『イーグル』とは、かわぐちかいじの政治漫画である。1998年から2001年まで『ビッグコミック』で連載された。新聞記者城鷹志は、唯一の肉親である母を事故で亡くす。悲しみの中、突如アメリカ大統領選挙候補者の1人ケネスから密着取材を指名された。アメリカに渡った城は、ケネスから自分の子供である事を告げられる。動揺しながらも、彼はアメリカ大統領選挙を戦うケネスの取材を行う。その取材の過程で母親が何者かに暗殺された事に気付く。事件の真相に迫りながら、アメリカの抱える政治的問題が描かれていく。
『イーグル』の概要
『イーグル』とは、小学館の『ビッグコミック』にて連載された、かわぐちかいじの漫画である。1998年から2001年まで連載した。単行本は全11巻。アメリカ大統領選挙をリアルに描きつつ、アメリカの抱える様々な問題を描いた作品である。ベトナム戦争、人種差別、銃規制問題等、現実の生々しい問題をテーマに物語は展開される。
地方新聞記者の城鷹志(じょう たかし)は事故で母親を亡くす。彼は父の顔も知らず、天涯孤独の身となった。失意の中にある鷹志の元へ、突然ケネス・ヤマオカの独占取材の話が舞い込んでくる。ケネスは日系アメリカ人3世の男性で、今回行われる大統領選挙に出馬していた。彼は鷹志を指名し、彼のみに独占取材を許可していた。戸惑いながらも鷹志はアメリカへと出発する。
アメリカで鷹志はケネスと出会う。ケネスは圧倒的な行動力と意志の強さを持ち、様々な人々を魅了していった。その後ケネスと鷹志は2人きりになり、その場で「鷹志は自分の血の繋がった息子である」事を暴露する。つまり鷹志はケネスの隠し子であったのだ。大統領選挙において致命的なスキャンダルに成りかねない情報を話し、更に隠し子である自分をすぐ側に置いた事に、鷹志は猜疑心を抱く。また彼は、母の死が事故ではなく何者かに暗殺された事に気付き、疑心暗鬼となっていった。
一方でケネスは苛烈な選挙戦を勝ち抜いていく。その過程でアメリカという国が抱える様々な問題が描かれていった。鷹志の母親を殺したのは誰なのか、またその動機は何なのか。そしてケネスの大統領選挙の行方と、アメリカの抱える問題に彼は如何に対処していくのか。ケネスと鷹志という2人の主人公を軸に、物語は展開していく。
『イーグル』のあらすじ・ストーリー
アメリカへ発つ
新聞記者、城鷹志(じょう たかし)は城富子(じょう とみこ)を事故で亡くす。富子は鷹志の母親であり、シングルマザーとして彼を育てた人物である。彼女はガス漏れが原因で自宅で死亡した。
鷹志が葬儀を終えた直後、ケネス・マツオカの密着取材を会社から命じられる。ケネスは日系アメリカ人3世の男性であり、アメリカ大統領選挙に民主党候補として立候補している。ケネスは密着取材の記者として鷹志を指名していたのであった。赤の他人からの指名に、彼は戸惑いながらもアメリカへと旅立つ。
もう1人の主人公
渡米した鷹志は、そこでケネスと出会う。彼は大統領選挙の民主党予備選挙を控えており、多忙な日々を過ごしていた。それでもパワフルで明朗快活な彼の姿に、鷹志は魅力を感じていく。その後、ケネスは鷹志と2人きりとなり、そこで自分が実の父親である事を明かした。富子は数十年前、ベトナム戦争へ行く直前のケネスと恋仲になり、鷹志を孕っていたのである。スキャンダルになりかねない情報を自分に教えたケネスに対し、鷹志は猜疑心を抱いた。
民主党予備選挙
アメリカは2大政党制の国であり、民主党と共和党が存在する。大統領選挙において、まず両党は候補者を1人に絞る予備選挙を実施する。ケネスは民主党の候補者の1人として、指名代表となるべく予備選挙戦を戦った。民主党の候補者の中で最有力視されていたのがアルバート・ノアである。ノアは現職副大統領を務める男性であり、現職大統領ビル・クライトンのバックアップもあった。
ケネスはノアへの挑戦者という形で激戦を繰り広げていく。劣勢の中でも的確な判断力と大胆な行動力を発揮して票を獲得し、ノアに迫っていった。更にケネスはノアに「自分の副大統領になるように」と説得する。結果的に予備選挙でケネスが勝利し、ノアは彼の副大統領に内定した。
本選挙
