BLUE GIANT(ブルージャイアント)のネタバレ解説・考察まとめ

『BLUE GIANT』とは、2013年から『ビッグコミックスピリッツ』において連載されている、石塚真一による漫画である。ジャズを題材とする本作品では、世界一のサックスプレーヤーを目指す高校生・宮本大が、仙台、東京、ドイツと拠点を移しながら一歩ずつその階段を上っていく様が描かれている。舞台を海外に移した続編も連載されてシリーズ化しており、2023年には劇場版アニメも公開された。音楽ファンは勿論、幅広い層の読者からも多くの支持を集めている。

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『BLUE GIANT』(ブルージャイアント)の概要

『BLUE GIANT』とは、2013年から『ビッグコミックスピリッツ』において連載されている石塚真一による漫画である。ジャズを題材とする本作品は、世界一のサックスプレーヤーを目指す高校生・宮本大が、高校時代を過ごす仙台、卒業後の上京先である東京、バンド解散を期に自身の飛躍を求めて渡ったドイツと、拠点を移しながら一歩ずつその階段を上っていく様が描かれている。『ビッグコミックスピリッツ』の2016年からは舞台をドイツに移した『BLUE GIANT SUPREME』、2020年からはアメリカ編として『BLUE GIANT EXPLORER』、20203年からはニューヨークに降り立ってからの『BLUE GIANT MOMENTUM』と、別タイトルの続編が連載されている。なお、タイトルの「BLUE GIANT」は、ジャズプレーヤーとしての大の才能を赤色よりも高温で燃える青色の巨星になぞらえたことに由来する。
第20回 (2016年)文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 大賞、第62回(2016年)小学館漫画賞 一般部門受賞作品。

『BLUE GIANT』(ブルージャイアント)のあらすじ・ストーリー

仙台編

中学生の時、友人に連れられて聴いたジャズの生演奏に心打たれた宮本大は、それ以降バスケ部に所属する傍ら、独りテナーサックスの練習に明け暮れる日々を送っていた。そして高校三年生の夏、バスケ部最後の大会に負けたことをきっかけに大は世界一のサックスプレーヤーになるという夢に向けて動き出す。
我流で練習してきたため楽譜は読めずスタンダードナンバーも知らないが、どこか魅力的な音を奏でる大。そんな彼の音に惹かれた馴染みの楽器屋の店長のすすめで、大はいきなりライブに臨むことになる。飛び入りという形で参加することになったジャズバー「バード」での初ライブ。渾身の力を込めた大のパワフル過ぎる演奏は一部の聴衆に強烈な印象を残したものの、静かでムーディーな音楽を聴きに来た一人の常連客に「うるさいんだよ!」と一喝され、ステージを下ろされてしまう。失意のまま帰路につく大。そんな大の演奏に荒削りな才能を見い出した「バード」のマスター・川西は大にジャズの基礎を身に付けるようすすめる。そうした川西の取り計らいにより、大は元ジャズ奏者の由井のもとで基礎知識・技術を身に付けるための特訓に打ち込むことになる。
確かな上達を実感する大は、自身が通う高校の学園祭でピアノの音楽教師・黒木と組んでライブに参加する。ロックバンドばかりの中、ひときわ異彩を放つ大たちだったが、出だしのサックスのソロで一気に観客の心をつかみ大盛況の中で演奏を終える。ライブ成功の報告を受け、問題点を指摘しながらも大の確かな成長を感じていた由井は、再び「バード」でバンドと合わせて演奏することを命じる。そこには初ライブで大の演奏を酷評した常連客の姿があった。由井のもとでの特訓により周囲の音に合わせる余裕が出来た大はかつてのような独りよがりなプレイを脱却し、その常連客をうならせることに成功する。師匠である由井からも「まだまだだが…最高だ」との言葉をもらった大は、プロのサックスプレーヤーを目指し上京することを決意する。
そして高校卒業後、家族、友だち、そしてジャズを通じて知り合った者たちに別れを告げ、大は東京に旅立つのだった。

