乙骨憂太（呪術廻戦）の徹底解説・考察まとめ

しかし、虎杖抹殺の一連の流れは、渋谷事変前に五条と交わした約束を遂行するための芝居だった。真っ先に保護すべきは虎杖だと判断し、自らその死刑執行人となり、いったん致命傷を与えて絶命させる。さらに反転術式でその傷を癒し、「一度死亡した」という事実をもって呪術界上層部の目を誤魔化そうと画策したのである。戦いの中で深手を負っていた直哉を治療し、その見返りとして彼の口からも「虎杖の処刑は完了した」旨を報告してもらうことで、次の手を打つまでの時間を稼ぐことに成功する。

渋谷事変でその身の内に宿る特級呪霊・両面宿儺の力を抑えられず、これを暴走させた結果無数の人々の命を奪ったことの罪の意識に苦しむ虎杖に、「自分もかつて大きな力を押し付けられ、他人を傷つけてしまうことに苦しんでいた」、「後にそれが自分に起因するものだと知った」、「君は君から生じた力で誰かを傷つけたわけではない」と自分を責め過ぎないように諭す。
あらかじめ合流する予定だったか、そこで伏黒が現れ、なお悔やみ続ける虎杖の説得を彼に委ねる。事態の打開のために力を貸してほしいと伏黒から頼まれた虎杖は、しばしの逡巡を経て乙骨に「もし次に自分が宿儺に肉体を乗っ取られたら迷わず殺してほしい」と願う。これを受け入れ、死力を尽くすことを誓い、渋谷事変の中で負った深手から回復した真希、特級術師の九十九由基（つくも ゆき）と合流。虎杖を“弟”と目し、これを守り続けていた脹相もそこに加わり、全員で薨星宮（こうせいぐう）を目指す。状況を打開するために、日本呪術界の中枢たる天元（てんげん）と面会することが目的だった。

天元は敵方と通じていることを危惧して一度は乙骨たちを拒絶するも、その可能性は無いと見るや一転彼らの前に姿を現す。彼は加茂憲倫の正体が羂索（けんじゃく）という千年以上昔の術師であることを一行に教えると、協力する代わりに自身の護衛をしてほしいと要求してくる。

天元は不死の術式を持つ術師ではあるが、五百年置きに星漿体と呼ばれる特殊な資質を持つ者との同化を果たさないと肉体を維持できなくなる。十一年前にこれに失敗し、不死のまま自我と肉体を失った彼は、「地球上のあらゆる場所に遍在する幽霊」のような状態になっていた。
もはや人間より呪霊に近い存在で、羂索が我が物とした呪霊操術の対象ともなりうる。この状態の天元が羂索の支配下に置かれ、無為転変で全人類との融合を果たせば、それは「個としての人類」の消滅と、剥き出しの自我同士が延々と互いを呪い合う地獄絵図が完成することを意味していた。

事情を聞いた九十九由基と脹相が護衛に就くことを承諾すると、天元は獄門疆「裏」（ごくもんきょう うら）という呪具を乙骨らに見せる。これは羂索が五条を封じる際に用いた獄門疆の“裏門”であり、内部には封じられた五条がいるという。
羂索すらどのように戦っても勝ち目がないほどの圧倒的実力者である五条が解放されれば、戦況は文字通り一変することとなる。しかしそのためには獄門疆「裏」の強固な封印を解除しなければならず、その役に立ちそうな道具は行方不明。そこで天元は、羂索が自身の全人類との融合の下準備として仕掛けている死滅回游の名を持ち出し、そこに参加している“全ての術式を解除する”術式を持つ天使こと栗栖花（くりす はな）の協力を取り付けることを提案する。

羂索が目論む「人類と天元の同化」の準備が整うまで、およそ二カ月。それまでの間に、真希は禪院家と組屋鞣造の有する呪具の回収、虎杖と伏黒は謹慎中だった三年の秤金次（はかり きんじ）への接触と協力の取り付け、乙骨は先行して死滅回游に参加することでの偵察任務を担当することとなり、各々がそれぞれに動き出す。
しかし結界の内部は電波が遮断されているらしく、乙骨からの連絡は途絶えてしまう。