民主党からの指名代表となったケネスは、本選挙へ臨む。そこで彼は共産党の代表であるリチャード・グラントと戦う事となる。リチャードはかつてアポロ計画で月に行った事のある軍人である。主に軍部、退役軍人団体、宇宙開発団体と太いパイプを持っていた。
ケネスは全米各地を回り、演説を繰り広げていく。だが、その中でアメリカに住む白人達の中に眠る人種差別意識が目覚め始めていった。彼等は米国初の日系アメリカ人大統領の誕生に、内心不満を抱いていた。ケネスはこの人種差別意識を解決すべく、密かに匿名で過激な白人優位思想団体へ献金する。これによりアメリカ各地でケネス排斥の暴動が発生した。暴動は過激になり、遂にケネスは白人優位思想に取り憑かれた男性に銃撃されてしまう。幸いにも彼はボディーアーマーを着用していた為、命に別状は無かった。これによりケネスは「命懸けで人種差別と戦う英雄」として躍進する。
有名になるケネスであったが、彼は海外に駐留するアメリカ軍の撤退とアメリカ軍を縮小し、国連軍を強化する旨の発言をする。これにより軍隊関係者や右翼思想団体の怒りを買い、ケネスは賛否両論の大バッシングに晒される。これを機にリチャードは彼に公開討論を持ち掛けた。だが指定したのは共和党に肩入れするテレビ局で、聴衆も殆どが共和党支持者である。ケネスは罠と知りつつもこれを受け、討論を繰り広げた。彼は逆境をものともせず、逆にリチャードを窮地へと追い込んでいく。そしてリチャードは増え続ける不法移民を「サル」と形容する失言をして失脚した。これによりケネスに票が集中し、彼はアメリカ大統領に内定する。
事件の真相と結末
ケネスの激闘の裏で、鷹志は自分の母が暗殺された事に気付く。彼は独自調査を行い、ケネスが犯人では無いかと目星を付けた。だが彼は潔白であり、本当の犯人はウィリアム・ハンプトンだと判明する。ウィリアムはケネスの妻の父親であり、ファースト・アメリカン・バンクの会長を務めている。ウィリアムは巨万の富を築き上げ、更に功名心を求めていた。そして「自分の手でアメリカ大統領を生み出す」という妄執に囚われてしまう。その結果、義理の息子であるケネスを大統領にすべく、スキャンダルの元となる富子の暗殺を仕向けていた。鷹志とケネスは彼を追い込もうとするが、彼は自家用ジェット機で逃亡する。そして自分の操縦で機を落下させ、自害した。
全てが終わり、ケネスは鷹志に自分が何故富子の元を去ったのかを話す。ケネスはベトナム戦争で戦争の愚かしさを悟った。そして死の淵で、この戦争の元を断ち切るべくアメリカ大統領になる事を誓う。だが富子は「人を癒す女」であり、「戦う女」では無かった。その為、彼は富子と離別し「戦う女」であるパトリシアと結婚したのである。そしてスキャンダルの元になりかねない鷹志を招き寄せたのは、今も愛している富子との子供である彼を守る為であった。
全てを打ち明けたケネスは鷹志と和解する。その後、ケネスはアメリカ大統領へ就任する。鷹志は日本へ帰り、ケネスの独占インタビューをまとめた本を製作する事となった。更に彼はケネスの任期満了後、自分と彼の関係を描いた本を出版する事を約束する。帰り際、鷹志はケネスが自分の信念を曲げた時は、後者の本を任期中に発表し、彼のスキャンダルとして政治家人生を止める事を宣言した。これにケネスは笑顔で応じ、自分の信念を貫く覚悟を改めてする。2人は固く握手を交わし、それぞれの道へと進んでいった。
『イーグル』の登場人物・キャラクター
主人公
城鷹志(じょう たかし)
本編の主人公の沖縄出身の青年。毎朝新聞記者として働き、毎朝新聞では地方版でベタ記事を書いていた。
母子家庭で育ち、母を事故で亡くして天涯孤独となる。その後突如ワシントンD.C.への人事異動を命じられ、大統領選挙でケネスの密着取材に抜擢された。渡米し、ケネスの元で生活する事になる。密着取材開始直後、ケネスから父親の名乗りを受け、大きな衝撃を受ける。更にケネスの養女で、自分とは血の繋がらない妹であるレイチェルと恋に落ち、結ばれた。また、血の繋がった異母弟のアレックスとも友情を深め、複雑な人間関係を築いていく。大統領選挙後に、ケネス候補の密着取材をまとめた本を書く事になっている。
