イーグル(かわぐちかいじ)のネタバレ解説・考察まとめ

『イーグル』とは、かわぐちかいじの政治漫画である。1998年から2001年まで『ビッグコミック』で連載された。新聞記者城鷹志は、唯一の肉親である母を事故で亡くす。悲しみの中、突如アメリカ大統領選挙候補者の1人ケネスから密着取材を指名された。アメリカに渡った城は、ケネスから自分の子供である事を告げられる。動揺しながらも、彼はアメリカ大統領選挙を戦うケネスの取材を行う。その取材の過程で母親が何者かに暗殺された事に気付く。事件の真相に迫りながら、アメリカの抱える政治的問題が描かれていく。

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1955年〜1975年にかけて起きた戦争がベトナム戦争である。当時は冷戦中で世界が共産主義陣営と資本主義陣営に分かれていた。資本主義陣営の筆頭であるアメリカは、ベトナムを自陣へ引き込むべく内政干渉を行う。その結果、ベトナムの独立と社会主義化を願う北ベトナムと、アメリカの傀儡政権国家南ベトナムに分裂した。

アメリカは圧倒的な武力と、強力な兵器を次々と動員し北ベトナムへ攻勢を仕掛ける。だが南ベトナムはゲリラ戦術を展開し、一般人やジャングルに紛れて散発的な持久戦を行った。アメリカ兵は一般人とゲリラとの区別が付かなくなり、大苦戦を強いられる。苦肉の策としてゲリラを匿ったとされる村を焼いたり、枯葉剤でジャングルを枯れさせる作戦をとった。当時は情報統制が未熟であった為、このアメリカ軍の非道な行いは報道され、世論の大バッシングを受けてしまう。ケネスとジョセフはこうした状況下で戦線に立ち、自分の中の正義に葛藤する事となった。

組織名

ファースト・アメリカン・バンク

大富豪ハンプトン家が経営する銀行。巨大な資金力を持ち、大きな影響力を有する。ケネスはこの銀行のバックアップを受けて大統領選挙を戦う。

フットボールサークル

ケネスが所属したサークル。アメリカではフットボールが盛んであり、花形スポーツとされている。

ハーバード大学

1636年に創立されたアメリカ最古の私立大学。マサチューセッツ州のケンブリッジにキャンパスがある。大統領、副大統領、ノーベル賞受賞者を輩出している名門大学である。

『イーグル』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

ケネス・ヤマオカ「私は第43代アメリカ合衆国大統領に、立候補致します!」

日系人3世のケネスはアメリカ上院議員を務める男性である。彼は集まったマスコミの前で「私は第43代アメリカ合衆国大統領に、立候補致します!」と宣言した。それはケネスにとって生涯を賭けた戦いの始まりを意味する。こうしてケネスの過酷な選挙戦が始まっていく。

富子が大切にしていた写真

鷹志の母親である富子は生涯1枚の写真を大切にしていた。鷹志は、母と映る軍服姿の男性が父親であると聞かされていた。だがその目元は陰となっており、写真の経年劣化がその正体を隠している。鷹志は母親の死後、写真の男性がケネスである事を知った。またこの写真が富子の死後に紛失した事から、鷹志は母親が何者かに暗殺された事に気付く。物語のキーアイテムでもある。

ケネスとノアが握手するシーン

民主党の指名代表選抜予備選挙は、ケネスの勝利に終わった。そして彼は副大統領にノアを指名する。当初はこれを固辞していたノアであったが、最終的にケネスを支える事を決意した。民主党の全国大会にて、ケネスとノアは固い握手を交わす。かつて熾烈な選挙戦を繰り広げた彼等は、今度は仲間同士として団結し、共和党との本選挙へ臨む。物語の転換点であり、区切り的な名シーンである。

ケネス・ヤマオカ「いかなる暴力にも屈しない!!」

本選挙を戦うケネスは、アメリカ各地を飛び回り演説を繰り広げる。だがアメリカ白人達の胸の奥底では、ヒスパニック系であるケネスへの差別心が燻っていた。人種差別問題がアメリカ中に内在していたのである。ケネスはこの事態を打破すべく、過激な白人優位主義団体へ匿名の献金を行い、彼等を活性化させた。その結果、過激派による反ケネスの吊し上げ活動が勃発し、社会は混乱する。これによりケネスは人種差別問題を顕在化させ、真っ向からこの問題へと戦いを挑んだ。多くの白人アメリカ市民達は、白人優位主義者達の過激的活動に眉を顰めつつ、自分の心中深くにある人種差別意識に気付き葛藤し始める。そんな折に、ケネスは演説の際に白人優位主義者の一般白人男性に狙撃されてしまう。大混乱の最中、ケネスは立ち上がり「いかなる暴力にも屈しない!!」と叫んだ。その姿は人種差別と正面から戦う英雄として、大衆の目に映る。こうして彼は英雄となり、多くの票を獲得した。尚、ケネスはボディーアーマーを付けていた為、肋骨を折ったものの命に別状は無かった。

チャールズ・ハンプトン「夢は…叶った!!」

母である富子の死の真相を追い、鷹志とケネスは黒幕へと辿り着く。それはケネスの義父チャールズであった。ファースト・アメリカ・バンクの会長として君臨する彼は、更なる富と名声を求め「自分の手でアメリカ大統領を作り出す」という野望に取り憑かれていた。その障害と成りかねない富子を、チャールズは刺客であるデュランを差し向けて暗殺したのである。

自分の犯罪が暴かれた事を察知したチャールズは、デュランと共に自家用ジェットで逃亡する。そしてデュランを睡眠薬で眠らせ、ケネスとの電話で全ての真相を暴露した。そして最後に「夢は…叶った!!」と彼は叫ぶ。その言葉と共に、彼は自らの操縦で機を落下させる。機体は地面に衝突して炎上し、チャールズは己の野望を達成した満足感と共に死亡した。富子の死の真相が明らかとなり、黒幕が物語から退場する鮮烈なシーンである。

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@mathew138

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