天国大魔境の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

『天国大魔境』とは、2018年3月から『月刊アフタヌーン』にて連載をしている、石黒正数による漫画作品。
閉鎖的な施設で暮らす子供たちと、崩壊した日本を旅する二人の少年少女、二つの視点で物語が進行していく。
物語が進むにつれ、二つの視点には時差があることが分かっていく。何気ない一言、なんてことない背景、それらが互いの視点の伏線となっている。作中にちりばめられた伏線回収の鮮やかさが魅力の作品である。

キルコの名言・名セリフ/名シーン・名場面

「災害の後、生き残れなかった人のほとんどは餓死だって話だ」

マルとキルコは物資の捜索中に餓死した遺体を見つける。餓死しているということは、ここには食料はないと考えこの場を去る。

キルコとマルは、道中で物資の捜索をしていた。世界の崩壊後、人々は生き延びるためには民家や商業施設を漁り、生活していた。キルコとマルが侵入した民家には、餓死した人間の遺体が二体、ベッドの上に横たわっている。キルコは「災害の後、生き残れなかった人のほとんどは餓死だって話だ」とマルに言う。物語の第2話で、この世界がいかに荒廃した世界であるかを読者に伝えるエピソードとなっている。

「僕 男なんだ」

マルから告白されたキルコは、自身が男であることを打ち明ける。

マルから「おねえちゃんが好きだ」と告白されたキルコだが、「僕 男なんだ」と衝撃の事実を告げる。
キルコは5年前に、姉「竹山桐子」の身体に脳を移植された「竹山春希」という男だと、マルに打ち明ける。
春希は、浅草の「船山孤児院」で育ち、姉の桐子を恋愛対象として好いていた。また、兄貴分的な存在の稲山露敏という男に、信頼と憧れを抱いていた。ある日、桐子が出場している電動カートレースのコース上で、春希はヒルコを目撃する。春希は数日前に、露敏たちと一緒にヒルコの撃退に成功していた。そのため、今度は自分一人でヒルコを仕留められると思い、ヒルコに攻撃をしかけた。しかし、春希の攻撃はヒルコには効かず、身体をヒルコに取り込まれる。痛みで絶叫した春希はそのまま意識を失った。数日後、目を覚ました時には、病院のベッドの上だった。そして、自分は姉・桐子の姿になっていたと言う。春希は自身の脳が、桐子に移植されたと考えた。救護隊の人間からは弟を失ったショックで自分が弟だと思い込んでいる可哀想な姉と思われていた。執刀医以外、真相が不明だが、肝心の執刀医はすでに浅草を後にしていた。さらに、信頼のおけるロビンも行方をくらませていた。キルコは便利屋を生業としながら、ロビンと執刀医を探す旅をしていたのだった。
マルの心の整理ができぬまま、二人の旅が続くのだった。

「フッフッフッ…ウチのマルは強いだろう」

マルに返り討ちに遭った自警団が、マルの強さを話しているシーン。キルコは得意げになりながら話を盗み聞きしている。

テント町にたどり着いたマルとキルコ。マルは一人でいるところを、町のチンピラたちに襲撃される。複数人から襲い掛かられたマルだが、一人でチンピラたちを返り討ちにしてしまった。
キルコが一人で情報収集のため外出していると、昨日マルを襲ったと思われるチンピラたちが、マルの驚異的な戦闘力について興奮気味に話をしていた。その様子を盗み聞きしていたキルコは「ウチのマルは強いだろう」と心の中で得意になる。しかし、マルはあくまでボディーガードを依頼されただけの顧客にすぎない間柄だ。なぜ自分の相棒であるかのような感情が湧くのか、キルコ自身は戸惑っていた。

