アバウト・タイム（About Time）のネタバレ解説・考察まとめ

『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』の概要

『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』とは、ラブコメの巨匠リチャード・カーティスが監督を務める恋愛映画である。イギリス、アメリカでは2013年9月4日と11月3日に公開され、日本はそこから約1年後の2014年9月27日に公開。日本での公開から10年が経過した2024年には、全国56箇所の映画館にてFilmarks主催の10周年を記念した2週間限定のリバイバル上映が行われた。本作はカーティスにとって『ラブ・アクチュアリー』（2003年）『パイレーツ・ロック』（2009年）に続く3作目の長編恋愛映画にあたる。カーティスはこの作品を機に引退することを表明する程の覚悟をもって取り組んでいた。主人公の青年、ティム・レイクを演じるのは『ハリー・ポッターと死の秘宝』（2010年）『アンナ・カレーニナ』（2013年）などに出演しているドーナル・グリーソン。ヒロインのメアリー役には『きみに読む物語』（2005年）でブレイクしたレイチェル・マクアダムスが抜擢されている。またティムの父親であるジェームズ・レイクを演じるのはカーティスが監督を務める『ラブ・アクチュアリー』にて「英国アカデミー賞 助演男優賞」を受賞したビル・ナイであり、今作で2度目のタッグを組んでいる。そしてティムとメアリーのカップルが『ムービープラス・アワード2014』のベストカップル賞＜映画ファン大賞＞において1位を獲得している。

イギリス南西部に住む風変わりな5人家族。長男のティムは自分に自信が持てず、彼女を作ることができずにいた。そんなティムだが21歳の誕生日を機にその平凡な生活が一変していく。ティムの家系の男性は代々タイムトラベル能力を受け継いでいることが、父のジェームズから告げられたのだ。ジェームズは自身の経験からタイムトラベルのやり方、教訓などをティムに伝え、彼は早速直近の人生のやり直しから始めていく。ティムにとって人生で何より重要なものは恋愛であった。ティムは恋を中心に人生をより良いものへ変えていこうとする。その途中で様々な人と出会い、恋や人助けをしていき、失敗すれば違う選択肢を選びやり直していく。同じ日を重ねる度に増えていく日常の中に生まれる愛情。ティムは与えられた能力によって愛を日々膨らませ、最後には能力が無くともその日常の愛おしさを感じられる人物へと変化していく。タイムトラベルという特殊能力による恩恵を受けるティム。彼の特別な日常を通じて、私達の日々に隠れた愛に気付けるヒントが見つかる作品である。

『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』のあらすじ・ストーリー

タイムトラベルの能力者であることを知らされた21歳の誕生日

イギリスの南西部、コーンウォールにすむ青年ティム・レイク。一家はティムと父ジェームズ・レイク、母メアリー・レイク、妹のキャサリン・レイク（愛称：キットカット）、叔父のデスモンド・レイクからなる仲良しな5人家族である。21歳の誕生日を迎えたティムに、父から代々一族の男性はタイムトラベル能力を受け継いでいることが明かされる。そこにはルールがあり、彼らに未来に行く力は備わっていない。タイムトラベルできる時間は過去に限定されていた。そして金儲け以外の方法で、人生をより良くする為に能力を使うよう父はティムにアドバイスをする。父の話を聞きティムの導き出した答えは、恋人を見つける為に能力を使っていくことであった。

その年の夏にティムは早速恋に落ちる。相手はキットカットの友人シャーロット。彼女は夏休みの間レイク家に泊まることになり、その最終日にティムは彼女に告白をする。返事はNOであった。もっと告白が早ければ付き合っていた可能性があったかもしれないというシャーロットの返事を聞き、ティムは過去に戻り今度は夏休みの途中で告白をすることに決める。しかしそれでも返事は変わらず、今度は夏休みの最後まで待てば付き合うかもしれないという返事であった。そうして最後まで待ったものの彼女の気が変わることはなく、タイムトラベルをしても変わらない結果があることをティムは知る。

より良い人生を送る為タイムトラベルの能力を使い込んでいくティム

秋になりティムは家を出て、ジェームズの知り合いである脚本家ハリーの家に滞在する為訪れていた。そのままロンドンで弁護士として働き始め、職場と家の往復の日々に恋愛とは無縁の生活を送ることになるが、そんなティムに転機が訪れる。悪友のジェイに誘われ暗闇の中で食事をするレストランに行った時のこと。お互いの姿が見えない中、ティムとジェイは2人の女性と会話を楽しんだ。彼女たちの名前はジョアンナとメアリー。ティムとの会話が弾んだ相手は出版社に務めるメアリーの方であった。その後店の外に出て明るい場所でメアリーと対面し、ティムは彼女に一目惚れ。それから彼のタイムトラベル能力はメアリーとの恋を成就させる為に駆使されていくこととなる。

