妹の恋人（映画）のネタバレ解説・考察まとめ

『妹の恋人』の概要

『妹の恋人』（原題『Benny & Joon』）とは、1993年にアメリカで公開された、ある兄妹と風変わりな青年との出会いと交流を描いた青春ドラマである。
両親を早くに亡くし、兄のベニーと妹のジューンは2人きりで生きてきた。心を病むジューンは精神的に不安定な所があり、自分の殻に閉じこもってしまう。そんなジューンにベニーは振り回されながらも、常にジューンを優先し親代わりとなり見守っていた。そんな中、バスター・キートンを敬愛する、不思議な雰囲気をまとった無口な青年サムと出会う。読み書きが出来ないサムはパントマイムを得意とし、口数は少ないがとても純粋な心の持ち主である。ジューンはそんなサムに次第に心を開いて行き、惹かれ合うジューンとサムは愛し合うようになる。しかし、それを知ったベニーは受け止める事が出来ず激怒し、2人の恋愛を断固否定する。サムとジューンは駆け落ちを試みるが、ジューンが精神的なものから来る発作を起こしてしまい、精神病院に入院してしまう。ベニーの面会を拒み続けるジューンに対し、ジューンの自立を妨げていたのは自分だと思い至ったベニーは、今ジューンに必要なのはサムなのだと気付いたのだった。2人の恋愛を受け入れられなかったことをベニーは反省しサムに謝罪する。サムはベニーがジューンに会えるよう協力し、ベニーとジューンは和解することが出来たのだった。そしてジューンは無事退院し、サムとジューンは共に暮らし始めるようになる。

サムの存在感やキャラクターが目立つ作品だが、これは原題の『Benny & Joon』からも分かるように、兄と妹の物語である。妹のジューンを心配するあまり過保護になってしまった兄のベニーは、自分の人生を生きられないことに悩みながらも妹離れすることが出来ず、ジューンもまた、周囲の人間を拒絶し独り立ちする事が出来ずにいた。ジューンには純真な心で見つめてくれる視線が必要で、包み込む両腕が必要だった。そこに現れたのがピュアな心で掬い上げてくれるサムだったのだ。サムの存在によって、ベニーとジューンは共依存から開放されるのである。

風変わりな青年サムを『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・デップ、兄のベニーを『マイケル・コリンズ』のエイダン・クイン、妹のジューンを『バッド・ガールズ』のメアリー・スチュアート・マスターソンがそれぞれ演じている。
監督は、『ナショナル・ランプーン クリスマス・バケーション』のジェレマイア・S・チェチックが担当している。

『妹の恋人』のあらすじ・ストーリー

ベニーとジューン

「ベニーのカークリニック」という自動車修理工場で働くベニー。ベニーが修理をしていると工場の電話が鳴った。電話に出たベニーは、妹のジューンに買い物を頼まれているようだ。電話を切るや否や、待たせていた若い女性客の接客に戻る。

頼まれた通り、買い物をして自宅に帰るベニー。家に着くと、ジューンとハウスキーパーのスメールが口論をしていた。出て行こうとするスメールを呼び止めたベニーは「スメールさん一体何の騒ぎ？」と聞く。「勝手に外に逃げ出す。手に負えないわ」と、ジューンの身勝手さをベニーに訴えドアから出て行く。ベニーは追いかけ「お願いだ。僕が話しますから辞めないでくれ」と懇願する。しかし、スメールは去って行った。ベニーは呆然と立ち尽くしていた。

2階にいるジューンは絵を描いていた。夕食の時間にジューンが1階に降りる。「スパゲティとサラダだよ」とベニーが声をかけると、ジューンはテーブルにつく。ベニーは「スメールさんに何をした？」と聞くと「気に触る女」とジューンは吐き捨てた。ベニーは「次の人が来るまで1人で外に出るなよ。いいな」とジューンに念押しする。夕飯の準備中、エリックから電話でポーカーに誘われていた。ジューンを1人にしてはいけないと思い、ベニーは「ポーカーに付き合ってくれ」とジューンに言った。ジューンは浮かない顔をした。

ベニーの友人達

結局ジューンも一緒に、ベニーの車でエリックの家に行く事となった。ベニーや友人達はポーカーを楽しんでいた。
ベニーが賭けに勝ち、負けた友人のマイクはあからさまに苛立っている。するとマイクが突然「ハウスキーパーを探してるなら俺の同居人を預かってくれ」と言った。
「同居人って？」とベニーが聞くと「最近転がり込んできてね。まったく迷惑ないとこだ。26にもなって字も読めない」とマイクはうんざりしたように言う。
それを聞いたエリックは「字が読めない？冗談だろ？」と呆れて言う。
「ほんとだよ」とマイク。するとジューンが「精神安定剤より効果があるの？」と理屈に合わない事を口にした。ジューンを刺激したくないベニーは「このゲームで最後にしよう」と仲間達に言った。

