ロッキー5/最後のドラマ(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ロッキー5/最後のドラマ』とは、1990年製作のアメリカ映画。ボクシングに挑む1人の男の愛と闘いを通して、サクセス・ストーリーを描いてきた『ロッキー』シリーズの第5作にして完結篇。シリーズ1作目で監督を務めたジョン・G・アヴィルドセンを再び監督として招き、脚本・主演はシルヴェスター・スタローンが務める。脳へのダメージからボクサーを引退し、財産も失い、原点であるフィラデルフィアの下町に戻ったロッキーが、新人ボクサーを育成しトレーナーとして第二の人生を歩む姿を描く。

ヘビー級チャンピオンのユニオン・ケインと挑戦者トミー・ガンのタイトルマッチが開催され、ロッキーは家の地下室でポーリーとテレビ観戦している。ポーリーはロッキーを裏切ったトミーに罵声を浴びせながら観ているが、ロッキーはトミーを応援している。途中からジュニアとエイドリアンも観に来るが、ジュニアは観ながらスケッチブックに何やら絵を描いている。圧倒的な強さでKO勝ちを収めチャンピオンとなったトミーは勝利のインタビューで「恩人に感謝を捧げたい」と答えると、ロッキーではなくデュークの名を挙げた。ショックを受けるロッキーに、ジュニアが描いていた父の似顔絵を見せて言ったセリフ。

父を取られてトミーに嫉妬し、今度は父を裏切ったトミーが大嫌いになったジュニア。父のことが大好きで父を誇りに思っているジュニアの心には、引退してもロッキー・バルボアが真のチャンピオンなのだ。
父・ロッキーに対してのジュニアの思いを見事に表現した名セリフである。

ゴングはまだ鳴っていない。もう1ラウンドだ。"I didn't here no bell. One more round."

トミーがポーリーを殴ったことで堪忍袋の緒が切れたロッキーは、「ここがリングだ!」と外に出て、頭に血が上ったトミーと路上で素手での殴り合いを始める。最初はロッキーが優勢だったが、トミーが反撃。ロッキーはトミーの鋭いパンチを浴びて倒れ、朦朧とする意識の中を過去の戦いやミッキーの言葉が頭の中にフラッシュバックする。そしてミッキーの励ましの言葉がロッキーを再び立ち上がらせた。デュークたちが無理やり連れ戻そうとしていたトミーに対してロッキーが挑発したセリフ。そして不敵な笑みを浮かべるトミーとのストリート・ファイトを再開する。

本作においては、脳の障害でリングに立てないという理由で、ボクサーとしてのロッキー・バルボアの試合のシーンは無い。
『ロッキー』のファンとしては物足りない展開であるからこそ、トミーとの路上のストリートファイトを、リング上でのタイトルマッチと見立てる必要があったのだろう。ロッキー自身がこのセリフを言うことでファンには嬉しい名セリフとなった。

ミッキーとの絆を回想するロッキー

脳へのダメージから引退を余儀なくされ、財産をすべて失ってしまったロッキーは、恩師ミッキーとともにトレーニングを積んだ、今は廃屋も同然となっているジムを訪れる。ミッキーとの絆に想いを馳せるロッキーは涙を流す。その想いが回想シーンとなり、シリーズ3作目で亡くなったミッキーが姿を現す。

「おまえがいなけりゃ、くだばっていた」「人間は目標を失ったら死ぬ。おまえが目標を与えてくれた」とロッキーに語るミッキーの姿は、『ロッキー』ファンにとっては、感じ入るものがあるだろう。時に罵り合う事もあった2人の固い絆を感じる名シーンとなっている。
この中で、ミッキーがロッキーに、伝説のボクサー、ロッキー・マルシアーノから貰ったというボクシング・グローブ型のカフスボタンをプレゼントするのだが、ミッキーからロッキーへの継承の象徴ともいえるこのカフスボタンが、この後の展開に絡んでくることになる。

美術館前でのラストシーン

一度は失いかけた親子の絆を取り戻したロッキーとジュニアは、2人でフィラデルフィア美術館の階段を上る。
この階段は、ロッキーが20年前からロードワークのゴールとして何度も駆け上がった場所だが、年を重ね、引退したロッキーは「年々高くなっているようだ」と、かつてのように全力で駆け上がることが出来なくなってきた。そんな思い出の場所で、ロッキーはミッキーから受け継いだカフスボタンをジュニアにプレゼントする。そしてロッキーは、「美術館の中に入るの初めてだ。」と言いながら2人でフィラデルフィア美術館に向かって歩いて行く。