東京編

高校時代の友人である玉田俊二の家に居候しながら新居やバイト先を探していた大は、ジャズライブを聴きに入ったバーで演奏していた天才肌の大学生ピアニスト、沢辺雪祈と出会う。大が雪祈の演奏に感銘を受ける一方で、自身の実力に見合ったバンドメンバーを探していた雪祈も大の手に出来たサックスタコを目ざとく見つけ接近する。日を改めて聴いた大のサックスに感動し、互いの腕を認めあった二人はバンドを組むことにする。ピアノとサックスがそろったところでドラムを探し始める二人。そこに打ち込むことがなく悶々とした大学生活を送っていた玉田が名乗りを上げる。ジャズプレーヤーとして上り詰めようという野心を強く抱く雪祈は当初素人の玉田の加入を拒否するが、玉田の熱意と大の「音楽の敷居は低くあるべき」という信念にほだされる形で渋々ながら玉田の参加を許可することになり、三人は「JASS」としてバンド活動をスタートさせる。
早速ライブの枠を取ってきた大。無名な三人の初ステージの客は4人。玉田は初めての本番で何も出来ず意気消沈するが、持ち前の実力を発揮した雪祈や大の演奏によりバンドとしては上々の反応を得る。その後、回を重ねるたびに評価を上げ固定客をつかむまでに至った三人は、たまたま彼らのライブに居合わせたプロのミュージシャン、川喜田とのセッションをきっかけに一気に知名度を上げることになる。ライブにも人を集めることができるようになり次の段階を見据える雪祈は、昔からその舞台に立つことが夢であった日本屈指のジャズクラブ「So Blue」で演奏するべく売り込みをかける。川喜田のツテを辿り「So Blue」の支配人である平に自分たちのライブに足を運んでもらう約束を取り付ける。しかしライブ後に平と面会した雪祈は、自身のピアノを小手先の技術に頼った傲慢で鼻につくつまらないプレイであると酷評されてしまう。
ジャズプレーヤーとしての行く末が楽しみな若者を前に気持ちが昂ぶってしまい、つい感情的な物言いをしてしまったことに少し後悔する平。けれど雪祈は悩みながらも自身のピアノスタイルと格闘し試行錯誤を繰り返しながら、着実に前を向いて進もうとしていた。JASSに魅了されCD化企画を進めるレコード会社の五十嵐との出会いや、既に実績のあるプロのジャズユニット「アクト」とのジャズフェスでの競演を経てそれぞれが自分たちの音楽性を意識しながら着実に成長していくJASSのメンバーたち。そんな彼らのライブに足を運び陰ながら成長を確認していた平は、「So Blue」でライブ予定だったバンドのピアニストが欠員した折、サポートピアニストの補充として雪祈に声をかける。大と玉田が観客席で見守る中、存分に実力を発揮した雪祈は、演者のみならず一般のジャズファンの間でも話題に上るまで評価を高めることになる。
「So Blue」での熱演後、平はJASSに正式に出演依頼をする。10代での「So Blue」への出演という快挙にブレイク直前かと思われた公演前々日、路上でガードマンのアルバイトをしていた雪祈は突っ込んできた居眠り運転のトラックにはねられ右腕に重傷を負ってしまう。雪祈と面会さえ出来ない中、大は平に頼み込み雪祈抜きのサックスとドラムデュオでライブを行うことにする。雪祈不在ながら上々のステージを演じた二人はライブ後ようやく雪祈との面会を果たす。痛々しく包帯に包まれた雪祈は、切断までは免れたもののピアニストとして生命線の右腕は回復の目処も立たない状態であることを説明し、JASSの解散を提案する。大の才能をこんなところで立ち止まらせてはいけない、そうした思いからの発言に玉田も同意する。葛藤を抱えつつも大はその提案を受け入れ、JASSは解散する。
大は仙台に戻り、師匠である由井に東京での経験とJASSの解散を期に国外での挑戦を決めたことを報告する。由井と相談して目的地を決めた大は新たな挑戦を求めて旅立つのだった。