「ロビンを……殺さないでくれ……」

長年憧れ信頼していたロビンに裏切られたキルコ。しかし、ロビンが殺されることは受け入れらず、マルに「ロビンを殺さないでくれ」と涙ながらに懇願する。

「大濾過装置」という町のライフラインを守る施設で、ついにキルコの探し人、稲崎露敏と再会を果たした。キルコははやる気持ちで、ロビンに自分が「春希」であることを打ち明ける。ロビンは驚きながらも、キルコの話を信じ受け入れてくれた。そしてロビンは、この「大濾過装置」で清潔な水を作り、田畑を耕しながら生活していた。そうしているうちに人々が集まり大きな町になったのだと言う。
5年もの間、探し求めていたロビンに、ようやく巡り会えた喜びと安心感に包まれたのも束の間だった。突如ロビンはキルコを押し倒し、性的暴行を加える。何が起きているのかわからないまま、抵抗も出来ないキルコはロビンにされるがままだった。
キルコの戻りが遅いことに心配になったマルは、キルコの向かった「大濾過装置」に向かう。警備の人間から、ロビンとキルコが性行為をしていると聞かされたマル。手錠を掛けられたキルコを見つけたマルは、すべてを察してロビンに殴りかかる。ロビンがやり返すすきも与えず、マルは拳を振るい続ける。ついにはロビンは気絶をしてしまった。最後の止めだという時に、キルコは涙ながらに「ロビンを殺さないでくれ……」と訴え、マルは拳を下ろすのだった。

「僕の目的はきみだけになっちゃった……」

キルコの旅の目的は「マルのボディーガード」だけとなる。ただの客とガードマン以上の感情がこもっているような台詞である。

自身の手術を執刀した医師に、ついに再会を果たしたキルコ。キルコは、他人の身体と脳と移植することが出来る人間は、邪悪なマッドサイエンティストだと考えていた。しかし、対面した医師・迫田は「どうしたらヒルコを倒すことができるか常に考えている」と言う、善良な医師であった。迫田は目の前に運び込まれてきた、重傷の姉弟を助けることが出来る、最善の方法を取ったのだとキルコは理解した。
憧れていた男のロビンの邪悪な本性や、憎んでいたはずの医師の善良さを知ったキルコ。自身が見て来たものはウソばかりだったとキルコは思う。自身が旅を続ける理由は、ついに「マルのボディーガード」ただ一つになってしまったとキルコは言うのだった。

稲崎露敏の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「ケンカは相手しか見えなくなってる奴が負ける」

喧嘩の流儀を春希に教えるロビン。

キルコは幼い頃から育ってきた町の自警団をしていたロビンという男に憧れを抱いていた。ロビンはケンカが強く、町の治安を守り、人喰いをも撃退する力を持っていた。そんなロビンに憧れたキルコは、ロビンのように町の治安を守れる、強い男になりたいと常々考えていた。ある日、カーレースの車券を偽装している男を見つけ、追いかける。追い詰めたは良いものの、相手は大人二人。キルコひとりでは太刀打ちできる相手ではなかった。二人組は「顔を見られた」と、キルコを亡き者にしようとする。そこにロビンが駆け付ける。ナイフを持った男二人を相手に、ロビンは素手で倒してしまった。ロビンはキルコに「ケンカは相手しか見えなくなってる奴が負ける」と言う。法も秩序も失った世界で、キルコはロビンから生きていく術を学んでいたのだ。

トトリの名言・名セリフ/名シーン・名場面

石黒正数作品『それでも町は廻っている』の嵐山歩鳥にそっくりなトトリの登場

崩壊後の世界で希少なホテルを経営するトトリ。客はほとんど来ないらしく、キルコが荷物を預けたいと申し出ると途端に笑顔を見せた。

テント町を訪れていたマルとキルコは、住宅でホテルを経営する少女と出会う。この少女は著者の別作品『それでも町は廻ってる』の主人公・嵐山歩鳥にそっくりな見た目なのだ。著者の作品はスター・システム制をとっており、時折過去作品のキャラクターが登場してくる。著者の古くからのファンには嬉しい演出である。

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