狼の口 〜ヴォルフスムント〜(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『狼の口 〜ヴォルフスムント〜』とは、2009年2月~2016年10月まで漫画誌『ハルタ』『Fellows!!』に連載された、久慈光久によるマンガ作品である。
14世紀の西欧地域・アルプス山脈を舞台とし、後にスイス国となる地域がハプスブルグ家の圧政に立ち向かい独立するまでの話を、「狼の口」と呼ばれる関所を中心として描く物語である。
『狼の口 〜ヴォルフスムント〜』の概要
『狼の口 〜ヴォルフスムント〜』とは、2009年2月~2016年10月まで漫画誌『ハルタ』『Fellows!!』に連載された、久慈光久によるマンガ作品である。
ウーリ、シュヴァイツ、ウンターヴァルデンによる森林同盟三邦は、オーストリア公ハプスブルク家によって占領されていた。ハプスブルク家による圧政に苦しむ三邦は必死に抵抗を続けていた。しかし14世紀初頭になると『狼の口(ヴォルフスムント)』という堅牢な関所が作られ、三邦は閉じ込められてしまう。三邦は虐殺を受けながらも、ハプスブルク家を打倒しようとする。
『狼の口 〜ヴォルフスムント〜』のあらすじ・ストーリー
14世紀初頭。ドイツ・オーストリア地域の有力貴族・ハプスブルグ家は、欧州の交易地点の要衝となるアルプス山脈近辺を強大な力で制服し、圧政を敷いて巨額の利益を奪い取っていた。その圧政に対し独立を勝ちとろうとする地場の勢力『盟約者団』の活動を封じるため、ハプスブルグ家はザンクト・ゴットハルト峠に『狼の口(ヴォルフスムント)』と呼ばれる関所を設ける。そして冷静沈着にして残虐、悪魔的な知恵を持つ代官・ヴォルフラムを派遣し、関所を抜けて連絡を取り合おうとする盟約者団の闘士を次々と摘発しては拷問を加え処刑していた。その苛烈な取り調べは闘士とは関係のない一般民衆にまで及び、人々を苦しめていた。しかし、闘士たちも黙って見ていたわけではなかった。彼らは英雄『ヴィルヘルム・テル』(別名:ウィリアム・テル)の息子であるヴァルターを旗印として掲げ、人々を苦しめる『狼の口』を陥落させようと、密かに行動を開始する。
『狼の口 〜ヴォルフスムント〜』の登場人物・キャラクター
ヴァルター
フルネームはヴァルター・テル。アルプス独立の闘士で、弓の名人として世界中にその名を知られた英雄『ヴィルヘルム・テル(ウィリアム・テル)』の息子。幼いころより父から弓、クロスボウ、格闘術、そしてアルプスの山々を渡り歩くクライミング技術を仕込まれており、その腕は盟約者団の闘士たちから一目置かれるほどである。当初は父の偉大な名前を利用されていた面が強かったが、後に名実ともにスイス独立の旗頭となり、強大な権力を持つハプスブルグ家、その圧政の象徴となる『狼の口』に挑んでいくこととなる。自らも家族や仲間を『狼の口』の代官・ヴォルフラムに惨殺されており、その復讐に燃えている。重い使命を負った青年であるが、素は美しい女性にドキドキしてしまうような普通の若者である。
ヴォルフラム
ハプスブルグ家が設置した関所『狼の口』の代官。常に微笑を絶やさない、一見すると慈愛に溢れた人物に見えるが、実際は関所を通ろうとする人々を圧し、捕らえ、尋問し、拷問して惨殺することを愉しむ残虐な男である。しかし、ただの残虐な狂人ではなく、その施政は冷静で沈着、そして苛烈であり、巧妙に偽装して連絡を取り合おうとする『盟約者団』の闘士達の正体をいとも簡単に暴いてしまう、まさに悪魔のような男である。ヴォルターの家族や仲間も彼に惨殺され、個人的にも憎悪の対象となっている。細身の官僚にしか見えない外見であるが格闘術や体術も優れており、ヴォルターとの一対一の勝負では戦士として育てられた彼を圧倒するほどの短剣の腕を見せた。
