ビューティフル・マインド(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ビューティフル・マインド』とは、ノーベル経済学賞受賞の数学者ジョン・ナッシュの半生を描いたアメリカの映画。
数学界、経済界にとって画期的な理論「ナッシュ均衡」を発見、発表する天才数学者のジョンだが、人付き合いが苦手な中で仲の良い友人が出来たり秘密部隊から極秘任務を任されるという幻覚を見る統合失調症に苦心した。本作では統合失調症の世界観の例を示すとともに、最初は自身の幻覚を現実と思い込んでいたジョンが事実を受け止め、周囲の人たちと共にその事実と向き合っていく様が描かれている。2001年公開。

日本語吹替:石森達幸

プリンストン大学の教授でジョン・ナッシュの推薦先を検討する担当。授業に出席せず研究を続けて成果をあげられていないジョンに対して、他の学部生たちはきちんと授業に出席していると釘を刺し、このままではどこの就職先へも推薦できなくなると忠告する。カフェテリアで一人の教授が尊敬の証としてのペンを他の教授から受け取っている様子をジョンに見せながら、「本当に成功するとは一人で部屋にこもって研究していることではない」と示す。最終的に「ナッシュ均衡」の論文を提出したジョンに希望する就職先であるウィーラー研究所への推薦を引き受ける。

演じるのはジャド・ハーシュ。アメリカ、ニューヨーク市出身の俳優。本作で全米映画俳優組合賞キャスト賞にノミネートされた。1978~1983年放映のテレビドラマ『タクシー』、1988~1992年放映のテレビドラマ『ディア・ジョン』で主役を、2005~2010年放映のテレビドラマ『NUMBERS 天才数学者の事件ファイル』で主要人物を演じたことでよく知られている。『タクシー』でエミー賞を2回受賞、『ディア・ジョン』ではエミー賞を受賞し更にゴールデングローブ賞主演男優賞と傑出主役俳優賞にもノミネートされた。映画では1971年にクレジットの掲載なしで2作品に出演し、その後1980年上映の『普通の人々』ではアカデミー賞最優秀助演男優賞ならびにゴールデングローブ賞最優秀助演男優賞にノミネートされた。舞台でも活躍し、1985~1988年上演の『アイム・ノット・ラパポート』、1992~1993年上演の『コンバシエーション・ウィズ・マイ・ダッド』ではいずれもトニー賞を受賞している。

トマス・キング(演: オースティン・ペンドルトン)

ジョン(画像右)に笑いかけるトマス(画像左)。

日本語吹替:仲野裕

ジョンにノーベル経済学賞受賞の知らせを持ってきた男性。人当たりが良く、新しく出会う人は幻覚かもしれないと訝しげなジョンに対しても柔和に関係性を気づく。ジョンをカフェテリアに誘い、ノーベル経済学賞にノミネートされた人々と直接会う役目を担っているトマスはジョンの「ノミネートされた人がクレイジーかどうか確認するのか?」という問いかけに笑いながら「そんなものだ」と答える。トマスはジョンが他の教授たちからカフェテリアで尊敬の証のペンをもらい、ジョンの功績と賞賛を目の当たりにした。

演じるのはオースティン・ペンドルトン。アメリカ、オハイオ州出身の俳優、脚本家、舞台監督、演技インストラクター。本作で全米映画俳優組合賞キャスト賞にノミネートされた。オフ・ブロードウェイ(ニューヨークにあるブロードウェイより規模の小さなステージのこと)での舞台俳優からキャリアをスタートさせ、11年後には舞台監督としてもステージに関わるようになる。以降、ブロードウェイを中心にエンターテイメント界で活躍。映画では1968年のデビュー以降『ビューティフル・マインド』に至るまで50本以上の映画に出演、2003年『ファインディング・ニモ』ではガーグルの声を担当している。

