ナイルパーチの女子会(小説・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『ナイルパーチの女子会』とは、柚木麻子が2015年文藝春秋より発表した小説を原作として制作されたテレビドラマである。
ドラマ版は水川あさみを主演とし、BSテレビ東京「土曜ドラマ9」枠で2021年1〜3月に全8話が放送された。正反対の女性2人が「女友達がいない」という共通点から親しくなるも、友人同士の適切な距離感を見失ったことで、思いもかけない関係性に発展していく過程を描く。生態系を食い尽くす凶暴な魚・ナイルパーチと重ね合わせて描かれる、人間関係を崩壊させる女性の心の闇が魅力のドラマである。

志村不二子(しむら ふじこ/演:宮地雅子)

栄利子の母。夫に先立たれてからは、一人娘の栄利子を女手ひとつで育ててきた。夫と同じ会社に就職した栄利子を夫と同一視している節があり、栄利子に対して様々なプレッシャーをかけ、過度な干渉で束縛する。

花井里美(はない さとみ/演:信川清順)

出版社で働く編集者。翔子にSNS日記の書籍化の話を持ちかけた。SNS日記が栄利子に乗っ取られた際は、ただ一人文体や内容の変化に気づき、最終的に書籍化の話は白紙になった。

主婦インフルエンサーNORI(しゅふいんふるえんさーのり/演:安藤聖)

主婦業と育児の傍ら、インフルエンサーとしてモデル業や商品開発に携わるカリスマ主婦。翔子は当初NORIのことを「別世界の人」と感じていたが、主婦インフルエンサーたちの交流会で出会ったことをきっかけに交流が生まれる。翔子に「女友達との写真をアップするといい」などとアドバイスし、「一緒に頑張りましょう」と声をかけた。しかし、実は翔子のことを自分と対等の主婦インフルエンサーとはみなしておらず、陰で見下した発言をしたり窮地に陥った翔子からの連絡を無視したりした。

『ナイルパーチの女子会』の用語

ナイルパーチ

中丸商事において栄利子が輸入を担当している食用魚。淡白な味わいのため様々な料理に使われており、栄利子も翔子に「日本で食べられているえんがわのほとんどは実はナイルパーチなのだ」と話している。
東アフリカ・タンザニアのビクトリア湖に生息しているが、もとは外来種である。その凶暴性ゆえにビクトリア湖の固有種を食べ尽くし、生態系を破壊した。映画「ダーウィンの悪夢」では、ナイルパーチによって破壊された生態系や、ナイルパーチ輸出業によって周辺地域が受けた影響などが描写されている。
本作では、生態系を破壊するナイルパーチの凶暴性が、人間関係を破壊する栄利子の友情の凶暴性と重ね合わせて描かれている。

おひょう

翔子がSNS日記で使用しているハンドルネーム。翔子は「飄々としているから」付けられたニックネームだと語っているが、栄利子はナイルパーチと共によく市場に出回っている食用魚・おひょうを連想していた。
食用魚のおひょうは淡白な味わいが特徴の白身魚であり、刺身、ムニエル、フライなどに調理して食されることが多い。
また回転寿司のえんがわは実はほとんどがこのおひょうであり、栄利子からそれを知らされた翔子は「そんなことを言われたら食べたくなくなる」と気分を害していた。

ダーウィンの悪夢

原作小説において栄利子が名前を挙げているドキュメンタリー映画で、ナイルパーチを題材にしている。フーベルト・ザウパー監督によって2004年に公開された。東アフリカ・タンザニアのビクトリア湖を舞台に、外来種のナイルパーチの繁殖によって在来種が絶滅しかけていることや、先進国に食用魚を輸出することによって生じる地元社会の貧困、ストリートチルドレン、売春などの社会問題が「グローバル化の闇」として描き出された。

『ナイルパーチの女子会』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

丸尾翔子「こうなってはじめて、私はほしかったものをちゃんと手に入れてたって思ったんだよね」

夫と別居していることを栄利子に打ち明ける翔子

夫と別居していることを栄利子に打ち明けた際の翔子の言葉。いい加減でだらしないライフスタイルの発信で人気を得ていた翔子だが、本当は栄利子やNORIのようなきちんとした女性への憧れが強く、承認欲求からSNSにおしゃれな料理を投稿したり、気持ちを寄せてくれる橋本とデートをしたりしてしまった。そういった行動がありのままの自分を好いてくれる賢介を不快にさせ、自身に対する信頼も失ってしまった。翔子の「こうなってはじめて、私はほしかったものをちゃんと手に入れてたって思ったんだよね」という言葉には、失うまで夫の存在の大切さに気づけなかったという反省が込められている。翔子は続けて「もう他人からの評価に左右されるのをやめる」と発言しており、夫が与えてくれていた幸せに気づいたことで、他人からの評価を第一とする価値観から脱却して成長したことが伺える。

志村栄利子「いつかずっと年をとって、どこかで会えたら、その時は声をかけてもいい?」

「バスを予約しているから」と立ち去ろうとする翔子(画像左)を呼び止める栄利子(画像右)

夫と別居し、別の街で働くことになった翔子に対して、栄利子が別れ際にかけた言葉。栄利子がこの言葉をかけた背景には、圭子から言われた言葉がある。
翔子と会う数日前、会社を辞めることにした栄利子は深夜のファミレスを訪れた。誰も他の客のいない店内では、長い間ずっとふらふらしていたはずの圭子が働いていた。そこで2人は、自分たちの母校で起きた自転車事故の話をする。仲の良かった女生徒が自転車の2人乗り中にトラックとぶつかり事故死したのだ。「おしゃべりに夢中で、ぶつかる瞬間まで2人ともトラックに気づかなかった」と聞いた栄利子は、「一番幸せな瞬間を真空パックみたいに閉じ込められたのだから幸せだったのではないか」と考える。しかし圭子の考えは違っていた。圭子は栄利子に、「その後友情が壊れたり疎遠になったりしたとしても、時が経ってから偶然会った時に笑って話せたらそれでいいのではないか」と問いかけたのだった。
「いつかずっと年をとって、どこかで会えたら、その時は声をかけてもいい?」という栄利子の言葉は、女友達に異常なほどの執着を見せていた栄利子が、圭子との対話を通じて「一生続く完璧な友情は存在しない」と受け入れたことを示している。また、この言葉に対し翔子は「いいよ」と答えており、一時はお互いに憎しみを感じていた2人の関係性が、「今後なつかしく思い返せるかつての友人」に落ち着いたことが分かる。

志村栄利子「きっと1人でも、世界には生きていく場所はあるのだから」

翔子の連絡先を削除した後、窓を開けて風にあたる栄利子

ラストシーンで、翔子の連絡先を消去した栄利子が心のうちでつぶやいた言葉。仕事を失い会社を辞め、執着していた女友達も去ったことで、栄利子の手元には何も残らなかったようにも見える。しかし、窓を開けて外の風を感じている栄利子の顔は清々しい。「きっと1人でも、世界には生きていく場所はあるのだから」という栄利子の言葉は、女友達がいないことにコンプレックスを抱え他人からの評価を気にして生きてきた栄利子が、これまで持っていた価値観から脱却したことを示している。他者に自身の価値観を押し付け、他者に依存してきた栄利子が、自分1人でも幸せを感じられる世界へ足を踏み出していくことが感じられる言葉である。

『ナイルパーチの女子会』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

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