これまで美術館の中に何があるかなど全く興味がなかったロッキー。だからこの階段を駆け上がっても美術館の方ではなくいつも町の方を見ていた。
そのロッキーが初めて美術館の方に向かう。これまでボクシング一辺倒だったロッキーが、息子の絵の才能を初めて知り、自分とは違う人生を送ろうとしている息子を見つめると同時に、ロッキー自身も新たな人生をスタートさせるのだという決意が現れた、完結編らしいラストシーンとなっている。

『ロッキー5/最後のドラマ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

注目のボクサー、トミー・モリソン

新鋭ボクサー、トミー・ガン役で出演したトミー・モリソンは、1969年生まれのアメリカ合衆国出身のプロボクサー。
アマチュアボクシングでは222勝20敗の戦績を誇り、1988年のプロデビュー戦では初回でKO勝ち。甘いマスクという事もあって人気があり、2年後の1990年に本作で俳優デビューを果たす。
1993年にはジョージ・フォアマンに12R判定で勝利し、WBO世界ヘビー級タイトルを獲得。当時のヘビー級戦線では黒人選手の多い中、アメリカ出身の白人選手は珍しく、「ホワイト・ホープ:白人の希望」として注目された。
俳優ジョン・ウェインと甥や甥の息子であるなど諸説あるが、ジョン・ウェインの息子パトリック・ウェインは「彼がジョン・ウェイン家とほんとうに血縁関係にあるのかは知らないけど、彼がこれからも試合に勝ち続けるなら彼は確かに父の甥だよと言わなければならないだろうね」と冗談で答えている。

ロッキー・ジュニアはスタローンの実子

ロッキー・ジュニア役で出演したセイジ・スタローンは、シルヴェスター・スタローンと1人目の妻サーシャ・チャックとの息子である。
本作以降は、1996年に映画『デイライト』で再び共演しているが、俳優のキャリアとしては脇役が多い。短編映画の監督も手掛けている。
2012年7月13日、ロサンゼルス市ハリウッドの自宅で死亡しているのが発見された。当初、死因は不明とされたが、その後の検死で心臓発作による自然死であることが分かった。36歳だった。

悪徳プロモーターにモデルがいた

ドン・キング(左)とマイク・タイソン

悪徳黒人プロモーターとして登場するジョージ・ワシントン・デュークには、実在するモデルがいると言われている。
モハメド・アリやマイク・タイソンなどの試合をプロモートし、世界規模で著名なやり手のプロモーター、ドン・キングである。
マイク・タイソンやモハメド・アリ、イベンダー・ホリフィールド、ラリー・ホームズ等、ヘビー級トップボクサーのビックマッチを手がけたり、ヘビー級統一トーナメントやミドル級変速統一トーナメント、史上初めて全ての試合が世界タイトルマッチになった8大タイトルマッチを実現させるなどボクシング興行における立役者である。その一方でマフィアと繋がりがあるとの噂や、契約違反やファイトマネーを搾取しているとして提訴されるなど、契約選手及び、そのマネージャーとの金銭トラブルが絶えることがなかったため関係者からの評判は悪かった人物である。
因みに、シリーズ3作目まで登場していたミッキーのモデルとも言われるボクシング・トレーナー、カス・ダマトが激しく嫌っていたことでも有名である。

アナザーバージョン

監督のジョン・G・アヴィルドセンが、2002年頃に本作のディレクターズ・カット版をオンラインで公開していた。このディレクターズ・カット版は、VHS・DVDなど販促物には使用されていないので一般には出回っていないが、第三者の手によりアナザーバージョンとして動画サイトなどに映像が流出しているそうである。
内容としては、公開を予定していた完成版の編集がされる前のもので、劇場公開版やソフト版と比べるとビル・コンティ作曲の音楽が多く使われている他、1作目に登場したスラム街の不良少女、リトル・マリーが再登場していたり、ストリートファイトのシーンが長かったりと、約10分ほどのカットされた未公開シーンが追加されていて、通常版とは大きく内容が異なっているらしい。

『ロッキー5/最後のドラマ』の主題歌・挿入歌

挿入歌:The 7A3「Take You Back 」

「Take You Back」は、シルヴェスター・スタローンの弟フランク・スタローンによる曲。
ヒップホップグループ「The 7A3」によってアレンジされた曲を使用している。
ロッキーの家族が、フィラデルフィアの下町に引っ越して来た時に流れる。

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