8 Mile(エイトマイル)のネタバレ解説・考察まとめ

『8 Mile』とはラッパー、エミネムの半生を題材としたアメリカの映画。貧困層として生きる主人公ジミーがラップを通じてどん底の生活から這い上がろうとする様を描いたヒューマンドラマである。90年代後半、格差社会の広がったアメリカのミズーリ州デトロイトにあった貧困層と富裕層、黒人と白人を隔てる境界線「8マイルロード」を貧困層側から富裕層側へ超えようとするジミーの信念、家族、恋、友情、そして成長を描いている。2002年公開。

発売されたシングルCDのジャケット。

エミネム自身は、本作以前に注目を集めていたラッパーだった。しかし、驚くことに『8 mile』以前は全米チャート1位を獲得したことがなかった。最上位は2位だったのである。本作サウンドトラック発売前日にリリースされた、作曲エミネム、ジェフ・バス、ルイス・レスト、作詞エミネムの本作主題歌「Lose Yourself」は、24週連続でアメリカビルボードチャートにとどまり続けた。歌詞の冒頭は劇中のジミーの状況を細かに描写しており、アカデミー賞映画オリジナル楽曲賞をはじめとし、グラミー賞では最優秀ラップ男性ソロパフォーマンス賞、最優秀ラップ曲賞を受賞、MTVミュージック・ビデオ・アワードでは最優秀MV賞のみならず日本で開催された同アワード(Mr. Childrenや宇多田ヒカルなどが名を連ねていた)でも最優秀MV賞を受賞している。2020年開催の世界最高峰の映画祭典オスカー授賞式では数々の名だたる映画音楽とその映像が会場のスクリーンに映し出されたあと、エミネム本人による「Lose Yourself」のパフォーマンスも行われたほど、商業的成功を収めただけでなく映画史にも残る1曲となった。

映画タイトルは当初『8 Mile』ではなかった

タイトルを『8 mile』にした監督のカーティス・ハンソン。

本作は制作が始まってから『名もなきデトロイト産(原語:Untitled Detroit Production)』という名前でキャストやスタッフの間で認識されていた。これは、デトロイトが車の部品の製造工場が多くあったことが由来となっていた。撮影のクランクアップを3週間後に控え、監督のカーティス・ハンソンが彼自身の経験とデトロイトでの「8マイルロード」の位置づけから映画のタイトルを『8 mile』にしようと提案があり、即採用となった、とエミネムの音楽プロデューサーのポール・ローゼンバーグがヒップホップ雑誌『Vibe』のインタビューで語っている。

エミネムは当時金髪だった髪をかつての自分の見た目に寄せるため暗く染めた

2002年前後、ブロンドヘアがトレードマークだったエミネム。

映画が撮影されていた当時、エミネムのトレードマークと言えば金色に染められた短髪であった。しかし、ジミーの役作りに徹するため、エミネムは自身のデビュー前の髪色に寄せるよう劇中でもわかるように髪色を暗く染めている。エミネムがトレードマークである髪色を変えて臨んだ撮影は、映画批評家にただの浮ついたアイドル映画ではないことを印象づけた。

映画を機にエミネムは一時期薬物中毒となった

本作でエミネムは映画界の各方面から高い評価を得たが、実際の撮影現場は過酷な状況で、エミネムは休息する際、睡眠薬や鎮静剤などの薬に助けられていた。これがきっかけでエミネムは2002年~2008年の間に睡眠薬や鎮静剤など複数の種類の薬で中毒状態を経験している。のちにエミネムはローリングストーン誌のインタビューに、「セットでの撮影や業務が16時間続いて、なんとか寝なきゃならない状況の中で誰かが睡眠薬を持ってきてくれた。1回接種したら『俺はもうこれが常に必要だ』と感じるようになった。」と語っている。

フューチャー役のオーディション免除

フューチャー役を務めたメキ・ファイファー。

フューチャーを演じたメキ・ファイファーはデトロイトで本作のオーディションの最終段階を終了させるため、2001年9月、自宅のあるニューヨークからデトロイトに飛行機で移動する予定だった。しかしフライトの2日前の9月11日に同時多発テロ事件があり、メキ・ファイファーは激しく動揺し飛行機に搭乗することができなかった。これにより、メキ・ファイファーはオーディションをしないこととなったのだが、最終的にフューチャーとしての配役が決定した。

『8 Mile』の主題歌・挿入歌

主題歌:エミネム「Lose Yourself」

2022年「スーパーボール」ハーフタイムショーで披露された「Lose Yourself」

作詞:マーシャル・マザーズ、作曲:エミネム、ジェフリー・バス、ルイス・レスト。
本作の主題歌で、アカデミー賞オリジナル歌曲賞を受賞した楽曲。作詞のマーシャル・マザーズはエミネムの本名(正確にはマーシャル・ブルース・マザーズ3世)である。作曲はエミネム名義であるが、作詞はマーシャル・マザーズ名義となっている。エミネム史上初めての全米ビルボードチャート第一位となったシングルであり、映画音楽史に残る1曲として認知されている。アメリカの最大のスポーツイベントであるアメリカンフットボールのリーグ最終マッチ「スーパーボール」のハーフタイムショーでは毎年名だたるアーティストがパフォーマンスを行うが、2022年はエミネムが出演「Lose Yourself」を披露し大歓声に包まれた。楽曲発表から20年経った時点でも高い評価と認知を得ていることを物語っている。

挿入歌:モブ・ディープ「Shook Ones Pt. II」

モブ・ディープの「Shook Ones Pt. II」

作詞・作曲:アルベルト・ジョンソン、ケジュアン・ムチタ。
本編冒頭、ジミーが鏡に向かってラップのイメージトレーニングをしているシーンで流れている。東海岸ヒップホップを代表するグループ、モブ・ディープの1995年リリースアルバム『The Infamous』のシングルカットとしてリリースされた楽曲。全米ビルボードチャートの注目ヒップホップソングとして最高7位を記録した。モブ・ディープはニューヨーク出身のヒップホップデュオ。メンバーはハヴォック(本名はケジュアン・ムチタ)とプロディジー(本名はアルベルト・ジョンソン)の二人で、90年代中期、東海岸のハードコアヒップホップの牽引者として知られている。リリースした楽曲はミリオンヒットを記録し、最も成功したラップデュオの一組としても有名である。8枚のスタジオアルバム他、コンピレーションアルバム、EP等をリリースしたが、2017年、プロディジーの死去と同時に活動を終了している。

挿入歌:エミネム「8 Mile」

エミネムの「8 mile」

作詞・作曲:マーシャル・マザーズ、ルイス・レスト。
本編前半、ジミーがウィンクと別れ、職場へ向かうバスの中でヘッドフォンをかけながら裏紙にリリックを書いているシーンで流れている。エミネム(名義はマーシャル・マザーズ)の書きおろしで、何があってもラップを続けていくと決意する一方で、肌の色による差別や現状に対するフラストレーションを抱えるジミーの心情を描いた楽曲に仕上がっている。

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