『BLUE GIANT SUPREME』(ブルージャイアント シュプリーム)のあらすじ・ストーリー

ドイツ編

ドイツのミュンヘンに到着した大は、早々にサックスの練習場所を探し始める。警察に止められたりと苦労しつつも、川沿いに練習場所を見つけた大。しかし次なるライブスポット探しでは本格的な困難に直面する。目に付いたジャズバーを片っ端から回る大だが、言語や人種の壁は高く、演奏も聴かずに門前払いされてしまう。ある日、偶然立ち寄った喫茶店で、大のサックスに興味を抱いた現地の大学生・クリス・ヴェーバーと知り合う。世界一のプレーヤーになるためドイツに来たという大の言葉に心動かされたクリスは、家賃もとらずに大を自宅に住まわせ、ライブスポット探しまで手伝ってくれることになる。
クリスの協力を得ながらライブをやりきった大は、バンドのメンバーを探し始める。様々なバンドを見回る中で目に留まったのは、パワフルな音を奏でる女性ベーシスト、ハンナ・ペータースだった。大は一緒に演奏をしたいと声をかけるが、演奏音源もない彼はあっさり断られてしまう。それでも諦めることができない大は、ハンナが自身のツアー終了後にハンブルグに帰ることを聞き出し、彼女を追ってハンブルグに拠点を移すことにする。
ハンブルグにやってきた大は、方々でハンナについて聞いて回るが、なかなか情報を手に入れることができない。聞き込みを続ける中、ついにハンブルグに戻ってきたハンナとジャズバーで再会することになる。セッションの真っ最中だった彼の演奏を聴いたハンナは、大が若いアジア人というだけで彼を見くびっていたこと、そして彼と一緒に演奏することに怖気づいてしまっている自分がいることに気付き、腹立たしさを覚える。
衝突を繰り返しながらも少しずつわかり合い、共に活動するメンバーを探すようになったハンナと大。新たにポーランド人ピアニストのブルーノ・カミンスキと、フランス人ドラマーのラファエル・ボヌーをメンバーに加えた彼らは、カルテットのバンドとして動き始めた。ベルリンで初ライブの舞台を踏んだ彼らだが、個々の実力は高いものの、ステージの出来は散々なものとなってしまった。このライブを見ていたボリスの甥のガブリエルは、彼らをヨーロッパじゅうを回るツアーに連れ出してしまうのであった。

ヨーロッパツアー編

ずっとバンド名がない状態で活躍してきた彼らだが、移動中、ベートーヴェンの交響曲「No.5」を耳にした大は、バンド名を「ナンバーファイブ」と名付ける。
SNSなどを駆使した宣伝効果もあり、ナンバーファイブは着実に観客たちの熱狂と知名度を掴むようになっていった。しかしオランダに入国してすぐに、仙台に残してきた大の妹から、父が倒れたという連絡が入ってくる。
大は一時的にツアーを離脱して日本へ帰国し、残りのメンバーたちは、彼抜きで既に決まっているライブの日程をこなすことになった。事情を聞いたイベンターのウッドは、若手ジャズマンとして最有力株とされているサックスプレイヤーのアーネスト・ハーグリーブスを紹介する。ロンドンからやってきたアーニーは立ち振る舞いもスマートで、技術の面で言えば大の数段上を行く才能の持ち主だった。度胸や野心も備わっている彼は、そのまま個々の演奏力が高く、自身のサックスとも相性がいいバンドである、ナンバーファイブに在籍することを考え始める。しかし、メンバーはアーニーの技術の高さや相性の良さについては認めつつも、頑なに首を縦に振ることはなかった。アーニーはそれを良しとせず、父の無事を確認してツアーに復帰した大へ勝負を持ちかけるものの、根本的なスタイルの違いからハッキリした勝負がつくことはなかった。アーニーは結局バンドを去ることになり、同年代のサックスプレイヤーというライバルを見つけた2人は、再び真っ向から勝負することを誓いあう。

