イーグル(かわぐちかいじ)のネタバレ解説・考察まとめ

『イーグル』とは、かわぐちかいじの政治漫画である。1998年から2001年まで『ビッグコミック』で連載された。新聞記者城鷹志は、唯一の肉親である母を事故で亡くす。悲しみの中、突如アメリカ大統領選挙候補者の1人ケネスから密着取材を指名された。アメリカに渡った城は、ケネスから自分の子供である事を告げられる。動揺しながらも、彼はアメリカ大統領選挙を戦うケネスの取材を行う。その取材の過程で母親が何者かに暗殺された事に気付く。事件の真相に迫りながら、アメリカの抱える政治的問題が描かれていく。

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ケネス・ヤマオカ「戦いの只中へと巻き込んでしまったのは誰でもない、この私なのだ!」

チャールズの死を見届けたケネスは、鷹志へ己の胸の内を明かす。彼はベトナム戦争で、アメリカの戦争で経済を回す体質と戦争の無意味さを悟った。そしてケネスは、そんなアメリカを変えるべく大統領を目指す。だがそれは最愛の女性である富子との決別を意味していた。彼女は自分を癒してくれた女性であるものの、苛烈な大統領選挙を共に戦える女性ではなかったのだ。故にケネスは富子と離別し、パトリシアと結婚したのである。だが結局、富子は大統領選挙の背後の戦いに巻き込まれて命を落としてしまった。ケネスは鷹志へ「戦いの只中へと巻き込んでしまったのは誰でもない、この私なのだ!」と叫ぶ。鉄面皮を保ち、果敢に戦ってきたケネスの声は震え、感情的であった。それは息子である鷹志に見せた、己の本心でもあった。ケネスは富子を愛し、鷹志を愛していたのである。

『イーグル』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

実際のアメリカ大統領はお祭り騒ぎ

本作で描かれたアメリカ大統領選挙は、現実でも約1年の歳月を掛けて行われる。

まず各党の候補者達が出馬表明を行い、党内での候補者選びが行われる。そこで党全国大会が開かれ、党内で選挙を行い、党員を代表する代議員によって間接投票が実施される。ここで党ごとに選挙へ立候補する候補者が絞られるのだ。

次に党内で州ごとに推薦する候補者が選定される。決め方は各州で開催される予備選挙及び党員集会の2種類である。予備選挙は党員達の投票によって、党員集会では党員同士の議論によって候補者が選定される。こうして各州の代議員が擁立されるのだ。この様にまずは党内での選挙活動で勝たなくてはならない。この過程で資金力が不足したり、実力不足の立候補者は振るいに掛けられて落とされる仕組みである。更に党全国大会が実施され、今度は各州で擁立した同じ党内の代議員同士で、決戦投票が行われる。これにより党内で候補者を1人に絞り、選ばれた者が初めて党の指名候補者となるのだ。

各党が指名候補者を擁立し、ようやく党の代表者同士による一騎打ちが始まる。各党は総力を上げて代表者を支援し、莫大な費用を掛けて広告や宣伝や演説イベント等をアメリカ各地で実施。その様は最早お祭り状態であり、花火を打ち上げたりとアメリカ国民は熱狂状態となる。党の代表者は各州を飛び回り、時には党の代表者同士で討論会を行う事もある。こうした選挙活動を経て、有権者による間接投票が実施される。有権者はまず各州で自分達の代表者となる選挙人を選出する。この選挙人が、各州で各党の代表者へ投票を行う。選挙人は、各州の人口に応じて人数が決められ、人口の多い州程選挙人の数が多くなる。そしてその州での勝者は、選挙人の票を全て獲得出来る。例えば50人の選挙人が居た州で40票を獲得して勝利した党の代表者は、対立者達の10票を総取りし、50票獲得した事となる。州毎に選挙人の数が異なる為、劣勢だった党の代表者が、人口の多い州で勝利して一発逆転する事もあるのだ。こうして過半数以上の選挙人の票を獲得した者が、晴れてアメリカ大統領となるのである。

この様にアメリカ大統領になる為には、党内勝ち抜き、更にアメリカ全土で過酷な選挙戦を繰り広げなければならない。その戦いの中でより強い候補者が選定され、更に勝ち残った候補者はより過酷な選挙戦で鍛えられる事となる。こうした構造が、強力なリーダーを選び出す仕組みとなり、強力なアメリカ大統領を生み出しているのだ。

戦争と平和の願いが込められたアメリカの国章イーグル

アメリカの国章

アメリカの国章はイーグル(ハクトウワシ)であり、本作のタイトルにもなっている。このハクトウワシはアメリカの国鳥であり、力強さの象徴とされている。

このイーグルの羽は33枚、右足に13の実を付けたオリーブ、左足に13本の矢を持ち、その頭は左のオリーブの方向を向いている。右足のオリーブは平和を表し、左足の矢は自由を守る為の戦争を意味する。そして頭がオリーブの方向を向いているのには、平和への願いが込められている。

アメリカに影を落としたベトナム戦争

本作の主人公の1人であるケネスは、ベトナム戦争で経験した地獄の様な経験から政治家を志している。ベトナム戦争は実在するせんそうであり、作中で描かれている様に、アメリカ人にとって因縁深い出来事である。

ベトナム戦争は1955年から勃発した戦争である。東西冷戦の流れにより、アメリカは傀儡政権をベトナムに樹立しようとしていた。だがそれに反し、共産主義政権が台頭してくる。これに危機感を覚えたアメリカは軍隊を派遣し、死闘を繰り広げた。それまで無敗を誇ってきたアメリカ軍であるが、慣れないジャングルでの戦闘やベトコンによるゲリラ戦法に苦戦。多くの死傷者を出した。更に当時は情報統制の概念が緩かった為、アメリカ軍は報道機関の同行を許可する。そして報道陣は、ゲリラ兵を炙り出す為にアメリカ軍が民間人へ行った残虐行為を報道してしまう。これによりアメリカ一般市民達の間で反戦感情が高まり、世論に押された時の政権はベトナムからの撤退を決断。事実上のアメリカ軍の敗北となった。またベトナム戦争を戦った若者達は帰国後、「残虐行為を行った奴ら」というレッテルを貼られて迫害を受けてしまう。国の為に命懸けで戦い、帰国したら悪者扱いされ、職にも就けない。こんな状況下で、当時の若者はアメリカという国家に強い不信感を抱いていった。

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