クィーン(映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『クィーン』とは、2006年にイギリスで制作された政治映画である。ダイアナ元皇太子妃の交通事故死を受けて、ただ1人沈黙を貫き通すエリザベス女王の姿と就任間もないブレア首相が国民と王室との和解に奔走する姿が描き出されていく。
『ゴヤの名画と優しい泥棒』のヘレン・ミレン、『フロスト×ニクソン』のマイケル・シーンが共演し、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』、『疑惑のチャンピオン』などを手掛けたスティーブン・フリアーズが監督を務めた。
映画の中で、首相に就任して間もないトニー・ブレアが緊張した面持ちでエリザベス女王と謁見するために向かう先がイギリスの首都ロンドンにあるバッキンガム宮殿だ。
エリザベス女王が居住しており、敷地は約1万坪である。舞踏会場、音楽堂、美術館、接見室の他に図書館も設置されている。
部屋数はスイートルームが19、来客用寝室52、スタッフ用寝室188、事務室92、浴室78、約450名が勤務している。
バルモラル城
エリザベス女王やチャールズ皇太子、エディンバラ公フィリップが休養で訪れているのがバルモラル城である。スコットランド・アバディーンシャーにあり、イギリス王室の夏の休養先として使用されている。エリザベス女王は1997年8月31日にダイアナ元皇太子妃がパリで交通事故死した際にこの城に滞在していた。しかし、ロンドンへ戻ることなく滞在し続け、哀悼の意を示すこともなかったためにイギリス国民とメディアによる批判を受けることとなった。
『クィーン』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
エリザベス女王「一度でいいから私も投票してみたいものです」
自身の肖像画を描いてくれている画家クロフォードに女王は、「投票は済ませてきたのかしら」と尋ねる。これに対してクロフォードは朝一番に投票所に行き、済ませてきたと答える。実は票を入れたのはトニー・ブレアではないと伝える。投票を済ませてきたクロフォードに対して女王は、「一度でいいから私も投票してみたいものです」とつぶやく。一般人とは違い、女王を始め王室の人間には投票権はない。つまり、自分の意志で国の指導者を選ぶことが女王にはできないのである。26歳で女王に即位したエリザベスは公務が第一であり、自分は二の次と考えており、長年の伝統やしきたりを重んじている。女王でありながらも、叶わぬ願いがあることを強く感じさせる言葉である。
エリザベス女王「首相になる予定の方です」
5月に行われた総選挙で圧倒的な勝利を収めたトニー・ブレアは緊張した面持ちでバッキンガム宮殿に妻シェリーと共に車で向かっていた。歴代の首相と同様に、エリザベス女王から正式に首相就任を認めてもらうためである。ブレアとシェリーが侍従からしつこいほど女王との謁見に際しての注意を受けている中、侍従ジャンブリンが女王に、「首相が到着されました」と伝える。しかし、侍従の言葉に対して女王は、「首相になる予定の方です」と言葉を返す。総選挙で圧倒的な勝利を収めて首相に選ばれたが、女王が首相の就任を認めていないのだから、「首相になる予定の方」なのだ。長年の伝統としきたりを重んじている女王が、近代化と憲法改革を考えるブレアを少しだけ小馬鹿にしている気持ちと、ウィンストン・チャーチルを始め歴代首相の就任を認めてきたという誇りを感じさせる。
バッキンガム宮殿前に置かれた花束をエリザベス女王が見つめるシーン
パリでダイアナ元皇太子妃が交通事故によって急死してから涙を見せることなく沈黙を貫いてきたエリザベス女王。民間人であるダイアナ元皇太子妃に対して王室と同じ人間の扱いはできなことを国民は理解してくれると女王は信じていた。しかし、哀悼の意を示すことがない女王に対する国民の不満は高まり、ついには王制廃止を求める声が出ていることをブレア首相から聞かされる。首相による懸命の説得を受けた女王はロンドンに戻ることを決める。夫エディンバラ公フィリップと共にバッキンガム宮殿前に置かれた花束を見つめていく。王室を去った人間であるダイアナがイギリス国民から深く愛されていること、彼女の死を国民が心から悲しんでいることを女王自らが懸命に受け止めようとする気持ちが伝わってくる。
『クィーン』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
ヘレン・ミレンは女王役を2度演じた
映画『クィーン』でエリザベス2世を演じたヘレン・ミレンだが、実は2005年にイギリスで放送されたテレビドラマ『エリザベス1世 ~愛と陰謀の王宮~』でも女王役に扮した。このドラマで演じていたのはエリザベス1世で、オスカー俳優ジェレミー・アイアンズも出演している。
ちなみに、1998年のアニメ映画『プリンス・オブ・エジプト』ではエジプト女王の声を担当した。
女王陛下からの招待を辞退
映画『クィーン』でイギリスの女王エリザベス2世を演じたヘレン・ミレンは第79回アカデミー賞で主演女優賞と第64回ゴールデングローブ賞主演女優賞受賞を成し遂げた。
彼女は女王エリザベス2世からバッキンガム宮殿での晩餐会に招待されたのだが、当時、アメリカ国内での映画撮影を理由に招待を辞退した。
イギリス王室関係者は、「女王が個人的に自身を演じた人物を招くのは前代未聞であり、日程が合わないという理由で辞退されるとは予想していなかった」と語った。
ブレア首相を2度演じた俳優
映画『クィーン』でマイケル・シーンはイギリスの首相トニー・ブレアを演じているが、実は過去にも同じ役を演じている。2003年に放送されたイギリスのテレビドラマ『The Deal』と2010年にアメリカとイギリスで放送されたテレビドラマ『The Special Relationship』でもブレア首相を演じている。また、舞台『フロスト×ニクソン』とその映画版ではニクソン元大統領にインタビューしたイギリス人司会者デビッド・フロスト役を演じた。
『クィーン』の主題歌・挿入歌
主題歌:アレクサンドル・デスプラ 「The Queen」
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目次 - Contents
- 『クィーン』の概要
- 『クィーン』のあらすじ・ストーリー
- 新しい首相の就任
- ダイアナ元皇太子妃の急死
- 国民のプリンセス
- 沈黙を貫き通す女王
- 破られた沈黙
- 『クィーン』の登場人物・キャラクター
- 主人公
- エリザベス2世(演:ヘレン・ミレン)
- エリザベス2世の家族
- エディンバラ公フィリップ(演:ジェームズ・クロムウェル)
- チャールズ皇太子(演:アレックス・ジェニングス)
- エリザベス王太后(演:シルビア・シムズ)
- エリザベス女王の関係者
- サー・ロビン・ジャンブリン(演:ロジャー・アラム)
- イギリス政府関係者
- トニー・ブレア(演:マイケル・シーン)
- シェリー・ブレア(演:ヘレン・マックロリー)
- その他の人物
- クロフォード(演:アール・キャメロン)
- 『クィーン』の用語
- パパラッチ
- バッキンガム宮殿
- バルモラル城
- 『クィーン』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- エリザベス女王「一度でいいから私も投票してみたいものです」
- エリザベス女王「首相になる予定の方です」
- バッキンガム宮殿前に置かれた花束をエリザベス女王が見つめるシーン
- 『クィーン』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- ヘレン・ミレンは女王役を2度演じた
- 女王陛下からの招待を辞退
- ブレア首相を2度演じた俳優
- 『クィーン』の主題歌・挿入歌
- 主題歌:アレクサンドル・デスプラ 「The Queen」
- 挿入歌:アレクサンドル・デスプラ 「The Flowers of Buckingham」