仙台結界

乙骨が参加した仙台結界は、戦況が膠着状態にあった。突出して力を持つ4人の術師が、相性の問題から直接の対決を避け、互いに牽制している状況だった。しかしその一角であるドルゥヴ・ラクダワラを乙骨が倒したことにより、事態は急変する。自身と相性の悪いドルゥヴが死ぬまで休眠状態に入っていたゴキブリ呪霊の黒沐死（くろうるし）が目を覚まして活動を再開し、同時に残る2人の強者である烏鷺亨子（うろ たかこ）と石流龍（いしごおり りゅう）もまた乙骨を新たな脅威と見なして彼を攻撃する。
その膨大な呪力量を縦横に活かし、乙骨は黒沐死と烏鷺を倒すも、“強者との戦い”そのものを目的として死滅回游に参加した石流はむしろ歓喜。連戦で消耗した乙骨と死闘を繰り広げる。呪力の出力量に勝る石流を倒すため、乙骨は自身の術式である「模倣」を発動し、さらに“自立行動する外付けの呪力タンク”であるリカの力もフルに活用。石流の戦法と相性のいい烏鷺の術式を模倣してこれを撃破する。
この時点で虎杖が日車を説き伏せて「泳者間の得点の移動」という総則を追加していたこともあり、乙骨は烏鷺と石流を治療し、彼らから自分に得点を譲渡させる。こうして190点という高得点を獲得した乙骨を、いつの間にここに来ていたのか、三輪が遠目に見詰めていた。

死滅回游の終焉

乙骨が仙台結界での戦いを終えた頃、東京では「虎杖の中に囚われていた宿儺が、“縛り”を利用して一時的な自由を得て、伏黒に憑依先を変更する」という事件が起きていた。これを知った乙骨は東京に急ぐも、宿儺は入れ替わりで仙台に向かい、石流を一蹴する。
死滅回游とは、1000年以上前から日本を守り続けてきた天元という術師が作った結界を利用して実行されていた。天元はこれを知った上で、日本を守る結界を維持するために「虎杖たちの勝利」に賭けて戦いの趨勢を見守っていたが、彼らの敗北と自身が羂索の虜となったことで全てを失う結果となる。「もはや死滅回游に存続する意義はない」と判断した羂索は、自身と同化した天元を利用して死滅回游の終焉に向けて動き出す。

一方、東京で仲間たちと合流した乙骨は、宿儺や羂索との決戦に備え、五条の封印の解除に乗り出す。この頃、現代の術師たちは対宿儺のために様々な作戦を進めており、その中で乙骨は「“他人の肉体を乗っ取る”羂索の術式を自分が模倣し、五条が戦死したらその肉体を自分が譲り受けて戦う」ことを提案。非道ともいえるこの作戦は仲間たちからも苦言を呈されるが、乙骨は「宿儺に勝つためならあらゆる手段を尽くすべきだ」、「五条1人に責任を押し付けるのは間違っている、彼だけを怪物のように扱うのはおかしい」と主張し、五条本人の許可を取り付けた上でこの策のための準備に取り掛かる。
肉体を譲り受けた後に五条の術式を使いこなすためのトレーニングも積むが、「呪力量に任せて呪力そのものの扱いが雑」という自身の欠点について五条から改めて指摘される。

最終決戦

封印から解放された五条は、親友たる夏油の命日でもある12月24日に宿儺との決戦を迎える。乙骨が仲間たちと共に見守る中、新宿を舞台に繰り広げられた呪術の粋を尽くすような戦いの末、五条は宿儺に惜敗。残る者たちは最強の戦力だった五条を失った上で羂索と宿儺を倒さなければならなくなる。
その羂索は、死滅回游を終わらせて日本人全てを使った呪霊を生み出すべく、岩手で泳者狩りに勤しんでいた。乙骨たち現代の術師は、死滅回游の中で出会った芸人にして術師でもある髙羽という人物に「羂索を止めてほしい」と依頼してここに派遣。髙羽は「本人がおもしろいと思ったことを問答無用で実現する」という極めて特異な術式の持ち主で、「呪術の可能性を見極める」ことを目的とする羂索からしてもまったく未知の存在だった。

