自転しながら公転する(小説・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ
『自転しながら公転する』とは、山本文緒によって発表された長編小説および小説を原作として制作されたテレビドラマである。原作小説は2016年1月号から2019年5月号にかけて『小説新潮』に掲載され、2020年に新潮社より単行本が刊行された。ドラマ版は松本穂香を主演とし、読売テレビ・日本テレビ系のスペシャルドラマとして2023年12月に3週連続で放送された。
仕事、結婚、親の介護に悩むアラサー女性が、自身の幸せを追い求める姿を描く物語で、近づいてはまた離れる恋人との関係性が見どころである。
更年期障害
桃枝が患っている病気。閉経を迎えホルモンバランスが乱れた50歳前後の女性が様々な不調を覚えることをいう。症状には個人差があるとされており、頭痛、めまい、発汗といった症状のほか、不安感やうつ症状が現れるケースもある。桃枝の更年期症状はかなりの重度であり、自殺未遂を起こすほどだったので、修と都は仕事や働き方を見直さざるを得なかった。
貫一・お宮
尾崎紅葉による小説『金色夜叉』に登場する男女の名前。寛一は、自分と都の名前を合わせると「貫一・お宮」になるといって喜び、都のことを「おみや」と呼ぶようになった。
『自転しながら公転する』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
羽島寛一「自転しながら公転してるんだな」
出会ったばかりの頃、母親の更年期障害が理由で地元に戻ってきたと打ち明けた都に対して、寛一が返した言葉。「家の家事と母親の介護、さらには仕事も頑張るのは自分には無理、と考えると頭がぐるぐるする」と言う都に、寛一は「自転しながら公転してるんだな」と前置きしてから、宇宙の蘊蓄を語り出す。地球は秒速465メートルで自転しながら、秒速30キロで太陽の周りを公転している。しかもただ円を描いて回っているわけではなく、スパイラル状に宇宙を移動しているので、自分たちはぴったり同じ軌道には二度と戻れないというのだ。それを聞いた都は「そんな蘊蓄どこで仕入れてくるの?」と寛一を茶化し、2人は笑い合う。しかしこの言葉は、同じ毎日を繰り返しているうちに周りがどんどん変化していくことに焦りを覚える都の現状そのものであり、ぐるぐる迷いながらも幸せな生き方を追求するこの物語のテーマを表す言葉としてタイトルにも使用されている。
小島そよか「自分の幸せは自分なりにカスタマイズすることにしたんだ」
別れて半年経っても寛一のことを引きずっている都に対して、自身の恋愛について打ち明けたそよかが言った言葉。そよかから「寛一に対する未練がまだ捨てきれていない」と指摘された都は、「大人の彼と大人の関係を続けているそよかには、私の気持ちなんて分からない」と言い返す。そんな都に対してそよかは、自分の彼氏はバツイチであり、前妻との子どものために多額の養育費を払っているため将来的にも結婚は望めないことを打ち明ける。そよかは、「食事や本や映画の趣味がしっくりきて、こんなに一緒にいて楽しい人にはもう出会えない」「一般的な家庭を築くことはできなくても自分は幸せだ」と都に語る。「勉強したいことを勉強したり、旅行したり、興味のあることに打ち込んだり、そういう人生にする」「自分の幸せは自分なりにカスタマイズすることにしたんだ」というそよかの言葉は、「誰かに幸せにしてもらいたい」という意識を持っていた都に「自分で自分自身を幸せにする」という新たな視点を与えるきっかけとなった。
与野都「割れ鍋に会いに来た」
悩んだ末に寛一への想いを再認識した都が、半年ぶりに再会した寛一にかけた言葉。寛一の勤務先の寿司屋に訪れた都は、閉店間際で人がいなくなった時間帯に、「割れ鍋に会いに来た」と寛一に声をかける。「お互いの足りないところをお互い補い合って生きていく。それを割れ鍋に綴じ蓋って言うんだよね」と都が珍しく蘊蓄を語り、「割れ鍋に会いに来た綴じ蓋」と自身を指さす。寛一は目を赤くして「蘊蓄うぜぇ」と言い返し、都は自身も涙ぐみながら寛一の手に自身の手を重ねるのだった。
ドラマはこのシーンで終わっているが、お互い欠点があることは分かった上で2人が再び付き合い、今後の人生を共にしていくことが示唆されている。
この都のセリフは、原作にはないドラマ版オリジナルのものである。
『自転しながら公転する』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
小説との違いは2人の職場や寛一の退職理由