フェス出場編

ツアーの途中、音楽フェスの出演オーディションを受けることを決めた大たち。彼らが門を叩いたのは、ジャズを愛する男性3人が発起人として立ち上げた、小さなイベントの第一回目ということだった。不慣れながらも「いつか大きなイベントにしたい」という熱意を持って運営に取り組む姿を見た大たちは、各自が持つ最高の力を注いでステージを成功させる。そして、彼らの演奏はイベントのメインアクトとして招かれていたジャズの大御所、サム・ジョーダンの目に留まり、彼の誘いでセッションを披露することになる。大御所と真っ向から勝負した大たちは、また一つ成長するのであった。
初のフェス出演を終えた大たちは、ウッドの提案で、音源をレコーディングするためにスペインを訪れた。滞在できるのは2日間のみとタイトなスケジュールだが、レコーディングに不慣れな大と、経験を積んできた他のメンバーとで意見が合わず、どうしてもベストを出すことができない。そこでエンジニアは、6曲全てをライブで録音することを提案。さらにそれを一度レコードにしてからCDを制作し、できる限り「生の音」を届けるという手法を取った。完成した音源は無事に店頭へ並び、ストリーミング再生でも上々の結果を残すことになる。
彼らの音源が各地の店頭に並び始めたころ、同様にバンドを結成していたアーニーの音源も店頭に並んでいた。同じ楽器を演奏していながら、全く違うプレイスタイルである彼らを比較する風潮に乗ろうと考えたレーベルは、彼らを同じ音楽フェスに出演させる決断を下す。彼らが出演することになったのはジャズではなく、動員10万人規模のロックフェスだった。アウェイの環境で、出演者との衝突や観客からの冷たい目に晒されながらも演奏しきったナンバーファイブは、ジャンルの違う観客にジャズの間口を開いたとして称賛の声を集める。フェスへの出演を終えた彼らはベルリンへ戻り、初ライブで惨敗した場所でリベンジを果たした。こうして大規模なツアーは終わりを迎え、大の圧倒的な成長に危機感を覚えたメンバーたちは、彼に食らいつくように努力を始めるのであった。
しばらくが経ち、大たちの元にはついに最大規模のジャズフェスティバル「ノースシーフェスティバル」のオファーが舞い込んだ。一番大きなメインステージを割り振られた彼らは浮かれるが、大は人気絶頂のこのタイミングで「バンドを解散しよう」と申し出るのであった。

ラストライブ編

ハンナやブルーノ、ラファエルは抵抗したが、大はもっと広い世界を見たい、と、解散の意思を譲ることはなかった。結局「ノースシーで最高の演奏ができたら解散、できなければ継続」という条件で着地することになったものの、彼らは今まで以上に衝突するようになり、ギクシャクした空気のまま本番を迎える。
当日、彼らは互いの考えることが手に取るようにわかる、と感じながら、今までの集大成以上のものを出し切る演奏をした。彼らは別れが訪れることをハッキリと理解し、涙しながら最高の最後を迎える。見届けていた数万の観客の目にも涙が浮かぶのであった。
フェスへの出演を終えた彼らが「最後の場所」として選んだのは、北欧のノルウェーだった。最後のライブを終え、ラファエルと2人で語り合う大は、「大が抜けてもナンバーファイブを続けていきたい」という彼らの意思を知り、背中を押す。そしてその直後、彼はブルーノとハンナが交際を始めていたことを聞かされ、衝撃を受けるのだった。