髙羽は奮闘して羂索を苦しめるも、「十分にお笑いをやり切った」との満足からついには倒れる。しかし羂索もまた彼の呪術に心から魅せられ、周囲への警戒をすっかり怠っていた。乙骨はこのタイミングで羂索に肉薄し、東堂のサポートを受けつつ相手の首を斬り落とす。現代の術師たちはこの展開を予想しており、それを見越して乙骨を少し遅れて岩手へと派遣していたのだった。
首尾よく羂索を倒した乙骨は、彼の術式を取り込みつつ、宿儺との戦いのために新宿へと取って返す。

宿儺との戦い

羂索は自分が志半ばで倒れた場合に備え、宿儺に自分の“呪術の極みを見たい”という夢を託していた。東京で虎杖と戦う中、「理想を追う心の強さ」という1点でのみ彼が自分と同等の強さを持つことを認めた宿儺は、強者としてそれを本気で叩き潰すことを決意。羂索の夢を正式に受け継ぎ、「現代の術師が自分を殺せなければ、日本人全てで呪霊を作る」と宣言する。
仙台から取って返した乙骨は、このタイミングで宿儺との戦いに参戦。領域展開「真贋相愛」を発動し、宿儺を攻め立てる。宿儺はこれに応戦しつつ、現代の術師たちの次の狙いが「乙骨の猛攻で宿儺を足止めしつつ、“魂を捉える”虎杖の打撃で宿儺を伏黒から引きはがす」ことだと推測する。未だ宿儺は五条との戦いでの消耗から回復しておらず、この機に乗じて虎杖の「魂を捉える打撃」で伏黒を叩き起こしつつ、乙骨が天使から模倣した術式を消滅させる術式で宿儺を消し去るのが2人の狙いだった。この作戦はあと一歩のところまで成功するが、敬愛していた津美紀を自ら殺めた伏黒は叩き起こされてなお再び立ち上がることができず、この隙に乗じて放たれた「世界を断つ斬撃」が乙骨と虎杖に叩き込まれる。

しかし宿儺の呪力の出力が衰えていたこと、リカが即座に救助に回ったお陰で乙骨は一命を取り留め、いったん前線を下がって治療を受ける。それでも「間もなく死ぬ」というほどの深手であることは変わらず、乙骨はかねてからの予定通り五条の肉体を譲り受けて再起。戦場へと舞い戻り、「五条の死体を使ってでも宿儺を倒す」という覚悟を宿儺に見せつける。
羂索の術式の模倣がいつまで持続できるかも分からない乙骨は、早々に決着をつけるべく、狗巻との連携で五条の最大の大技「茈」を放つ。

乙骨憂太の関連人物・キャラクター

祈本里香（おりもと りか）

幼馴染。母を早くに失い、父も不審な形で失踪するなど、複雑な家庭環境の中で育つ。このため他人の目を意識して振る舞うなど、年の割には大人びた性格。
乙骨とは互いに恋い慕う関係で、幼いながらも結婚の約束を交わしていた。十一歳の時に彼の目の前で交通事故に遭って命を落とすも、死をもってなお二人の仲は引き裂かれず、悪霊と化して彼に取り憑く。性格も一変し、乙骨に対する異様な執着、独占欲、そしてそれを邪魔する者たちに一切容赦のない敵意と暴威を向けるようになった。その力は絶大で、呪霊としては最高位の「特級」にカテゴライズされている。
完全に暴走すれば国家をも滅ぼしかねない存在として呪術師からも最大級に警戒されるが、後に「里香が乙骨に取り憑いた」のではなく「里香との別れを拒んだ乙骨が、無意識に自分の呪力で彼女の霊魂を縛り上げていた」ことが判明。全てを理解した彼が呪いを解除したことで昇天する。その際、「自分のせいで里香や多くの人を傷つけた」ことに涙する乙骨を抱き締め、呪いという形であっても乙骨と一緒にいられて幸せだったと語り、「あまり早くこっちに来ちゃダメだよ」と彼に言い残す。その後も乙骨は里香からもらった婚約指輪を身に着けており、彼にとっては今もなおもっとも大切な女性である。
一年後、乙骨は呪霊と化した里香によく似た「リカ」と呼ばれる存在を使役しているが、この正体がなんなのかは分かっていない。