山本文緒による原作小説は600ページを超える長編であり、全3回のスペシャルドラマの制作にあたり、物語の細部に変更が加えられている。
第一に、原作での都はアウトレットモールのアパレル店で勤務する契約社員という設定だが、ドラマ版では福祉用具レンタル会社で働く契約社員に変更されている。ドラマ版で描かれる同僚とのトラブルや、生活のために趣味に合わない洋服を販売する都の葛藤、上司からのセクハラ事件などのエピソードは全てカットされている。寛一も、原作小説ではアウトレット内の寿司屋で働いている設定だが、上記の変更に伴って勤務先が普通の回転寿司屋に変更されている。
また、寛一が前職を辞めた理由として原作では被災地のボランティアが挙げられているが、ドラマ版では「電車のホームに落ちた優の父親を遠方の自宅に送り届け、そのせいで欠勤が続いたから」に変更されている。
ドラマ化を待たずに早逝した原作者・山本文緒
原作者の山本文緒は、2021年春頃にステージ4bの膵臓癌と診断され、自宅にて闘病を続けていたが同年の10月に死去している。2021年に発表された『自転しながら公転する』は山本文緒にとって最後の長編作品であり、2023年の同作品のドラマ化も作者本人が見届けることはなかった。担当編集者を務めた桜井京子は、「山本文緒さんは執筆中から登場人物のビジュアルイメージを持っており、ドラマ化した際のキャストについても想像を膨らませていた。今回のドラマ化を天国で喜んでいると思う」と語っている。
議論が起こった原作のプロローグとエピローグ
小説『自転しながら公転する』のプロローグとエピローグは、単行本刊行にあたり加筆された部分であり、読者のミスリードを誘う工夫が施されている。
プロローグではホーチミンでの結婚式の様子が描かれており、その後に続く本編の終盤では都と寛一の別れ、都とベトナム人留学生・ニャンの再会が描写されている。読者は「プロローグで描かれていたのは都とニャンの結婚式か」と考えるが、エピローグで実は結婚式が行われているのは2042年(約20年後)であり、挙式を上げるのは都と寛一の娘とニャンの親戚の青年であることが明かされる。
このプロローグとエピローグに対して、ネット上では「まんまと引っかかった」「巧みな書き手だと感じた」という称賛の声がある一方で、「プロローグとエピローグは蛇足ではないか」「この加筆のせいで全く別の話になってしまった」「ない方がより余韻に浸れた」という意見も上がっていた。
なお、ドラマ版においてこのプロローグとエピローグはカットされている。
『自転しながら公転する』の主題歌・挿入歌
主題歌:上白石萌音『Loop』
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目次 - Contents
- 『自転しながら公転する』の概要
- 『自転しながら公転する』のあらすじ・ストーリー
- 都と寛一の出会い
- 父の病の発覚
- 誕生日の喧嘩とニャンからの告白
- 寛一との別れと半年後の都の決断
- 『自転しながら公転する』の登場人物・キャラクター
- 主要な登場人物
- 与野都(よの みやこ/演:松本 穂香)
- 羽島貫一(はしま かんいち/演:藤原 季節)
- ニャン(にゃん/演:長谷川 慎)
- 都の友人たち
- 小島そよか(こじま そよか/演:小林 涼子)
- 柏崎絵里(かしわざき えり/演:野村 麻純)
- 都の家族
- 与野修(よの おさむ/演:神保 悟志)
- 与野桃枝(よの ももえ/演:鶴田 真由)
- その他の人々
- 檜山優(ひやま まさる/演:田中偉登)
- 小説のみの登場人物
- 亀沢(かめさわ)
- 東馬(とうま)
- 『自転しながら公転する』の用語
- 牛久大仏
- 更年期障害
- 貫一・お宮
- 『自転しながら公転する』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 羽島寛一「自転しながら公転してるんだな」
- 小島そよか「自分の幸せは自分なりにカスタマイズすることにしたんだ」
- 与野都「割れ鍋に会いに来た」
- 『自転しながら公転する』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 小説との違いは2人の職場や寛一の退職理由
- ドラマ化を待たずに早逝した原作者・山本文緒
- 議論が起こった原作のプロローグとエピローグ
- 『自転しながら公転する』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:上白石萌音『Loop』