『BLUE GIANT EXPLORER』(ブルージャイアント エクスプローラー)のあらすじ・ストーリー

西海岸編

ヨーロッパの旅を終えた大は、一度日本に帰って国際免許を取得した後、アメリカへ発った。
目的地はジャズの本場であるニューヨークやマンハッタンではなく、西海岸のシアトル。大はアメリカ中を周り、全ての土地の音楽に触れようと決意していたのである。着いてすぐに、アメリカは広大で物価も高いということを知った大はカーショップを周り、そのうちの一軒の中古車工場でアルバイトをすることになった。元ギタリストだが、プロになる道を諦めた経験があるという同僚のエディの誘いで彼は地元のジャズクラブを訪れてセッションし、そこでシアトルのジャズに触れる。そのジャズクラブで20年以上ハウスピアニストを務めるダグという老人は、大のサックスを絶賛しつつも「大はもっと上に行くため、1か所に留まってはならない」という予感めいたものを感じていた。
アルバイト先のボスの計らいで古い日本車を手に入れた大は、シアトルを出発。道中でヒッチハイクをしていたジョーダンというスケーターに協力してもらいながら、大は少しずつライブの経験を重ねていく。
メキシコで出会ったピアニストのアントニオに痛烈なダメ出しを受けた大は、彼とセッションをしてその実力を知る。「人に合わせる天才」のピアニストで自身とは真逆のスタンスを持つアントニオを、大は自身のバンドに誘うのであった。
サンディエゴでジョーダンと別れた大は、ジャズクラブの皿洗いとサックスで日銭を稼いで車中生活を送っていた。そこにアントニオが合流し、2人は共に次の街を目指す。
ヒューストンのジャズクラブでセッションに飛び入りした2人は、ゾッドというドラマーと出会った。圧倒的な実力差で格の違いを見せつけられた彼らは、ゾッドをバンドに誘ったものの、にべもなく断られてしまう。
ゾッドを諦めきれなかった大は、彼が入り浸っているポーカーハウスへ向かい、全財産を賭けて勝負に出た。根負けしたゾッドは意を決し、2人についていくことにする。
人数が増えて手狭になった日本車をバンに乗り換え、彼らは新たな目的地である「ジャズの聖地」ニューオリンズへ向かう。3人はバンド名を「Dai Miyamoto Momentum」として、ゾッドの伝手でとった初ライブへ臨むのだった。そこで大成功を収めた彼らは、演奏を見に来ていたミスター・ペイトンの計らいで、しばらくニューオリンズに滞在し、彼の顔が利くジャズクラブでライブをして生活することになる。そこで3人それぞれに迷いが生じるが、彼らは地域の人々の心遣いに救われ、自分のスタイルを確立するようになっていった。
短い間に18回ものライブをこなし、地域の人々との交流を経て大きくなった彼らは、一路フロリダ州を目指す。
マイアミで演奏してみた彼らだが、ニューオリンズとは対照的に客のテンションと演奏の熱量が全くかみ合わず、冷遇されるかのような空気に大は戸惑っていた。そこでゾッドは、自身に伝手があるのでベーシストを入れてみよう、と提案する。
ゾッドが紹介したのは、ジョーという初老の男性だった。重度のアルコール中毒である彼の様子を見て不安になる大とアントニオだが、とりあえず合わせてみようとセッションをしてみると、それが杞憂であったことを悟る。柔軟にプレイスタイルを変え、引っ張ることも支えることもできるジョーは、どこかばらつきがあり、揃わずにいたバンドを1つにまとめあげてしまった。まさしく天才だったのである。
大とジョーは互いに「酒を飲みすぎない、酒の飲み過ぎでステージを飛ばさない」「酒を飲むなと言わない」という約束を交わし、共にツアーを回ることになった。
こうして、フロリダ州を巡った彼らは、ニューヨークへ行く前の前哨戦として、ボストンを目指すことに決める。

ボストン編

ボストンへ行くことが決まってからというもの、大が上の空な様子を見せることに気が付いていたアントニオは、彼に事情を聞き出した。
大は、ボストンに雪祈というピアノマンの親友が暮らしているが、彼が事故で右手の機能を失ったこと、彼にはずっと会っておらず、連絡もとっていないと話した。彼に名前が届くように演奏したい、ということをメンバーに伝える大にメンバーは呆れつつも、彼らしいその言葉を理解を示す。
しかし、同じピアニストであるアントニオだけは「大は本当は、自分ではなく雪祈とバンドを組みたいのではないか」と思い悩むようになってしまうのであった。
一方、ボストンの音大に通っている雪祈は、ピアノが弾けない、人嫌いの日本人と揶揄され、大学で孤立してしまっていた。左手一本でピアノや作曲を続けてきたものの、動かない右手に怒りを覚える雪祈。しかしある日、同級生のお節介な女子生徒から、「日本からかなりの腕前のサックスプレイヤーが来ているそうだ」という噂を聞く。
数日後、ジャズクラブにはライブを見に来た雪祈の姿があった。再会を果たした大と雪祈は酒を飲み交わし、昔話や近況、そして雪祈の右手についての話をする。雪祈が大学で作曲を続けていると知った大は、彼に自分のバンドの曲の作曲を依頼するのであった。
雪祈の曲の譜面を受け取ったバンドは、それをアレンジしてライブで演奏することを決めた。譜面を届けにきた彼を追いかけたアントニオは「右手が動いていたら、大とバンドを組みたいか」と雪祈に尋ねるが、彼がそれに答えることはなかった。