ジューンの病気

翌朝、ジューンは朝食の用意をしていた。その間ベニーは、ジューンが通う病院を訪ねていた。ガーペー医師は「また追い出したの？」とベニーに聞く。「スメールさんは少し理解が足りなくて…」と、言いづらそうに答えるベニー。
ガーペー医師は「やっぱり昼間だけでも施設に預けたら？お友達もできるわ」と提案した。ベニーは「できませんよ。今までに2度失敗してます。それよりいいハウスキーパーを」と、施設の話から切り上げるようにして言った。
ガーペー医師は「私の名簿の人を全部試した。彼女の世話はプロに任せた方がいい」とベニーを心配して言った。「僕は彼女の兄で、身寄りは他にいないんです」とベニーが話す。「分かってる。あなたはよく頑張った。それは認めるわ。でも職業訓練を受ければパートの仕事に就けるかもしれない。親身になって面倒見てくれるいい施設なのよ」とガーペー医師は話す。しかしベニーは拒否をした。

ガーペー医師はジューンの事はもちろん、ベニー自身についても気掛かりだったのだ。妹を思うあまり自分自身を顧みない事。そしてジューンの可能性を妨げているのではないかという事。ベニーもまた、自分しかジューンを守れない、理解できないのだと独りよがりになっているようだった。

その頃ジューンは外へ出ていた。交通整備をしているかのように車と車の間を歩き回っていた。そして警察が出動する羽目になり注意を受けるジューンは「私にも外出する権利があるの」と言った。
警察が「身分証明を」とジューンに提示を促すと、ジューンはポケットから1枚のカードを取り出し警察に渡す。それはメディカルアラートカードという持病などの情報が記載されたカードだった。
勤務中のベニーの元に警察から連絡が入る。ベニーは「クソッ。またか」と言って苛立ちを隠せずつぶやいた。

ポーカーに負けるジューン

ある朝ベニーが金魚にエサを与えようとすると、金魚は息絶えていた。その日、ポーカー仲間達とエリックの家に集まったベニーは「金魚を死なせる俺に妹の世話ができるか？妹に何かあったら…」と深刻そうにつぶやく。
それを聞いたエリックは「やはり施設に預けるんだな」と助言する。「それが1番かもしれないな」と、ベニーは考えを改めたようだった。「施設に預けたら休暇だって取れる。旅行でもしてこい」とエリックが言う。
ベニーはまるで初めて聞いた単語かのように「旅行？」と繰り返し、「俺が？」と声を弾ませる。

家の中ではポーカーが始まった。結果はジューンが負けてしまう。負けたツケとしてマイクの家に居候しているいとこを引き取る羽目になってしまった。
いとこはベニーに気付き「僕はサム」と挨拶をした。帰る途中に、レストランで食事をするベニーとジューンとサム。サムはパンにフォークを突き刺しパントマイムを始めた。
呆気にとられるベニーだったが、ジューンはサムの動きを見て楽しそうに笑っていた。
ベニーとジューンの家に迎え入れられるサム。パジャマをソファーの上に置き「このソファーで寝ろよ。おやすみ」とサムに声をかけた。

サムとの生活

翌朝、ベニーとサムは2人で話していた。ジューンの事を聞いたサムは「病気って、本当？」と驚きを隠せない様子だ。「別に気を遣う必要はない」と言うベニーの話を神妙な面持ちで聞くサム。ベニーが「独り言も気にしなくていい。何も返事するな」と言うと「OK」サムは答えた。

ベニーが仕事中、ジューンは庭で花を植えていた。家の中から流れる大音量の音楽が気になりふと窓に目をやるとサムが空中に浮かんでいるように見えた。どんな状況なのか不思議に思い、家に向かって走るジューン。サムは、キャスター付きの椅子に乗って移動しながら掃除をしていた。部屋では大音量の音楽が流れている。大きい音に敏感になってしまうジューンは「止めて！」とサムに叫んだ。サムが慌てて音楽を止めると次第に落ち着くジューン。そしてジューンは何も言わずラジカセを持ち去った。サムは少し落ち込んだ様子だった。

仕事を終えて帰宅したベニーは、サムがいないことに気付く。様子がおかしいジューンに「何かあったの？」とベニー。するとジューンは「出て行ったの。空中に浮かんでて…」と少しパニックになりながら答える。「あいつが何を？」とジューンに問いただすベニー。ジューンは深刻そうに「家の片付けを」と答えた。