祈本里香（呪術廻戦）の徹底解説・考察まとめ - RENOTE [リノート]

renote.net

祈本里香（おりもとりか）とは『呪術廻戦 0（東京都立呪術高等専門学校）』に登場するキャラクターであり、呪術師・乙骨憂太（おっこつゆうた）が使用している術式である。乙骨の幼馴染であり、幼いころ結婚を誓い合ったが交通事故によって11歳で死亡する。死後は呪霊として乙骨に憑りつき、乙骨が危機に陥った場合自動的に現れて対象を攻撃している。ただし必ず現れるわけではないため、里香がいつ出てくるのか明確にはわかっていない。

禪院真希（ぜんいん まき）

都立呪術高専のクラスメイト。呪術の名門・禪院家の生まれだが、生まれつき呪力をほとんど持たない特殊体質の持ち主。代わりに人間離れした身体能力を持つ。呪術師であることが唯一にして絶対の価値基準である禪院家では、日常的な暴力を含めて様々な差別を受けていた。これを見返そうと独力で呪術師になることを目指し、実家を飛び出して呪術高専の戸を叩く。
転入してきたばかりの頃の乙骨に対し、「なんでこんな弱そうなヤツが特級なんだ」と疑問と苛立ち混じりに眺め、刺々しい態度で接する。しかし彼が彼なりに悩み、それを克服しようと足掻いていることを知ると、それを自身の境遇に重ねたか「呪霊を払い続ければ評価されるし、誰もが自分のことを認める」と発破をかける。以後は乙骨のことを認め、言動は厳しいながらも親身に交流するようになるも、これをパンダに「真希は乙骨に気があるのでは」と勘繰られるようになる。真希自身はこれを否定しているが、彼に励まれて嬉しそうな顔をしたりと普段の彼女らしからぬ対応をしていることも事実であり、彼女の乙骨への想いがどのようなものであるかは明確に描かれていない。

禪院真希（呪術廻戦）の徹底解説・考察まとめ - RENOTE [リノート]

renote.net

禪院真希（ぜんいん まき）とは、『呪術廻戦』の登場人物で、東京都立呪術高等専門学校で呪術師を目指す主人公虎杖悠仁の先輩。
気風の良い姉御肌の少女。口は悪いが判断力と行動力に優れ、仲間たちから頼りにされている。呪具を用いた近接戦闘を得意とし、その実力は二級相当の呪霊を軽く祓うほど。
呪術師の名門禪院家の血筋ながら、生まれつき呪力を持たない“天与呪縛”という特殊な体質の持ち主。このため実家から疎まれており、彼女が呪術師を目指すのもこれを見返すことが目的である。双子の妹の真依とは愛憎半ばする間柄。

狗巻棘（いぬまき とげ）

都立呪術高専のクラスメイト。言葉に呪力を乗せて発する「呪言」という術式を代々受け継ぐ家系の生まれで、自身も呪言の使い手。これが暴発しないよう、普段は語彙を「おにぎりの具」に限定している。
このため当初は「おにぎりの具しか言わないし、何を考えているのか分からない」と乙骨から敬遠されていたが、内面は非常に友達想いで優しい性格。共に呪霊退治に赴く中でそれを知った乙骨から信頼されるようになり、無二の親友となっていった。
渋谷事変で腕を失う大怪我を負い、これがその犯人と目された虎杖への乙骨の憎悪を掻き立てる要因となる。結局これは呪術界上層部を欺くための芝居だったが、「もし狗巻が肉体を欠損するほどの怪我を負えば、乙骨ならその犯人を本気でブチ殺しかねない」と読者は戦慄した。二人の関係性をうまく利用した演出だといえる。

狗巻棘（呪術廻戦）の徹底解説・考察まとめ - RENOTE [リノート]

renote.net

狗巻棘（いぬまき とげ）とは『呪術廻戦』の登場人物で、言葉に呪力を乗せて放つ「呪言師」の少年。
東京都立呪術高等専門学校の二年生で、主人公の虎杖悠仁からすると一年先輩に当たる。呪言は声が届く距離かつ呪力などで防がれなければどんな命令でも他者に強制できる強力な術式で、それだけに反動も大きい。普段は語彙をおにぎりの具に限ることで、呪言の効果が過度に働かないよう努めている。
その独特の口調から敬遠されることもあるが、本人は温厚で優しい性格。特級被呪者である乙骨憂太と最初に親しくなった呪術師である。

パンダ