ライブ当日。客入りは上々で、観客の中には大学で雪祈を揶揄している同級生の姿もあった。雪祈は無視してライブを鑑賞するが、いざ彼の曲が演奏されるというその時、アントニオが「これは作曲者に譲る」と、ピアノの椅子を明け渡し、そこに雪祈を呼びつける。
気乗りしないながらもステージに上がり、左手一本で見事なソロを披露する雪祈。徐々に自分のプレイを引き出され、「左手一本では足りない」と判断した雪祈は、決死の覚悟で鍵盤に動かない右手を運ぶ。
「奇跡でも起きない限りは元通りにピアノを弾けない」と宣告され、苦しんできた雪祈。彼の右手はその「奇跡」を引き起こした。少し鍵盤に触れる程度が精一杯だった彼の右手は、とうとうメロディーを奏でたのだ。
雪祈をステージに引き上げてのセッションは、観客を涙させるほどの感動を巻き起こした。雪祈に執拗に絡んでいた同級生も事情を知り、そして雪祈の本気のプレイを目の当たりにして、汗だくでステージを後にする彼を泣きながら迎える。
それを見て「今後は雪祈が弾くべきだ」と判断し、興奮の坩堝となったジャズクラブを後にしようとするアントニオ。
しかし、大はステージ上からアントニオを呼び戻し、次にステージを放棄しようとしたら殺す、と言ってのけた。大には、雪祈とアントニオを差し替えるつもりはさらさらなかったのだ。
こうして、ひとつの奇跡を呼び起こした彼らは抱きしめ合い、この夜のライブを噛みしめるのであった。

『BLUE GIANT MOMENTUM』(ブルージャイアント モメンタム)のあらすじ・ストーリー

ニューヨーク編

バンドはとうとうジャズの聖地、ニューヨークに入った。彼らは二人一組で交代して車中泊とホテル泊で過ごし、大は一刻も早く拠点となるアパートを探そうと奮闘する。金がなく、デポジットを払うことができない彼らは家探しに苦戦したものの、なんとか半地下の3LDKの部屋を借りることができた。ボロボロで大家も意地が悪そうだったが、前金さえ用意すればすぐにでも入居させてくれるという。彼らは相談し、ここまで旅を共にしてきたバンを売り払い、ようやく拠点を持つことができたのであった。
バンドの初ライブは、ライブバーの体を取りつつも、ジャズに興味がある客層はほぼいないという店だった。観客の反応は芳しいものとはいえず、ニューヨークという場所の厳しさを思い知りながらも、彼らは楽器店を営むマイクという新たな友人とも出会い、バイトで日銭を稼ぎながら懸命に生き抜いていく。
そんなある日、大は1人のトランペットプレイヤーと出会う。カーメロ・キャノンと名乗った彼は、ジャズ業界全体が注目する新進気鋭のプレイヤーだった。カーメロと共演した大とメンバーたちは、世界には多くの高い壁が聳えていることを再認識するのであった。

住んでいるアパートの大家とトラブルになった大たちは、上乗せした家賃を払い続けるか、出ていくかの二択を迫られてしまう。日々の生活で精一杯の彼らに上乗せされた家賃など払えるはずもなく、大は再度引っ越し先を探す羽目になってしまった。さらに、決まっていたライブも先方の都合でキャンセルとなってしまい、なかなかうまくいかない。
そんなある日、大はアルバイト先の同僚に招待されたホームパーティーに顔を出した。そこは黒人たちを中心とした住民たちが暮らすハーレムで、彼らは大のサックスを聴いて嬉しそうに歌い踊った。さらに、パーティーに遊びに来ていた女性のおばが入居者を探していたという事で、家まで紹介してくれることになる。
少し家賃は高くなるが、今までよりもよくなると判断した大はメンバーを引き連れて引っ越しをし、新たにハーレムで生活を始めるのだった。

3bkiri0727
3bkiri0727
@3bkiri0727

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