しかしメアリーとの出会いの裏側では、ハリーが大惨事に見舞われていた。舞台で役者がセリフを忘れ大失敗に終わったのだ。そこで舞台の結果を変える為にティムは過去へ戻り、舞台を大成功させる現実を作る。ハリーは大喜びであったが、現実が変わった代わりにメアリーと交換した電話番号が携帯から消失。暗闇のレストランに行った出来事が無かったことになり、ティムは後悔する。そこでメアリーとの会話の記憶から彼女がケイト・モスの大ファンであることを思い出し、ケイトの写真展で偶然の遭遇を画策する。それからティムは写真展に通い詰め数日が経ち、無事にメアリーとの再会を果たす。けれども初対面らしからぬティムの様子にメアリーは警戒。さらに彼女には付き合ったばかりの彼氏ができていた。またもや予期せぬ現実が作られ、今度はその彼氏とメアリーが出会う前の時間に飛び、ティムは無事にメアリーと付き合うことに成功するのであった。その後2人は同棲し、やがて結婚に至る。2人は夫婦となり娘のポージーを授かるのだが、今度はポージーの1歳の誕生日にキットカットが事故に遭う。この時のキットカットは恋も仕事もどん底まで落ち、お酒を飲んだ状態で自動車事故を起こしていた。

そこでティムはキットカットが事故を起こす原因となった彼氏ジミーとの出会いが無い世界線へと飛ぶことにするが、今度はポージーがいなくなり代わりに息子が生まれていた。ポージーのいない現実を受け入れられないティムは父に理由を訊く。子供の誕生にはタイミングが非常に重要であり、その時の精子でなければポージーが生まれることはないのだと父に教わったティム。そこでティムはキットカットの過去を変えることを諦め再びポージーが生まれた時間へと戻り、事故にあったキットカットをメアリーと共に説得していくことを選ぶ。やがてキットカットはジミーとの縁を切り、ジェイと付き合っていくことになる。そうして無事一件落着し、メアリーとの間には4人目の家族となる長男のジェフが誕生した。

父のガンを機にティムが得た日々を生きる上での教訓

キットカットの人生は好転し、ティムの人生も上手くいっていた。しかしここにきて大きな悲しみがティムたちをを襲う。ジェームズのガンが告げられたのだ。原因は喫煙であるが、過去に戻ったところで変えられないことをティムは知る。ジェームズ自身もこの時間を何度も繰り返しており、家族と長く過ごす為に元気な頃に戻っては何度も同じようにガンを告げていた。それでもガンにならない現実は叶わなかった。ガンであることを受け入れている父からの最後の助言をティムは聞くことになる。それは同じ日を2回過ごすよう促すものであった。そうすることで1回目には気付けなかったことに、2回目は気付けるようになるというもの。ティムは父の教えによって、積み重ねる毎日を更に良いもへとの塗り替えていく。そしてジェームズが亡くなった後にも、彼に会いたくなれば過去に戻りティムはジェームズと再会していた。
しかしジェームズに会いに行ける時間も終わりを迎える時がくる。メアリーが3人目の子供が欲しいとティムに話してきたのだ。3人目ができるということは、ティムがもうジェームズと会う為に過去に戻れなくなることを意味する。子供の誕生はタイミングが重要である為、やり直しが効かないからだ。またジェームズの望みは過去に生き続けるのではなく、ティムが未来に進みながらより良い人生を送っていくこと。ティムは3人目が生まれるギリギリまで過去に戻り彼に会いに行く。そうして最後のタイムトラベルをし、ジェームズとティムは思い残すことのないよう時間を過ごした。何度も過去を繰り返しながら父の死と長い時間を掛けて向き合い、ティムはその現実を受け入れていった。
こうして5人目の家族となった娘のジョーが誕生する。そしてティムがタイムトラベルの能力を使うことはもう無くなった。今は毎日を一度しか生きられないティムだが、タイムトラベルで得た教訓と共に替えのきかない大切で愛おしい日々を生きている。

『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』の登場人物・キャラクター

レイク一家

ティム ・レイク（演：ドーナル・グリーソン）

吹替：亀田佳明
レイク家の長男であり21歳を迎えたばかりの細身の青年。自分に自信が持てず恋人が作れないでいたが、タイムトラベルの能力を受け継いでいたことが明かされ人生が激変していく。金儲け以外のことに能力を使うよう父から教わり、それを忠実に守っていく。その為彼がタイムトラベルを使い始めた最初の目的は、恋人を作る為のものであった。

ジェームズ・レイク（演：ビル・ナイ）

吹替：伊藤和晃
ティムの父であるタイムトラベラー。50歳で教員を辞めている。よくティムと卓球をしては、その度に負け続けていた。ティムが21歳を迎えた時に能力のことを伝え指導する役目を担っている。ティムとは能力の秘密を共有したことで、絆がより強くなっていった。しかしタバコが原因でガンになる。その結末を変えようと何度もタイムトラベルを繰り返すものの、変えられない現実があることを悟る。自身の得た教訓を惜しみなくティムに教えていった。

キャサリン・レイク（演：リディア・ウィルソン）

吹替：堀井千砂
キットカットの愛称で親しまれているティムの妹。ティムに恋人ができるまでは、キットカットがティムにとって世界で一番ステキな存在であった。しかしボーイフレンドとの関係も上手くいっておらず、彼女は自身を落ちこぼれと言う。

メアリー・レイク（演：リンゼイ・ダンカン）

吹替：高島雅羅
ティムの母。少し変わった性格をしていながら、優しく感情に流されない人物。ジェームズがいなくなった後にもティムたちの前では笑みを浮かべ、強く生きている。彼のいない人生にはまったく興味が無いのだと、そこには運命に対する怒りが含まれていた。

デズモンド・レイク（演：リチャード・コーデリー）