『狼の口 〜ヴォルフスムント〜』の用語
ハプスブルグ家
史実の欧州史でも重要な役割を持つ貴族。11世紀に興り、ドイツ・オーストリア・スペインなど西欧諸国に勢力を伸ばし、その隆盛は18世紀までも続いた。
盟約者団
ウーリ(現在のスイス・ウーリ州)、シュヴァイツ(同シュヴァイツ州)、ウンターヴァルデン(同オブヴァルデン準州とニトヴァルデン準州の一部)の民衆が、アルプスの既得権益と自由をハプスブルグ家から守るために結成した同盟。強大なハプスブルグ家と比較して構成人数も少なく、装備も貧弱ではあるが、アルプスを知り尽くした彼らによる地の利を活かした抵抗は、ハプスブルグ家も無視できないほどの勢力になっている。
当作品の魅力・代官ヴォルフラムについて
当作は盟約者団によるスイス独立運動をテーマとして描かれており、『狼の口』攻略はその糸口となるものにすぎないはずであったが、実際は『狼の口』攻略後の長期に渡る独立闘争が描かれる前に、当作の連載は終了している。当作の連載誌である『ハルタ』は季刊誌であり、すべてを描くとなると連載があまりにも長期に渡ってしまうというのも理由の1つと察せられるが、それ以上の理由として、当作品の実質的な「ラスボス」である代官ヴォルフラムがあまりにも魅力的な「ラスボス」であった、ということが挙げられる。彼が残虐な振る舞いで人々を処刑し、そして討たれるまでの経緯は1巻~6巻までと綿密に描かれているが、彼が倒れたあとは7巻・8巻の2巻でダイジェスト的に終了しているというのも、その証拠と言えるであろう。
ヴォルフラムによる非道な行為
・老若男女問わず拷問して殺す。
・(素性を知っていながら)反乱分子の貴族の娘とその忠実な騎士に疑いを持つ演技をし、素性がバレないよう、娘を殴ってまで必死に演技をする騎士たちを見て悦び、素性を知っていたと明かした上で殺す。
・関所破りを企てた父親を首吊りにし、その息子の足を火箸で焼いた上で父親を支えさせる。少しでも子供が重心を崩せば、父親は死ぬ。
・(実情を知っていながら)盟約者団同士の連絡の伝言を頼まれた旅芸人の母娘を尋問し、裸にして辱めた上に「女は隠す場所がある」と言い、衆人の目前で母の陰部に金属の棒を挿入し、そしてまだ幼い処女である娘の陰部にまで金属の棒を挿入した挙げ句、実情を知っていたと明かす。
・独立の英雄ヴィルヘルム・テルの妻(ヴォルターの母)に、ヴィルヘルムの居場所を吐かせるため生爪をすべて剥がし、それでも口を割らないと見ると幼い息子(ヴォルターの弟)に熱湯をかけ、かばおうとして口を割った母共々関所へ連行する。
・ヴォルターの母と弟を処刑すると触れ回り、ヴォルターがそれを見に来ているのをわかった上で彼の母と弟を野生の狼の群れに突き落とし、彼の目の前で生きたまま食わせる。(いま捕らえられるわけにはいかない)ヴォルターは仲間に抑えられ、必死で耐える。
特に女性への拷問については、他の漫画にはないほど残酷なものになっている。
ヴォルフラムの最期
上記のように残酷な行為を繰り返し、作中の人々だけでなく読んでいる私達にも彼が許すべきではない人物、倒すべき者ということが繰り返し描かれる。そして圧政を敷かれていた者たちの反逆により『狼の口』は陥落、代官・ヴォルフラムは捕らえられ、彼を何百回殺しても飽き足らないほどの怒りを得た人々に復讐される。ヴォルフラムは6巻において、この作品で最も苛烈で苦痛にあふれる方法で処刑されることとなる。