治家として描かれている。

海渡 一郎(かいと いちろう)

海渡一郎は日本民自党の幹事長を務めるキャラクターである。彼の名前と容姿は実際の政治家、海部俊樹と小沢一郎からヒントを得ている。海渡は民自党内の最大派閥の一員として、長年にわたり他人の問題解決に奔走してきた経験を持ち、「やまと」問題を自身の政治生命をかけた挑戦と捉えている。
彼は竹上登志雄総理大臣の「やまと」に関する政策に反対し、竹上が民自党を離党して新民自党を立ち上げた後は民自党の新たなリーダーとして党を引き継ぐ。海渡はアメリカとの強固な同盟関係を重視し、親米保守の立場から「やまと」との同盟を解消し、日米関係の修復を図るべきだと主張する。しかし、衆議院選挙においては相手の策略を見抜けずに敗北し、総理大臣の座を逃す。
選挙後、竹上の再選を目の当たりにし連立政権への参加を拒否する一方で公民クラブなど他の政党を吸収合併し、野党としての地位を強固にする。政治家としての評価は高く、特に竹上に対しては政治的な敵対関係にあるものの、その能力を高く評価している。海渡一郎のキャラクターは政治的な駆け引きや権力闘争を背景に、『沈黙の艦隊』の物語に深みを加える要素の一つとなっている。

河之内 英樹(こうのうち ひでき)

社会主義右派の政治家であり、日本社民党の副書記長を務めている。彼は海原大悟とは政治の世界での同期にあたり、衆議院が解散された後は「世界社会主義」をスローガンに掲げ、総選挙に向けて公民クラブや革産党などの各野党議員を集めて革新連合を結成した。河之内の目標は、日本を独自の社会主義国家に導くことであった。選挙後は大滝の鏡水会との連合を通じて比較第一党派を目指すが、海渡一郎の策略によって公民クラブなどの議員が引き抜かれ、結果として少数党派に甘んじることとなる。新民自党への吸収合併を受け入れた大滝を「公約違反」として非難し、やむを得ず革新連合を率いて野党の監視役に徹する。しかし大滝の革新保守連立政権構想に叱咤・説得され、首班指名選挙の際には自身に投じられるはずだった票を竹上に一本化することで彼の再選を実現させる。その後、河之内は革新保守政権の一員として新民自党・鏡水会と連立を組み大滝が新民自党幹事長として河之内の入閣を提案するなど、政治的な展開に深く関わっていく。河之内英樹のキャラクターは、日本の政治シーンにおける激動の時代を背景に、理想と現実の間で葛藤しながらも自らの信念を貫こうとする政治家の姿を象徴している。

大滝 淳(おおたき じゅん)

『沈黙の艦隊』において、平和主義的な立場を取る民自党内のハト派派閥、鏡水会のキーパーソンとして登場。彼は当初は民自党内で活動していたが、物語が進むにつれ鏡水会を民自党から独立させ、「日本鏡水会」という新たな政党を結成し党首に就任する。彼の政治活動の地盤は山口3区である。大滝淳の政治理念は政軍分離、軍備永久放棄、そして常設国連軍の創設に重きを置いており、これらを自身の主要な政策として掲げている。特に「やまと保険」という独自の提案を行い、これにより北極海沖で行われたACNテレビクルーとの会見では、主要な登場人物である海江田からこの案に対する賛同を得ることに成功。その過程で大滝は自らが直接、保険会社ライズとの交渉にまで踏み込むなど、独断専行的な行動をとる場面も見られる。
総選挙が終わった後、大滝は新たに結成された新民自党に合流することを自ら希望し、幹事長のポストを得る。さらに国際舞台での役割も果たし国連内に設置された「沈黙の艦隊実行委員会」の委員長に自薦し、この重要な役職に就任。大滝淳のキャラクターは、その平和主義的な理念と行動力で『沈黙の艦隊』の物語において重要な役割を担っている。

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