黒い家(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
1999年に日本で公開された、貴志祐介原作の映画。監督は森田芳光。2007年には韓国でも映画化された。保険金殺人をテーマにした作品で、当時使われだした「サイコパス」という表現にも焦点が当てられた。心理学的な「反社会性人格」(サイコパス)という存在についての警告や残酷な描写が含まれ、殺人鬼を演じる大竹しのぶと主人公を演じる内野聖陽との攻防が手に汗握るホラー・サスペンスとなっている。
『黒い家』のあらすじ・ストーリー
保険会社で主任をしている若槻慎二は、ある日「自殺でも保険金はおりるのか」という電話を受け取る。
その後、菰田重徳という人物の家に、保険の相談で訪れることになる。菰田は息子の名前を呼びながら若槻をもてなし、「その襖を開けたところに息子がいるはずだから」と、若槻に襖を開けさせる。
そこには首をつった菰田の息子の姿があった。
会社では「偽装自殺で保険金をだまし取ろうとしたのでは」「若槻を最初から第一発見者にするつもりだった」という会議になる。
菰田重徳は何度も若槻の会社に足を運び、なかなか支払われない保険金を請求し、精神的に追い詰めていく。若槻の家には嫌がらせのファックスも届くようになる。明らかに若槻の行動を見張っているという意味で、ジムで水泳をしている姿を「しぶきたてすぎ」と書かれたファックスを毎日大量に受信し、若槻は心身ともに疲弊する。
若槻はこの件の調査を恋人の恵に、心理学の観点から協力してもらうことにする。使用したのは菰田重徳とその妻である菰田幸子の子供の頃の「夜に見た夢」についての作文。そこで恵の大学の助教授であるという金石という人物が現れ、「この作文を書いた人間はサイコパスだ」と断定する。
菰田重徳は毎日のように会社に訪れ、若槻の神経をすり減らすが、事態は一転、そのあやしい保険金は支払われることになる。
そうしてホッとしたのもつかの間、金石が誰かに拷問の末に殺害される。
金石は菰田重徳に興味を持ち、若槻の会社へおしかけたり、菰田家の周りをビデオに撮ってうろちょろしていた。
若槻は「菰田重徳が犯人だ」と警察に訴えるが、相手にしてもらえないs。
その後会社に一報が入る。今度は菰田重徳が両腕を切断してしまい、その保険金を支払えと言われることになる。
真に狂っていたのは重徳ではなく、妻の幸子であった。
自身の連れ子である息子を保険金のために殺し、夫である重徳の腕を切り落とし、家の周りをうろちょろし「サイコパス」の症例をビデオに撮ろうとして目障りである金石を殺害した。
本社がこの案件に乗り出してくるが、それを若槻の差し金だと思った幸子は、若槻の部屋をめちゃくちゃに荒らし、殺してやろうと待ち構える。
留守番電話サービスで部屋の内部の音を聞いた若槻は、幸子が自分の恋人である恵を拉致監禁していることを知る。
警察に知らせてすぐに一人で菰田家に乗り込むが、そこでおびただしい拷問器具と死体、そして拘束されて暴力を振るわれた形跡の見える恵を発見する。
そこへ幸子が戻ってきて、危機一髪というところで若槻と恵は警察に助け出され、幸子は逃走する。
恵は両親のところへ引き取られ、簡単に会わせてもらえなくなり、焦燥の日々を過ごす。幸子の行方はまだ警察でもつかめていなかった。
別の支社から来た電話で、先輩の女性社員と会社で待ち合わせすることになった若槻。なんでも大事な話があるという。
しかし時間になっても彼女は来ず、トイレで用を足していると、そこへボウリングの球が投げ込まれてくる。
驚いて逃げ出した先には、守衛が殺されていて、包丁を持って幸子が若槻に迫っていた。
幸子は若槻を殺そうとしながらも「乳吸え!」などといい胸をあらわにし、若槻はそれを殺されたくない一心で必死に愛撫するが、「下手くそ!」と言われて殴られる。
幸子は「私の親が私を傷つけてお金をもらっていた、だから私がしちゃいけないなんて決まりはない」という意味のセリフをいい、若槻を仕留めようとするが、拾い上げ若槻が投げたボウリングの球が幸子の頭部にヒットし、首の骨を損傷した幸子は死亡する。
しばらくは怪我の療養もあって平穏に暮らしていた若槻だったが、上司から「快気祝い」とボウリングに連れて行かれ、黄色の玉をみて事件を思い出してしまうのであった。
『黒い家』の登場人物・キャラクター
若槻慎二
内野聖陽が演じる主人公。
保険会社「昭和生命」の支社主任で、真面目な性格。
趣味は水泳で、ジムに通っている。恋人の恵とは良好な関係で、仕事の相談などもしている。
人がよく気弱だが、菰田の案件では「自分が担当した件だから最後までやらせてほしい」と嘆願した。
菰田幸子
大竹しのぶが演じる殺人鬼。
人間らしい心を持っていないという描写がところどころでされている。
黄色が好きで、趣味のボウリングのユニフォームやマイボールも黄色。私服も黄色を着ている。
物心ついた頃に幸子の腕を傷つけて保険金を受け取ろうとした親を持っていて、それが彼女の「自分が良ければ人は死んでもいい」という犯行の理由づけとなっている。菰田重徳とは再婚。
菰田重徳
西村雅彦が演じている。
菰田幸子とは小学校の時からの同級生。
過去は自分の指を切断して障害給付金を受け取る「指狩り族」だった。
息子の死を悲しむそぶりをみせつつ、「困った」と脅迫にならない脅しを若槻にし続けて精神的に追い詰める。
その後幸子の手によって両腕を失い、若槻の会社から保険金をだまし取ろうとしている。
黒沢恵
田中美里が演じる主人公の恋人。
大学で心理学関係の職についており、助教授の金石とともに、見せられた作文を書いた人間は「人間らしい心がない」と評する。だが、金石の人にレッテルばりをするような評価の仕方を好ましく思っていない。
金石克己
桂憲一が演じる、恵の大学の助教授。
自ら事件に首を突っ込み、菰田重徳はサイコパスだ、若槻を殺す危険性がある、と指摘する。
作中菰田家に詮索をしすぎて、拷問の末に殺されてしまう。
見どころ
キャスティングの妙
ミュージシャンの山崎まさよしが出前持ちで登場したり、作家の町田康が刑事として、原作の貴志祐介が京都支社の営業マンとして登場したりと、カルト映画に近いキャスティングが魅力。
だが、それに負けないだけの演技力をもった役者をメインキャラに据えており、ふわふわとつかみどころのない話し方をする菰田幸子役の大竹しのぶの演技はまさにど迫力。自身には一切非がなく、自分の邪魔をする人間のみが殺されても仕方がないと思い込んでいるその「サイコパス」さに震えが来るほど鬼気迫っている。
その夫役である西村雅彦演じる菰田重徳も、気弱で妻の尻に敷かれている雰囲気を出しながら「金のためなら自分の腕も切り落とす」という狂気を見事に演じている。
主人公・若槻を演じている内野聖陽も、気弱で真面目なサラリーマンという役柄にぴったりのはまり役。菰田幸子が自宅で暴れながら若槻を待ち受けるシーンでは、取り乱しながらも留守番サービスに電話をするという冷静さを、そして菰田家に乗り込み恵を救出するという男らしさを絶妙な配分で演じている。
舞台設定と背景の作り込み
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