ケネス・ヤマオカ
本編の主人公の逞しいワシントン州シアトル出身の男性。アメリカの次期大統領候補者で、日系三世の民主党上院議員である。
かつてベトナム戦争で戦死した兄・ジョセフの弔いの為、自らも海兵隊に志願入隊してベトナム戦争に従軍した。ベトナムへの移動途中の1972年3月、本土復帰を控えた沖縄で城富子と出会い、恋に落ちるも戦争へ赴く為に離別する。その後ベトナム戦争では重傷を負い、生死を彷徨う。その最中にアメリカの抱える問題点を悟り、自らが大統領となって解決する事を決意した。その後、一命を取り留めて帰国する。その後はイェール大学を首席で卒業した。卒業直後のヨーロッパ旅行では、共産圏の人々が何を考えるのか知るべく、リスクを承知でプラハの春が潰されたチェコスロバキアなどを見学した。そして大富豪ハンプトン家の令嬢のパトリシアと結婚し、家庭を持つ。その後パトリシアと共にニューヨークに法律事務所を構え、全米で屈指の実力派弁護士として名声を上げる。更にその実績を背景に1990年に政界進出を果たした。
大統領選挙では、銃規制、人種差別撤廃、本土防衛以外の交戦禁止及びそれに伴う全ての海外駐留米軍の撤退、国連軍の増強などを主張する。
富子との息子である城を気に掛けており、彼を指名して自分を密着取材させる。スキャンダルに成りかねない、隠し子の城に自分が父親である事を明かし、自分の生殺与奪権を彼に委ねた。
ケネス陣営
アーサー・マッコイ
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目次 - Contents
- 『イーグル』の概要
- 『イーグル』のあらすじ・ストーリー
- アメリカへ発つ
- もう1人の主人公
- 民主党予備選挙
- 本選挙
- 事件の真相と結末
- 『イーグル』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- 城鷹志(じょう たかし)
- ケネス・ヤマオカ
- ケネス陣営
- アーサー・マッコイ
- ジョージ・タクト
- ジョン
- サラ
- ロベルト・デュラン
- ケネスの家族
- パトリシア・ハンプトン・ヤマオカ
- レイチェル・ヤマオカ
- アレックス・ヤマオカ
- ジョセフ・ヤマオカ
- エリザベス・マクラウド
- チャールズ・ハンプトン
- ウィリアム・ハンプトン
- ジュリー・ハンプトン
- ウィリアム・ハンプトン一世
- ジョージ・ヤマオカ
- キャサリン・ヤマオカ
- 山岡重吉(やまおか しげきち)
- ノア陣営
- アルバート・ノア
- アンドリュー・ウォルシュ
- ディヴィッド・ローゼンバーグ
- 政治家関連
- リチャード・グラント
- ビル・クライトン
- エラリー・クライトン
- ビル・ゴールドブラム
- ウーズマン
- ギルバート・ブラックバーン
- ビリー・グラハム
- アルバート・ノア・シニア
- その他
- ドン・テイラー
- サム
- ウィリス
- マイケル・コズリョフ
- アフメド・ザマル
- マリア・ステファーノ
- ウォルター・クロンダイク
- ゲイリー・ケリガン
- クルーニー
- サイモン・ジョーンズ
- ダニエル・ニコルズ
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- 野々村(ののむら)
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- 政治関係
- 大統領選挙
- 情報スーパーハイウェイ構想
- 21世紀への移民
- 銃規制
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- ファーストレディー
- ベトナム戦争
- 組織名
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- フットボールサークル
- ハーバード大学
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