君の名前で僕を呼んで(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『君の名前で僕を呼んで(Call Me by Your Name)』とは、2017年に公開されたルカ・グァダニーノ監督による青春・ラブロマンス映画。17歳エリオは大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァーとひと夏を共に過ごす。そんなエリオの初めての、そして生涯忘れられない恋の痛みと喜びを描いている。本作はアンドレ・アシマンが2007年に出した小説『Call Me by Your Name』を原作としている。今作では原作の物語の途中までしか描かれておらず、続編の構想が明かされている。

ガルダ湖

エリオの父から遺跡発見の知らせを聞き、エリオとオリヴァーとエリオの父3人で向かった湖。そこから引き上げられたのは、遥か昔に水の中へと沈んだ歴史的な彫像だった。
実際撮影された場所はイタリアのガルダ湖畔のシルミオーネという場所である。実際にもまだ貴重な遺跡が湖に残っていると言われている。

エプタメロン

エリオの母アネラがドイツ語版を英語に翻訳しながら読み聞かせた16世紀のフランスの小説。エプタメロンという小説は、様々なエピソードから構成されており、アネラがエリオに読んだ章は「to speak or die?」というフレーズのある騎士と姫の物語である。姫に思いを告げるか否か悩み苦しむ騎士の姿を描いており、この物語に触発されエリオとオリヴァーの物語も進んでいく。

『君の名前で僕を呼んで』の魅力

スクリーンから匂いまで届いてきそうな作品

全体的にセリフが少なく、光や熱や音や空気をありったけ使い、生々しくも眩い映像が特徴的な映画。きらめく太陽の下での読書、目がくらむほどの青空でのサイクリング、原色のような緑の芝生で寝そべる2人、赤く熟した色鮮やかなフルーツ。色彩をふんだんに使い、舞台となっているイタリアの空気感が漂ってくる。

美しい同性愛

本作は同性の恋愛を美しく描いている。80年代の同性の恋愛映画ではエイズ問題が描かれる作品が多かったが、本作ではエイズ問題は一切描かれない。同性愛のマイナスとなる部分よりも、同性愛の恋愛の繊細さや美しさをクローズアップしている。同性関係無く自分の気持ちを全部さらけ出す事が大切であると示している。
エリオの両親は同性愛に偏見はなく、父親も昔は男性に惹かれた過去があるからこそ気持ちが分かると息子を理解している。登場人物の中では誰も2人の恋愛を否定する者は出てこない。
いかに美しく同性愛を表現するかにこだわっている。極めつけは、タイトルにもなっている「自分の名前で相手を呼ぶ」という2人だけのルール。お互いがお互いの半身であることを宣言するにも等しい、究極の一体感の表現である。唯一無二の関係、それも異性愛より同性愛というシチュエーションにこそハマる愛情表現。

芸術性のある作品

本作では古代ギリシャ等の芸術がふんだんに使われており、古代ギリシャの歴史が大きく関わっている作品である。というのも、古代ギリシャでは少年と青年同士の恋愛である「少年愛」というものがあったとされている。これは、通過儀礼のようなものとされていた。本作はこの文化を根底に置き、原作者であるアンドレ・アシマンの哲学が表現された作品である。

『君の名前で僕を呼んで』の名シーン・名場面

好きな人の香り

本作でエリオがオリヴァーの部屋に無断で入り、オリヴァーの服の匂いを嗅ぐシーンがある。頭から服を被りオリヴァーの香りに包まれ、その香りに浸るシーン。
1番記憶に残りやすのは「香り」と言われており、好きな人の香りを嗅ぐだけで、幸せな気持ちになったり、好きな人の香りに包まれていたいと感じるほど「香り」は恋愛において重要なものである。

芝生で寄り添う2人

エリオが気持ちを告白した後オリヴァーを自分の「秘密の場所」に案内して湖のほとりの草原で寝転び初めてキスをするシーン。最初はオリヴァーから軽くキスをするが、後にエリオが激しくキスをする。まだ過ちを犯すべきではないと一旦忘れようとするオリヴァー。2人の気持ちは確かだが、離れる事が最善だという初々しくも甘酸っぱい雰囲気が漂う美しいシーンである。

今までにないエンドロール

3分半にも及ぶ長回しラストショットには心揺さぶられると話題になったシーン。オリヴァーが帰国し、数ヶ月が経つ。久しぶりにオリヴァーから電話があり「結婚することになった」と聞かされ、放心状態となるラスト。電話を切り、暖炉の火を眺めるエリオの顔のアップ映像の左側スペースにメインキャスト・スタッフ等の名前が出る。 今ままで味わった事のない痛みに必死に耐えるエリオだが、堪えきれず涙が出てくる。エリオが母親に呼ばれ、涙を拭き取りゆっくり振り返りスクリーンは黒に変わる。暖炉の焚火の音だけが響き、スタッフ等の名前が出て終わる。エリオの映像の方が長く、背景が黒に代わってからは短い。エンドロールのほぼ一面で悲しい表情を3分半にも及んで演じたティモシー・シャラメの圧巻な演技である。

『君の名前で僕を呼んで』の名言・名セリフ

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