改めて家の中を見渡すと物が綺麗に片付けられていた。「それで追い出した？」とベニーが聞くと、ジューンはバツが悪そうに笑っていた。すると玄関のドアがノックされる。ドアを開けると、通りを挟んだ向かい側のポストの上にサムが座っていた。ベニーとジューンはサムを見つけると微笑む。再び迎え入れられたサムは夕飯を作った。衣類にかけるアイロンでパンを焼き、チーズトーストにしていたのだ。サムの少し後ろに座り黙って見守るジューン。ベニーも呆気にとられながらもサムの行動に口出す事なく、ジューンと共にサムのその奇怪な行動を見つめていた。

夜、ジューンの元にベニーがやって来た。「おいしかったね」と笑ってベニーに話すジューン。ジューンは、風変わりなサムのやる事に対して少しも偏見を持たないようである。ベニーは、穏やかなジューンを珍しく感じながら、ベッドサイドの写真に目をやった。幼い頃のベニーとジューンが写っている。

惹かれ合うサムとジューン

翌朝、サムは母親に送る手紙を書いていた。読み書きが出来ないサムは、何かを手本にしながら拙い言葉と文字で一生懸命書いていた。
そしてジューンと一緒にポストへ投函しに行く。帰り道にサムがレストランに誘う。2人は波長が会うのか、お互いの気持ちを汲み取ることができるようだった。

ベニーとルーシー

家に着いたベニーはジューンとサムがいない事に気付く。外を見ると、レストランの店員のルーシーが運転する車に2人が乗っているのを発見する。家の前に着き、車から降りる。外に出たベニーは「心配したぞ」とジューンに声をかける。

庭で話をするベニーとルーシー。「古い友達？」とベニーに聞いた。「サムとはまだ72時間だよ」と答える。「うそ」と笑うルーシーに「マジな話だよ」と笑った。ルーシーと話すベニーは心から楽しそうだった。

夜も深くなりルーシーが帰ろうとするが、車が故障したようでベニーが自宅まで送った。2人は離れがたい様子で、ルーシーは少しだけ迷いを見せたあとベニーにキスをする。そして「うちに寄ってく？この間のビールが」と言った。ベニーはルーシーから体を離し「悪いけどやめとくよ」と言った。ルーシーは「OK」と、わずかに落胆し車から降りようとした。すると「待って」とベニーが呼び止める。「説明させてくれ。俺の身の回りには…」とベニーが言い終わらないうちに、「私はビールを勧めただけよ」とルーシーは言い車を降りて行った。ベニーは返す言葉もなくただルーシーの後ろ姿を見つめていた。

サムのパントマイム

ある日、ピクニックに出かけていたベニーとジューンとサム。するとサムが突然、いつも被っている帽子を使ってパントマイムを始めた。いつの間にかたくさんのギャラリーに囲まれるサム。「すごい奴だな」と感心するベニー。ジューンはすっかり見惚れているようだった。

結ばれるサムとジューン

サムとジューンは、部屋の中で体を向き合わせて座っていた。そして見つめ合い、ゆっくりと口づけを交わす。その夜サムとジューンは初めて結ばれたのだった。サムが「ジューン。君が好きだ」と言った。「私も」と答えるジューン。するとベニーが帰宅する音が。急いでサムから離れるジューン。「秘密にね」とジューンは言ってサムにキスをした。

翌朝ベニーは「あんなに人が集まった。特別な才能だから使わなきゃ」とサムに言う。サムは「どうやって？」とベニーに聞く。「分からないが君には特別な才能がある」とベニーは話す。

2人の関係をベニーに打ち明ける

その日ベニーは、芸能プロダクションに勤める友人にサムを売り込んでいた。家に帰ったベニーは夕飯の席でサムに話す。
「何を見せるか考えよう。まずあのパンの踊りと…」と一方的にサムに言うベニーに、ジューンは苛立ちを隠せず「いつからマネージャーに？」と言った。「とにかくチャンスだ」とベニーは熱く話す。サムはため息をつきジューンを見た。
そして「打ち明けて」とジューンはサムに言う。「何？」と聞くベニーに、サムは戸惑いながらも笑みを浮かべ「ベニー。ジューンと僕はその…」と言った所で何かを察したベニーはジューンに目を向ける。
恥ずかしそうな表情にすべてを理解したベニーは怒りの表情を滲ませる。そして、サムを追い出した。サムの所へ行こうとするジューンを制し「お前は黙ってろ」とベニーは言った。「愛してるの」とジューンが叫ぶ。ベニーは怒鳴り、突き放されたジューンは泣きながら2階へ上がって行った。

その夜、ジューンの元に行き「何か欲しいものは？」と聞くベニー。ジューンは「タピオカ」と答える。「分かった」と言い、ベニーは車で家を出た。すると、サムが窓をノックした。ジューンは駆け寄り外に出て、そのままサムと一緒にどこかへ行ってしまった。

失敗に終わる逃避行