『ビューティフル・マインド』の用語

ナッシュ均衡

「ナッシュ均衡」を探すため寮の部屋の窓に数式を書き、考え込むジョン。

数学理論のうちのひとつ「ゲーム理論」においてジョン・ナッシュが発見した解の一つである、プレイヤー同士の間で、プレイヤー全員がそれ以上の利益の出ない(最も損失が少ない)均衡状態のことであり、それを数学的モデルで証明したものである。劇中でジョンはこの理論を発見する前、「(ゲームを)支配する力学」を発見し証明したいと何度か口にしており、「ゲーム(プレイヤーの意思決定とそれが導く結果)には何らかの力が働いている」と考え、その発見と証明にフォーカスしていた。劇中では最終的にジョンがバーでブロンドの女性とそのグループの女性たちを獲得するゲームがあり、プレイヤーはどのような選択をするかを想像したことで「ナッシュ均衡」を発見したと描かれている。

ゲーム理論

アメリカのジョン・フォン・ノイマンという数学者が提唱した、自然界や社会における相互の利害関係を数学的に証明しようとする理論。経済学の祖、アダム・スミスも明言はしなかったもののこの利害関係に関する力学について関心を寄せていた。ゲーム理論は、自分の利得が自分の行動のほか、他者の行動にも依存する状況(これを戦略的状況と呼ぶ)を説明するもので、その際に見られる法則や力学から知見を得ていく。現在ゲーム理論は経済学の中心的役割を担うようになっただけでなく、経営学、政治学、法学、社会学、人類学、心理学、生物学、工学、コンピュータ科学など様々な分野で応用されている。劇中でも語られているが、ジョンがナッシュ均衡を発見した1950年年前後ではゲーム理論及びナッシュ均衡はそれほど広く注目されていたわけではなかった。しかし1990年代に入り、経済学にゲーム理論が浸透してくるとナッシュ均衡はゲーム理論の基本的な考え方のひとつとなり、それを見出したジョン・ナッシュもノーベル経済学賞受賞の運びとなった。

MIT

マサチューセッツ工科大学のこと。Massachusetts Institute of Technologyの頭文字からこう呼ばれる。ハーバード大学、オックスフォード大学と並び世界トップ5大学のうちのひとつ。情報技術関連のトップランナーであると言われ、メディアラボと呼ばれる学内の研究所が開発した情報処理システムによって学内のネットワークが運営され、さらにその情報処理システムの研究成果がアメリカのみならず他国の大学院で使用されるなどの成果をあげている。主な学部は、経営学部、工学部、人文・社会科学部、理学部、建築・計画学部であり、研究科は医科大学院、経営大学院、工科大学院、人文社会科学大学院、自然科学大学院、建築・計画大学院である。

ウィーラー研究所

数学に関する研究を行うMITの研究所。劇中ではジョンとソルとベンダーがチームを組み、施設の一部屋をあてがわれて研究を行いつつ学生向けに授業もするという設定である。
実際のMITにはこの名称の研究所は存在せず、ジョン・ナッシュ本人はMITにC. L. E.モーレ顧問(純粋な数学的研究と発展に寄与する人物のポスト。初代顧問のClarence Lemuel Elisha Mooreの名前が由来)として勤務していた。

新自由軍

全国数学会議の講義中に妄想の「新自由軍(画像一番奥と一番手前)」に挟まれ追い詰められたと思っているジョン(画像中央)。実際は、一番手前の人物はローゼン医師だった。

劇中でパーチャーが語ったソ連軍の一部過激派の名称。劇中のジョンの妄想の中では、彼らがドイツ製の小型核兵器を所持し、アメリカに潜入してその小型核兵器を爆発させようとしているという設定になっていた。ジョンの統合失調症が悪化している際には、新自由軍に追いかけられ銃撃戦をしたり、全国数学会議でジョンを包囲する妄想まで見ており、ローゼン医師を新自由軍の関係者と思い込んでいたが、実際にはそのようなグループも活動も存在しないことが分かる。

統合失調症

ジョンが患っていた精神障害の名称で、幻聴や幻覚、異常行動が特徴的な症状として挙げられる。発症のメカニズムや根本原因は解明されていない。精神科にて治療が可能な精神障害である。劇中のジョンの症状は幻覚、幻聴、それに伴う異常行動として描かれている。実際のジョン・ナッシュ本人は幻覚を見ていないとされているが、大学構内の徘徊などの異常行動は多くの人に目撃されていた。当時のジョン・ナッシュは、赤いネクタイをしたスーツの人間はすべて共産主義者であると訝しんでいた。

インスリン・ショック療法

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